未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由

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エピソード5:予期せぬ交錯、二つの想い Ver.7

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清風学園から電車とバスを乗り継ぎ、彩奈と結花は、あの盾形の刺繍が特徴的な制服の高校――陽光学園にたどり着いた。
想像以上に広大な敷地に、重厚な校舎がそびえ立つ。
壁には、見慣れない盾形の校章が誇らしげに掲げられている。

「わぁ…!ここが陽光学園か~!なんか、うちの学校と全然違うね!」

彩奈が思わず感嘆の声を漏らした。
目の前の厳重な門を見て、二人は立ち止まる。

「すごいね…。でも、これじゃ、中に入るわけにはいかないかぁ。どうしよう…」

結花が困ったように眉を下げた。
正門には警備員らしき男性が立っており、生徒以外の立ち入りを厳しくチェックしているようだ。

二人が途方に暮れていると、その時、彩奈のスクールバッグに入れていた未来スコープが、スマートフォンが震えるような微かな振動を始めた。
彩奈は慌ててバッグから取り出す。
レンズが淡く光り、視界いっぱいに緑色の文字が広がる。

『課題:猫を探せ!』

「えっ!? 猫っ!? 猫っ!? ええっ!? 何? いったいどういうこと!?」

彩奈は激しく動揺し、半ば叫ぶように声を上げた。

「結花! 次の課題、猫を探せってっ!」

彩奈から未来スコープを受け取った結花は、冷静な顔で文字を読み上げる。

「猫?ん~猫、猫…。ひったくり犯の次は猫、ねえ~。ん~ちょっと待ってね、考察するから…」

結花が腕を組み、考え込む仕草を見せた。
彩奈はそんな結花に焦りの声を上げる。

「ちょっと、結花! 今、考察なんてしてる場合じゃないよ! 
意味不明だけど、とにかく課題が出たんだから、まずは、猫探そうよ!」

彩奈に促され、結花は「そっか、そうだね!」と笑顔で頷いた。

「分かった! じゃあ手分けしよう、彩奈!」
「うん! じゃあ、私はこっちを探すから、結花はあっちお願い!」

彩奈はそう言うと、校舎の裏手へと回り込んだ。
結花は校舎の周囲を大きく迂回する方へと歩き出した。
彩奈は校舎の壁沿いを、木々や植え込みの陰を覗き込みながら、猫を探し始めた。

しばらく校舎の周りを捜索した。
日差しが傾き始めた頃、彩奈は校舎の裏手に続く、ひとけのない小道で、一匹の猫を見つけた。
毛並みの良い、どこか気品を感じさせる三毛猫だった。
その瞳は、彩奈をじっと見つめている。

「あ! あの時の猫だっ! あ、待って!」

彩奈が声を上げると、猫はひらりと身を翻し、校舎の裏手にある小さな通用口へと駆け込んだ。
その通用口は、古びた木製で、鍵が掛かっていないのか、猫は軽々とその隙間からすり抜けていく。彩奈は迷うことなく、猫の後を追って、その通用口から陽光学園の敷地内へと足を踏み入れた。

敷地内に入ると、猫の姿を見失ってしまった。
(どこ行っちゃったんだろう…)
 「猫さん~ニャーニャー」

彩奈は息を切らせながら、植え込みの陰を覗き、建物と建物の隙間を覗き込む。校舎と体育館の間の通路だろうか、人気のない空間は静まり返っている。
ウロウロと猫の姿を探し、角を曲がろうとしたその瞬間、足元に小石があってバランスを崩した。

「きゃっ!」

転びそうになった彩奈の腕を、すかさず別の手が掴んだ。

「大丈夫ですか!?」

見上げると、そこには陽光学園の制服を着たショートヘアの女子生徒が立っていた。
彩奈は慌てて体制を立て直した。

その女子生徒と彩奈の視線が交差した。
彩奈の胸に、かつてないほどのざわめきが起こる。
未来スコープの映像で見た、あの彼の隣で笑う少女が、今、目の前にいた。

美咲「あ、夢の子の…」
彩奈「あ、映像の子…」

二人の声が、驚きと混乱とともに同時に重なった。

美咲「えっ、映像の…?」
彩奈「えっ、夢の…?」
再び、言葉が重なる。
彩奈 美咲「えっと、あの…」

三度重なり、ショートヘアの女子生徒がふっと小さく微笑んだ。

美咲「どうぞ」
彩奈「あ、あの…私、清風学園の月島彩奈と言います…」 
美咲「私、陽光学園の桜井美咲です。えっと…」
彩奈「あ、はい!知ってます!あ、いえっあの・・えっと…あの、突然こんなことを言っても、信じてもらえないかもしれないんですけど…私、未来が見える不思議な道具を持っていて、それであなたのことも見て知っていたんです!」
美咲「はい!信じますよ!私も、あなたのこと知ってますから・・」
彩奈「えっ?」

彩奈は目を見開いた。

彩奈「えっ、えっと、どういうこと・・ですか?」 
美咲「夢でね、あなたが出てきたの。あ、いえ、出てきたって聞いたの」
彩奈「夢?聞いた?」 
美咲「うん、夢。彼が見たの」 

美咲は、彩奈の目を見て、わずかに唇を震わせた。
 
美咲「あなたは道具で彼と私を見た。彼は夢であなたを見た」
彩奈「その人も私のことを知ってるの?」 
美咲「知ってるどころか、探してるわ」 

美咲は、ふっと自嘲するように笑った。
その目に、みるみるうちに涙が滲んでいく。

美咲「あなたのその道具と彼の夢は繋がってるみたいだから」
美咲「私ね。彼のことが好きなの。でも駄目だって分かってる。分かってるけど、、、」

美咲の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
彩奈は、その場に立ち尽くすことしかできない。
目の前の美咲が、自分と同じ人を想い、そして傷ついている。
その事実に、彩奈の胸が締め付けられた。

彩奈「ごめんなさい。わたし、なんにも知らなくて、、彼の名前さえも、、」

美咲は、涙を拭いもせず、それでも彩奈を真っ直ぐ見つめた。

美咲「うん。彼に会いなよ。まだ校舎内にいると思うわ。きっと全てが分かると思うわ」 
彩奈「桜井さん・・・」 
彩奈「あ、えっと、あの、その人はどこに、、」 
美咲「もう!それくらい自分で探してよね!」
彩奈「あ、ごめんなさい」 
美咲「もう!もうめっちゃ近くなんじゃないの!」 
彩奈「あ、ごめんなさい」 
美咲「もう!何度も謝らないで!」
彩奈「あ、ごめんなさい」 
美咲「もう!あははは」
彩奈「あははは」

二人の間に、悲しみと、諦めと、そして僅かな笑いが混じり合った、複雑な空気が流れる。

その時だった。
彩奈の足元から、ひょっこりとあの三毛猫が顔を出し、にゃあと短く鳴いた。
猫は、美咲と彩奈の顔を交互に見上げてから、くるりと身を翻し、再び校舎の奥へと走り去る。

「あ…猫さん…!あ、待って!」

彩奈は思わず声を上げ、猫の姿を追うように走り出した。
美咲に、何か言葉をかける間もなく。

彩奈が走り去った直後、桜井美咲は、その場に一人立ち尽くしていた。
心の中は、嵐のように感情が渦巻いている。
一条悟への一途な想い、そして、今、目の前で現実となった夢の女の子の存在。
一条悟の言葉を信じて、ずっと心の中で抱き続けてきた希望が、音を立てて崩れ落ちた。

美咲は、震える手で目元を拭った。
一条悟への想いは、彼女の心に深く根を張っていた。
今、彩奈を応援すると口にしたものの、このまま彼の前から立ち去ることは、どうしてもできなかった。

美咲の胸に、最後の、そして切ない決意が生まれた。

その時、敷地内の通用門の方から、一人の男子生徒が歩いてきた。
一条悟だ。

「桜井さん?どうしたの?こんなところで」

悟の優しい声が、美咲の胸に響く。
美咲は、その声を聞いた瞬間、居ても立っても居られなくなった。
もう、後には引けない。

「悟くん…!」
「私…悟くんのことが、好きです。ずっと、そばにいたい。
ずっと、あなたのことを、一番近くで支えていきたいと思っていました」
「桜井さん…。ありがとう。気持ち、嬉しいよ」
「でも、ごめん。僕には、夢に出てくる、探したい相手がいるんだ。だから、桜井さんの気持ちには、応えられない」

悟の言葉は、まるで研ぎ澄まされた刃のように、美咲の心を切り裂いた。
わかっていた。分かっていたはずなのに、彼の口から直接告げられると、これほどまでに痛いのか。
美咲は、涙が溢れてくるのを必死で堪えた。

「そっか…。そうだよね…。分かってた、けど…」

美咲は、無理に笑顔を作ろうとしたが、唇が震えてうまくいかない。
悟は、そんな美咲の様子に、申し訳なさそうに眉を下げた。

「本当にごめん。桜井さんは、素敵な人だよ」
悟のその言葉が、美咲の心をさらに締め付けた。

「…ううん。私こそ、ごめんなさい。変なこと言っちゃって」 
「…ううん。僕こそ、」
 「探してるんでしょ!その子」 
「あ、うん。なんか今日会える気がしたんだ・・・」 
「もう!もうめっちゃ近くなんじゃないの!」
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