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桜の花弁と落ち葉
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風がそよぐ。今度こそ見間違いじゃない。微風の中に桜の花弁が舞った。彼女にもそれが見えているのか。秋桜は彼女の目を見る。彼女――桜花もこちらを見つめていた。
優しい笑顔。優しい瞳。不意に母の顔が重なって、秋桜は目をそらした。
「秋桜ちゃん、何か困ってることない? 私たちが力になるよ」
桜花が歩み寄ろうと一歩前に出る。しかし、秋桜はその拍子に顔を上げた。
「結構です!」
怒りを露わに一言告げ、背を向けて走り出す。
隙のない拒絶的返答に、二人は遠ざかっていく背中をただ眺めるしかなかった。
「あらー……。逃げられちゃった」
「正常なリアクションだと思うぞ」
「あんたやる気あるの?」
しれっとしている守桜を、半眼で睨む桜花。
「大体、あんな真っ向から普通訊くか? そりゃあ怪しすぎて逃げたくもなるわ」
「だって、こそこそやるより手っ取り早いかと思ったんだもの」
「そんなことだろうと思った」
先が思いやられて守桜は溜息をつく。
「そう簡単に行ったら誰も苦労しねぇぞ」
「でもあの子怒ったわ」
「見りゃ分かるが」
桜花は秋桜が去っていった方を見ている。その表情に微笑みはない。
「それって、助けるなんて簡単に言うな、ってことでしょ?」
感情抜きの真剣な眼差し。雰囲気すら数秒前とはどこか違う。
「あの子、願いがきっとある」
桜花は振り返って桜の大樹を見上げた。冬に向かって枯れ葉を少しずつ散らせていくその姿は、春に薄ピンクの花弁によって彩られた堂々たる様からはひどく遠い。
「コスモスと書いて〝あきな〟ちゃんか」
だが、木枯らしの吹く季節にも桜はある。すぐ足元に。それを知っているから、大樹は小さな子らを守ろうと自らの葉を落とすのかもしれない。
桜花と大樹の間を、風が吹き抜ける。
「私たちは、貴女に呼ばれたのかしらね」
優しい笑顔。優しい瞳。不意に母の顔が重なって、秋桜は目をそらした。
「秋桜ちゃん、何か困ってることない? 私たちが力になるよ」
桜花が歩み寄ろうと一歩前に出る。しかし、秋桜はその拍子に顔を上げた。
「結構です!」
怒りを露わに一言告げ、背を向けて走り出す。
隙のない拒絶的返答に、二人は遠ざかっていく背中をただ眺めるしかなかった。
「あらー……。逃げられちゃった」
「正常なリアクションだと思うぞ」
「あんたやる気あるの?」
しれっとしている守桜を、半眼で睨む桜花。
「大体、あんな真っ向から普通訊くか? そりゃあ怪しすぎて逃げたくもなるわ」
「だって、こそこそやるより手っ取り早いかと思ったんだもの」
「そんなことだろうと思った」
先が思いやられて守桜は溜息をつく。
「そう簡単に行ったら誰も苦労しねぇぞ」
「でもあの子怒ったわ」
「見りゃ分かるが」
桜花は秋桜が去っていった方を見ている。その表情に微笑みはない。
「それって、助けるなんて簡単に言うな、ってことでしょ?」
感情抜きの真剣な眼差し。雰囲気すら数秒前とはどこか違う。
「あの子、願いがきっとある」
桜花は振り返って桜の大樹を見上げた。冬に向かって枯れ葉を少しずつ散らせていくその姿は、春に薄ピンクの花弁によって彩られた堂々たる様からはひどく遠い。
「コスモスと書いて〝あきな〟ちゃんか」
だが、木枯らしの吹く季節にも桜はある。すぐ足元に。それを知っているから、大樹は小さな子らを守ろうと自らの葉を落とすのかもしれない。
桜花と大樹の間を、風が吹き抜ける。
「私たちは、貴女に呼ばれたのかしらね」
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