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四章 それでも僕等は夢を見る

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 幼い頃の俺は御先祖様の武勇伝を聞くのが大好きだった。当時まだ生きていた父親に、絵本代わりに何度も枕元で聞かせてもらった。
 偉大な御先祖様の存在は憧れそのものだった。いつか自分もそうなるのだと、幼い頃の俺は信じて疑わなかった。御先祖様のように剣をとり、部下の信頼を一身に受け、主君と人々を守るために戦場へ赴き、未来をその手で切り拓く皆の希望になるのだと。
 しかしやがてそれも子供特有の、無知故の万能感が描き出した妄想に過ぎないのだと知る。八年前のあの日、一人の少女が『もし太陽がなくなったら、この身を捧げることになるかもしれないの』と言った、その時に。
 何かが壊れた。当時八歳だった俺はおそらく人生で初めて喪失感というものを味わった。いつの間にか無色で肌寒い、ひどく寂しい場所へ来てしまったような気がした。
 しかし間もなく理解する。それこそが現実であり、元いた場所こそ都合のいいまやかしだったのだと。その優しい殻を破ってしまった俺はもう卵に戻ることは出来ない。無力を棚上げした空想を語ることは二度となくなった。
 それはみんなも一緒だった。みんなもただ前を、現実を見るようになった。そこに甘えはなく、驕りもない。ただひたすら現実と向き合う日々が始まった。
 そう。夢物語は誰も救ってくれやしない。力がなければ、知識がなければ何も守れない。
 ――解ってる。そんなことは解ってる。
 自分の夢がどれだけちっぽけであったか、現実を知った俺はそれが痛い程よく解った。
 なのに、どうしてだろう。
 いつまで経っても、幼き日の憧れが消えなくて。
 それどころか昨日より今日、今日より明日、憧れは輝きを増してゆき。
 自分如きでは到底叶わないと分かっているのに、心奥より生まれるその力が空っぽの俺を突き動かそうとする。
 そして今も尚、心に問いかければ蘇る。決して失われることのない願い。
 それは色褪せることのない――〝夢〟。

   ***
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