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三つどもえ
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「皇太子殿下、ようこそいらしゃいませ」
リリアン様が立ち上がり丁寧に挨拶をしたので、私もそれにならったがゼキアス様は立ち上がりもしなかったし、ふんと横を向いた。
「リリアン、素晴らしいお屋敷ねぇ。こんな大きなお屋敷を購入して、大丈夫なの? 辺境に住む領民から高い税を取ってるのではなくて?」
とアレクサンダー様よりも先に口を開いたのはルミカ嬢だった。
「どうぞお座りになって。すぐお茶の用意をさせますわ。殿下には最高級のアールグレイとルミカ様にはそのお口が少しでも上品になるように最高級のドクダミ茶でも入れてさしあげてちょうだい」
とリリアン様が言った。
「何ですって! リリアンのくせに!」
とルミカ嬢が言った。
アレクサンダー様はそんな事も耳に入らない様子でゼキアス様を睨みつけ、ゼキアス様は素知らぬ顔で他所を見ていた。
「ゼキアス、兄である私に挨拶はないのか」
と言いながら、アレクサンダー様はソファに座り、ルミカ嬢もその横に座り、早速テーブルの上の菓子に手を伸ばした。
「兄上、お元気そうでなによりです」
いかにも嫌々そうにゼキアス様が言い、私もマナーとしてそれに続き、
「皇太子様、ルミカ様、ごきげんよう」
と言うと初めて私に気が付いたような顔で、
「エアリスではないか。弟と婚約したらしいな」
と言った。
(そうでないと、あなたの妃にされて執務と世継ぎを産む役を強制されそうだったのです) 本当はそう言いたかったけど、「はい」とだけ返事をしておいた。
「そうでないと、皇太子殿下の正妃に無理矢理させられるところだったのですわよねぇ。王族に嫁げて、その世継ぎを産む資格があるのは公、候爵家の令嬢と決まっているんですもの。殿下は真実の愛だかなんだかで、伯爵家の令嬢を娶られて満足でしょうけど、その弊害に遭う方の事も考えていただきたいですわ」
とリリアン様が私が思う事以上の事をさらっと言ってのけた。
「な、何だと! 私を愚弄するのか!」
「とんでもございませんわ。偉大なる皇子、グランリーズ王国の皇太子殿下を愚弄なんて、そんな恐ろしい事。ただ、それを殿下に説き、諫める方が王宮にはいらっしゃらないのかしらと思いまして。いわれのない言いがかりであなたに婚約破棄をされたエアリス様の事を考えた事がありますの? 婚約破棄された後、娶る予定の伯爵令嬢のできが悪いからと、やっぱり妃に迎えてやるから執務と世継ぎを産めなんて。それもよっぽど嫌だったのでしょうね。その弟と婚約なんて」
ズケズケときっぱりと言いきったリリアン様に一同、アレクサンダー様もうっと言葉が詰まった。
怒りと屈辱の為に言葉がすぐに出ないようだ。
ガイラス様が困ったように、
「リリアン、言葉を慎みなさい」
とだけ言った。
「はーい。あら、皆様どうなさいました? お茶が冷めました? 入れ替えさせましょう」
「侯爵夫人、あなたは少し考えてからその口を開いた方がよい。あなたが牢屋に入れられて、恥をかくのはそなたの夫であるウエールズ侯爵だぞ」
とアレクサンダー様が震える声でそう言った。
「私が牢屋に? それはどうでしょう。たかが戯れ言で女を一人牢屋に入れるよりももっと入れるべき悪い人間はおりますわよ。例えば……魔石の闇売買に関わる人間ですとか?」
とリリアン様が言い、その場はさっきよりもシーンとなった。。
「何の話かな」
「ガイラス様がどうしてこんなごみごみした王都に家を買わなければならないほど、任務に追い詰められているとお思いですの。騎士団を引退したとはいえ、相談役とかいう役をつけられ、皆がガイラス様に泣き言を持ちかけてくるのですわ。例えばお世継ぎ問題。皇太子妃問題、そして今、王都で問題になっている魔石の闇取引。皇太子殿下、それらをどうお考えですの? 真実の愛も結構ですけど、女の尻を追いかけるのは国内をきちんとしてからにしてくださいませ。ゼキアス様もですわ。ゆくゆくは宰相になられる方ですもの、それらの問題が耳に入ってない事はありませんでしょう。私の言い分が気に入らなければ牢屋に入れられても構いませんわ。ですけど、ガイラス様はその件で身を危険に晒しているのですわ。私は愛する夫を守らなければなりませんの」
リリアン様、かっこいい~~と私は思ったが、アレクサンダー様はふてくされたような顔をし、ゼキアス様は唇を噛んだ。痛いところを突かれたのは間違いない。
「リリアン、止めなさい。任務には口を出すなと言ったはずだ」
少し厳しい声でガイラス様が言い、リリアン様は唇を尖らせた。
「そうですか! 余計なお世話ですか! まあいいですわ。言いたいことは言いましたもの。私、少々、気分がすぐれないので、少し休ませていただきますわ」
と言って立ち上がり、ぷんすかと怒りながら立ち去って行った。
その場に残った人達はすっごい気まずそうでゼキアス様は冷めた紅茶を飲み干し立ち上がった。
「兄上、私は失礼します。エアリス、君はどうする?」
「私はリリアン様のお見舞いに伺いますわ。ご気分がすぐれないとおっしゃてましたし」
「そうか」
「あれだけ好き勝手しゃべって気分がすぐれないとは物はいいようだな」
と言いながらアレクサンダー様も立ち上がった。
「あん、アレクサンダー様ぁ、待ってください~~ルミカを置いて行かないでぇ」
甘い甘い砂糖菓子のような声でルミカ嬢が言いながらアレクサンダー様を追いかけて行った。
リリアン様が立ち上がり丁寧に挨拶をしたので、私もそれにならったがゼキアス様は立ち上がりもしなかったし、ふんと横を向いた。
「リリアン、素晴らしいお屋敷ねぇ。こんな大きなお屋敷を購入して、大丈夫なの? 辺境に住む領民から高い税を取ってるのではなくて?」
とアレクサンダー様よりも先に口を開いたのはルミカ嬢だった。
「どうぞお座りになって。すぐお茶の用意をさせますわ。殿下には最高級のアールグレイとルミカ様にはそのお口が少しでも上品になるように最高級のドクダミ茶でも入れてさしあげてちょうだい」
とリリアン様が言った。
「何ですって! リリアンのくせに!」
とルミカ嬢が言った。
アレクサンダー様はそんな事も耳に入らない様子でゼキアス様を睨みつけ、ゼキアス様は素知らぬ顔で他所を見ていた。
「ゼキアス、兄である私に挨拶はないのか」
と言いながら、アレクサンダー様はソファに座り、ルミカ嬢もその横に座り、早速テーブルの上の菓子に手を伸ばした。
「兄上、お元気そうでなによりです」
いかにも嫌々そうにゼキアス様が言い、私もマナーとしてそれに続き、
「皇太子様、ルミカ様、ごきげんよう」
と言うと初めて私に気が付いたような顔で、
「エアリスではないか。弟と婚約したらしいな」
と言った。
(そうでないと、あなたの妃にされて執務と世継ぎを産む役を強制されそうだったのです) 本当はそう言いたかったけど、「はい」とだけ返事をしておいた。
「そうでないと、皇太子殿下の正妃に無理矢理させられるところだったのですわよねぇ。王族に嫁げて、その世継ぎを産む資格があるのは公、候爵家の令嬢と決まっているんですもの。殿下は真実の愛だかなんだかで、伯爵家の令嬢を娶られて満足でしょうけど、その弊害に遭う方の事も考えていただきたいですわ」
とリリアン様が私が思う事以上の事をさらっと言ってのけた。
「な、何だと! 私を愚弄するのか!」
「とんでもございませんわ。偉大なる皇子、グランリーズ王国の皇太子殿下を愚弄なんて、そんな恐ろしい事。ただ、それを殿下に説き、諫める方が王宮にはいらっしゃらないのかしらと思いまして。いわれのない言いがかりであなたに婚約破棄をされたエアリス様の事を考えた事がありますの? 婚約破棄された後、娶る予定の伯爵令嬢のできが悪いからと、やっぱり妃に迎えてやるから執務と世継ぎを産めなんて。それもよっぽど嫌だったのでしょうね。その弟と婚約なんて」
ズケズケときっぱりと言いきったリリアン様に一同、アレクサンダー様もうっと言葉が詰まった。
怒りと屈辱の為に言葉がすぐに出ないようだ。
ガイラス様が困ったように、
「リリアン、言葉を慎みなさい」
とだけ言った。
「はーい。あら、皆様どうなさいました? お茶が冷めました? 入れ替えさせましょう」
「侯爵夫人、あなたは少し考えてからその口を開いた方がよい。あなたが牢屋に入れられて、恥をかくのはそなたの夫であるウエールズ侯爵だぞ」
とアレクサンダー様が震える声でそう言った。
「私が牢屋に? それはどうでしょう。たかが戯れ言で女を一人牢屋に入れるよりももっと入れるべき悪い人間はおりますわよ。例えば……魔石の闇売買に関わる人間ですとか?」
とリリアン様が言い、その場はさっきよりもシーンとなった。。
「何の話かな」
「ガイラス様がどうしてこんなごみごみした王都に家を買わなければならないほど、任務に追い詰められているとお思いですの。騎士団を引退したとはいえ、相談役とかいう役をつけられ、皆がガイラス様に泣き言を持ちかけてくるのですわ。例えばお世継ぎ問題。皇太子妃問題、そして今、王都で問題になっている魔石の闇取引。皇太子殿下、それらをどうお考えですの? 真実の愛も結構ですけど、女の尻を追いかけるのは国内をきちんとしてからにしてくださいませ。ゼキアス様もですわ。ゆくゆくは宰相になられる方ですもの、それらの問題が耳に入ってない事はありませんでしょう。私の言い分が気に入らなければ牢屋に入れられても構いませんわ。ですけど、ガイラス様はその件で身を危険に晒しているのですわ。私は愛する夫を守らなければなりませんの」
リリアン様、かっこいい~~と私は思ったが、アレクサンダー様はふてくされたような顔をし、ゼキアス様は唇を噛んだ。痛いところを突かれたのは間違いない。
「リリアン、止めなさい。任務には口を出すなと言ったはずだ」
少し厳しい声でガイラス様が言い、リリアン様は唇を尖らせた。
「そうですか! 余計なお世話ですか! まあいいですわ。言いたいことは言いましたもの。私、少々、気分がすぐれないので、少し休ませていただきますわ」
と言って立ち上がり、ぷんすかと怒りながら立ち去って行った。
その場に残った人達はすっごい気まずそうでゼキアス様は冷めた紅茶を飲み干し立ち上がった。
「兄上、私は失礼します。エアリス、君はどうする?」
「私はリリアン様のお見舞いに伺いますわ。ご気分がすぐれないとおっしゃてましたし」
「そうか」
「あれだけ好き勝手しゃべって気分がすぐれないとは物はいいようだな」
と言いながらアレクサンダー様も立ち上がった。
「あん、アレクサンダー様ぁ、待ってください~~ルミカを置いて行かないでぇ」
甘い甘い砂糖菓子のような声でルミカ嬢が言いながらアレクサンダー様を追いかけて行った。
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