妄想日記8<<FLOWERS>>

Chapter11(誤算編)

Chapter11-⑧【あと少し あと少し】

「皮が膨れ、水脹れとなりました。
ペニスは異形となったのです。
普通の者なら忌み嫌うでしょ。
しかし私はその唯一無二となった存在に廃退美を見出しました。
使えば使う程、異形は際立ちます。
私は止める事が出来ませんでした。」
ショーンが股間の生地を脇にずらす。
下から黒いケージが現れた。
「モデルの仕事をしてるので、今はこれで封印しています。
もう一度聞きます。
それでも試してみますか？」
「はい、後悔はしません。」
「ではこのまま続けましょう。」
ショーンが二缶目に口を付ける。
聞きたい事があるが躊躇われた。
シリンダの中に水滴が溜まり、曇り出す。
シリンダを外したら、少しはショーンに近付けるだろうか？
同じ景色を見れるだろうか？
「冷たいのをどうぞ。」
水滴が付いた缶を見て、口を開く。
「いつ封印を解くのですか？」
「そうですね…。
同じ美意識を持った人と、巡り会った時です。」
流れ落ちた水滴が合体し、大きくなってテーブルを濡らした。

子供の頃、たとえ負けると分かっていても、頬を張って向かって行った。
それが大人になり、試合前に逃亡する様になっていたのだ。
逃亡理由を見付ける事で憤慨しながらも、納得していた。
負け試合なら、参加しない方が増しと、自分に言い聞かす。
ショーンが呪縛を解いてくれた。
行動を起こす事の大切さを教えてくれたのだ。
ショーンには隠し事なく、本心で語り合える。
それはオーナーと従業員の関係になっても変わらない。
ずっとショーンは支えてくれた。
いや、導いてくれたと言った方が正しいかもしれない。
店を譲るなら、ショーン以外にいない。
だが一介の従業員がオーナーになったら、他の幹部は付いてこない。
その為、理が非でも幹部になってもらう必要がある。

計画は順調だった。
リヒトさえ手懐けてしまえば、店は安泰だ。
計画が漏れているとしか、考えられない。
幹部昇格者はショーンでなければならない。
五年連続でトップになれば、必然的にそうなる。
そうすれば煩わしい部外者を黙らせる事が可能だ。
その後、後釜にリヒトを据え置く。
シナリオは完璧だった。
いつ綻びが生じたのか？
「後、一回。」
一昨日、店に行った時の会話を思い出す。
一番漏らしそうな女だ。
「今年のトップはショーンで決まりか？
だったら幹部への昇格を準備しないとな。」
「それが…、まだ確定とはいかないのです。」
「ぶっちぎりかと思っていたが、ミッシェルが頑張っているんだな。」
「いえ、ミッシェルさんではなく、その後継者のソラさんが現在のトップです。」
「えっ、ショーンが二位？」
「いえ、三位です。
二位はショーンさんの後継者のヒュウガさんです。」
葵の説明が理解出来ない。

ショーンが幹部へ昇格後、馴染み客を後継者へ引き継ぐと聞いていた。 
現役のまま客を引き継いだら、ポイントが分散してしまう。
「何を考えているんだ！」
思わず声を荒げてしまう。
ミッシェルは油断のならない男だ。
もし奴が幹部へなったら、店の方針は大きく変わってしまう。
高級感は失せ、SPQR路線へシフトしていく筈だ。
それは口の軽い客へサービスする事になり、店の破滅を意味する。
リーズナブルなジムの展開もミッシェルが率先して行った。
裏で他の幹部を手懐けていたのだ。

(つづく)