空の歌(スカイ・ソング)

碧桜 詞帆

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四章 それでも僕等は夢を見る

光る石を胸に抱いて

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 満足げな笑みを見せるリンファ。
「あたし達だって、あの子の騎士はあんた以外に認めない。だからいつまでも腑抜けた面してんじゃないわよ。最初はあんたに資格キャパシティはなくても騎士なんだって、あの子に伝えてくれれば良かったんだけど、今は本物の騎士になってもらわないといけないんだからね」
 七年ぶりに再会した彼女は姿こそ見違えたが、本質は何も変わっていなかった。辛辣な言葉。むちゃくちゃな要求。仲間を守るためには悪役になることも厭わない精神も。あきれた奴だと叱咤しながらも変わらず信じてくれるその優しさも。
 ……ありがとう。みんな。
 ジンレイは鞘を腰から抜いた。この鞘も姉からの餞別だ。あの時姉が言った言葉の意味を、今ようやく理解出来た気がする。
「なあ。なんでリンファ、俺等に何も言わないで卒業したら街を出てったんだよ。一言でも声掛けてってくれれば良かったのに」
「べ、別に」
「?」
 これにはちょっと意外な反応だ。あのリンファが口籠った。
「あ、あれこれ準備に手間取ってたの。忙しくて忘れただけよ」
「? ふーん?」
 じーっと見つめるジンレイに警戒の目をぎらぎらさせるリンファ。どうやら嘘を吐くのが下手なのも変わっていないようだ。
「な、何よ。いいでしょ。結果的にこうやって帰ってきたんだから」
「まあな」
 真実がどうであれ大したことではない。素朴な疑問の真相解明はひとまず保留としておこう。
 不意に、この面子イチのマイペースボーイがぽんっと手を鳴らした。
「あ、再出発前にみんなに渡しときたい物があるんス」
 キルヤはごそごそと腰に引っ掛けているツールポケットの中を漁った。
「なんだ?」
「全員揃ってからの方がいいかなと思ってずっと持ってたんスけど」
 なかなか目的の物が出ない。手のひらより一回り大きい程度の容量しかないはずだが、こいつは一体他に何を入れているのだろうか。もしかしたらとんでもないものを出すんじゃないかとジンレイが身構えると、出てきた物は機械類でも金属類でもなかった。
「ユリエナからっス」
 それは亜麻色の紐の先に正八面体の石が通されただけの物だった。ネックレスにしてはひどく簡素で、それと呼ぶのもやや抵抗がある。彼は一同の反応にも構わず、一つずつ手渡してくれた。
「これ、光石じゃないの」
 手に取ったリンファが正八面体の石に触れて一驚する。
「五つとも一つの石から作ったんですか?」
「そっスよ。大きな天然石持ってきてくれたっスからね」
「光石って?」
 一人渡された物の正体が掴めないジンレイは、アズミとキルヤの会話に割って問いかける。答えてくれたのは説明上手なアズミだ。
「一番高価な天然石です。女性にすごく人気があるんですよ。それに光石には不思議な力があって、同じ光石の欠片なら少し離れると共鳴するんです」
 こういう風に、と彼女が長い藤色の髪を揺らして駆け出す。ジンレイは十歩程度かと思ったが、意外とその『少し』の距離は長かった。元々声の細いアズミが腹に力を入れて「ね! こうして光るんですよ!」と言ってぎりぎり届くくらいになって、その石は突然みんなの手の中で淡い光を灯した。
「すげ! 光った!」
 アズミは早々に小走りで戻ってくる。その嬉々とした顔は学修院の頃のままだ。
「近すぎたり遠すぎたりすると光らないんですが、光ってる時は音も通じます。魔法具ではないので魔法力も消費しませんし、危ないものではないですよ」
 魔法具であったなら、ジンレイとユリエナが持っていても完全に宝の持ち腐れだ。ユリエナに至っては禁忌を犯す危険性も伴う。だが魔法力に無関係なら本当にちょっと不思議なアクセサリーとして身に付けていればいい。いや、ちょっとどころの不思議ではないが。
「へぇ……。いや、かなりすげぇよ。これいいな!」
 魔法とは無縁のジンレイは当然魔法具に興味などないし、装飾品の類も動き回る時に気になってしまうのであまり好んで身に付けようとはしてこなかった。しかしこれはただのお飾りではない。不思議な性質を持っているものを身に付けるのは心が躍るし、その上に首から下げるだけなら邪魔にもならない。何よりユリエナがくれたものであるということに大きな意味があった。
「最近天然石の相場が上がってるって聞いたんだが……。ユリエナなら自分で荒野を散策して見つけてきたってこともないだろ。相当な買い物だったんじゃないか?」
「その辺は濁されちゃったんスけど。教会の奉仕活動って時々有償なんスよ。その報酬ずっと貯めてたみたいっスから、多分それなんじゃないっスかね」
 自分が汗水流してもらったお金を貯めて、他人のために使ってしまうなんて。
 ――とことんあいつらしいな。
 プレゼントしてくれたユリエナの気持ちは、はっきりとは解らない。でも何を願っているのかはなんとなく解る。みんな学修院で同じ時を過ごした。同じ思い出を持っている。けれどその上でこう、目に見える『同じ』を持っていたい。形ある『同じ』を。
 そうすれば俺達はいつだって繋がっているのだと言えそうな気がするから。
 聞けばユリエナも同じ物を持っていると言う。これがユリエナの願いであり、ユリエナとの繋がりでもあるのだと思うと、僅かにその石の重みが増したように感じられた。
 ジンレイはそれを首にかける。受け止めるように。胸にそっと抱くように。
 そして――。
「俺、ユリエナを助けたい。みんな力を貸してくれ」
 自分に出来る『お返し』を届けに行こう。
「はい!」
「ういっス!」
「ああ」
「任せときなさい」
 ――待ってろよ。今、会いに行くからな。おまえの大好きな、この四人と一緒に。
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