19 / 27
魔法石
しおりを挟む
「これがその魔法石ですの」
とリリアン様が差し出した手の平には小さい朱色の石が乗っていた。
「それが?」
「ええ、あなた魔法適性ありませんよね?」
「は、はい」
「では、これを握って、火をイメージして念じてご覧なさい」
「え、そんな貴重な物を……」
「これはくず石ですからたいした魔法は出ませんわ」
とリリアン様が言うので、私はその石を手にして「火」をイメージして念じてみた。
「きゃ!」
一瞬、ぽっと小さな小さな赤い球が私の手の平に現れ、すぐに消えた。
「ね? それが魔法石」
「凄い! 凄いです! 魔法適性がなくともこれがあれば魔法が使えるんですか?」
「ええ、そういう事ね」
「素晴らしいではないですか」
「そうかしら?」
「え?」
リリアン様は冷めた紅茶を飲んでから、
「これがどこで手に入るとお思い? 今のは一瞬の火でしたから値などつきませんわ。けど、もっと大きな火を起こせる魔法石、水や氷が出せる属性の魔法石。魔法という特性のスキルがない物でも使える便利な物が安価で皆の手に入るのは良い事ですけど、必ずそれを良しとしない者も現れますわ。特権階級なんかでは、すでに金に物を言わせて石を買いあさっておりますのよ。それも闇売買で、かなりの値が。それに伴い、税金が上がっている領地もありますわ」
「それは……」
「ね? 大変な思いをするのは税金を納める領民ですの。貴族達がその魔法石を領民の為に使うなどあり得ないと思いますわ。所有するのは他の貴族達へ自慢する為の物ですもの」
「リリアン様……それは大変な……」
「ええ、そうですわ。お国の一大事と言ってもいいですわ。それが他国の耳へ入れば侵略も考えられますでしょ? それに……」
「それに?」
「この魔法石はこれ自体はそんなに効力はありませんのよ。魔術師が魔力を込めてやると一層強い魔法石になりますの。ですから」
「で、ですから?」
リリアン様は私をじっと見てから、
「どこの貴族でも魔術師買いが始まってますわ」
と言った。
「魔術師買い?」
「ええ、高名で強力な魔術師を屋敷に抱えて、魔法石をより強い物にするのですわ。これを知っている一部の貴族達は競って国中の魔術師を集めてますの。バカでしょ。そのバカの筆頭をご存じ?」
「いえ……存じません……」
「あのルミカのお父上ですのよ」
「え? エリアノ伯爵が?」
「そうなんですのよ」
「では……皇太子殿下とルミカ様が魔法学院に進んだのも? 私もですけどあの方達は魔法適性がないのでは」
リリアン様が肯いて、
「そうでしょうね。魔法石を己の物にする為に、魔法を学んだというところかしら。何か得るものがあったのかしらね。ルミカを皇太子殿下に嫁がせて、魔法石そのものを牛耳るってのは馬鹿にしては考えたわね」
その時、私の頭にあったのは皇太子殿下とルミカ嬢がもう三年も前からそういう算段でいたという事実だった。魔法石云々は問題だけど、もっと早く私と婚約破棄してくれればよかったのでは。それが……何度も死に生き返る原因だったのでは。
と思うと悔しいというか、悲しい、というか腹が立ってきたぞ。
「リリアン様……これは由々しき問題ですわ」
「そうなの。それなのにガイラス様ったら、余計なお節介はするな、だなんて言うのよ? 酷いと思いません?」
「ガイラス様はリリアン様の身を案じておられるのでしょう。闇取引など、犯罪行為ですもの。そんな物に関わるのは……危険ですわ」
「まあ、そうかもしれませんけど。でも私はこのままにはしておきませんのよ。で、先程のあなたへの答えですけど、私、魔法が使えますのよ」
とリリアン様が言った。
とリリアン様が差し出した手の平には小さい朱色の石が乗っていた。
「それが?」
「ええ、あなた魔法適性ありませんよね?」
「は、はい」
「では、これを握って、火をイメージして念じてご覧なさい」
「え、そんな貴重な物を……」
「これはくず石ですからたいした魔法は出ませんわ」
とリリアン様が言うので、私はその石を手にして「火」をイメージして念じてみた。
「きゃ!」
一瞬、ぽっと小さな小さな赤い球が私の手の平に現れ、すぐに消えた。
「ね? それが魔法石」
「凄い! 凄いです! 魔法適性がなくともこれがあれば魔法が使えるんですか?」
「ええ、そういう事ね」
「素晴らしいではないですか」
「そうかしら?」
「え?」
リリアン様は冷めた紅茶を飲んでから、
「これがどこで手に入るとお思い? 今のは一瞬の火でしたから値などつきませんわ。けど、もっと大きな火を起こせる魔法石、水や氷が出せる属性の魔法石。魔法という特性のスキルがない物でも使える便利な物が安価で皆の手に入るのは良い事ですけど、必ずそれを良しとしない者も現れますわ。特権階級なんかでは、すでに金に物を言わせて石を買いあさっておりますのよ。それも闇売買で、かなりの値が。それに伴い、税金が上がっている領地もありますわ」
「それは……」
「ね? 大変な思いをするのは税金を納める領民ですの。貴族達がその魔法石を領民の為に使うなどあり得ないと思いますわ。所有するのは他の貴族達へ自慢する為の物ですもの」
「リリアン様……それは大変な……」
「ええ、そうですわ。お国の一大事と言ってもいいですわ。それが他国の耳へ入れば侵略も考えられますでしょ? それに……」
「それに?」
「この魔法石はこれ自体はそんなに効力はありませんのよ。魔術師が魔力を込めてやると一層強い魔法石になりますの。ですから」
「で、ですから?」
リリアン様は私をじっと見てから、
「どこの貴族でも魔術師買いが始まってますわ」
と言った。
「魔術師買い?」
「ええ、高名で強力な魔術師を屋敷に抱えて、魔法石をより強い物にするのですわ。これを知っている一部の貴族達は競って国中の魔術師を集めてますの。バカでしょ。そのバカの筆頭をご存じ?」
「いえ……存じません……」
「あのルミカのお父上ですのよ」
「え? エリアノ伯爵が?」
「そうなんですのよ」
「では……皇太子殿下とルミカ様が魔法学院に進んだのも? 私もですけどあの方達は魔法適性がないのでは」
リリアン様が肯いて、
「そうでしょうね。魔法石を己の物にする為に、魔法を学んだというところかしら。何か得るものがあったのかしらね。ルミカを皇太子殿下に嫁がせて、魔法石そのものを牛耳るってのは馬鹿にしては考えたわね」
その時、私の頭にあったのは皇太子殿下とルミカ嬢がもう三年も前からそういう算段でいたという事実だった。魔法石云々は問題だけど、もっと早く私と婚約破棄してくれればよかったのでは。それが……何度も死に生き返る原因だったのでは。
と思うと悔しいというか、悲しい、というか腹が立ってきたぞ。
「リリアン様……これは由々しき問題ですわ」
「そうなの。それなのにガイラス様ったら、余計なお節介はするな、だなんて言うのよ? 酷いと思いません?」
「ガイラス様はリリアン様の身を案じておられるのでしょう。闇取引など、犯罪行為ですもの。そんな物に関わるのは……危険ですわ」
「まあ、そうかもしれませんけど。でも私はこのままにはしておきませんのよ。で、先程のあなたへの答えですけど、私、魔法が使えますのよ」
とリリアン様が言った。
1
あなたにおすすめの小説
「婚約破棄だ」と叫ぶ殿下、国の実務は私ですが大丈夫ですか?〜私は冷徹宰相補佐と幸せになります〜
万里戸千波
恋愛
公爵令嬢リリエンは卒業パーティーの最中、突然婚約者のジェラルド王子から婚約破棄を申し渡された
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
助かったのはこちらですわ!~正妻の座を奪われた悪役?令嬢の鮮やかなる逆襲
水無月 星璃
恋愛
【悪役?令嬢シリーズ3作目】
エルディア帝国から、隣国・ヴァロワール王国のブランシェール辺境伯家に嫁いできたイザベラ。
夫、テオドール・ド・ブランシェールとの結婚式を終え、「さあ、妻として頑張りますわよ!」──と意気込んだのも束の間、またまたトラブル発生!?
今度は皇国の皇女がテオドールに嫁いでくることに!?
正妻から側妻への降格危機にも動じず、イザベラは静かにほくそ笑む。
1作目『お礼を言うのはこちらですわ!~婚約者も財産も、すべてを奪われた悪役?令嬢の華麗なる反撃』
2作目『謝罪するのはこちらですわ!~すべてを奪ってしまった悪役?令嬢の優雅なる防衛』
も、よろしくお願いいたしますわ!
元ヒロインの娘は隣国の叔母に助けを求める
mios
恋愛
両親のせいで、冷遇されて育った男爵令嬢モニカ。母の侍女から、「物語ではこういう時、隣国の叔母を頼ったりしますよ」と言われて、付き合いの全くない隣国の叔母に手紙を書いたのだが。
頼んだ方と頼まれた方の認識のズレが不幸な出来事を生み出して行く。
勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い
猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」
「婚約破棄…ですか」
「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」
「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」
「はぁ…」
なんと返したら良いのか。
私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。
そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。
理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。
もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。
それを律儀に信じてしまったというわけだ。
金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる