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ロックバンド薬指
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学園祭も終盤である。
凛と十六夜は久世率いるロックバンド薬指の特別野外ライブの為に学園の中庭に来ていた。
すでに沢山の生徒や関係性が集まっていてライブをいまかいまかと待っている。
人だかりに常磐辰希がいたので声を掛けた。
「いよいよ始まるな!」
凛の声に常磐は微笑んだ。
「音が本気だすのが伝わる。きっとライブは盛り上がるよ」
「そういや、久世のお父さんがライヴ時間をバッティングさせてピアノリサイタルするって!」
世界的ピアニストである久世の父親が特別にリサイタルすれば観客はそちらに流れるのではと凛は心配になったが十六夜は笑った。
「千早さんの冗談だよ。そんなことすれば観客が混乱する。千早さんは多分、来賓できただけ」
「なんだ……たしかに生徒の親がゲリラリサイタルはないですよね」
安心して笑う凛の見ながら十六夜は心で思っていた。
「恐らく、予想できないサプライズをするな。千早さんは」
夕刻になり、野外ライブ本番直前に久世はメンバーと最終チェックをしていた。
「いいか?父さんは何を仕掛けるか予想できない。時間をバッティングさせるはフェイクで他に罠がある。気を抜くな!!」
久世の完全警戒の言葉に白珠はベースを持ちながら言った。
「そんなに緊張するなよ久世!お前らしくもない」
白珠は緊張感という概念が薄い生き物なので気楽なものだ。むしろ、この状況を楽しんでいる。
設楽も斗真も久世がここまで父親の存在を意識する理由が分からない。
普段の不敵な態度が嘘のように父親の力を恐れ、対抗心むき出しである。
肝心のボーカルがそれだと調子狂って困るな、とメンバーが考えていたら、控え室に思わぬ人物が入ってきた。
久世の恋人のような存在の常磐である。
間もなくライブ本番なのに来てくれたようだ。
「音……本番直前にごめん」
「辰希……どうして?」
緊張も忘れて驚く久世に常磐は優しく微笑んだ。
「俺は音の歌とギターが大好きだよ。音は音楽そのものだ。なにも恐れるな」
常磐はそれだけ告げると久世にキスして戻って行った。
唇を押さえる久世に白珠がふざけて抱きついてきた。
そして、いい加減なのか真剣なのか計りかねる砕けた口調で喋る。
「俺も久世のこと結構好き!俺や玄や斗真がいるから、なんも怖くねーよ!」
設楽と斗真も笑顔で白珠の言葉に賛同した。
「旅人の言う通りだ。久世、ピアノコンクール前の小学生みたいな顔はやめろ」
「あはは!設楽の例えがわからん!久世、いつもの調子で楽しもう!!」
メンバーの笑顔に久世は少し黙っていたが、ようやくいつもの不敵な笑みに戻ると声をあげた。
「よし……じゃあ!行くか!!父さんが邪魔してきたら白珠!ベースで殴り倒せ!」
「了解!!後日、弁償な!!」
こうして、薬指の4人は控え室を出て、中庭のライブ会場に向かった。
常磐がどこからか戻ってきた瞬間にライブは開始された。
照明が点滅していよいよ始まると凛がステージに注目すると空から薬指メンバーが一斉に落ちてきた。
いや、斗真の箒から降ってきたのだ。
カッコ良く持ち場に着地した薬指に熱狂的ファンは大喜びである。
そして、久世の激しいエレキギターの旋律が周囲を支配してライブが本格的に始まった。
そう、凛が思った瞬間に薬指の旋律と呼応するようなピアノの音色が聴こえてきた。
「あれ?ピアノが聴こえる?」
凛が周囲を見回すと十六夜が微笑んだ。
「始まった。千早さんのサプライズ」
確実に凛と十六夜には聴こえるピアノ音なのに常磐や周囲の観衆には聴こえていないように映る。
「これは久世のお父さんの力ですか?」
「そうだよ。ピアノの音色に力を込めて音たちを挑発してる。挑発というより指導かな?」
十六夜は久世千早なりの教育的指導に対して苦笑した。
久世千早の特殊な音色は当然だが薬指の全員に聴こえていた。
キーボードの設楽玄は一瞬だけ音色がする方角を見たがすぐに自分の演奏に集中した。
設楽はピアニストに憧れていた。
コンクールにも出場して金賞もとったが諦めた。
久世千早のピアノを聴いて自分はあの領域に行けないと早々に悟った。
「人の領域なんて今の俺には関係ない。こうして旅人と一緒にいる道が俺の最高の領域だ。ライブ終わったら旅人と寝たい!その為なら超絶技巧で弾いてやる!」
設楽のキーボード超絶技巧が炸裂して観客は息を呑んだ。
「あ~玄が盛ってきた。ぜってーライブのあとが激しくなる。いま激しくしろバカ野郎」
設楽のキーボードを聴いて白珠旅人はライブ本番なのに呆れていた。
ベースソロでもピアノは寄り添うように素早く弦を奏でる白珠を包んでいる。
だが、白珠は寄り添うピアノの音色に対抗するかのように更にピッチをあげた。
「俺を包んでいいのは玄だけなんだよ!邪魔するな!クソピアノ!!」
白珠が心でそう叫んで見事な早弾きを披露した。
拍手が鳴ったと思ったら次は怒濤のドラムである。
工藤斗真は耳に届くピアノに心で話し掛けた。
「あの、ワインの件は俺、無関係なので!」
そして、スティックでドラム演奏を何事もなく続けていた。
久世音はエレキギターをかき鳴らし、歌いながら耳元に流れるピアノの音色に文句を言っていた。
「だから!謝ったろ!?未成年の飲酒は思春期の証だ!!ワインでそんなキレるなよ。父さん!!」
久世が心で叫ぶとピアノの音色は父親の声に変化した。
「飲酒喫煙は20歳になってから!リピートアフターミー」
これ以上、ピアノで説教されるのはウザイので久世はリピートした。
「飲酒喫煙は20歳になってから!」
「よろしい!」
そこでピアノの音色はパタリとやんだ。
凛はバンド演奏に共鳴していたピアノが消えたので不思議に思った。
甘くて気持ちが高ぶる心地よい音色であった。
そんなピアノと対決するように薬指の迫力は増していく。
「十六夜さん、ピアノが消えた」
「お説教が終ったみたいだね」
十六夜の笑顔に凛は首を傾げた。
ライブでは久世と白珠のダブルボーカルの新曲が披露された。
天使と姫君の共演である。
これには他校の女子学生が「キャー!!」っと黄色い声をあげて大騒ぎだ。
そして、キーボードを巧みに操る設楽を見た女の子が「うわ!バンドだとキモくない!!イケてる!」と驚愕している。
恐らく、昼のミュージカルを観劇したのだろう。
斗真の日独ハーフらしい彫りが深いが愛嬌溢れる容姿とドラムの腕前も注目された。
全員が顔にAnnulaire(※薬指)とペイントしている。
衣装は4人とも色違いのTシャツと破れたジーンズだがTシャツには魔方陣がプリントされている。
斗真のデザインだと凛にはすぐに分かった。
煌めく野外ライブも終盤となり、久世と白珠は楽器を持ちながら歌って、踊り、盛り上がりが最高潮のところで久世が澄んだ夜空のような声音で告げた。
「今日は来てくれて本当にありがとう。実は少し、いや、かなり緊張してました。でも、俺が緊張したり、不安に思うと大切な存在が駆けつけてくれる。その人が大好きだから緊張に勝てた。そして、ここにいるメンバー……白珠、設楽、斗真が力付けてくれる。普段は口に出さないけど俺も白珠や設楽や斗真が結構好きです!だから、これからも4人でバンド活動します。皆さん、これからもよろしくお願いします!」
久世の挨拶が終ると熱狂的ファンが熱い声援を送った。
「久世!!俺も大好きだぞ!!薬指サイコー!!」
「可愛い!!愛してるぜ4人ともー!!」
熱狂的ファンの生徒からの白熱コールに久世は笑うとラストソングを告げた。
「では、ライブの最後の曲は初めてバンド活動した時に作った曲です。きいてください」
曲名は「4つの季節」
凛も学園の校内放送できいた記憶がある。
当時、中等部の1年生4人が入学早々にバンドを組んで活動を始めたと思ったら、いっきにK成学園のスターダムにかけのぼった。
勉強で落第してた凛には別世界の出来事だと感じていた。
成績もトップクラスで容姿にも恵まれ、音楽の才能と圧倒的なスター性を持つ「薬指」の4人。
自分には無縁な人種だと思っていた彼らと急接近して振り回されて、いつの間にか学園生活が楽しくなった。
十六夜がいて彼らがいたから凛の人生に光がさしてきた。
これからも振り回されると思うが楽しもう。
「十六夜さん、今度、絶対に俺の家に遊びにきて!!約束だよ!」
「ありがとう。凛のお家、楽しみだな」
凛と十六夜がゆびきりして微笑む先で久世の歌声が心地よく響いた。
「天女の春風が頬をかすめ♪夏の夕立が世界を彩る♪赤朽葉色の木葉の季節♪純白の雪に照らされるほうき星♪四季を彩る羽衣さがし、旅する僕たちの空は……なにいろ?」
凛は久世の歌を聴いて思わず暮れゆく空を見上げた。
すると、K成学園の裏庭上空がキラリと光ったと思ったら大輪の花火が奇跡のように打ちあがった。
紫が基調の美しい花火である。
そして、ライブの最後の曲に合わせるように桜色、青色、紅、純白の花火が順番に打ちあがった。
これは皆も見えているらしく素晴らしい演出を前に呆気にとられている。
「凄い……久世の演出」
凛が驚いてそう呟くと十六夜がにこりとした。
「違うよ。あれは千早さんの力だ。息子へのサプライズだよ」
ステージにいた久世は色とりどりの花火を見上げながら苦笑いした。
「父さん……サプライズが過ぎる」
K成学園祭のラストは薬指ライブで最高に盛り上がった。
それを校舎の屋上から見守る久世千早の背後に女性が近寄ってきた。
「千早!いくら理事長先生がOKしても、あんまり力を使うとライブ会場を破壊するわ!」
「加減はしてる。息子へのプレゼントだよ。結」
「もう!音には甘いんだから!理事長先生が夫婦で食事でもって仰ってる。行きましょう」
久世千早は妻を軽く抱きしめると花火をやめて屋上から去った。
ちなみに久世千早は薬指メンバーに「飲酒喫煙は20歳になってから」とピアノで説教してたが素直に通じたのは音と斗真のみである
白珠と設楽には無視されて久世千早は改めて、彼らの自我の強さに驚き、呆れていた。
「まあ、音には色んなタイプの友達がいてほしいから。いいか!」
「千早、ライブ会場で白珠君の守り神の佳代さんと挨拶したの。今度、お茶する約束しちゃった!」
音の友達の守り神とは仲良くすると微笑む妻は愛らしく美しい。
久世千早が末息子の久世音にどうにも甘いのは愛する妻と瓜二つの顔だちだからだ。
忙しくて構ってやれないが久世千早は子煩悩である。
家にいる間は息子たちや妻と仲良くすごそうと決めていた。
久々の日本だとホッとしていたら理事長が恵比寿顔で笑っている。
「久世さん!見事な花火で!!では、早速ですが食事に行きましょう!ファミレスに!!」
最近になってファミレスにハマったK成学園の理事長に連れられて久世千早と妻の結(ゆい)は学園をあとにした。
ライブが終わって凛と十六夜は帰ろうとしていた。
しかし、常磐にバンドの細やかな打ち上げがあるから行こうと誘われ付いていった先はファミレスである。
成り行きで久世夫妻と理事長とテーブルをくっつけてもらい食事となった。
「特別に私が食事おごっちゃる!理事長だから!他の生徒には秘密だよ!」
そんなわけで凛はタダでハンバーグセットとドリンクバーにありつけた。
久世は久々に父母に会えて照れくさいらしく常磐とばかり話している。
そんな息子を久世夫妻は微笑ましく見守っていた。
設楽と白珠はマイペースにお互いの料理を食べあってラブラブである。
斗真はなにやら理事長に相談されていた。
「実は私の孫娘が魔法少女になるってきかないんだ!孫娘は幼稚園だし傷付けず、現実を教える方法はないかね?」
「あ~!それなら、箒にまたがらせて自宅の屋根から突き落とせば現実を理解するよ!」
「やっぱり、それだよね!いや、でも、それだと現実を理解する前に天国に召される可能性があるよね」
「うーん!じゃあ、悪魔召喚できる魔方陣をチョークで描かせなよ!絶対に途中で挫折するから!」
斗真と理事長の会話をきいてた凛は内心で「幼稚園の間くらいは魔法少女の夢をみさせようよ」と思っていた。
更にキャラが濃い理事長の孫相談はつづく。
「あと、9歳の孫もいるけど自分には邪気眼が封じられて暗黒の炎が左手に宿ってるって主張するんだ!」
随分、早熟な厨二病患者である。
でも、これも小学生なら多少は痛いけど許容範囲だと凛が思ってたら十六夜から衝撃の一言。
「それ、僕のお父様も口癖だった」
十六夜の父親と言うことは久世の祖父である。
「遅い厨二病ですね」
「違うよ。凛、僕のお父様は本当に暗黒のドラゴンを召喚できるから」
凛は半信半疑だったが十六夜が真剣なのでそういう設定にした。
理事長の9歳の孫は多分、若年性厨二病だと診断される。
斗真のアドバイスでは「それが1年以上続いたら生涯の暗黒歴史になるから早めの治療をお勧めします」と笑顔である。
久世と常磐、設楽と白珠、凛と十六夜と男子カップルの花園になっているが久世夫妻も理事長も斗真も全然反応しない。
凛はかねてから久世と常磐はどちらが射れる側かと気になっていたが、そんな無神経な話題はダメだと理性が言っている。
そんな、食事会も平和に終了してファミレスから出るときに常磐が久世ともめていた。
「せっかく御両親が帰国したんだから今日はダメだよ」
「イヤだ!辰希のなか入りたい!」
それ、ファミレスの出口でもめるのヤバい!
凛が止めようと割って入ったら久世に渾身の力で睨まれた。
「親がいると辰希を連れ込めないんだよ!ライブ後で性欲がマックスでヤバいんだよ!!察しろよ豆柴早漏!!」
「大声で早漏はやめろ!!たしかに1回射精して気絶したけど!!」
ムキになって言い返す凛を十六夜は可愛いと眺めていた。
理事長は「若いね~!」とのほほんとしている。
設楽と白珠は「出口で喧嘩すんなよ!俺ら、早く帰ってセックスしたいんだけど」と不満であった。
斗真は「あはは!店員さんドン引き!もう、このファミレスは来れないね」と爆笑している。
久世夫妻は息子が本気で喧嘩できる友達ができて何よりと思ったがそろそろファミレスの平和を守ろうと動いた。
「こら、音!ファミレスの出口で言い争いはやめろ!!慎みを持て!」
父親として久世千早はまっとうな叱り方をしたが息子は手強い。
「父さんだって高2で母さんを妊娠させただろ!!慎んでない大人が息子に慎みを語るな!!」
「音!!父さんのデキ婚は関係ない!ファミレスの出口で友達を早漏なんて言ったらダメだ!!例え本当でも!」
久世親子の口論がずれている。
とりあえず、外にでたが凛はもう、あのファミレスに生涯入れない。
結局、久世は父親に引っ張られて、親子で帰って行った。
夫と息子があれだけ派手に口論したのに動じず笑ってる久世の母が美人だが怖い。
十六夜は「凛が早漏でも遅漏でも好きだよ!」と言ってくれたが、それはそれで悲しい。
ライブでの感動が消え失せて、凛の脳内は久世が射れる側であり、ファミレスで不毛な言い争いをしてしまった記憶で埋めつくされた。
end
凛と十六夜は久世率いるロックバンド薬指の特別野外ライブの為に学園の中庭に来ていた。
すでに沢山の生徒や関係性が集まっていてライブをいまかいまかと待っている。
人だかりに常磐辰希がいたので声を掛けた。
「いよいよ始まるな!」
凛の声に常磐は微笑んだ。
「音が本気だすのが伝わる。きっとライブは盛り上がるよ」
「そういや、久世のお父さんがライヴ時間をバッティングさせてピアノリサイタルするって!」
世界的ピアニストである久世の父親が特別にリサイタルすれば観客はそちらに流れるのではと凛は心配になったが十六夜は笑った。
「千早さんの冗談だよ。そんなことすれば観客が混乱する。千早さんは多分、来賓できただけ」
「なんだ……たしかに生徒の親がゲリラリサイタルはないですよね」
安心して笑う凛の見ながら十六夜は心で思っていた。
「恐らく、予想できないサプライズをするな。千早さんは」
夕刻になり、野外ライブ本番直前に久世はメンバーと最終チェックをしていた。
「いいか?父さんは何を仕掛けるか予想できない。時間をバッティングさせるはフェイクで他に罠がある。気を抜くな!!」
久世の完全警戒の言葉に白珠はベースを持ちながら言った。
「そんなに緊張するなよ久世!お前らしくもない」
白珠は緊張感という概念が薄い生き物なので気楽なものだ。むしろ、この状況を楽しんでいる。
設楽も斗真も久世がここまで父親の存在を意識する理由が分からない。
普段の不敵な態度が嘘のように父親の力を恐れ、対抗心むき出しである。
肝心のボーカルがそれだと調子狂って困るな、とメンバーが考えていたら、控え室に思わぬ人物が入ってきた。
久世の恋人のような存在の常磐である。
間もなくライブ本番なのに来てくれたようだ。
「音……本番直前にごめん」
「辰希……どうして?」
緊張も忘れて驚く久世に常磐は優しく微笑んだ。
「俺は音の歌とギターが大好きだよ。音は音楽そのものだ。なにも恐れるな」
常磐はそれだけ告げると久世にキスして戻って行った。
唇を押さえる久世に白珠がふざけて抱きついてきた。
そして、いい加減なのか真剣なのか計りかねる砕けた口調で喋る。
「俺も久世のこと結構好き!俺や玄や斗真がいるから、なんも怖くねーよ!」
設楽と斗真も笑顔で白珠の言葉に賛同した。
「旅人の言う通りだ。久世、ピアノコンクール前の小学生みたいな顔はやめろ」
「あはは!設楽の例えがわからん!久世、いつもの調子で楽しもう!!」
メンバーの笑顔に久世は少し黙っていたが、ようやくいつもの不敵な笑みに戻ると声をあげた。
「よし……じゃあ!行くか!!父さんが邪魔してきたら白珠!ベースで殴り倒せ!」
「了解!!後日、弁償な!!」
こうして、薬指の4人は控え室を出て、中庭のライブ会場に向かった。
常磐がどこからか戻ってきた瞬間にライブは開始された。
照明が点滅していよいよ始まると凛がステージに注目すると空から薬指メンバーが一斉に落ちてきた。
いや、斗真の箒から降ってきたのだ。
カッコ良く持ち場に着地した薬指に熱狂的ファンは大喜びである。
そして、久世の激しいエレキギターの旋律が周囲を支配してライブが本格的に始まった。
そう、凛が思った瞬間に薬指の旋律と呼応するようなピアノの音色が聴こえてきた。
「あれ?ピアノが聴こえる?」
凛が周囲を見回すと十六夜が微笑んだ。
「始まった。千早さんのサプライズ」
確実に凛と十六夜には聴こえるピアノ音なのに常磐や周囲の観衆には聴こえていないように映る。
「これは久世のお父さんの力ですか?」
「そうだよ。ピアノの音色に力を込めて音たちを挑発してる。挑発というより指導かな?」
十六夜は久世千早なりの教育的指導に対して苦笑した。
久世千早の特殊な音色は当然だが薬指の全員に聴こえていた。
キーボードの設楽玄は一瞬だけ音色がする方角を見たがすぐに自分の演奏に集中した。
設楽はピアニストに憧れていた。
コンクールにも出場して金賞もとったが諦めた。
久世千早のピアノを聴いて自分はあの領域に行けないと早々に悟った。
「人の領域なんて今の俺には関係ない。こうして旅人と一緒にいる道が俺の最高の領域だ。ライブ終わったら旅人と寝たい!その為なら超絶技巧で弾いてやる!」
設楽のキーボード超絶技巧が炸裂して観客は息を呑んだ。
「あ~玄が盛ってきた。ぜってーライブのあとが激しくなる。いま激しくしろバカ野郎」
設楽のキーボードを聴いて白珠旅人はライブ本番なのに呆れていた。
ベースソロでもピアノは寄り添うように素早く弦を奏でる白珠を包んでいる。
だが、白珠は寄り添うピアノの音色に対抗するかのように更にピッチをあげた。
「俺を包んでいいのは玄だけなんだよ!邪魔するな!クソピアノ!!」
白珠が心でそう叫んで見事な早弾きを披露した。
拍手が鳴ったと思ったら次は怒濤のドラムである。
工藤斗真は耳に届くピアノに心で話し掛けた。
「あの、ワインの件は俺、無関係なので!」
そして、スティックでドラム演奏を何事もなく続けていた。
久世音はエレキギターをかき鳴らし、歌いながら耳元に流れるピアノの音色に文句を言っていた。
「だから!謝ったろ!?未成年の飲酒は思春期の証だ!!ワインでそんなキレるなよ。父さん!!」
久世が心で叫ぶとピアノの音色は父親の声に変化した。
「飲酒喫煙は20歳になってから!リピートアフターミー」
これ以上、ピアノで説教されるのはウザイので久世はリピートした。
「飲酒喫煙は20歳になってから!」
「よろしい!」
そこでピアノの音色はパタリとやんだ。
凛はバンド演奏に共鳴していたピアノが消えたので不思議に思った。
甘くて気持ちが高ぶる心地よい音色であった。
そんなピアノと対決するように薬指の迫力は増していく。
「十六夜さん、ピアノが消えた」
「お説教が終ったみたいだね」
十六夜の笑顔に凛は首を傾げた。
ライブでは久世と白珠のダブルボーカルの新曲が披露された。
天使と姫君の共演である。
これには他校の女子学生が「キャー!!」っと黄色い声をあげて大騒ぎだ。
そして、キーボードを巧みに操る設楽を見た女の子が「うわ!バンドだとキモくない!!イケてる!」と驚愕している。
恐らく、昼のミュージカルを観劇したのだろう。
斗真の日独ハーフらしい彫りが深いが愛嬌溢れる容姿とドラムの腕前も注目された。
全員が顔にAnnulaire(※薬指)とペイントしている。
衣装は4人とも色違いのTシャツと破れたジーンズだがTシャツには魔方陣がプリントされている。
斗真のデザインだと凛にはすぐに分かった。
煌めく野外ライブも終盤となり、久世と白珠は楽器を持ちながら歌って、踊り、盛り上がりが最高潮のところで久世が澄んだ夜空のような声音で告げた。
「今日は来てくれて本当にありがとう。実は少し、いや、かなり緊張してました。でも、俺が緊張したり、不安に思うと大切な存在が駆けつけてくれる。その人が大好きだから緊張に勝てた。そして、ここにいるメンバー……白珠、設楽、斗真が力付けてくれる。普段は口に出さないけど俺も白珠や設楽や斗真が結構好きです!だから、これからも4人でバンド活動します。皆さん、これからもよろしくお願いします!」
久世の挨拶が終ると熱狂的ファンが熱い声援を送った。
「久世!!俺も大好きだぞ!!薬指サイコー!!」
「可愛い!!愛してるぜ4人ともー!!」
熱狂的ファンの生徒からの白熱コールに久世は笑うとラストソングを告げた。
「では、ライブの最後の曲は初めてバンド活動した時に作った曲です。きいてください」
曲名は「4つの季節」
凛も学園の校内放送できいた記憶がある。
当時、中等部の1年生4人が入学早々にバンドを組んで活動を始めたと思ったら、いっきにK成学園のスターダムにかけのぼった。
勉強で落第してた凛には別世界の出来事だと感じていた。
成績もトップクラスで容姿にも恵まれ、音楽の才能と圧倒的なスター性を持つ「薬指」の4人。
自分には無縁な人種だと思っていた彼らと急接近して振り回されて、いつの間にか学園生活が楽しくなった。
十六夜がいて彼らがいたから凛の人生に光がさしてきた。
これからも振り回されると思うが楽しもう。
「十六夜さん、今度、絶対に俺の家に遊びにきて!!約束だよ!」
「ありがとう。凛のお家、楽しみだな」
凛と十六夜がゆびきりして微笑む先で久世の歌声が心地よく響いた。
「天女の春風が頬をかすめ♪夏の夕立が世界を彩る♪赤朽葉色の木葉の季節♪純白の雪に照らされるほうき星♪四季を彩る羽衣さがし、旅する僕たちの空は……なにいろ?」
凛は久世の歌を聴いて思わず暮れゆく空を見上げた。
すると、K成学園の裏庭上空がキラリと光ったと思ったら大輪の花火が奇跡のように打ちあがった。
紫が基調の美しい花火である。
そして、ライブの最後の曲に合わせるように桜色、青色、紅、純白の花火が順番に打ちあがった。
これは皆も見えているらしく素晴らしい演出を前に呆気にとられている。
「凄い……久世の演出」
凛が驚いてそう呟くと十六夜がにこりとした。
「違うよ。あれは千早さんの力だ。息子へのサプライズだよ」
ステージにいた久世は色とりどりの花火を見上げながら苦笑いした。
「父さん……サプライズが過ぎる」
K成学園祭のラストは薬指ライブで最高に盛り上がった。
それを校舎の屋上から見守る久世千早の背後に女性が近寄ってきた。
「千早!いくら理事長先生がOKしても、あんまり力を使うとライブ会場を破壊するわ!」
「加減はしてる。息子へのプレゼントだよ。結」
「もう!音には甘いんだから!理事長先生が夫婦で食事でもって仰ってる。行きましょう」
久世千早は妻を軽く抱きしめると花火をやめて屋上から去った。
ちなみに久世千早は薬指メンバーに「飲酒喫煙は20歳になってから」とピアノで説教してたが素直に通じたのは音と斗真のみである
白珠と設楽には無視されて久世千早は改めて、彼らの自我の強さに驚き、呆れていた。
「まあ、音には色んなタイプの友達がいてほしいから。いいか!」
「千早、ライブ会場で白珠君の守り神の佳代さんと挨拶したの。今度、お茶する約束しちゃった!」
音の友達の守り神とは仲良くすると微笑む妻は愛らしく美しい。
久世千早が末息子の久世音にどうにも甘いのは愛する妻と瓜二つの顔だちだからだ。
忙しくて構ってやれないが久世千早は子煩悩である。
家にいる間は息子たちや妻と仲良くすごそうと決めていた。
久々の日本だとホッとしていたら理事長が恵比寿顔で笑っている。
「久世さん!見事な花火で!!では、早速ですが食事に行きましょう!ファミレスに!!」
最近になってファミレスにハマったK成学園の理事長に連れられて久世千早と妻の結(ゆい)は学園をあとにした。
ライブが終わって凛と十六夜は帰ろうとしていた。
しかし、常磐にバンドの細やかな打ち上げがあるから行こうと誘われ付いていった先はファミレスである。
成り行きで久世夫妻と理事長とテーブルをくっつけてもらい食事となった。
「特別に私が食事おごっちゃる!理事長だから!他の生徒には秘密だよ!」
そんなわけで凛はタダでハンバーグセットとドリンクバーにありつけた。
久世は久々に父母に会えて照れくさいらしく常磐とばかり話している。
そんな息子を久世夫妻は微笑ましく見守っていた。
設楽と白珠はマイペースにお互いの料理を食べあってラブラブである。
斗真はなにやら理事長に相談されていた。
「実は私の孫娘が魔法少女になるってきかないんだ!孫娘は幼稚園だし傷付けず、現実を教える方法はないかね?」
「あ~!それなら、箒にまたがらせて自宅の屋根から突き落とせば現実を理解するよ!」
「やっぱり、それだよね!いや、でも、それだと現実を理解する前に天国に召される可能性があるよね」
「うーん!じゃあ、悪魔召喚できる魔方陣をチョークで描かせなよ!絶対に途中で挫折するから!」
斗真と理事長の会話をきいてた凛は内心で「幼稚園の間くらいは魔法少女の夢をみさせようよ」と思っていた。
更にキャラが濃い理事長の孫相談はつづく。
「あと、9歳の孫もいるけど自分には邪気眼が封じられて暗黒の炎が左手に宿ってるって主張するんだ!」
随分、早熟な厨二病患者である。
でも、これも小学生なら多少は痛いけど許容範囲だと凛が思ってたら十六夜から衝撃の一言。
「それ、僕のお父様も口癖だった」
十六夜の父親と言うことは久世の祖父である。
「遅い厨二病ですね」
「違うよ。凛、僕のお父様は本当に暗黒のドラゴンを召喚できるから」
凛は半信半疑だったが十六夜が真剣なのでそういう設定にした。
理事長の9歳の孫は多分、若年性厨二病だと診断される。
斗真のアドバイスでは「それが1年以上続いたら生涯の暗黒歴史になるから早めの治療をお勧めします」と笑顔である。
久世と常磐、設楽と白珠、凛と十六夜と男子カップルの花園になっているが久世夫妻も理事長も斗真も全然反応しない。
凛はかねてから久世と常磐はどちらが射れる側かと気になっていたが、そんな無神経な話題はダメだと理性が言っている。
そんな、食事会も平和に終了してファミレスから出るときに常磐が久世ともめていた。
「せっかく御両親が帰国したんだから今日はダメだよ」
「イヤだ!辰希のなか入りたい!」
それ、ファミレスの出口でもめるのヤバい!
凛が止めようと割って入ったら久世に渾身の力で睨まれた。
「親がいると辰希を連れ込めないんだよ!ライブ後で性欲がマックスでヤバいんだよ!!察しろよ豆柴早漏!!」
「大声で早漏はやめろ!!たしかに1回射精して気絶したけど!!」
ムキになって言い返す凛を十六夜は可愛いと眺めていた。
理事長は「若いね~!」とのほほんとしている。
設楽と白珠は「出口で喧嘩すんなよ!俺ら、早く帰ってセックスしたいんだけど」と不満であった。
斗真は「あはは!店員さんドン引き!もう、このファミレスは来れないね」と爆笑している。
久世夫妻は息子が本気で喧嘩できる友達ができて何よりと思ったがそろそろファミレスの平和を守ろうと動いた。
「こら、音!ファミレスの出口で言い争いはやめろ!!慎みを持て!」
父親として久世千早はまっとうな叱り方をしたが息子は手強い。
「父さんだって高2で母さんを妊娠させただろ!!慎んでない大人が息子に慎みを語るな!!」
「音!!父さんのデキ婚は関係ない!ファミレスの出口で友達を早漏なんて言ったらダメだ!!例え本当でも!」
久世親子の口論がずれている。
とりあえず、外にでたが凛はもう、あのファミレスに生涯入れない。
結局、久世は父親に引っ張られて、親子で帰って行った。
夫と息子があれだけ派手に口論したのに動じず笑ってる久世の母が美人だが怖い。
十六夜は「凛が早漏でも遅漏でも好きだよ!」と言ってくれたが、それはそれで悲しい。
ライブでの感動が消え失せて、凛の脳内は久世が射れる側であり、ファミレスで不毛な言い争いをしてしまった記憶で埋めつくされた。
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