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行方不明
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いじめられて一人ぼっちの幼少時代を過ごしたリリアンの身体に転生してから、少しは上向くように頑張ってきたつもりだけど、人生そううまくは出来ていなかった。
レオーナが帰りやれやれと一息ついた翌日、急な知らせが私に届いた。
ウエールズ侯爵の治める領地は宏大で肥沃な地だが、全国土から見れば王都から遠く、端に位置する。その領地から隣国との境目は国有地だが広く深い瘴気の森があり、そこにはアラクネのような魔獣達が生息しているので人間は滅多に近寄らないし、王都騎士軍の名により立ち入りは禁止になっていた。
瘴気の森は次々と魔獣を生み出すし、危険指定魔獣α同士の殺し合いは日常茶飯事、少々知恵のある魔族は近寄らないほどの危険地帯だ。
だから例の死霊王がそこへ現れたのは不思議ではなく、その森で手当たり次第に魔獣t達を食い荒らし、配下にしたというのは納得のいく話だ。
そしてそれを耳にした領内を見回っていた侯爵が様子を見るためにそこへ駆けつけたのも職業的に仕方ない。王国騎士団の団長であり、騎士達の剣術指南役までやっているのだから。
侯爵は休暇という名目で領地へ戻って来ていたが、手練れの部下である騎士隊を一個団体連れていた。侯爵は変わらず引退を表明していたけど、私がうっかり足を治してしまったもので、騎士団長の続投を求められていた。
そして責任感のある侯爵は死霊王殲滅を望んでいたし、瘴気の森へ現れた死霊王の様子を見に行ったのだった。
そして、今現在は、行方不明。
残った騎士団員は王都への救援を求めに走ると共に、私の所へも知らせてくれたのだった。
「行方不明ってどういう事ですの?」
私の前に膝をついた兵隊は自らも傷つき、全身が血と泥で汚れていたが、私はそれを気遣ってあげる事が頭に浮かばなかった。
「申し訳ございません、奥様」
若い伝令兵はそれを言うしかなく、私もその垂れた頭を眺めている間、身体も思考も動かなかった。
「リリちゃん、その子を責めてもどうもならんでぇ。休む間もなくここまで走って来たんや、休ませたり」
と耳元でおっさんの声がして、私は我に返った。
私の周りには家令のオラルドもサラもいて、皆が心配そうに私を見ていた。
「あ、ああ、そうね。オラルド、この人も手当をして休ませてあげて頂戴。他にも傷ついた方がいれば助けてあげて、王都へ戻るのも十分な物資を用意してあげてくれる?」
「かしこまりました」
オラルドがお辞儀をして、伝令兵を連れて出て行った。
ふらっと身体が揺れて、私はソファにどさっと座り込んだ。
手足が冷たく、膝が震えて立っていられなくなったのだ。
「リリアン様!」
「サラ、暖かいお茶を一杯入れてくれる?」
「かしこまりました」
「それと……アラクネ! アラクネ!」
と私が呼ぶと、アラクネがぽんと姿を現した。
「お呼び? リリアン様ぁ」
赤い蜘蛛はぴょんとテーブルの上に飛び乗った。
「あなた、瘴気の森近くで住んでいたわよね? 何か知らない? 森へ様子を見に行った侯爵様が行方不明なの」
「あー、確かにざわついてると思った。弱いやつらが続々と逃げ出してるわ。死霊王がまたうろついてるんだろ。うーん、でもあたしにもどうなってるのかは分からないな。実際見に行ってみない事には」
「そう、じゃあ、見に行きましょう」
「え!」
嫌だなぁという風にアラクネが立ち上がり、八本のうちの二本で×をした。
「な、何なの? あんた、心配じゃないの!? あんた人んちに居候して、魔力喰って昼寝して! 何なのよ! たまには役に立ちなさいよ! このくそ蜘蛛!!!!」
レオーナが帰りやれやれと一息ついた翌日、急な知らせが私に届いた。
ウエールズ侯爵の治める領地は宏大で肥沃な地だが、全国土から見れば王都から遠く、端に位置する。その領地から隣国との境目は国有地だが広く深い瘴気の森があり、そこにはアラクネのような魔獣達が生息しているので人間は滅多に近寄らないし、王都騎士軍の名により立ち入りは禁止になっていた。
瘴気の森は次々と魔獣を生み出すし、危険指定魔獣α同士の殺し合いは日常茶飯事、少々知恵のある魔族は近寄らないほどの危険地帯だ。
だから例の死霊王がそこへ現れたのは不思議ではなく、その森で手当たり次第に魔獣t達を食い荒らし、配下にしたというのは納得のいく話だ。
そしてそれを耳にした領内を見回っていた侯爵が様子を見るためにそこへ駆けつけたのも職業的に仕方ない。王国騎士団の団長であり、騎士達の剣術指南役までやっているのだから。
侯爵は休暇という名目で領地へ戻って来ていたが、手練れの部下である騎士隊を一個団体連れていた。侯爵は変わらず引退を表明していたけど、私がうっかり足を治してしまったもので、騎士団長の続投を求められていた。
そして責任感のある侯爵は死霊王殲滅を望んでいたし、瘴気の森へ現れた死霊王の様子を見に行ったのだった。
そして、今現在は、行方不明。
残った騎士団員は王都への救援を求めに走ると共に、私の所へも知らせてくれたのだった。
「行方不明ってどういう事ですの?」
私の前に膝をついた兵隊は自らも傷つき、全身が血と泥で汚れていたが、私はそれを気遣ってあげる事が頭に浮かばなかった。
「申し訳ございません、奥様」
若い伝令兵はそれを言うしかなく、私もその垂れた頭を眺めている間、身体も思考も動かなかった。
「リリちゃん、その子を責めてもどうもならんでぇ。休む間もなくここまで走って来たんや、休ませたり」
と耳元でおっさんの声がして、私は我に返った。
私の周りには家令のオラルドもサラもいて、皆が心配そうに私を見ていた。
「あ、ああ、そうね。オラルド、この人も手当をして休ませてあげて頂戴。他にも傷ついた方がいれば助けてあげて、王都へ戻るのも十分な物資を用意してあげてくれる?」
「かしこまりました」
オラルドがお辞儀をして、伝令兵を連れて出て行った。
ふらっと身体が揺れて、私はソファにどさっと座り込んだ。
手足が冷たく、膝が震えて立っていられなくなったのだ。
「リリアン様!」
「サラ、暖かいお茶を一杯入れてくれる?」
「かしこまりました」
「それと……アラクネ! アラクネ!」
と私が呼ぶと、アラクネがぽんと姿を現した。
「お呼び? リリアン様ぁ」
赤い蜘蛛はぴょんとテーブルの上に飛び乗った。
「あなた、瘴気の森近くで住んでいたわよね? 何か知らない? 森へ様子を見に行った侯爵様が行方不明なの」
「あー、確かにざわついてると思った。弱いやつらが続々と逃げ出してるわ。死霊王がまたうろついてるんだろ。うーん、でもあたしにもどうなってるのかは分からないな。実際見に行ってみない事には」
「そう、じゃあ、見に行きましょう」
「え!」
嫌だなぁという風にアラクネが立ち上がり、八本のうちの二本で×をした。
「な、何なの? あんた、心配じゃないの!? あんた人んちに居候して、魔力喰って昼寝して! 何なのよ! たまには役に立ちなさいよ! このくそ蜘蛛!!!!」
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