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寿里~kotori ~

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閑話・久世の父親と姫神

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凛は十六夜と学園祭を満喫していた。

舞台は大成功で終わり、評判も上々である。

あとは夕方に開催される薬指の特別ライブを楽しみにしていた。

仲良く屋台のヤキソバを食べていた凛と十六夜に多々良が近寄ってきた。

こういうイベントで多々良を見るのは珍しい。

なにか企んでるのかと凛は警戒したが多々良は笑っている。

「名演技だったね。加藤」

「多々良も観てたのか?」

意外なので驚く凛の前で多々良は惣菜袋を取り出して中身を食べ始めた。

大量のコロッケである。

サクサクで美味しそうだが凛は不思議と食べたいと思わなかった。

「それ、屍肉屋のコロッケだね」

十六夜がコロッケを見て尋ねると多々良はニヤリとしていた。

「屍肉屋が屍食鬼には生命線だ。恋さんには頑張ってもらわないと」

暢気そうにコロッケを食べている多々良に凛は試しに訊いてみた。

「あのさ……多々良、もしかしたら、お前は久世に弱味というか……かりがあるのか?」

凛に見詰められて多々良は真顔になった。

でも、すぐにクスクスと可笑しそうに笑った。

「正解だよ!俺は多々良和希だけど、それは仮の名前だ。本名を久世に教えた。その意味は分かる?」

意味が分からない凛に代わって十六夜が答えた。

「真名を教えると最悪は消されたり、使役される。だから、滅多に教えない。音に恋をしたから教えたであってる?」

十六夜の回答に多々良は少し切なそうに俯いた。

「君や久世と違って俺たち屍食鬼は屍の他に食べられない。さらに不老不死で永遠の命だ。もう、記憶も曖昧なくらい毎日を繰り返す。そんな時に久世が現れた。彼なら俺を消すことができる。だから、名前を教えた……けど」

話を途中で切ると多々良はコロッケの袋をしまって笑みを見せた。

作為も狡さも強かさも感じない普通の少年の笑顔だ。

「久世に言われた。友達を使役する趣味はないって!友達なんて呼んでくれた人の記憶も辿れない俺に向けて。久世が友達なら消えずに屍食べて生きてようって思えたよ」

それだけ言って多々良は去ってしまった。

凛はヤキソバを食べ終わると十六夜に向かって呟いた。

「十六夜さん……タコ焼とお好み焼とヤキソバは流石に炭水化物が過ぎます」

「屋台の食べ物って美味しいから。凛、タコ焼あげる」

凛は十六夜に食べさせてもらってタコ焼をモグモグして青春していたが不意に声を掛けられた。

「あらら!凛ちゃんと十六夜君!仲良くアツアツねー!!」

見ると白珠の守護神の佳代が着物姿でジャガバタを食べている。

家神なのに家を留守にして学園祭に来てる!

そして、佳代神を見てる十六夜が若干うんざりした顔をしてるのは気のせいか?

「こんにちは!あの佳代神様?白珠のライブを観に来たんですか?」

凛が挨拶すると佳代神は嬉しそうに微笑んだ。

「そうよ!!たびちゃんの晴れ姿をみないと守り神なら!店は休みにしたわ!それより屍食鬼の匂いがするわね?獲物でもいるのかしら?」

佳代神がクンクン匂いを嗅ぐと「あらら!」と驚いている。

「屋上に人がいるわ!これは、自殺するわね」

恐ろしい佳代神の言葉に凛が慌てて校舎の屋上を見上げるとたしかに生徒らしき人間がいる。

止めないと校舎の下の屋台に群がる生徒や関係者も被害に遭う危険があった。

「行かないと!!」

凛が走り出すと十六夜が止めた。

「今さら遅い!自殺を阻止するより周辺の皆に危険を伝えよう!!」

十六夜の言う通り、凛が全力で屋上まで走っても間に合わないかもしれない。

だから、被害を最小限にする理由は分かる。

だけど!あの生徒が!

凛は様子を見ている佳代神に頼み込んだ。

「佳代神様!お願いです!俺を屋上まで瞬間移動させて!!お願いします!」

十六夜は凛を止めようとしたが佳代神が微笑んだ。

「いいわよ!そういう優しい子は好き!!」

佳代神がニッコリした瞬間に凛は屋上にワープしていた。

十六夜は生徒の飛び降りる場所を想定して避難を促している。

凛が近付こうにも自殺志願の生徒は防御柵を登って、あとは落ちるだけの状態である。

どうするか考えた末に凛は拳銃を構えた。

斗真からもらった土産の銃だ。

傷付けないよう的を外して射撃すると生徒は衝撃で柵から転がり落ちた。

「やめろ!!お前だけでなく皆も巻き込むな!!」

凛が小さな身体で精一杯に生徒を押さえつけたら思いがけぬ反撃を喰らった。

なんと生徒が凛まで自殺の道ずれにしようと屋上から落とそうとしている。

「なら!お前を先に落としてやるよ!!地面に叩きつけられろ!!」

首を絞められた凛は思いの外、腕力がある自殺志願者に突き落とされる寸前だ。

あと、よく見たら生徒ではない。

似たような制服を着た部外者である。

凛は抵抗をやめて自分を地面に落とそうと本気な偽物の生徒に質問した。

「なんで、うちの制服の偽物を着てるんだ?校章が違う!ペンとペンになってる」

本物の校章はペンと刀である。

自殺志願者の返答では受験で不合格にされて学園に恨みがあり、ここで制服コスプレして死んで、他の生徒も巻き添えにする計画らしい。

超絶自分勝手な動機だが凛は無性に腹が立った。

「甘ったれるな!!合格しても勉強で落ちこぼれてツラいんだよ!!それでも、皆、努力してるんだ!ここは実力主義で居心地悪いって思っても、逃げずに生きてる!!そんな生徒もいるんだよ!!それを不合格の逆恨みで自殺!?ふざけるのも大概にしろ!!その悔しさで前に進めよ!!」

自殺志願者を叱る凛の怒声は学園内に轟いた。

十六夜は凛が落ちてきたら迷わずキャッチしようと待機していた。

騒ぎを聞き付けた学園側が校舎に突入して自殺志願者を説得したが「これ以上、近付いたら、このチビの生徒を落とす!!」と凛を人質にされて困っていた。

だが、困り果てる学園側の人々の間をすり抜けて1人の男性が自殺志願者の前に立っている。

紫の頭髪と聡明だが皮肉そうにも映る整った顔立ち。

久世千早……久世音の父親である。

彼は余裕そうに自殺志願者に近寄ると囁いた。

「落としてみろよ。落としたら君を投身自殺よりツラい方法で殺してやる」

周囲に見えないように久世千早は紫の拳銃を向けていた。

でも、興奮した自殺志願者は絶叫して凛を柵の外に放り出した。

万事休すだ。

このまま転落して死ぬんだ、と凛が覚悟した瞬間だった。

「十六夜の君!主君、久世千早が命じる!加藤凛を救え!」

紫色の髪の男性が叫ぶと凛は転落せずに誰かに抱えられていた。

十二単のお姫様だ。

空を舞って、凛を無事に校舎の下までおろしてくれた。

「ありがとう……ございます。お姫様」

凛が礼を言うと十六夜の君はにこりと微笑んで消えていった。

十六夜の君……あれが久世の父親を守護する姫神で近衛十六夜の名前の由来……。

腰が抜けたように惚けた凛はすぐに強い力で抱きしめられた。

「十六夜さん!」

「凛!!ごめん!!助けられなくて!!凛が落ちてきたらキャッチしようと思ったら千早さんが来てくれて!!」

十六夜が凛を助けたら流石に人ではないとバレてしまう。

だから、久世の父親が自ら出てきた。

自殺志願&殺人未遂犯は久世千早が取り押さえて捕まった。

警察が来て、騒動になったが自殺志願者はパトカーのなかで心臓発作に苦しみ搬送先の病院で死んだ。

しかし、安置所の屍は消えていたという。

十六夜は今回も無意識に他人の憎悪を肥大化させたのかと恐れたが久世千早が十六夜に責任はないと断言した。

「十六夜は力を制御してる。偶然の事件だ。そう思うよね?加藤凛君?」

久世千早に笑顔で訊かれて凛はまっすぐに頷いた。

「十六夜さんは悪くない!俺が間抜けでした」

凛が潔く答えると久世千早は優しく微笑み言った。

「音に君のような友達がいて嬉しいよ。十六夜ともどもよろしく」

そう言って久世千早が笑うと理事長が歩いてきた。

「久世さん!相変わらず若々しい!!今日はよろしくでーす!!あと、犯罪者逮捕への協力を感謝しますよ!ありがちょう!がちょう!」

理事長ってこういうキャラなのかと凛がポカンとしていると十六夜が口を開いた。

「千早さん、リサイタルをするんですか?」

「そっ!わざと息子のライブと時間をバッティングさせる!この前の修学旅行で秘蔵のワインを飲み尽くされた復讐!」

久世千早と久世音……因縁の親子勝負が迫っていた。

犯罪者が出てもK成学園は学園祭を中止しない。

お騒がせしましたゴメチ!!

これで続行である。

一方、久世音は父親がワインの復讐の為にリサイタルとライブの時間を被せてきたのでキレていた。

「父さん!あとでゴメチって言ったのに許してない!!」

リハをしながらエレキギターをかき鳴らして怒る久世に白珠、設楽、斗真は同時に思った。

「ワインを未成年が飲んだことに怒らず、単にワインを飲まれたから怒るあたりが久世の親だよな」

久世親子の化け物対決の前に佳代神は凛にお礼を言われて考えた。

「本当なら助けた代償を求めるけど今回は凛ちゃんの勇気に免じて無償にしとこ!こういう、善良な人間の願いは叶えないとね!」

そんな訳で凛は人徳によって佳代神から代償を請求されず、死にかけたが、学園祭を楽しんでいる。

多々良和希も久々の屍を屍肉屋に予約してウキウキしていた。

楽しい学園祭もラストスパートである。

end







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