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サラとカリンおばちゃん
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昼食後、侯爵は領地の見回りへオラルドを連れて行き、私はレオーナに捕まらないうちに部屋へ引き上げた。
「リリアン様、どうぞ」
とお茶を出してくれたので、それをふうふうしていると、
「出過ぎた事を申し上げますが……」
とサラが言った。
「何?」
「あの方、レオーナ様が旦那様の名を呼び捨てるには何故でしょうか? 奥様のリリアン様がガイラス様とお呼びしているのに、何故、あの方は旦那様を呼び捨てにして許されるんのでしょう?」
「ああ、そうね。あの方はガイラス様の従姉妹でいらっしゃるから、きっと幼い頃にそうやってお互いを名前で呼んでおつきあいをされてたんでしょう。だからそのままの習慣で名を呼んでしまうのじゃないかしら」
「そんな事あるかいな、侯爵自身が会うのは二十年ぶりっって言うてたで。そんな親しいつきあいもしてなかったし、侯爵の事を醜い男と昨日まで思うてたのに、兜を取ったらあんまり男前やから惜しなったんやろ」
とカリンおばちゃんがサラの肩に乗っててそう言った。
「ですよねー、カリン様の仰る通りですわ」
とサラが言ったので驚いた。
「あなた、カリンおばちゃんの言葉が聞こえるの?」
「そうやで、この子気に入ったから、特別に声を聞かせてるんや。やっぱりな、リリちゃんの周りの協力体制をちゃんと固めとかんとな。ヤトとアラクネちゃんとも意思疎通出来るんやで、すごいやろ」
「まあ、そうなの」
「はい! 光栄です! 私にも妖精様のお姿が見えて、お声が聞こえるなんて!」
とサラが嬉しそうに言ったが次の瞬間には表情を曇らせた。
「あの、リリアン様、レオーナ様が」
「何?」
「夕べのうちに手紙を書かれたらしく、身の回りの世話をする者を呼び寄せたと侍女頭のセレン様に言いつけておられましたわ」
「ええ! マジで? なんで?」
「長く逗留されるおつもりでは」
「え」
「侯爵やリリちゃんの承諾も得ずに、長々と居座るつもりなんやで」
とカリンおばちゃんが言った。
「私、共通の話題もないし、どうやって付きあったらいいか分からないわ。それにノイルが呼んだ彼のお客様ですもの。ノイルに任せておけばいいわよね」
とそんな風に簡単に考えていたのだけど、それが間違いだった。
ウエールズの領地は宏大で、爵位を持っている親族やその友人貴族などの別荘地もある。
だから侯爵は一旦、領地の見回りへ行くとあちこちへ顔を出さねばならず、日帰りで屋敷に戻ってこられない、という連絡が来たのは夕食時だった。
レオーナはまるで女主人のように、事細かく執事やメイド達の動きに口うるさく、サンドラはやはり青白い顔で、ノイルなんかは部屋から出てこない有様だ。
「レオーナ様、これはもしかして金?」
見た事のない黄金に輝くナイフとフォークだった。
「純金で作らせたカトラリーよ。我が家ではこれが普通なの」
「はあ、わざわざ持ってきたんですか?」
「そうよ。この屋敷はもっと隅々まで目を通す必要があるわ。国王や皇太子にも覚えの良いガイラスが当主になったのよ? もっと屋敷内をきちんと整備しなければ。これからパーティだってたくさん催して、たくさんのお客様をお呼びするのに恥ずかしくないように。お出しする食器類や調度品も変えた方がいいわね。先代の侯爵様はお年を召されてからあまり人を側に寄せなかったから、屋敷の中も手直しする人間がいなかったようね。でもこれからは私が」
「なんでですか?」
「え?」
「何故、あなたがそれをやろうとなさるのかしら? あなたはあなたのベルモント家でなさればいいじゃないですか。ここでやる必要はございませんわ」
「私はガイラスの為に言ってるの。あなたみたいな低い爵位の娘では貴族の格もつきあい方もご存じないでしょう? 素直に目上の者の教えをきくべきよ。あなたの無知で恥をかくのはガイラスなんですから」
な、なんなのこの人。
「リリアン様、どうぞ」
とお茶を出してくれたので、それをふうふうしていると、
「出過ぎた事を申し上げますが……」
とサラが言った。
「何?」
「あの方、レオーナ様が旦那様の名を呼び捨てるには何故でしょうか? 奥様のリリアン様がガイラス様とお呼びしているのに、何故、あの方は旦那様を呼び捨てにして許されるんのでしょう?」
「ああ、そうね。あの方はガイラス様の従姉妹でいらっしゃるから、きっと幼い頃にそうやってお互いを名前で呼んでおつきあいをされてたんでしょう。だからそのままの習慣で名を呼んでしまうのじゃないかしら」
「そんな事あるかいな、侯爵自身が会うのは二十年ぶりっって言うてたで。そんな親しいつきあいもしてなかったし、侯爵の事を醜い男と昨日まで思うてたのに、兜を取ったらあんまり男前やから惜しなったんやろ」
とカリンおばちゃんがサラの肩に乗っててそう言った。
「ですよねー、カリン様の仰る通りですわ」
とサラが言ったので驚いた。
「あなた、カリンおばちゃんの言葉が聞こえるの?」
「そうやで、この子気に入ったから、特別に声を聞かせてるんや。やっぱりな、リリちゃんの周りの協力体制をちゃんと固めとかんとな。ヤトとアラクネちゃんとも意思疎通出来るんやで、すごいやろ」
「まあ、そうなの」
「はい! 光栄です! 私にも妖精様のお姿が見えて、お声が聞こえるなんて!」
とサラが嬉しそうに言ったが次の瞬間には表情を曇らせた。
「あの、リリアン様、レオーナ様が」
「何?」
「夕べのうちに手紙を書かれたらしく、身の回りの世話をする者を呼び寄せたと侍女頭のセレン様に言いつけておられましたわ」
「ええ! マジで? なんで?」
「長く逗留されるおつもりでは」
「え」
「侯爵やリリちゃんの承諾も得ずに、長々と居座るつもりなんやで」
とカリンおばちゃんが言った。
「私、共通の話題もないし、どうやって付きあったらいいか分からないわ。それにノイルが呼んだ彼のお客様ですもの。ノイルに任せておけばいいわよね」
とそんな風に簡単に考えていたのだけど、それが間違いだった。
ウエールズの領地は宏大で、爵位を持っている親族やその友人貴族などの別荘地もある。
だから侯爵は一旦、領地の見回りへ行くとあちこちへ顔を出さねばならず、日帰りで屋敷に戻ってこられない、という連絡が来たのは夕食時だった。
レオーナはまるで女主人のように、事細かく執事やメイド達の動きに口うるさく、サンドラはやはり青白い顔で、ノイルなんかは部屋から出てこない有様だ。
「レオーナ様、これはもしかして金?」
見た事のない黄金に輝くナイフとフォークだった。
「純金で作らせたカトラリーよ。我が家ではこれが普通なの」
「はあ、わざわざ持ってきたんですか?」
「そうよ。この屋敷はもっと隅々まで目を通す必要があるわ。国王や皇太子にも覚えの良いガイラスが当主になったのよ? もっと屋敷内をきちんと整備しなければ。これからパーティだってたくさん催して、たくさんのお客様をお呼びするのに恥ずかしくないように。お出しする食器類や調度品も変えた方がいいわね。先代の侯爵様はお年を召されてからあまり人を側に寄せなかったから、屋敷の中も手直しする人間がいなかったようね。でもこれからは私が」
「なんでですか?」
「え?」
「何故、あなたがそれをやろうとなさるのかしら? あなたはあなたのベルモント家でなさればいいじゃないですか。ここでやる必要はございませんわ」
「私はガイラスの為に言ってるの。あなたみたいな低い爵位の娘では貴族の格もつきあい方もご存じないでしょう? 素直に目上の者の教えをきくべきよ。あなたの無知で恥をかくのはガイラスなんですから」
な、なんなのこの人。
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