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18.怒

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「...ルーカス...?」

「なんだ、この男は。なんだ。なんで君にそんな事をする?婚姻を結んだんじゃないのか?夫婦は、お互い支え合い、協力し合うべきじゃないのか?...それも、妊娠した妻を置いて、何をやっているんだ?この×××野郎は。」

「落ち着いて、ルーカス。」

とてもじゃないが口に出すべきではない暴言まで吐き始める程ヒートアップするルーカスを宥めるが、やはり声は届かない。
その間もルーカスは目を瞑ったままさらに激昂し、エティーナの腰に回した腕の締め付けを強くした。

「っ君が!泣いてるじゃないか!なぜ慰めない?なぜ抱きしめてやらない?旦那だろう?一生を誓い合ったのだろう?君と、...君と、愛を交わしたんだろう...?なぜ、大切にしないんだ...。なぜ...。」

「..................。」

「っ...全て、この男のせいじゃないか。君がこんな決断をしなければいけなくなった原因は。こいつが君を殺したんだ。...っ君が、こんな......。」

「...ルーカス。」

とうとうその目から涙をこぼし始めたルーカスを、エティーナはその細い腕で抱きしめた。
まるで赤子をあやすように、ルーカスの長いサラサラとした髪を撫でる。

ルーカスはどうやら最後まで見たようだ。
夏菜子の、最期まで。

「...ルーカス、ありがとう。私のために泣いてくれて。」

「っ、すまない。俺に泣く資格なんて...。」

「いいの。私を哀れんでくれたのはあなたがはじめてよ。...でもね、私も悪いのよ。」

「っそんなことは...!!」

涙でうるむルーカスの瞳には、穏やかな顔をしたエティーナが映っていた。

「勿論、浮気をした相手が一番悪いわ。今でも恨んでいないと言ったら嘘になるの。でもね、結婚相手をしっかり選ぼうとしなかった私も悪いのよ。他人に盲目になって何も考えずに、ただ愛してほしいがためにお金まで貸して...。私は、臆病で弱かったの。だから、自業自得なのよ。」

「......人は誰もが弱さを持っていると、師匠は言っていた。だから嘘をついて、弱い自分を隠すんだ。...でも、パートナーというのは、そういう弱さを認め合い、補い合っていくものじゃないのか?君は、...あの頃の君は、いったい誰が支えていたんだ...?」

ルーカスはもう一度目を潤ませると、エティーナの肩に顔を埋めた。

「ルーカス。あなたの言葉は理想ではあるけれど、人生そんなうまくはいかないわ。実際、私には支えてくれる人が誰もいなかった。だから、誰もが持っている平等な方法で逃げるしかなかった。」

「...いやだ。そんなの、嫌だ。」

ルーカスが、エティーナの服の背中をギュウっと握りしめる。まるで、今ここにいるエティーナを逃さないとでもするかのように。
そんなルーカスの頭を撫でて、子供に言い聞かせるように優しく言う。

「...終わってしまったことはしょうがないの。でも、私は一度死んで、こうしてまだ生きることができる。会ったことはないけれど、エティーナは私と似ているの。だから、私はエティーナの体を借りて、私とエティーナがやりたかったように、誰にも縛られず、自由に生きて幸せになるって決めた。きっと、今のこの人生は、神様がくれた最後のチャンスなのよ。」

「......そうか。」

「ええ。」

やっとルーカスが離れて、目と目が合う。しかしルーカスの目にもう涙はなく、代わりに固い決意が滲み出ていた。

「ルーカス...?」

「分かった。なら、俺も君の人生の手伝いをしよう。」


「...え?」




























皆様ごきげんよう。
エティーナ・スカレット(未婚)です。

前世の私は結婚をしていましたが、今の私は未婚。

そう、未婚なのです。



未婚......。


「すー...すー......。」

「なぜ......寝る...?」


先ほどなんかかっこよさげにプロポーズまがいな発言をした自称25歳、精神年齢5歳の顔綺麗め男は、なぜかその後気絶するように入眠した。
成人男性の全体重がこちらに寄りかかってきて、潰れた私はなんとかその下から這い出て、現在に至る。

「指輪のせい...と考えるしかないわね。」

顔色も悪くなく、寝顔なんてものはもう中学生か?というあどけなさなので、今は寝かせておいた方がいいのだろう。とりあえず適当にかけるものを体に乗せて、考える。

未婚の女性が男性を部屋に泊めていいものか。



「...良いわけ、無いでしょう。」


はぁ、と頭を抱える。

このまま朝にでもなってルルネが部屋にこようものなら、2日連続で発狂ものだ。
なんとしてでもこの男を処理(健全)しなければ。

しかし...。

「離してくれないのよね。」

ルーカスに手が握られたまま、その手はガッチリとしていて動かなかった。

仕方ないから、ルーカスの頭側のソファに腰掛ける。

「...本当、子供みたいね。」

我が子を育てる責任を全て放棄したあの瞬間を思い出しながら、なんとなくルーカスの前髪をさらりと耳にかけた。
するとルーカスは幸せそうに頬を緩ませ、私の手に擦り寄ってきた。




「...いいえ、この子は子供ではなく赤ちゃんよ。」




不覚にも赤くなる顔は、誰にも見られていないから良いだろう。












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