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7.見学
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見学
「...なぜ入れないの?」
「伯爵夫人から、そのように承っております。」
「私は伯爵令嬢よ?そしてルシエルの姉なの。」
「通す事はできません。」
エティーナは朝食が終わった後、ルルネにいつもルシエルが教養の授業をしていると言う時間と場所を教えてもらった。そして時間通りにそこへ向かい、中を見学させて欲しいと言ったら、扉の前にいた騎士に止められてしまったのだ。
「顔を見るだけで良いわ。」
「なりません。」
「邪魔もしないわ。」
「なりません。」
伯爵夫人の息がかかった騎士はちっとも動かなかった。
「(チッ。金に目が眩んだ騎士の風上にも置けない男だわ。...じゃあ、)力づくで行くわよ!!」
「お、お嬢様!?」
話してもわからないのなら実力行使だ、とエティーナは力強く一歩踏み出した。
そのまさかの行動に出たエティーナに、背後にいたルルネが驚愕する声をあげる。
しかし、そのお嬢様はやめるつもりがないようだ。
「おやめください!!エティーナ様!!」
「離しなさい!!婚姻前の女性に気安く触らないでちょうだい!!無礼よ!!」
「なりません...!!!」
「なりませんなりませんって、あなた達はそれしか話せないの!?このマニュアル人間が!!脳がダチョウより小さいのかしら!?それでは剣を振るっていたらカラカラ干からびた脳が音を立てるんじゃなくって!?」
「ぶはっ!!!」
私と騎士のやり合いは、その吹き出した声で一旦の終わりを告げた。
なによ...とエティーナが振り向くと、泣きそうな顔のルルネの横に長身の男が立っていた。
その男は長い金髪をポニーテールにしていて、青空のように透き通った瞳を潤ませて爆笑していた。
「あはははは!!!騒がしいからと思って来てみれば、随分とユーモアに溢れた令嬢がいたもんだ!!本当に伯爵令嬢か!?君!面白いな!!」
「...は?」
よく見ると女のように美しい顔をしたその男は、馴れ馴れしい言葉でなぜかエティーナを褒めた。
「ははっ、あー、久しぶりにこんなに笑った。伯爵家で教師をやるなんてつまらなくて死んでしまうかと思ったが、楽しくなりそうだ。」
愉快そうに笑ったその男はルルネの横から離れて、騎士と揉み合うエティーナの方へと近づいた。
長い足ではあっという間に距離が詰められる。
近くに寄ると、その人からは花の匂いがする。
「...気に入ったぞ令嬢。俺を楽しませた褒美に、一つ、願いを叶えてやろう。」
エティーナにが何が何だかわからなかったが、男は白くて骨ばった美しい指を一本立てて宙に丸を二回描くように回した。
すると、
「うわぁ!!」
先ほどまでエティーナと揉み合っていた騎士が宙に浮いたのだ。そしてこの隙にとエティーナは目の前の扉を勢いよく開ける。
____バンっ!!
両手で思いっきり開けたその先には、ルシエルとその教師がいた。
ただし、ルシエルは床に座らされ、その目の前にいる教師の手には鞭が握られていた。
「え、エティーナ様!?何かご用ですか!?」
教師は焦ったようにその鞭を後ろ手に隠した。
「あなた、その手に持っているのは何かしら?」
「えぇ!?いえ、何も持ってなど...!!」
「おや、嘘はいけないな。俺には全部お見通しだぜ。」
エティーナに続いて部屋に入ってきたらしい金髪の男は再び指を回した。
すると、教師の手が真上に伸び、その手に握られていた鞭が顕になる。
「...その鞭で、何をしていたの?」
「こっ、これは、教育の一環です!教鞭を取るという言葉通り教師は時に厳しく「黙りなさい。あなたの無様な言い訳で私の耳が汚れるわ。」」
そう言うと斜め後ろからひゅー!という口笛が聞こえる。
「(冷やかしかコラ。...まぁいいわ。今はルシエルが優先よ。)...ルシエル、痛いところはない?」
エティーナは素早くルシエルのそばによってそっと声をかける。そして萎縮してすっかり背中が丸まってしまっているので、その背中にそっと触れた。
しかしその瞬間、ルシエルの体がびくりと跳ねた。
「...そう、背中を叩かれたのね。」
「ぁっ...こ、これは...!!」
「大丈夫よルシエル。姉様が必ずあなたを守るからね。」
目に涙をいっぱいに溜めたルシエルを安心させようと、エティーナは精一杯優しく微笑んでそう伝える。すると、ルシエルはそのキラキラした目をいっぱいに見開いて、涙を溢した。
「ぁっ、ああっ...ぅぁあっ!ねぇさま...!ねえさまぁ...!!」
エティーナのドレスに必死に縋りながら泣くルシエルの頭を撫でて抱きしめる。
「よく頑張ったわね。良い子。貴方は自慢の弟よルシエル。偉いわ。」
「うっ、ぐすっ...う゛ぅ...。」
「可愛いルシエル?何があったのか姉様に教えてくれる?」
「っ、はい...。...ぼく、は、じゅぎょうがあると、しっぱいのたびに、せなかがたたかれます。せなかがいたくて、まいにちねむれませんっ...。ぼくが、できそこないだから...ぼくが、...。」
「(大人の言葉はなんでも鵜呑みにしてしまう子供になんてことを言うのよ。こんな奴教師失格だわ。)...出来損ないなんかじゃないわ。貴方が悪い事は何もないの。...悪いのは、この教師もどきよ。」
そして、エティーナは立ち上がって教師を真正面から睨んだ。
「...なぜ入れないの?」
「伯爵夫人から、そのように承っております。」
「私は伯爵令嬢よ?そしてルシエルの姉なの。」
「通す事はできません。」
エティーナは朝食が終わった後、ルルネにいつもルシエルが教養の授業をしていると言う時間と場所を教えてもらった。そして時間通りにそこへ向かい、中を見学させて欲しいと言ったら、扉の前にいた騎士に止められてしまったのだ。
「顔を見るだけで良いわ。」
「なりません。」
「邪魔もしないわ。」
「なりません。」
伯爵夫人の息がかかった騎士はちっとも動かなかった。
「(チッ。金に目が眩んだ騎士の風上にも置けない男だわ。...じゃあ、)力づくで行くわよ!!」
「お、お嬢様!?」
話してもわからないのなら実力行使だ、とエティーナは力強く一歩踏み出した。
そのまさかの行動に出たエティーナに、背後にいたルルネが驚愕する声をあげる。
しかし、そのお嬢様はやめるつもりがないようだ。
「おやめください!!エティーナ様!!」
「離しなさい!!婚姻前の女性に気安く触らないでちょうだい!!無礼よ!!」
「なりません...!!!」
「なりませんなりませんって、あなた達はそれしか話せないの!?このマニュアル人間が!!脳がダチョウより小さいのかしら!?それでは剣を振るっていたらカラカラ干からびた脳が音を立てるんじゃなくって!?」
「ぶはっ!!!」
私と騎士のやり合いは、その吹き出した声で一旦の終わりを告げた。
なによ...とエティーナが振り向くと、泣きそうな顔のルルネの横に長身の男が立っていた。
その男は長い金髪をポニーテールにしていて、青空のように透き通った瞳を潤ませて爆笑していた。
「あはははは!!!騒がしいからと思って来てみれば、随分とユーモアに溢れた令嬢がいたもんだ!!本当に伯爵令嬢か!?君!面白いな!!」
「...は?」
よく見ると女のように美しい顔をしたその男は、馴れ馴れしい言葉でなぜかエティーナを褒めた。
「ははっ、あー、久しぶりにこんなに笑った。伯爵家で教師をやるなんてつまらなくて死んでしまうかと思ったが、楽しくなりそうだ。」
愉快そうに笑ったその男はルルネの横から離れて、騎士と揉み合うエティーナの方へと近づいた。
長い足ではあっという間に距離が詰められる。
近くに寄ると、その人からは花の匂いがする。
「...気に入ったぞ令嬢。俺を楽しませた褒美に、一つ、願いを叶えてやろう。」
エティーナにが何が何だかわからなかったが、男は白くて骨ばった美しい指を一本立てて宙に丸を二回描くように回した。
すると、
「うわぁ!!」
先ほどまでエティーナと揉み合っていた騎士が宙に浮いたのだ。そしてこの隙にとエティーナは目の前の扉を勢いよく開ける。
____バンっ!!
両手で思いっきり開けたその先には、ルシエルとその教師がいた。
ただし、ルシエルは床に座らされ、その目の前にいる教師の手には鞭が握られていた。
「え、エティーナ様!?何かご用ですか!?」
教師は焦ったようにその鞭を後ろ手に隠した。
「あなた、その手に持っているのは何かしら?」
「えぇ!?いえ、何も持ってなど...!!」
「おや、嘘はいけないな。俺には全部お見通しだぜ。」
エティーナに続いて部屋に入ってきたらしい金髪の男は再び指を回した。
すると、教師の手が真上に伸び、その手に握られていた鞭が顕になる。
「...その鞭で、何をしていたの?」
「こっ、これは、教育の一環です!教鞭を取るという言葉通り教師は時に厳しく「黙りなさい。あなたの無様な言い訳で私の耳が汚れるわ。」」
そう言うと斜め後ろからひゅー!という口笛が聞こえる。
「(冷やかしかコラ。...まぁいいわ。今はルシエルが優先よ。)...ルシエル、痛いところはない?」
エティーナは素早くルシエルのそばによってそっと声をかける。そして萎縮してすっかり背中が丸まってしまっているので、その背中にそっと触れた。
しかしその瞬間、ルシエルの体がびくりと跳ねた。
「...そう、背中を叩かれたのね。」
「ぁっ...こ、これは...!!」
「大丈夫よルシエル。姉様が必ずあなたを守るからね。」
目に涙をいっぱいに溜めたルシエルを安心させようと、エティーナは精一杯優しく微笑んでそう伝える。すると、ルシエルはそのキラキラした目をいっぱいに見開いて、涙を溢した。
「ぁっ、ああっ...ぅぁあっ!ねぇさま...!ねえさまぁ...!!」
エティーナのドレスに必死に縋りながら泣くルシエルの頭を撫でて抱きしめる。
「よく頑張ったわね。良い子。貴方は自慢の弟よルシエル。偉いわ。」
「うっ、ぐすっ...う゛ぅ...。」
「可愛いルシエル?何があったのか姉様に教えてくれる?」
「っ、はい...。...ぼく、は、じゅぎょうがあると、しっぱいのたびに、せなかがたたかれます。せなかがいたくて、まいにちねむれませんっ...。ぼくが、できそこないだから...ぼくが、...。」
「(大人の言葉はなんでも鵜呑みにしてしまう子供になんてことを言うのよ。こんな奴教師失格だわ。)...出来損ないなんかじゃないわ。貴方が悪い事は何もないの。...悪いのは、この教師もどきよ。」
そして、エティーナは立ち上がって教師を真正面から睨んだ。
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