氷の令嬢、国で一番の美姫とか言われてるけど、ただの怠け者の転生者です、婚約破棄? OKっす。

猫又

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聞かなければよかったです。

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「リリアン様、おかげんはいかがですか?」
 メイドにリリアン様の私室へと案内され、私は開かれた部屋の中を覗いた。
 リリアン様は伏せってもおらず、ソファにだらりと寝そべって砂糖菓子を食べていた。
「あら、エアリス様、どうぞ、お入りになって。サラ、エアリス様にお茶を」
「かしこまりました」

「お座りになって。先程は失礼しましたわ。ついうっかり、言いたいことを言ってしまいましたわ。私、明日にでも牢屋に入れられるかもしれませんわね」
「まさか、そのような……ですが、お聞きしても?」
「何かしら」
 私は出された暖かい紅茶を一口飲んで、喉を湿らせてから、
「リリアン様は……その……ガイラス様の庇護があるとしても、皇太子殿下に対してすこし無謀では? 王族の方はプライドが高いですわ。本当にリリアン様を牢屋へいれる事くらいしてしまいますわ」
 と言ってみた。
「そうしたら、私、脱獄しますわ。そして他所の国へ行きますの。私ね、こう見えて冒険者なんですのよ」
「え!! ぼ、冒険者?」
「ええ、まだFランクですけど」
 リリアン様はクスクスと笑って、一枚のカードを見せてくれた。
「これが冒険者の身分を証明するカードですの。これがあればどこでも仕事にありつけますわ。私ね、ガイラス様と結婚しなければ冒険者になって、旅をしてましたわ」

「で、ですが……冒険者というのは魔物を退治したり、とても危険な仕事でしょう? とても貴族のお嬢様に出来る仕事では……」
「まあ、そうね」
 うふふと笑うリリアン様を見て、浮かんだのは国王様の言葉だった。

「リリアン様、もしかして魔法を使われるのですか?」
「あら、何故?」
「私は王妃教育の一環として、いろいろな事を学びました。魔法の事も世界の事も、市井の事も、冒険者という職業とギルドという組織の事もですわ。その中で冒険者というのはとても厳しい仕事で、剣や体技、魔法、それらに優れて無ければとてもなれる物ではありません。ですから希望する者をすべて冒険者にしていては駄目なのです。試験があり、それはとうてい貴族の……あなたのようなお嬢様が突破できるような試験ではありませんわ。例えガイラス様のお身内でも、それが通るとも思えません。何よりガイラス様が反対なさるのでは……」
 リリアン様はウフフと笑った。
「リリアン様、あなたは死霊王を倒した聖女様なのですか?」
「私が? まさか、私など魔術師の家系に生まれながら魔力が発現しなかった役立たずですのよ」
 リリアン様はふふふと笑った。
「そうでしょうか。一度は死霊王に飲み込まれたガイラス様がご無事なのは、あなたが助けたからだと噂がありますわ」
「ガイラス様を助けたのは私ではありませんのよ。遠い小さな村の女性とその子供達ですわ。私は逆に……彼女からガイラス様を奪った悪人ですわ」
「リリアン様、それは?」
 リリアン様は少し淋しげに微笑んでから、私を見た。
「……いいえ、何のお話しでしたかしら? そうそう、私が魔法を使えるかどうかというお話しですわね。それがあなたの個人的な好奇心ですの? それともどなたかに言われてそれを確かめに来たのですか?」
「それは……あの……」
 リリアン様に嘘はつきたくないけれど、国王様に言われてそれを探りに来たと思われるのも嫌な感じがした。探りに来たのは間違いではないけれど。国王様に言われて私に拒否権などないって事をリリアン様が理解してくれればいいのだけど。

「そうそう、魔法といえば魔法使いがいらなくなるという噂をご存じ?」
「それは存じません。どういう意味ですか?」
「魔力がなくても魔法を使えるからですわ」
「え?」
「数年前にあるS級冒険者パーティがある魔石を新発見しましたの。その魔石を使えば魔力が無い者でも魔法を放出できるという」
「まあ、そのような物があるのですね」
「その変わった魔石。研究所では魔法石と呼ばれていますけど、それが今、闇で高価売買されていますの。魔力がなくてもそれがあれば魔法が使えるんですもの」
「はあ……」
「ですから、私が魔法を使えようが使えまいが、たいした事はありませんのよ。その魔法石が出回れば魔力がなくても魔法が使えるようになるんですもの」
 とリリアン様は笑った。
「ですが……そんな物はたいそう高価なのでしょう? 闇で取引されるほどに。でしたら、それが使える人間は限られてきますわ」
 と私は言ってみた。
「そうね、金を持つ特権階級がそれを牛耳るでしょうね? まだ実験段階ですけれど、聖女に匹敵する魔法すら作り出せるとか」
「ええ! それは……人間の手でそれを……」
「あなたはどうお思いになる?」
「……」
 聞かなければ良かったと思いますって言ったら怒られるかしら。
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