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人間じゃない二人
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いつも通り授業を受け、いつも通り友達と昼食をとり、いつも通り放課後になった。
昨日と同じ時間を過ごしているうちにだんだんと冷静さを取り戻す。すると今度は、今朝の出来事が本当に現実のことだったか疑問に思い始めた。不可解な点を上げればそれこそキリがない。どちらにしてもこの掃除を終えて家に帰り、家事と宿題をして布団に入って、朝になればもう思い出す事もないだろう。
校舎裏の掃除は清掃範囲の広さに対して落ち葉を集める作業だけなので割とすぐ終わる。それにまだ枯れ葉が落ち切っていない現状なら尚更、そこそこに掃除しておけばいい。先生からもらったビニール袋いっぱいに落ち葉を詰めて、さっき友達が収集場に捨てに行った。ノルマは四十リットル一袋なので、友達が帰って来たら一緒に教室にいる先生に報告しに行って、それで終わりだ。
秋桜は友達を持っている間の手持無沙汰を紛らわすために、集め損ねた落ち葉を壁際に寄せていた。しばらくして背後に落ち葉を踏む音がこちらに近づいてきた。
――ふと、落ち葉の上に桜の花弁が落ちた。
秋桜はまさかと思って背後を振り返る。
「こんにちは。ちゃんとお掃除してて偉いわね」
そのまさかで今朝の二人――桜花と守桜が再び現れた。
あんな別れ方をしたのに彼女は全く気にしていない様子で、にこにこ笑いかけてくる。いや、それよりも――。
「どうやって入ってきたんですか!」
今朝と同じ格好の二人は、立っているだけでも相当に目立つ。普通の服装だったとしても充分に人目を引くであろう容姿を持っているのだ。たとえ人の目を盗んで中学校に入ってきたのだとしても門には監視カメラが付いている。職員か事務員か、誰かが呼び止めに来るはずだ。放課後で生徒がそこら中にいる今、誰にも見つからないでここまで来るなんて不可能だ。けれど事実、彼らは平然と学校の中を歩いている。
「どうやって、って言われても普通に正門から入ったわよ?」
桜花はきょとんとした顔で首を傾げる。埒が明かない。秋桜は彼女の数歩後ろにいる守桜を見た。校舎や体育館を見回していた彼はこちらの視線に気付いて、目を合わせてくれるが、平然とした態度は変わらない。
「別におかしくないだろ? 外来者は正門から入るもんだ」
「そそ。裏門は職員および保護者用です」
眉をひそめながらも、秋桜は内心で唖然としていた。こんなに話が通じないと、次の言葉も出てこない。
すると、ちょうどいいタイミングで友達の姿が見えた。ゴミ出しに行っていた友達二人がやや遠くから手を振っている。
「あきぃー! 先生がもう終わりでいいってー!」
秋桜は友達を見ながら、横目で桜花と守桜をうかがった。彼らを挟む位置に秋桜と友達はいるのだ。こちらを向いている友達に彼らの姿が見えないはずがない。どうしてこの人達を見て何も言わないのか。
当人たちはと言うと、桜花は薄く微笑んだまま、守桜はそっぽを向いたまま、動かない。
「部活あるから私たち先戻るねー! あきー、また明日ー!」
「う、うん……」
秋桜は完全に上の空だが、辛うじて手を振り返す。友達二人は校舎の中へと消えた。
再び三人だけになる。先程とは違い、異様な空気が漂っていた。秋桜は得体の知れない彼らの存在にぞっとする。
「ね? 言ったでしょ。私たちは人間じゃない」
仮面を貼り付けたような微笑みで、桜花は言った。一歩また一歩と近付いてくる彼女に対して、秋桜は無意識に身構える。
昨日と同じ時間を過ごしているうちにだんだんと冷静さを取り戻す。すると今度は、今朝の出来事が本当に現実のことだったか疑問に思い始めた。不可解な点を上げればそれこそキリがない。どちらにしてもこの掃除を終えて家に帰り、家事と宿題をして布団に入って、朝になればもう思い出す事もないだろう。
校舎裏の掃除は清掃範囲の広さに対して落ち葉を集める作業だけなので割とすぐ終わる。それにまだ枯れ葉が落ち切っていない現状なら尚更、そこそこに掃除しておけばいい。先生からもらったビニール袋いっぱいに落ち葉を詰めて、さっき友達が収集場に捨てに行った。ノルマは四十リットル一袋なので、友達が帰って来たら一緒に教室にいる先生に報告しに行って、それで終わりだ。
秋桜は友達を持っている間の手持無沙汰を紛らわすために、集め損ねた落ち葉を壁際に寄せていた。しばらくして背後に落ち葉を踏む音がこちらに近づいてきた。
――ふと、落ち葉の上に桜の花弁が落ちた。
秋桜はまさかと思って背後を振り返る。
「こんにちは。ちゃんとお掃除してて偉いわね」
そのまさかで今朝の二人――桜花と守桜が再び現れた。
あんな別れ方をしたのに彼女は全く気にしていない様子で、にこにこ笑いかけてくる。いや、それよりも――。
「どうやって入ってきたんですか!」
今朝と同じ格好の二人は、立っているだけでも相当に目立つ。普通の服装だったとしても充分に人目を引くであろう容姿を持っているのだ。たとえ人の目を盗んで中学校に入ってきたのだとしても門には監視カメラが付いている。職員か事務員か、誰かが呼び止めに来るはずだ。放課後で生徒がそこら中にいる今、誰にも見つからないでここまで来るなんて不可能だ。けれど事実、彼らは平然と学校の中を歩いている。
「どうやって、って言われても普通に正門から入ったわよ?」
桜花はきょとんとした顔で首を傾げる。埒が明かない。秋桜は彼女の数歩後ろにいる守桜を見た。校舎や体育館を見回していた彼はこちらの視線に気付いて、目を合わせてくれるが、平然とした態度は変わらない。
「別におかしくないだろ? 外来者は正門から入るもんだ」
「そそ。裏門は職員および保護者用です」
眉をひそめながらも、秋桜は内心で唖然としていた。こんなに話が通じないと、次の言葉も出てこない。
すると、ちょうどいいタイミングで友達の姿が見えた。ゴミ出しに行っていた友達二人がやや遠くから手を振っている。
「あきぃー! 先生がもう終わりでいいってー!」
秋桜は友達を見ながら、横目で桜花と守桜をうかがった。彼らを挟む位置に秋桜と友達はいるのだ。こちらを向いている友達に彼らの姿が見えないはずがない。どうしてこの人達を見て何も言わないのか。
当人たちはと言うと、桜花は薄く微笑んだまま、守桜はそっぽを向いたまま、動かない。
「部活あるから私たち先戻るねー! あきー、また明日ー!」
「う、うん……」
秋桜は完全に上の空だが、辛うじて手を振り返す。友達二人は校舎の中へと消えた。
再び三人だけになる。先程とは違い、異様な空気が漂っていた。秋桜は得体の知れない彼らの存在にぞっとする。
「ね? 言ったでしょ。私たちは人間じゃない」
仮面を貼り付けたような微笑みで、桜花は言った。一歩また一歩と近付いてくる彼女に対して、秋桜は無意識に身構える。
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