妄想日記3<<RISING>>

Chapter5(Pleasure&Pain編)

Chapter5-⑭【DNA】

昨夜、開けられた穴に指が達したからだ。
「せ、先輩…、これ着てベンチのサポートしてるんすか？
これで会員を挑発してるんすか？
先輩って、どんだけ淫乱なんだよ！」
強引に指を捩込んできた。
「い、いや、これは、無理矢理…。
ああっ…。」
言い訳は呻き声に飲み込まれる。
意識は南の島を求めているのに、肉体は尻を突き出させた。
「ゴホン！」
咳払いが二人の動きを止める。
ドアに苦々しい表情の岩佐が立っていた。
タカユキは慌てふためき、ムサシから離れる。
「近い内にまた戻って来るんで、飯でも食いましょう。
じゃあ！」
気まずいムサシはサングラスをすると、そそくさと出て行った。
 
「プールの片付け、終わったんですね。
いつもありがとうございます。」
岩佐はムサシの事には触れず、伝票の整理を始めた。
タカユキは逃げる様にロッカー室で籠る。
独りになると、再び潮騒が戻って来た。
右手が大胸筋へ向かう。
ジッパーを下げ、掌を滑り込ませる。
力を入れ、掴んでみた。
「ああっ…。」
思わず声が出る。
視線を上げると、鏡の中に淫らな男がいた。
自らの大胸筋を掴み、片手でアナルを弄る。
白いウェアからは肉棒が透けてみえた。
この淫乱な男が自分だとは到底信じられない。
 
タカユキには5才年の離れた兄がいた。
兄もゲイだったが、自由奔放な生活を送っている。
他人の視線など一切顧みない。
少し前までサラリーマンだったタカユキは、ゲイである事をひたすら隠して生きてき
た。
自分は無節操な兄とは違う。
ゲイ丸出しの格好で街を闊歩する兄を疎ましく思い続けていた。
それが今、兄以上に淫らな格好を甘受し、欲情すらしている。
自身の変貌に驚嘆し、歯痒さを感じずにはいられない。
自分専用のロッカーを開ける。
バッグを引っ張り出し、中から巨大なディルドを取り出す。
以前、勤務日に射精した事が露見して、罰として挿入させられた物だ。
鏡に向かって尻を突き出す。
ウェアの切れ目が菱形に広がっている。
その穴にディルドを宛がい、押し込んだ。
あれ程の苦痛を伴ったサイズが、いとも簡単に入って行く。
その変化にタカユキ自身が一番驚いた。
 
パソコンのディスプレイを見詰める岩佐がニヤリと笑う。
画面は四分割されていて、その一つにロッカールームが映っていた。
ロッカーの映像にカーソルを移動させ、ダブルクリックする。
画面いっぱいにロッカールームが映し出された。
アナニーに耽るタカユキはカメラの存在に全く気付いていない。
タカユキの豹変振りに満足げに微笑む。
「面接の時の生真面目な青年が、こんなに化けるとは。
この分ならサムイ島での営業は成功間違いない。」
ほくそ笑む岩佐は画面の下の赤いボタンをクリックする。
ディスプレイに『REC』の文字が点滅した。
 
タカユキは込み上げてくる渇望に抗え切れない。
こんな気分は初めてだ。
絶えず身体の片隅に性欲を感じる。
ここで働くようになり、人に見られる快感を覚えた。
ディルドでなく、生身のペニスで掘られる方が何倍も快楽が得られる。
それを知ってしまい、ディルドは相手を挑発する為のトレーニング器具となった。
そこに苦痛が加わると、快楽は何十倍も増幅する。
方程式は快楽と苦痛が比例すると示していた。
南の島でケンゴに抱かれ、掘られている姿を妄想する。
ロッカーの向こうで、扉の開く音がした。
慌てて、ディルドをウェアの中に押し込む。
『掘られたい！掘られたい！！掘られたい！！！』
 
「プールをレンタル会社に返して来ます。
駐車場まで手伝って貰えますか？」
岩佐が顔を出した。
「なら、ジャージに着替えるんで、ちょっと待って下さい。」
自分のロッカーの前に立つ。
「後30分で過金されてしまうので、そのままの恰好で構いません。
急いで下さい。」
時計を見た岩佐が急かす。
「は、はい！」
真に受け、穴開きウェア姿のまま、萎んだプールを担ぐ。
乾き切ってない滴がシングレットを濡らす。
エレベーターを開けて、岩佐が待っていた。
タカユキが飛び乗ると、ドアがガタンと閉まる。
等身大の鏡に半裸の男が映っていた。
ウェアは殆ど透け、全裸と言っても過言でない。
こんな恰好で外に出ている事に目眩を覚える。
それは真夏の強烈な陽射しを浴びて、立ち眩むのに似ていた。
 
 
（完）