9 / 86
一章 光の代償
娘の友達
しおりを挟む
娘の見送りに出た老爺が報告に戻ってきた。本来は親がすべき役目を快く引き受け、娘の世話係を誠実に全うしていた彼の心情を察し、早々に自室へと下がらせる。
ユリエナの実父――フォルセス王国第五七八代国王ディーフィットは広い応接間に一人となった。
〝太陽の儀式〟が近付き、国務が急増している。本人から見送りは不要だと言われていたこともあり、出立の際、結局会いには行かなかった。
せめてもの贖罪として彼女達の援助を決めたものの、こちらに出来ることは限られているようだ。既に思い当たることは全て済ませてしまった。
扉のむこうからコツコツと靴音が響く。足早に聞こえるその音は徐々に大きくなり、止まると同時に応接間の扉が開いた。
そこには瑠璃色の髪をハーフアップに結い上げ、臙脂色の瞳を持つ女性がいた。左耳では涙の形をした宝石が揺れている。
「戻ったか」
「ついさっきね」
「もう少し早ければ、娘にも会えたのだろうが」
「ユリエナは出発したばかり?」
現れた女性は、まるで年来の友に会うかのような無礼講極まる口調で、グリームランド最強を誇るフォルセスの国王と挨拶を交わす。ディーフィットは特に気に留めた様子もなく話を続けた。
「うむ。世話になった者達に挨拶をしてから出立すると言っていた」
「あの子らしいわね」
四六時中澄ました顔をしていそうな彼女がふっと目を細めた。だがここを訪れた目的はそれを聞くことではない。彼女は後ろ髪を掻き上げて話を切り替える。
「じゃあこっちも急がないといけないわね。アズミとワモル、借りて行くわよ」
「彼らには単独行動の許可を与えてある」
「あら、そう。じゃあもう一つ、神殿と塔への立ち入り許可を出してもらえるかしら」
「うむ。許可証も既に中尉が持っている」
「話が早いのね。手厚い援助、感謝するわ」
「それはこちらの方だ。大したこともしてやれずに済まない」
「充分よ。私用にしては充分すぎるくらいだわ」
肩を竦めてそれだけ言うと、彼女は身を翻し、扉の方へ向かった。
「行くのか?」
「ええ」
「ナルタット槍士は親衛隊と共に太陽神殿に向かうそうだ。中尉は自室で待機している。居なければ書庫をあたるといい。必要なら足も用意するが」
「それは平気よ。あてがあるから」
「……彼も同行させるのか?」
足が止まる。誰のことを指しているかはこの二人の間で改めて名指しにすることもない。
「ええ。ひよっこ騎士も連れて行くわ」
「彼の噂は聞いている。だがあれから数年経った今、果たして戦力になるのか?」
「それならそれで、その時考えるけど……」
ディーフィットが深刻な趣で問うのとは裏腹に、彼女は事も無げに言う。
「あいつはこんなところじゃ終わらないわよ」
根拠はない。しかし一片の疑いもない彼女の態度に、ディーフィットはやや面喰うも、不要な杞憂であることを悟った。
「我が娘といい、貴殿といい、彼を随分買っているのだな」
ディーフィットの呟きを背に彼女は扉を引いた。
「そう? でもまあ、あいつに会えば解るかもね」
そして一度だけ振り返り満更でもない笑みを見せて、彼女は応接間を後にした。
ユリエナの実父――フォルセス王国第五七八代国王ディーフィットは広い応接間に一人となった。
〝太陽の儀式〟が近付き、国務が急増している。本人から見送りは不要だと言われていたこともあり、出立の際、結局会いには行かなかった。
せめてもの贖罪として彼女達の援助を決めたものの、こちらに出来ることは限られているようだ。既に思い当たることは全て済ませてしまった。
扉のむこうからコツコツと靴音が響く。足早に聞こえるその音は徐々に大きくなり、止まると同時に応接間の扉が開いた。
そこには瑠璃色の髪をハーフアップに結い上げ、臙脂色の瞳を持つ女性がいた。左耳では涙の形をした宝石が揺れている。
「戻ったか」
「ついさっきね」
「もう少し早ければ、娘にも会えたのだろうが」
「ユリエナは出発したばかり?」
現れた女性は、まるで年来の友に会うかのような無礼講極まる口調で、グリームランド最強を誇るフォルセスの国王と挨拶を交わす。ディーフィットは特に気に留めた様子もなく話を続けた。
「うむ。世話になった者達に挨拶をしてから出立すると言っていた」
「あの子らしいわね」
四六時中澄ました顔をしていそうな彼女がふっと目を細めた。だがここを訪れた目的はそれを聞くことではない。彼女は後ろ髪を掻き上げて話を切り替える。
「じゃあこっちも急がないといけないわね。アズミとワモル、借りて行くわよ」
「彼らには単独行動の許可を与えてある」
「あら、そう。じゃあもう一つ、神殿と塔への立ち入り許可を出してもらえるかしら」
「うむ。許可証も既に中尉が持っている」
「話が早いのね。手厚い援助、感謝するわ」
「それはこちらの方だ。大したこともしてやれずに済まない」
「充分よ。私用にしては充分すぎるくらいだわ」
肩を竦めてそれだけ言うと、彼女は身を翻し、扉の方へ向かった。
「行くのか?」
「ええ」
「ナルタット槍士は親衛隊と共に太陽神殿に向かうそうだ。中尉は自室で待機している。居なければ書庫をあたるといい。必要なら足も用意するが」
「それは平気よ。あてがあるから」
「……彼も同行させるのか?」
足が止まる。誰のことを指しているかはこの二人の間で改めて名指しにすることもない。
「ええ。ひよっこ騎士も連れて行くわ」
「彼の噂は聞いている。だがあれから数年経った今、果たして戦力になるのか?」
「それならそれで、その時考えるけど……」
ディーフィットが深刻な趣で問うのとは裏腹に、彼女は事も無げに言う。
「あいつはこんなところじゃ終わらないわよ」
根拠はない。しかし一片の疑いもない彼女の態度に、ディーフィットはやや面喰うも、不要な杞憂であることを悟った。
「我が娘といい、貴殿といい、彼を随分買っているのだな」
ディーフィットの呟きを背に彼女は扉を引いた。
「そう? でもまあ、あいつに会えば解るかもね」
そして一度だけ振り返り満更でもない笑みを見せて、彼女は応接間を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
本条蒼依
ファンタジー
山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、
残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして
遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。
そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を
拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、
町から逃げ出すところから始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる