21グラムの劇場-another story/L*a*b*

Gateau

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無情園

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最初そこは、廃墟に見えた。
剥がれた塗装、崩れたレンガ、蜘蛛の巣が張った暖炉。
私が売られた先は、奴隷商でも人身売買でも遊郭でもなく、既に忘れ去られた館だった。
"無情園"
そういう名前だと、館の主は言った。
主は続けて言った。
「私は心操の魔女。人形に息を吹き込むこと、それが
私の存在意義。貴方の皮には興味ない。中身を頂戴。」
つまり、私は人形の生け贄になるために買われたらしい。買われた身な以上、私に抵抗権はなかった。
主は、一体の人形を私の前に持ってきた。
「可愛いでしょう...初めて形に出来た器なの。」
主は愛おしそうに人形の輪郭をなぞった。
人形は私の胸くらいまである大きさで、艶やかな髪、薄く紅潮した頬、黒く濡れた睫毛は今にも瞬きしそうで、まるで死んだ人間の様だった。
「さぁ...始めましょうか...」
主は私の顔を両手で挟んで、じっと目を覗き込んだ。
途端、主の表情が曇った。
「あら、貴方...。もう死んでるわ。」
不意に漏らした言葉。
死んでる。
「感情も欲ない、中身が空っぽ...。これは、不良品を掴まされたかしら...?」
感情が、ない。
そうね。確かに私には感情がない。
...あら?
そうだったかしら?
あの感情、あの時強く思ったのは、
「...?」
主が不可解そうに眉を寄せた。
そうだ。私には感情がないかもしれない。
ただ1つを除いて。
「醜い。復讐心かしら。」
主はイライラと呟いた。
「どちらにせよ不良品だわ。復讐心なんて憎い中身、この子には必要ない。」
「待って」
私は主に声をかけた
主は不機嫌そうにこちら顔を向けた。
「その人形には中身が必要なのかしら?それ、協力できるつてがありましてよ。」
主は面白くなさそうではあったが、話は聞いてくれる様だった。
「私の知る限りの善人で、気高く花のある人物がいるの。私は、その人を殺したいわ。...だから、まだ生かしてくれないかしら。」
私の中で煌々と沸き立つ唯一の感情。
私が殺したい人物、彼女。
「...それで。私にはどんな利益があるのかしら。」
「私が彼女を殺せたら、彼女の中身をあげる。」
主は不機嫌そうにしていた顔を緩めた。どうやら興味を引いたらしい。
「...暇潰しになりそうね」
「協力してくれるかしら。」
「あら、巻き込まないで頂戴、面倒だもの。貴方を生かして眺めるだけよ。貴方が折れるのも、彼女が殺されるのも余興ですもの。」
主はクスクスと笑った。
そう...それでもいいわ。
私は彼女を売ることに決めた。
私がされた様に。
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