空の歌(スカイ・ソング)

碧桜 詞帆

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六章 時が過ぎても変わらないもの

共闘

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 一階の通路にて繰り広げられている激闘も、そろそろ終局が近付いていた。
 対峙する二人の動きに粗が混ざり始めたのだ。一歩の後退が二歩と、なり、二振りが一振りとなってしまう。とは言え、この凄まじい攻防戦が既に二時間以上続き、俊敏な身のこなしは未だ陰っていないだけで、彼らの超人さを語るには充分だったが。
 恐らく、当人達は決着の頃合いを察していたのだろう。
 しかしそれを観戦する外野の兵士達にとっては、この戦いの決着がついたのは一瞬だった。
 隊長が回避行動を取ろうとした時、その後退距離を見誤って余計な動作をとった。ワモルがその好機を見逃さず追撃。身を屈めた隊長の喉元に矛先を突きつけて終局した。
「………………」
 隊長は舌打ちして押し黙る。ワモルに王手を掛けられたことよりも、自分のミスに腹を立てているようだった。
「勝負あったな」
 呼吸を整えながらぽつりと告げるワモル。一方隊長も完全に負けを認めてか、床に腰を下ろして乱れた呼吸をひたすら繰り返した。切迫した空気から解放され、兵士達も肩の力が抜けて吐息を漏らす。
 外野が喧騒を取り戻した途端、小刻みな揺れが古城の床を伝った。
「……なんだ?」
 地震のように思われたが、治まる様子はない。それどころか強くなっている――?
「――――何か来る! 全員伏せろっ!!」
 隊長が今までにない張り詰めた声で叫んだ。次の瞬間、通路の壁が崩壊した。いや、突き破られたという方が正しい。侵入して来たのは黒いケモノの集団。それも物凄い数だ。
 ワモルが一つの対象に焦点を絞って追視する。視界に捉えられたのは僅か一秒だが、狼や鹿などに酷似する生物の姿が確認出来た。
「これは……中級悪魔か!?」
「悪魔だぁ!?」 
 他の壁も次々破壊されていく。それらは荒波のように押し寄せ、勢いは壁に衝突しても尚止まらない。このままでは一階フロアが陥落する危険もある。
「中にいたら危険だ! 早く外に出ろ!」
「う、うわぁあああ!」
 避難する途中で悪魔とぶつかった一人の兵士が転倒。それを攻撃行動と取ったのか、衝突した猪の悪魔が牙を剥く。
「――っ!」
 すかさず隊長が走った。間に入り込むことはかなわなかったが、兵士の頭に牙が刺さる寸前で彼は自分の左腕を滑り込ませた。悪魔の犬歯が深く突き刺さる。
「つっ!」
 下手に腕を引くともぎ取られかねない。彼はうすら笑いを浮かべ、悪魔に蹴りをかまして引き剥がした。
「隊長、後ろです!」
 無事遠くに避難した隊士が叫ぶ。
「くそがっ……!」
 攻撃も防御も完全に間に合わない。隊長は振り向いて身を強張らせた。――が、その刹那。 
 覆いかぶさるように襲ってきた数体の悪魔を槍舞が一掃した。
 まさかワモルに助けられると思っていなかった隊長は目を見開く。
「自分から噛まれに行くなんてな」
「だから何だよ。損得の問題じゃねぇだろ」
 鮮血を滴らせる腕に布を巻き付けながら隊長が言う。
「隊長ぉ……」
「おお、この借りは高いぞ。生きてきっちり返せな」
 悪魔達の大暴走がひとまず静まり、兵士が全員外に出たことを確認すると、隊長は声を張り上げて撃退命令を飛ばした。兵士達がそれに力強く応える。
「疲れただろ? 後ろで休んでてもいいぜ?」
「怪我人に言われたくないな」
「なんだ。結構付き合いイイじゃん」
 嬉しそうに白い歯を見せる隊長。無愛想なワモルも僅かに口角が上がる。
「そういう考え方、嫌いじゃないからな」
 自分が傷付くことを厭わない。そんな強さを、ワモルも彼女から教えてもらった。
 二人はどちらからともなく背中を合わせ、再び武器を取った。
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