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愛ってなんだ
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「何だ、あの者は」
「あの方がルミカ嬢でエリアノ伯爵の……」
ゼキアス様ははあっとため息をついて、
「そんな事は知っている。兄上が君と婚約破棄をしてまで結婚したい娘だろう? 信じられないな。婚約者の弟にああやって媚びを売るような態度。頭が悪いとしか言いようがない」
と言った。
「ゼキアス様と親しくなりたいのですわ。将来は王妃として、国王様と宰相様という国を率いていく方々の支えになるべく方ですもの」
ゼキアス様が私をじっと見て、
「本気か?」
と言った。
「それは……」
「国をどうこうと言う前に、礼儀の一つも学んでから来るべきだろう」
「そ、それは……これからですわ。王妃教育も受けられるそうですし」
多分な……知らんけど……
ゼキアス様の言うことは最もで、貴族間ですら馴れ馴れしい態度や物言いに処罰される事もあるのに、王族相手にあれはないでしょうとは私も思った。
けどルミカ嬢は昔からああいう方で、リリアン様のご友人だった事もあったそうだけど、ずいぶんと甘やかされて育ったようだ。
この国には魔法を主に学ぶ学院と国の歴史や経済、外国諸国との関係を学ぶ王修学院があり、魔力のある者は魔法学院に、それ以外の貴族の子息は王修学院に行く。
私は王妃教育と同時に強制的に魔法学院に進んだが、魔力を持たない者はたいてい王修学院へ行く。
だけどアレクサンダー様は魔法学院に進んだのだ。
何故か? それは分からない。
誰もその理由を知らない。
魔力がないのだから、いくら学んでも魔法は使えないはずだけど、実践は無理でも論理的な筆記試験などは優秀だったようだ。
まあ王子だからね。
そりゃ生徒総代にも選ばれるし、魔法を使えないなんていじめにも遭わないだろうし。 ルミカ嬢ともそこで出会ったらしいけど、ルミカ嬢も魔力ないはずなんだけど。
「知っているか?」
とゼキアス様が歩きながらそう言った。
「何をでしょう?」
「魔力がなくとも魔法が使える技がある」
「え? そんな……無理でしょう。魔力があるから魔法が使えるのですわ」
「一般的にはそうだ」
「私は魔力がありません。しかし、王妃教育の一環として、魔法学院へ進みました。魔法学や歴史、高名な魔術師、聖女の事を学びましたわ。ですが、そのような事は聞いた事もありませんし、たくさんの書物も読みましたがそのような記述は目にした事がありません」
「そうだ。普通ならな。魔法を使うには魔力が必要。だが、それは何も自分の魔力でなくても構わない」
「え?」
「という噂があるらしい」
「な、何ですかそれ、噂ですか。冗談にしては質が悪いですわ」
「そうかな」
「は?」
「まあ、いい。エアリス」
「はい?」
「ウエールズ侯爵夫人とは親しいのか? 療養に行くくらいなのだから」
「親しいというか……リリアン様と初めてお会いしたのは魔法学院の卒業パーティですわ。アレクサンダー様から婚約破棄を宣言された場においでて、その時、惨めな立場から助けていただきました」
「そうか、あの人は魔術師の家系だったな? 魔法は使うのか?」
「存じませんわ……そういう場に居合わせたこともありませんし」
「魔術師の家系で魔力が発現せず魔法学院にも通っていないとは聞いているが」
「何か?」
そう言えば、国王様にもリリアン様が聖女じゃないのか探るように言われてるんだった。
「いや、ウエールズ侯爵が夫人を溺愛している様子なのが不思議で。確かに美しいが魔法も使えない。いや、魔力のない一族ならそれでいいさ。普通だ。だが、魔術師の家系の中で魔力ゼロだぞ? 美しいくらいで補える物か?」
「それは存じませんが、婚姻に愛の他に魔力とか必要ですか? 愛だけで十分でしょう? 確かに政略結婚には愛なんてないかもしれませんが、ウエールズ侯爵様はリリアン様をとても愛してらっしゃるわ。それで十分じゃないでしょうか」
「愛ねぇ」
とゼキアス様がちょっぴりバカにしたような口調で笑ったので、
「ゼキアス様はまだ十六歳ですもの。愛をご存じないのですわ」
と言ってやったら、
「じゃあ、君は知っているのか?」
と返って来たので、
「あなたのお兄様に踏みにじられて傷つくくらいには知ってますわ」
と言ってやった。
ゼキアス様は一瞬、ポカンとしたような顔になってそれからぷいっと横を向いた。
「あの方がルミカ嬢でエリアノ伯爵の……」
ゼキアス様ははあっとため息をついて、
「そんな事は知っている。兄上が君と婚約破棄をしてまで結婚したい娘だろう? 信じられないな。婚約者の弟にああやって媚びを売るような態度。頭が悪いとしか言いようがない」
と言った。
「ゼキアス様と親しくなりたいのですわ。将来は王妃として、国王様と宰相様という国を率いていく方々の支えになるべく方ですもの」
ゼキアス様が私をじっと見て、
「本気か?」
と言った。
「それは……」
「国をどうこうと言う前に、礼儀の一つも学んでから来るべきだろう」
「そ、それは……これからですわ。王妃教育も受けられるそうですし」
多分な……知らんけど……
ゼキアス様の言うことは最もで、貴族間ですら馴れ馴れしい態度や物言いに処罰される事もあるのに、王族相手にあれはないでしょうとは私も思った。
けどルミカ嬢は昔からああいう方で、リリアン様のご友人だった事もあったそうだけど、ずいぶんと甘やかされて育ったようだ。
この国には魔法を主に学ぶ学院と国の歴史や経済、外国諸国との関係を学ぶ王修学院があり、魔力のある者は魔法学院に、それ以外の貴族の子息は王修学院に行く。
私は王妃教育と同時に強制的に魔法学院に進んだが、魔力を持たない者はたいてい王修学院へ行く。
だけどアレクサンダー様は魔法学院に進んだのだ。
何故か? それは分からない。
誰もその理由を知らない。
魔力がないのだから、いくら学んでも魔法は使えないはずだけど、実践は無理でも論理的な筆記試験などは優秀だったようだ。
まあ王子だからね。
そりゃ生徒総代にも選ばれるし、魔法を使えないなんていじめにも遭わないだろうし。 ルミカ嬢ともそこで出会ったらしいけど、ルミカ嬢も魔力ないはずなんだけど。
「知っているか?」
とゼキアス様が歩きながらそう言った。
「何をでしょう?」
「魔力がなくとも魔法が使える技がある」
「え? そんな……無理でしょう。魔力があるから魔法が使えるのですわ」
「一般的にはそうだ」
「私は魔力がありません。しかし、王妃教育の一環として、魔法学院へ進みました。魔法学や歴史、高名な魔術師、聖女の事を学びましたわ。ですが、そのような事は聞いた事もありませんし、たくさんの書物も読みましたがそのような記述は目にした事がありません」
「そうだ。普通ならな。魔法を使うには魔力が必要。だが、それは何も自分の魔力でなくても構わない」
「え?」
「という噂があるらしい」
「な、何ですかそれ、噂ですか。冗談にしては質が悪いですわ」
「そうかな」
「は?」
「まあ、いい。エアリス」
「はい?」
「ウエールズ侯爵夫人とは親しいのか? 療養に行くくらいなのだから」
「親しいというか……リリアン様と初めてお会いしたのは魔法学院の卒業パーティですわ。アレクサンダー様から婚約破棄を宣言された場においでて、その時、惨めな立場から助けていただきました」
「そうか、あの人は魔術師の家系だったな? 魔法は使うのか?」
「存じませんわ……そういう場に居合わせたこともありませんし」
「魔術師の家系で魔力が発現せず魔法学院にも通っていないとは聞いているが」
「何か?」
そう言えば、国王様にもリリアン様が聖女じゃないのか探るように言われてるんだった。
「いや、ウエールズ侯爵が夫人を溺愛している様子なのが不思議で。確かに美しいが魔法も使えない。いや、魔力のない一族ならそれでいいさ。普通だ。だが、魔術師の家系の中で魔力ゼロだぞ? 美しいくらいで補える物か?」
「それは存じませんが、婚姻に愛の他に魔力とか必要ですか? 愛だけで十分でしょう? 確かに政略結婚には愛なんてないかもしれませんが、ウエールズ侯爵様はリリアン様をとても愛してらっしゃるわ。それで十分じゃないでしょうか」
「愛ねぇ」
とゼキアス様がちょっぴりバカにしたような口調で笑ったので、
「ゼキアス様はまだ十六歳ですもの。愛をご存じないのですわ」
と言ってやったら、
「じゃあ、君は知っているのか?」
と返って来たので、
「あなたのお兄様に踏みにじられて傷つくくらいには知ってますわ」
と言ってやった。
ゼキアス様は一瞬、ポカンとしたような顔になってそれからぷいっと横を向いた。
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