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寿里~kotori ~

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凛と久世と薬指

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久世たちのバンド「薬指」が存在するので忘れがちだがK成には普通に軽音楽部がある。

しかし、自由すぎる校風なので個別にバンドを結成して活動してもOKなのだ。

お陰で本当の軽音楽部は存在感空気であった。

本来なら正式な部活動である軽音楽部の面々が久世率いる薬指を敵視するがそれはない。

音楽家の息子である久世の才能の前では軽音楽部は勝負にならないのだ。
そもそも軽音楽部の面々は穏やかで争いも嫌いで気のいい連中である。

彼らは久世たちのロックバンドとは違う路線で活動していた。

軽音楽ミュージカル部と勝手に部活動の方向性を変えて楽しく活動している。

演劇部はあるがミュージカル部は存在しないので学園側もノータッチであった。

このカオスな軽音楽ミュージカル部と久世たちの薬指は協力関係である。

工藤斗真は母ちゃんの影響でミュージカルに詳しい。

そして、何より中等部でも突出して顔面偏差値が高水準な面子が薬指に集結している。

白珠旅人は高確率でヒロイン役のオファーを受けている。

白珠をヒロインにするなら絶対に相手役を設楽にする必要が出てくる。

もう、主演クラスを薬指にしたら軽音楽ミュージカル部のアイデンティティはブレブレと思うが誰も異議を唱えない。

久世にも誘いがありそうだが彼はバンドのボーカルとしてしか歌わない。

何故かと凛は疑問だった。

兄が俳優なのだから素質はあるはずだ。

その答えを久世は直々に教えてくれた。

「俺、歌声で人を操れるから」

だから、ミュージカルで迂闊に「死ね」とかの歌詞を歌うとヤバいらしい。

どっかのマンガのキャラに確実にいる能力だが久世は嘘を言ってはいない。

実際に久世の歌を耳にした者が操られるように自殺未遂したことがある。

相手の気持ちを操る歌詞で久世は人を破滅させることができるのだ。

だからバンドメンバーの演奏がない場では歌声を滅多に披露しない。

あのバンドメンバーはイカれてるが久世の恐ろしい歌声を中和することが可能なのだ。

中和しても失神者が出たり、大泣きしたり、大変だが被害が軽いのは薬指のメンバーがそれぞれ久世の力を抑えてるからなのである。

たしかに音楽の授業で歌のテストの時は設楽がピアノ伴奏している。

あれは普通の音楽教師だと久世の歌声の威力を防げないせいだった。

よく分からんが薬指メンバーにはそれぞれに不思議な力があるらしい。

凛の推測では久世の歌声に魔力があるのは本当だが設楽たちがカバーできるのは単に能力云々より信頼ではないかと思う。

久世は学園のアイドルだが極端に友達を選んでいる。

可愛いので上級生にチヤホヤされるが久世が気を許して接しているのは同じ中等部2年の数名だけだ。

まず、親友でセフレの常磐辰希である。

久世は彼を特別に大切にしている。

そして、常磐は久世の歌声を直に聴いても平気だった。

そして、バンドメンバーの3名がいる。

彼らも久世の生歌で破滅するほどやわではない。

白珠は久世には頭が上がらない。

でも、久世は白珠の不遜で明るい性格が嫌いではないようだ。

設楽に対して久世は呆れを越えて少し尊敬している。
お互いにピアノも得意で作詞作曲を協力して行っている。

魔女っ子の工藤の存在は久世も安心するらしい。

やはり、クセの強い自分や白珠、設楽のみではバンドは成り立たないと認めている。

以上の彼らは久世が無条件に気を許す存在である。

例外は同級生の多々良和希で彼と久世は不思議な協力関係のようだ。

この多々良は凛としては相当に怪しいが近衛十六夜の件では久世と秘密を共有している。

近衛十六夜は久世いわく厄介な忘れ形見という。

近衛家は久世の実家の遠縁であった。

十六夜は近衛家に預かりの身の上で客分待遇とのこと。

本来なら久世の家で面倒みる必要があるが家庭環境を考えると難しい。

なので久世の親が手配して近衛家に預けた。

「つまり、近衛先輩と久世は親戚なの?」

凛の言葉に久世は苦い顔をしている。

「そうなる。彼は訳ありで扱いに困る」

久世ほどの鬼畜が扱いに困る近衛十六夜とは何者なのか。

気になるが現段階では久世は話そうとしない。

多々良との密約も気になる。

だが、話題を変えて凛は今日の軽音楽ミュージカルの定期公演の話を出した。

「久世は観に行かないのか?白珠が白雪姫だろ?」

「観なくてもオチが分かるから別に」

「ああ……何となく、女王が白雪姫殺害を企てる前に白雪姫が王子を誘惑して毒ガスで女王殺してハッピーエンドな結末とかありそう」

凛は配役が白雪姫が白珠で王子が設楽なので冗談で言ったが久世は大きな瞳を瞬いている。

小人7名、暗殺者1名、毒リンゴなしで完結できる白雪姫なんて実際はないと思っていた。

そもそも、それだと、単なる継母殺人事件である。

凛が冗談だと言う前に久世が珍しく微笑んだ。

「加藤ってわりと賢いな。多分、そんなオチで開演して5分で終わる」

「前のシンデレラも設楽が冒頭でガラスの靴を持ってきて終わりだったから。軽音楽ミュージカルも観客もよく怒らないよね?」

「白珠が女装してたらOKな舞台だからいいんだよ。あと、設楽の台本ガン無視のアドリブというテロ行為がツボだし」

そんなことを凛と久世が喋っていたら公演がマジで終わった。

観客となった生徒は大満足している。

「白珠姫が継母女王の食事に毒リンゴ混ぜて保険金を設楽王子と奪うとこが面白かったな!」

「今度はリトルマーメイドやるから絶対観に行こうぜ!!」

少し凛の予想は外れたが結局は継母保険金殺人事件であった。

おとぎ話は根本が残酷と勉強したが白珠と設楽の脚色は残酷というか卑劣である。

まだ、継母女王が鏡に質問前から保険金殺人らしいので教訓とかロマンスとか関係なく単なる犯罪劇だ。

リトルマーメイドがどう脚色されるが一周回って楽しみになった。

凛の予想では絶対に人魚姫は泡にならない。

むしろ、様々なリスク背負って陸にあがらない。

大方、王子が船から進んで人魚姫向かって飛び込んで終わりである。

久世に話したら彼も似たようなオチだと笑った。

怖くて近寄りがたい久世とこんなに仲良く会話できるなんて凛には驚きだった。

案外、親しめる奴かもと思ったところで最短の公演を終えた白珠と設楽、斗真が常磐と戻っていた。

「お疲れ。好評みたいだな」

久世が声を掛けると白珠が笑った。

「今度のリトルマーメイドは少しひねるぞ!」

これ以上、原作をひねったら複雑骨折すると凛は思ったが口に出さなかった。

リトルマーメイド……人魚姫は王子に惚れた人魚姫だが溺死寸前の王子を助けて陸にあがったのに棚ぼた女に王子をとられる。

どう、ひねるのか気になっていると設楽が簡潔に答えた。

「人魚姫って魚肉食べると不老不死だろ?最初の船の段階で半魚人を投網で乱獲して王子がぼろ儲けして普通の人間の姫様と結婚にする。やっぱ、魚肉と結婚は厳しい」

それ、単なる人魚乱獲やんけ!

設楽、お前は鬼か!?

リトルマーメイドのタイトルの意味が全く関係なくなる!

久世と凛は想定外すぎて爆笑した。

そして、極めつけに普段は無口な常磐が提案した。

「その台本ならモブの人魚姫の名前はアリエールはやめてニュービーズがいいと思う」

至極真面目な常磐の意見に設楽は頷いた。

「じゃあ、ニュービーズ役は軽音楽ミュージカルの奴にして人間の姫は旅人で名前はなにがいい?」

突然、設楽が凛にふってきたので自宅の洗濯機を思い返した。

「レノアとかどう?うちで使ってる」

「いいな!じゃあ、旅人はレノアで」

いろんな方面から怒られそうな脚色だがK成ではOK牧場である。

ラストに斗真がアリエール改めてニュービーズをどう調理するかで話は終わった。

「多分、生臭いからフィッシュ&チップスがいいよ!揚げ物とポテトには勝たん」

こうして、軽音楽ミュージカルと薬指メンバーの合同公演「リトルマーメイド」の献立はフィッシュ&チップスに決定した。

人魚姫乱獲の段階で設楽は王子というより海賊か犯罪者である。

そして、白珠が演じた人間の姫、レノアはニュービーズの髪の毛はちゃっかりパクって魔女に賄賂してるクズヒロインで大好評を博したという。

end






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