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六章 時が過ぎても変わらないもの
一番強いのは
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煙幕玉と発火弾を利用して大爆発を引き起こした。
煙幕は粉末が散布されることで成り立つ。通常の煙幕では発火したところで爆発現象は起こらないが、五倍の煙が放出されるように改良したキルヤの煙幕玉は当然五倍の粉を含んでいる。空気中に浮遊する粉の密度が一定を超えたところで火を放てば、粉塵爆発を誘発することが出来るのだ。
直前で避難したキルヤも予想以上の爆発に足を飲み込まれかけたが、間一髪で回避できた。靴底が溶けているあたり本当にぎりぎりのタイミングだったが、これなら道化士は逃げる間もなく直撃を受けたことだろう。
しかし、これで終われるとは思っていない。
キルヤは階段に着地すると、すぐさま詠唱を開始した。
「縦一・九七 横一・三二 幅一・五 ――設定――展開――微調整――設置!」
一句一句間違えないよう慎重に、かつ道化士が階段を上ってくるよりも早く。急く気持ちを抑えて着実に魔法を組み立てていく。
足元に出現した緑色の魔法陣は詠唱完了と共にすっと消えた。いや、厳密には消えていない。発光を止めただけで、薄らとだがちゃんとそこに存在している。
それは魔術とも魔導とも系統の異なる、無属性魔法。闇の力も自然界の元素も用いない、物理法則に干渉するだけの至ってシンプルなものだ。魔法というより魔法化したトラップと言った方が的を射ているかもしれない。
「おのれっ…………」
道化士が目前に現れる。爆破の際、真上にいたことが裏目に出たのだろう。キルヤが予想していたよりも随分と爆撃を浴びたようだ。衣服は焼け焦げ、腕や脚から焼けた素肌を晒している。あれほど敏捷さを見せつけてくれただけあって重傷は免れたようだが、曲芸を嗜むような余裕は消え失せているようだった。
「殺すっ……ぶち殺すっ……人形の如く、そちもバラバラにしてやろうぞっ……!」
戦慄が走った。怨色の念を真っ向から浴びて、無意識に足が後ろへ下がろうとする。
だが、ここで逃げてはいけない。キルヤはぐっと腹に力を入れ、殺意の眼差しに耐えた。
道化士はキルヤとの距離を五歩に詰めたところで一度立ち止まり、すっと仕込んでいた短剣を取り出した。キルヤは息を止めて目を凝らす。――失敗すれば二度目はない。
道化士が動いた。彼が魔法陣に踏み込むその一瞬を見計らって、キルヤはがばっと身を引いた。
「発動!!」
トラップ発動。緑色の六面体が出現し、道化士を見事捉える。
攻撃を躱すことに全神経を集中させたキルヤは、格好悪く背中から倒れ込んだ。その体勢のまま、作戦成功に安堵の吐息と歓喜の声を上げる。
「去年試してそれっきりだからどうなることかと思ったっスけど、良かった……」
罠士になった二年前考案し試作段階だったトラップを、去年ようやく理論上でも実践上でも完璧に構築させて完成に漕ぎ着けたのだが、まさかこんなところでお披露目することになるとは人生分からないものだ。
罠にはまったことを悟ると、道化士はますます怨色を深めトラップに短剣を突き立てた。しかし一度捕らえてしまえばもう脅威ではない。
「無理っスよ。これを壊すには最低でも上級魔法か中級以上の式魔じゃないと」
立ち上がり、尻についた埃を軽く払いながらキルヤは言う。
このトラップの創作にはアズミも関わっている。彼女が協力してくれたおかげで、キルヤ一人で試作していた時よりも遥かに高精度な代物に仕上がっている。それこそチロルを呼んで来ないと破壊は不可能だ。
「小癪な罠士がっ……!!」
道化士が目を血走らせて吐き捨てる。
自分を仕留めるために道化士は必ず接近してくる、とキルヤは読んでいた。それは、こちらをいたぶって遊んでいた時に飛ばしていた中距離武器が全て小物であったことと、キルヤに刻んだ深めの傷は例外なく道化士が直接斬り付けたものだということが鍵だった。逆に言えば、道化士は距離を取ったままキルヤを致命傷に追い込むような得物は持っていない。この読みが当たっていれば、攻撃してくるタイミングこそ見極めることが出来たらトラップに誘い込むことも可能――と考えたのだが、どうやら読み通りだったようだ。
無論、道化士が奥の手を隠している可能性は充分にあった。故にこれは賭け。事前に粉塵爆発を起こしたのも、道化士の動きを鈍らせ、思考を単純化させて成功率を高めるために仕掛けた下地だ。
「おっと。オイラはトリックスターっス。今時そんな呼び名、流行らないっスよ」
それはさておき、先刻の暴言に反論すべくキルヤは道化士の正面に立った。
「ジンレイは強いっスよ。そりゃあ魔法はてんでダメっスけど、それを差し引いたって全然引けを取らないっス」
これも、道化士が天井で這い回っていたなら軽く聞き流されていたことだろう。しかしキルヤの策にはまった今、道化士は苦渋を味わいながら彼の言葉を聞き入れざるを得ない。
ジンレイとの約束を果たしたキルヤは堂々と断言する。
「オイラ達の中で一番強いのは、間違いなくジンレイっス!」
煙幕は粉末が散布されることで成り立つ。通常の煙幕では発火したところで爆発現象は起こらないが、五倍の煙が放出されるように改良したキルヤの煙幕玉は当然五倍の粉を含んでいる。空気中に浮遊する粉の密度が一定を超えたところで火を放てば、粉塵爆発を誘発することが出来るのだ。
直前で避難したキルヤも予想以上の爆発に足を飲み込まれかけたが、間一髪で回避できた。靴底が溶けているあたり本当にぎりぎりのタイミングだったが、これなら道化士は逃げる間もなく直撃を受けたことだろう。
しかし、これで終われるとは思っていない。
キルヤは階段に着地すると、すぐさま詠唱を開始した。
「縦一・九七 横一・三二 幅一・五 ――設定――展開――微調整――設置!」
一句一句間違えないよう慎重に、かつ道化士が階段を上ってくるよりも早く。急く気持ちを抑えて着実に魔法を組み立てていく。
足元に出現した緑色の魔法陣は詠唱完了と共にすっと消えた。いや、厳密には消えていない。発光を止めただけで、薄らとだがちゃんとそこに存在している。
それは魔術とも魔導とも系統の異なる、無属性魔法。闇の力も自然界の元素も用いない、物理法則に干渉するだけの至ってシンプルなものだ。魔法というより魔法化したトラップと言った方が的を射ているかもしれない。
「おのれっ…………」
道化士が目前に現れる。爆破の際、真上にいたことが裏目に出たのだろう。キルヤが予想していたよりも随分と爆撃を浴びたようだ。衣服は焼け焦げ、腕や脚から焼けた素肌を晒している。あれほど敏捷さを見せつけてくれただけあって重傷は免れたようだが、曲芸を嗜むような余裕は消え失せているようだった。
「殺すっ……ぶち殺すっ……人形の如く、そちもバラバラにしてやろうぞっ……!」
戦慄が走った。怨色の念を真っ向から浴びて、無意識に足が後ろへ下がろうとする。
だが、ここで逃げてはいけない。キルヤはぐっと腹に力を入れ、殺意の眼差しに耐えた。
道化士はキルヤとの距離を五歩に詰めたところで一度立ち止まり、すっと仕込んでいた短剣を取り出した。キルヤは息を止めて目を凝らす。――失敗すれば二度目はない。
道化士が動いた。彼が魔法陣に踏み込むその一瞬を見計らって、キルヤはがばっと身を引いた。
「発動!!」
トラップ発動。緑色の六面体が出現し、道化士を見事捉える。
攻撃を躱すことに全神経を集中させたキルヤは、格好悪く背中から倒れ込んだ。その体勢のまま、作戦成功に安堵の吐息と歓喜の声を上げる。
「去年試してそれっきりだからどうなることかと思ったっスけど、良かった……」
罠士になった二年前考案し試作段階だったトラップを、去年ようやく理論上でも実践上でも完璧に構築させて完成に漕ぎ着けたのだが、まさかこんなところでお披露目することになるとは人生分からないものだ。
罠にはまったことを悟ると、道化士はますます怨色を深めトラップに短剣を突き立てた。しかし一度捕らえてしまえばもう脅威ではない。
「無理っスよ。これを壊すには最低でも上級魔法か中級以上の式魔じゃないと」
立ち上がり、尻についた埃を軽く払いながらキルヤは言う。
このトラップの創作にはアズミも関わっている。彼女が協力してくれたおかげで、キルヤ一人で試作していた時よりも遥かに高精度な代物に仕上がっている。それこそチロルを呼んで来ないと破壊は不可能だ。
「小癪な罠士がっ……!!」
道化士が目を血走らせて吐き捨てる。
自分を仕留めるために道化士は必ず接近してくる、とキルヤは読んでいた。それは、こちらをいたぶって遊んでいた時に飛ばしていた中距離武器が全て小物であったことと、キルヤに刻んだ深めの傷は例外なく道化士が直接斬り付けたものだということが鍵だった。逆に言えば、道化士は距離を取ったままキルヤを致命傷に追い込むような得物は持っていない。この読みが当たっていれば、攻撃してくるタイミングこそ見極めることが出来たらトラップに誘い込むことも可能――と考えたのだが、どうやら読み通りだったようだ。
無論、道化士が奥の手を隠している可能性は充分にあった。故にこれは賭け。事前に粉塵爆発を起こしたのも、道化士の動きを鈍らせ、思考を単純化させて成功率を高めるために仕掛けた下地だ。
「おっと。オイラはトリックスターっス。今時そんな呼び名、流行らないっスよ」
それはさておき、先刻の暴言に反論すべくキルヤは道化士の正面に立った。
「ジンレイは強いっスよ。そりゃあ魔法はてんでダメっスけど、それを差し引いたって全然引けを取らないっス」
これも、道化士が天井で這い回っていたなら軽く聞き流されていたことだろう。しかしキルヤの策にはまった今、道化士は苦渋を味わいながら彼の言葉を聞き入れざるを得ない。
ジンレイとの約束を果たしたキルヤは堂々と断言する。
「オイラ達の中で一番強いのは、間違いなくジンレイっス!」
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