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2.新居からの新生活

53.屋上へロッククライム

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 忍びの者たちは、ドアにぶち当てたベッドを、今度は倒してドアに押し当てる。

「あ!」

 枕の下に隠していたボクの携帯端末機が、がががっ!

 壁に当たって落ち、ベッドの下敷きになってしまったぁあああっ!

 それはまあ仕方ないか。仕方ない……。

 また、あつらえればいいけど……。そう思って、ベッドサイドのコンビニ袋をつかんだ。

 これには、汚れものが入っている。これだけは死守しなければ。

「向かいの護衛も起こさないと──」
「間に合いません。さあ、窓へ」

 マキナに護衛の事を言うが、一人目のくノ一さんが、ダメだと進言している。仮にくノ一Nさんとしよう。

 もう一人はベッドを倒したあと、えられたテーブルを引きってきて、ベッドに立て掛けている。

 その人は、仮にくノ一Hさんとしよう。

 なりきりジュリ(仮)は服を着終えた。ジャラジャラ着いた黒いかわの服だ。

 テーブルを重ねたくノ一Hが、窓へ移動、カーテンをいでいる。

「あいつらなら、さわぎで起きてくるだろうが、相手が悪いかもしれない」

 暴動ぼうどうまでは男性警護士は対応していないからぞくたちには抵抗できないだろうとマキナが補足ほそくする。

 まあ、そうか。こちらの病室はバリケードでドアをふさいじゃったし。

 くノ一Nが、ボク含めマキナを押して窓へ急ぐ。メイはそれに付いてくる。

 くノ一Hは窓を開け、格子こうし倒して……脚力ハンパないな。

 格子がゆがんだ窓から身を乗り出すと、上に向かって何か投げた。

 まだ、格子は建物から半分ぶら下がっている。

 ちょっと、待ってよ。下りるんじゃなく上がるの?

 窓枠まどわくに取り付いて下を見たらライトでこちらを照らされた。

 数人の人がこちらを見て何か言ってる。

 下はダメなのか、納得。だからって上に行っても逃げられなくない?

 そんな益体やくたいもない事を考えてる間に、投げたヒモにすがり病院の壁に足を突いて登っていく、くノ一Nさん。

 あんた、ロッククライマー? ボルダラーかよ!

 そんな真似まね、ボクはできませんよ?

 って尻込みしてたら、後ろのドアの辺りがさわがしくなっている。

 護衛の二人が応戦してるのか? 喧騒けんそうは、すれどドアをこじ開けようとはしていない。

 ドアの方に気を取られていたら「失礼」といってくノ一Hがボクと抱き合うようかかえる。

「しっかりつかまって」

 そう注意して、ベルトか帯でボクを彼女にわえる。マキナが、渋面じゅうめんにらんでるよ。

 覚悟かくごも決まらぬ間に、彼女がボクごと窓枠を乗り越える。

「ヒャッ!」っと嘆息たんそくすると、がっちりあしを彼女の腰にからめて抱き着いた。

 ギリッと音が聴こえた方をちらっと見たらマキナが歯みして般若はんにゃ形相ぎょうそうをしてる。

 だって、しょうがないじゃない。パジャマだとゆるゆるで並みのつかまりかたじゃ落ちちゃうよ?

「ん! ん~‼」と、無念のうめきがれた。

 しがみ着いたいきおいでコンビニ袋が……やぶれて、その中身がぶちけられる。

 あのお高かったティッシュと共にボクの肌着が、がががっ! なんてもろい……。

 どこかに引っかけたか袋がけてしまった。やわすぎるだろ! コンビニ袋。

 月明かりに照らされボクの肌着が、汚れものが……夜闇よやみの中へ消えて行く。

 誰に見付けられず、とも言わないが見付けた人には、ゴミとして処理される事を望む。


 彼女──くノ一Hさんは、ステップをむように壁を登り始める。

「ちょちょちょっと~!」と、抗議こうぎを口にしたいけど奥歯に力が入って言葉が出ない。

 高いところに上がったことは余りない。上がってみたいと思いはしたけど、こんなのは願い下げだ。

 いや応なく、初のちゅうぶらりんを体験している内、「はい、到着」っと、あっと言う間にそれは終わった。

「はあ~~あああっ~」

 そうして一瞬で上がって屋上の床に足を着けると、長いため息が出た。

 にしても、このくノ一Hさんの声、どこかで聴いたような気がする。

『……✕✕……✕✕!』

 屋上に上がると、下の暴徒たちが何か騒いでる。

 不双ふそうの言葉じゃないな? やっぱり留学生アンナさん関係の騒動なのか?

 その内、メイがジュリのように自力で壁をよじ登ってくる。

 メイにくノ一Nは待てと言ってたが、すごいな。

「おい、いい加減キョウを解放しろ!」
「すみません」

 くノ一Hに苦情をいうマキナ。

 身体を結わえていたベルトを外して放されたボクは、今度はマキナに抱えられる。

 だから、ボクは抱き枕でも、ぬいぐるみでも(略。

 マキナから解放されると床につくばる。ちょっと脚に力入らない。

「これを」

 皆が屋上に上がって、ロープを回収したくノ一Nは、こちらの集まりに寄ってくると、腰の後ろの袋から取り出した棒っきれをマキナに渡す。

「トンファーか」

 受け取ったマキナは分かったらしい。武術道具?

 よじ登ったメイが、屋上のふちで息を切らしている。

「よく登れたね?」
「このくらい造作ぞうさもない」

 その割りにはつらそう。ジュリを真似まねた決めポーズに切れがない。

 まあ、室内警備じゃ体を動かしてないだろうしね?

 ボクも内股うちまたになりひざがプルプルしていて、人のこと言えないけどね。

 後ろでヒュンヒュンと音がして、そちらに目を向けるとマキナがトンファーを振っていた。

 そんなもの使わないで居られたらいいんだけど……。

 くノ一の二人は周囲を警戒しながら携帯で連絡している?

 下にはこちらを見つめ続ける人々。こんな状態で一体どうやって逃げるんだ。

 下の部屋の騒音が聴こえてくる。バリケードも破られて部屋に入ってきただろう。

 護衛の二人は無事だろうか?

 ボクが目的らしいから、そちらには危害は加えられないと思うけど……。

 下の連中の声で「上に逃げた」と分かったのだろう。

 階下の窓から叫ぶ声がする。たぶん「上だ」とか言っている。

 万事ばんじ休す! くノ一さん、どうするのよ。


 皆の様子をながめていたら、屋上の反対側から屋上へ上がってくる人影が見えた。

 月明かりの下、黒ずくめの姿で護衛の二人だと見える。無事だったのね?

 逆に彼女たちとしか判断はんだんできないから今回は良かったけど、黒い服はやめないか?
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