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〝桜の精〟
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「……じゃあ、一体、なんだって言うんですか」
意味不明でも沈黙よりはましだ。秋桜は桜花の話に乗る。
「だから、妖精。あなたの力になるためにやってきた」
「今朝は精霊だって……」
ぴたっと桜花の歩みが止まった。
「え……、ほんとに?」
目を点にして、傍から見ても分かるくらい焦り出す。異様な空気はそれでどこかに行ってしまった。
「で、でもほら、どっちも似たようなもんよ。そう!」
ぽん、と握りこぶしを手の皿に打ち付ける。仕草が一々大袈裟だ。
「〝精〟に変わりはないわ。さながら〝桜の精〟ってところかしら。ね、守桜!」
「初耳だ」
「話合わせろゴラ!」
彼らの関係性が少し垣間見えた気がした。しれっとしている守桜に、「まったく……」と溜息をつく桜花。彼らは隠したり騙したりする気があるようでない。あったとしてもかなり低い。本当にこの人たちは、何の目的があって何をするために私の前に現れたのだろう。
桜花が気を取り直して歩き出す。無駄話が入り込んだせいで逃げるタイミングを見失った秋桜の目の前に、彼女が立った。こちらを見つめる表情は真剣で、秋桜は思わず息を呑む。
「私たちが桜の名を持つあなたの許へやってきたこと、きっと偶然じゃない」
桜花はそっと秋桜に手を伸ばす。
「さわらないで!」
触れる寸前、耐えられなくなった秋桜はその手を払いのけた。
秋桜の表情が固まる。
払った感触が全くなかった。
「――っ!」
秋桜の手は、空を切っただけでなく、桜花の肩に入り込んでいる。
慌てて手を引っ込めるが、他人の身体に自分の手が食い込んだヴィジョンが目に焼き付いて離れない。あまりにも現実離れした出来事に全身の血が引けていく。
桜花は悲しそうな顔をしていた。どこかでそんな人間らしい表情もするのだと思いながら放心していると、桜花は複雑そうに笑った。叩かれ損ねた手を、今度こそ秋桜の頬へと持っていく。触れることはない。ただそこに留めているだけだ。
「ね、信じてもらえた?」
人間ではない。生きている存在じゃない。そこに在るようでい無い。
だというのに、彼女の手からはほのかに桜の香りがした。
意味不明でも沈黙よりはましだ。秋桜は桜花の話に乗る。
「だから、妖精。あなたの力になるためにやってきた」
「今朝は精霊だって……」
ぴたっと桜花の歩みが止まった。
「え……、ほんとに?」
目を点にして、傍から見ても分かるくらい焦り出す。異様な空気はそれでどこかに行ってしまった。
「で、でもほら、どっちも似たようなもんよ。そう!」
ぽん、と握りこぶしを手の皿に打ち付ける。仕草が一々大袈裟だ。
「〝精〟に変わりはないわ。さながら〝桜の精〟ってところかしら。ね、守桜!」
「初耳だ」
「話合わせろゴラ!」
彼らの関係性が少し垣間見えた気がした。しれっとしている守桜に、「まったく……」と溜息をつく桜花。彼らは隠したり騙したりする気があるようでない。あったとしてもかなり低い。本当にこの人たちは、何の目的があって何をするために私の前に現れたのだろう。
桜花が気を取り直して歩き出す。無駄話が入り込んだせいで逃げるタイミングを見失った秋桜の目の前に、彼女が立った。こちらを見つめる表情は真剣で、秋桜は思わず息を呑む。
「私たちが桜の名を持つあなたの許へやってきたこと、きっと偶然じゃない」
桜花はそっと秋桜に手を伸ばす。
「さわらないで!」
触れる寸前、耐えられなくなった秋桜はその手を払いのけた。
秋桜の表情が固まる。
払った感触が全くなかった。
「――っ!」
秋桜の手は、空を切っただけでなく、桜花の肩に入り込んでいる。
慌てて手を引っ込めるが、他人の身体に自分の手が食い込んだヴィジョンが目に焼き付いて離れない。あまりにも現実離れした出来事に全身の血が引けていく。
桜花は悲しそうな顔をしていた。どこかでそんな人間らしい表情もするのだと思いながら放心していると、桜花は複雑そうに笑った。叩かれ損ねた手を、今度こそ秋桜の頬へと持っていく。触れることはない。ただそこに留めているだけだ。
「ね、信じてもらえた?」
人間ではない。生きている存在じゃない。そこに在るようでい無い。
だというのに、彼女の手からはほのかに桜の香りがした。
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