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寿里~kotori ~

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姫と騎士の冒険と凛

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いよいよ学園祭の当日である。

凛の心は緊張とは離れて、とても凪いでいた。

それは、たくさん稽古したから大丈夫という自信でなく、自分がどう頑張っても演目自体が問題作で怒られるという諦念である。

あらすじは割愛するがラストはSM倶楽部であって、いくら自由なK成学園でも絶対に叩かれる。

学園祭はマスコミも多数取材に来るので凛にとっては処刑寸前の状態だ。

だが、凛の予想に反して軽音楽ミュージカル部の公演「姫と騎士の冒険」は大成功をおさめた。

冒頭の白珠が演じる姫が花魁姿である。

姫は姫でも吉原遊郭の美姫だった。

姫の役名はまんま白珠花魁である。

花魁道中がかなり本格的で観客の視線は美しい白珠に釘付けだ。

久世は常磐と客席で観ていたが他校の女子学生が白珠の美貌に圧倒されている。

「超キレイ!本当に男子!?」

「この子、ロックバンドのベースだって!ライブ絶対にみる!」

久世は白珠が薬指の学園祭ライブの客寄せをしてくれて助かっていた。

そして、そんな白珠花魁の花魁道中を目撃した遍歴の騎士設楽(これも実名)は白珠に一目惚れ、村人A(凛)にどうすれば白珠に逢えるか尋ねる。

「よし、加藤の出番だ!」

常磐が注目したが久世にはこの後の展開が手に取るように分かった。

「オッス!!おら、村人A!!オメー強そう……グフゥ!!?」

凛の台詞が終わらぬうちに設楽の拳が凛のみぞおちに直撃である。

「そこの村人A……俺はあの白珠花魁と寝たいから金寄越せ!!」

設楽のアドリブで凛が演じる村人Aは追い剥ぎにあった。

「まてよ……お前……俺のクオカードまでパクるな!!」

ここで凛はマジで設楽にクオカードを盗られたので抗議したが観客は大爆笑である。

「なかなか演技うまいな!あの村人A!」

そんな凛のクオカードまで奪って逢瀬を果たした白珠花魁と騎士の設楽は惹かれあい、即足抜けを決意!!

「お前の身体なら俺の透き通った世界で全て分かる!白珠花魁!!どこかに逃げて子供3人作って、SM倶楽部を経営して幸せに暮らそう!!俺の精子を毎日飲んでくれ!!下と上から!!」

「足抜けやめる!!精子を毎日飲ませる奴なんかとガキ作って幸せにならない!!」

白珠が素を出して設楽をグーパンしていた。

女性客からも「あの騎士、見かけはイケメンだけどキモい」と設楽の演技でない本気が炸裂している。

凛は舞台袖で設楽から受けた攻撃の手当てを軽音楽ミュージカルの部員から受けていた。

何となく通りすがりの村人Aに見えるように小銭入れを小道具で持っていたら見事に設楽に強奪された。

肋骨とか大切な内臓が壊れるかと思うレベルの拳である。

本来の台本では凛が台詞をメロディで歌ったら、設楽は別の村人に姫と逢う手段を再度質問する段取りだった。

初手から愛欲に狂った騎士に殴られて、財布をガチで盗られる運命だとは凛も想定外である。

「身体が痛いよ!設楽~終演後、おぼえてろよ!」

もう、凛はガチでキレてたが手当てをしてくれた軽音楽ミュージカル部員は褒めてくれた。

「凄いぞ!加藤、普通、設楽の暴力アドリブを最初に受けると無事ではすまない!お前は咄嗟に受け身をとった!才能あるよ!だから、後半も頼むぞ」

たしかに武術の達人で手加減してない状態の設楽が攻撃してきたのに凛は無傷だ。

被害は祖父から貰ったクオカードのみで普通に動ける。

体育はできる方だが武術なんてできない。

なのに瞬時に受け身をとれた。

どうして、と凛は疑問だったが答えはすぐに分かった。

久世がくれた御守りのアクセを首からさげている。
恐らくは久世が凛を護ってくれたのだ。

十六夜も舞台では忘れずに久世からのメンズアクセをつけろと散々、念押ししていた。

現在、凛には久世の力の助けがある。

だから、設楽の本気の攻撃でも無事にすんでいるのだ。

「それ以外に可能性がないよな?」

久世が凛に渡したアクセサリーの天然石は澄んだ青である。

でも、今は凛の手のひらで発光している。

痛みも消えてきた。

久世がなんらかの助けを凛にしているとしか考えられない。

「加藤!次は海賊Bだから着替えろ!」

裏方の部員に呼ばれて凛は手早く着替えて舞台に立った。

自分ひとりの力じゃなくてもいい。

舞台はみんなで作るものだ。

凛はそう心に秘めて巨人に進撃された吉原遊郭に転換された舞台に叫んだ。

「この清掃を終わらせに来た!!」

ちなみに設楽のアドリブが炸裂して宿屋は休憩無料となり凛の出番はカットされていた。

客席から十六夜は凛の勇姿を微笑んで眺めていた。

用心の為に久世の天然石アクセをつけろとアドバイスして正解だった。

あれは、久世が凛を危険から護る目的で与えた品である。

久世は親しくなった者に必ず御守りを与えている。

凛の他に薬指メンバーと恋人の常磐だ。

友情の証だが、これは久世音という少年が大切な存在を傷付けない為の手段でもある。

化け物……もののけ……人外……魍魎、なんとでも呼べるが久世も十六夜もそれに該当する。

人間と偽り、危害を加えず、平穏に暮らしていても魍魎は無意識に禍を呼ぶものだ。

久世音が歌声で人を操れるのも化け物としての能力である。

十六夜が自分や他人の悪感情を肥大化させられるのも同じように化け物の力の産物だ。

そんな人ではない化け物と好んで親しんでくれる人間を久世は宝物のように大事にする。

だから、十六夜が凛に恋したと知ったときは反対した。

「加藤凛は普通の平凡な子供だ。十六夜に関わらせたら不幸になる」

十六夜の不安定な力に凛を巻き込むのを久世は断固反対していたが久世の父母が事情を知って十六夜の味方をしてくれた。

こうして、久世は加藤凛の詳細などを調べて十六夜と接近させて平気か検討していた。

そして、久世が問題なしと判断したので十六夜は凛の傍にいられる。

久世の判断基準は簡単だ。

凛と友達になりたいと思えたの1点に尽きる。

「音は世話好きだから」

十六夜は凛が海賊として巨人を駆逐してる姿を客席から笑顔で眺めていた。

舞台は異様な熱狂を見せていた。

巨人から逃れて海賊船で逃げた設楽騎士と白珠花魁だが、港町でSM倶楽部を開業するのに資金が足りず、海賊船の宝をパクって、ついでに海賊船もパクって、海賊と海軍に指名手配されていた。

ここまでで台本が相当に脚色されている。

「おい、あと上演時間が10分なんだが?」

「それまでにカーテンコールできる?」

設楽と白珠が変に物語を壮大にしたので収拾がつかない。

凛はあとは返事がない屍役のみだが出番なしで舞台が終わる可能性大である。

しかし!そこは軽音楽ミュージカル部の意地で残り10分でケリをつける選択をした。

「加藤!頼む、屍はなしにして若い海軍の役ですぐに台詞を憶えてくれ!」

「えっ!?即興ですか?」

何もかもが無茶苦茶だが凛も「このミュージカルを終わらせたい!」と思ってたので必死で台詞を記憶して出番なので舞台で叫んだ。

「やめましょうよ!!海賊船の宝と船をパクるのやめましょうよ!!人件費が勿体ない!!ただでさえ、騎士と花魁が他の海賊船や海軍を襲って財宝売ったり、捕虜を奴隷にするから、懸賞金が50億円に膨らみ、欲をかいて、どっかのマンガみたく海賊王とか目指すなんてバカじゃないですか!!初期設定のSM倶楽部にしましょうよ!!時間が勿体ない!!」

短時間でこの台詞を記憶できて迫真の演技をする凛に白珠は単純に凄いと思った。

なのでアドリブで返答してあげた。

「よく言った。若い海軍!お前の勇気ある即興台詞はこの物語を大きく変えた!わっちは設楽騎士とSM倶楽部を開業するから無料クーポンあげる!さあ、ありったけの財宝を担保にしてSM倶楽部を作りましょ!玄!!」

「そうだな旅人!SM王に俺はなる!」

もう、最後あたり素で名前になってる!!

だいぶ脱線したが姫と騎士は海賊はやめてSM倶楽部を開業して幸せになり幕は閉じた。

客席はわずかに静まったが、次の瞬間には万雷の拍手である。

久世と常磐、十六夜も拍手してカーテンコールを観ていた。

観客は興奮して騒いでいる。

「かなり奇抜だけど面白かったー!!」

「流石はK成のミュージカル!発想が違うな!!」

今さらだが色々と壊れててSM倶楽部で文句なんて出なかった。

学長と理事長も笑顔で拍手している。

そして、十六夜の近くの観客が楽しそうに喋っていた。

「あの端役で出てた小さい子!!可愛い!」

「演技もうまかったよね!!」

凛のことだと分かり十六夜は思わず微笑んだ。

すぐに楽屋裏に行きたいと思っていたら声をかけられた。

「嬉しそうだな。十六夜」

「千早さん!?いらしてたんですか?」

十六夜に声をかけたのは久世音の父、久世千早である。

多忙な久世家当主が学園祭にいることに十六夜は驚いたが久世千早は気さくに笑うと言ってきた。

「加藤凛君、なかなか凄い子だな!懐かしい……」

それだけ言うと久世千早は十六夜の頭を撫でると行ってしまった。

宿命の紫色の頭髪を持つ、久世千早の外見は20代だが2男1女の父であり、十六夜の名付け親でもある。

凛は軽音楽ミュージカル部の部員にワッショイされていた。

公演は大成功で設楽と白珠も多少は逸脱したが最後は台本通りに演じてくれた。

「加藤が今回の功労賞だ!ワッショイ!!」

「俺たちの青春の立役者だ!」

凛は一生分レベルに感謝されている。

設楽と白珠を押さえる役という重責を果たして凛は疲れたが満足だ。

あとは設楽からクオカードを返してもらう。

衣装を着替えて、制服に戻ると凛は十六夜を捜した。

終演後に合流する約束であった。

疲れたので客席に座ると目の前に花束を差し出された。

十六夜が小さなブーケを持って微笑んでいる。

「お疲れ様。凛、とっても素敵だった」

「十六夜さん……花束ありがとう」

設楽と白珠は1足速くライブの準備に向かった。

斗真は大道芸で箒で空を飛んでいる。

これを大道芸で済ますK成のリアリティラインなら遊郭でも海賊でもSM倶楽部でもOK牧場だ。

「疲れたなら休んでて。屋台の食べ物でも買ってくる」

十六夜が行こうとしたので凛は手をとって引き留めた。

「もう少しこうしてて……十六夜」

そう言って瞳を閉じる凛に十六夜はキスをして寄り添っていた。

誰もいない客席で微睡む凛と十六夜の耳に学園祭の喧騒が別世界のように流れていた。

end






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