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寿里~kotori ~

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憂鬱な絵馬と転生

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K成学園中等部図書室での些細な出来事である。

超名門進学校……偏差値79レベルの学び舎で勉学に励み、青春を謳歌する13~18歳くらいの少年たち。

加藤凛はそのK成学園の中等部2年生で成績は現在は落ちこぼれから浮上して中の上といったものだ。

必死こいて勉強して中級学力もいれば、たいして勉強しなくてもトップクラスも存在する。

これはどちらが凄いとも言い切れない。

天才的な学力や頭脳明晰さがあってもそれを悪用したり、優秀さに溺れればブーメランのように才能は諸刃の刃で自分に返ってくる。

要は突出した才能も優秀な学力も人生を生きる最強カードになるが、持ち主の器によっては無惨に腐ってしまうのだ。

加藤凛は世間一般では相当な学力があり見事、難関突破してK成の中等部に合格した。

しかし、偏差値79レベルの男子校には常識では決して、はかれない天才秀才鬼才が山ほど在学している。

凛にとってその筆頭が同級生で同じクラスの久世音(くぜ おと)である。

愛らしく美しい容姿の持ち主で知能指数は桁外れに高くて、音楽の天才でもある化け物。

長くそんな畏れがあり敬遠していたが中等部3年の近衛十六夜と接近したのがきっかけで友達になった。

久世はたしかに純粋に優しくてお人好しとは言えないが、気を許した友達や愛する人を最優先で護る高潔な少年だ。

「加藤!そこの数式ちがう!引っかけだから誘導されるな」

凛は久世に勉強を教わっていた。

場所は図書館で近衛十六夜は図書委員の仕事をしている。

十六夜は凛の恋人ってことになる紫色の瞳の病的な美しさの少年だった。

近衛十六夜と久世音はバリバリの血縁者で十六夜の父親が久世の祖父というなんとも深い因縁ある関係である。

お互いに敵意も悪意もなく距離も縮まっているが、完全に仲良しではないといったところだ。

本日の久世は暇であった。

バンド薬指のメンバーたちはそれぞれに用事がありバンド練習できない。

ベース担当の白珠旅人(しらたま たびと)はキーボード担当で幼なじみで婚約者の設楽玄(したら くろ)と買い物があると笑ってデートに行ってしまった。

工藤斗真は母ちゃんと2人で箒で翔んでスポーツ観戦してくるらしい。

凛もよく知らんがシーカーがなんちゃら説明していた。

斗真は本来はK成学園でなく、どこぞの魔法学校に行く義務があったと久世は知っている。

フクロウが執拗に飛んできたが斗真は帽子で組分けが決まるくだらない学校への入学を拒否して、フクロウは斗真の父ちゃんがすべて射殺した。

バタービール飲んでくると斗真は笑っていたがそれは未成年が飲酒OKなのか誰もなにもツッコマない。

そして久世の最愛の親友であり恋人の常磐辰希は親戚の家に用事があると行って帰ってしまった。

久世は平静にしているが内心はいつも穏やかではない。

人でなく化け物である久世にとって、せっかく手にした友達や恋人は自分よりずっとずっと早く死んでしまう。

彼らが老いて墓に入っても久世の見かけは、たいして変化しない。

寿命と加齢の速度が根本的に人間と異なるのだ。

(俺はいずれ辰希を失う。白珠も設楽も……斗真だって先に逝ってしまう。加藤も同じだ)

なのに血をわけた微妙な関係の近衛十六夜だけは同じく化け物なのでそばに残る皮肉さ。

久世の父千早も同じような喪失を抱えている。

人間の親友が難病で早くに他界したのだ。

その頃の父の姿は久世の記憶には曖昧だが母や兄や姉いわくひどく憔悴していたという。

(暁仁……アキ!)

久世の父の千早は亡き親友の早すぎる死に打ちのめされて、しばらくは親友の名を呟きながら絶望して過ごしていたそうだ。

そんな苦しい現実を久世音もいつか味わうときが来る。

だから、気を許した友達や恋人を1日でも長く見ていたい。

「父さんが言ってたよ。加藤は父さんの親友に似てるって」

唐突な久世の言葉に凛はびっくりしてシャーペンを落とした。

なんだか久世の声音が弱々しくて普段の不敵な雰囲気が消えている。

「なに?久世のお父さんってK成の卒業生だよね?親友ってどんな人?」

「寒月暁仁(かんげつ あきひと)……名前くらいは知ってるだろ?」

「知ってる!有名な小説家だ!たしか……K成のOBだった。久世のお父さんの親友なの?」

凛も名前は知っているが小説は難しく少しだけ読んだ程度だった。

在学中には文学賞を受賞していた天才小説家で図書室には寒月暁仁の作品を展示した書棚もある。

まだ小説家としてはこれからな年齢のときに難病で闘病の末に逝去したと聞いたことがあった。

その小説家と久世の父親が親友同士だったのかと凛はポカンとした。

「すごい人と久世のお父さんは親友だったんだね」

凛が微笑むと久世は瞳を伏せながら口角をあげた。

「そうだな。父さんは暁仁さんの死を体験して以来、人間と仲よくしなくなった。喪うのが怖くなって」

「そう……なんだ。それくらい大切なお友達だったんだね」

「くだらない話をしたな。悪い。ここは正解。これなら試験の成績も上がる」

久世がそう言って帰ろうとしたので凛は咄嗟に「待って!」と言った。

なんとなく今の久世をひとりにできない気がしたのだ。

「十六夜さんの当番も終わるから一緒に帰ろう?」

「ハァ?なんで十六夜を待たないといけないんだよ?うざい」

久世は凛の手を払って図書室を出ていった。

不安定な久世の様子が凛には心配だったが十六夜は落ち着いている。

「音は怖がりなんだ。喪うことを恐れてもその日は必ずやってくるのに」

「十六夜さんは久世と同じように永く生きるんですよね?その……俺が死んでも」

「あはは!寿命と意思は無関係。凛が死んだら僕も死ぬから」

「十六夜さんはヤンデレとしてぶれてないな」

永く生きることが可能でも命を絶つという選択肢もありなのだ。

十六夜の決意が本物なのは凛にも分かるし、それを否定もできない。

でも、なぜだろう……凛は十六夜が永く生きて凛を忘れてしまってもそれで良いと思っていた。

「俺は俺に与えられた寿命で十六夜さんと一緒にいられたら幸せですよ?」

「凛はそう言うと思った。でもね……これだけは分かって。永く生きる者は喪うことを怖がる。喪ったあとに正気でいられるか怖いんだ。音も僕もそれは同じだよ」

凛が粘って80歳代から90歳まで生きると想定しても久世や十六夜には数年程度の感覚で果てしない寿命が残されている。

それは長寿と不老という監獄で苦しむと同義語なのだ。

お互いに寂しいと凛が思っていると十六夜が文庫本を見せてくれた。

久世の父親の親友である寒月暁仁の小説であった。

「君が悠久の命を生きようと関係ない。その束の間の時間……僕らは親友だった……君が悠久を生きるなら僕らはいつかまた出逢う。それを楽しみに死に逝く日を待っている……。寒月暁仁は千早さんと再会を夢見てあの世に旅立った」

「悠久の命の果てに再会か……久世のお父さんは親友といつか再会したいのかな?」

凛の問いに十六夜は曖昧に微笑んだ。

似たような人物と出逢ってもそれは再会とは呼ばない。

凛が死んで生まれ変わって十六夜の前に現れてもそれは凛でなくまがい物だ。

人間のロマンチックな感情は好きだが、そのロマンチックは化け物には、ときに残酷なものになる。

久世の父千早は親友の寒月暁仁の生まれ変わりなんて無視するだろう。

彼にとって一緒に過ごした親友の代わりはいないのだ。

そして、それは十六夜や久世も全く同じだ。

「凛は凛だよ。転生してスライムになった凛なんてまがい物。ここにいる凛が僕の愛する凛なんだ」

「転生してスライムって?ありがとうございます。でも、俺は転生して豆柴になっても十六夜さんに逢えたら嬉しいかな!」

スライムより転生したら豆柴希望な加藤凛14歳。

若干アンニュイだった久世が翌朝、学校に登校すると教室で白珠が駆け寄ってきた。

「久世!昨日、玄と御茶ノ水まで楽器を見に行った帰りに神田明神によって甘酒のんで!」

「白珠。佳代神がいるのに神田明神に行ったのか?」

佳代神とは白珠に憑いている守護神である。

佳代さんと呼ばれ白珠と設楽の母代わりで割りと毒ママ的守り神だ。

「佳代さんは神田明神の甘酒が好きだから!天野屋で3人で甘酒のんで参拝してきた」

「お前な……守護神がいるのに参拝する神経がまずヤバい。佳代神もよく許したな」

「ふふ!神田明神さんとはマブダチだもの!タビちゃんとクロちゃんのお宮参り以来!」

勝手に喋る白珠の守護神の佳代さん。

そして沈黙していた設楽はポンっと久世に袋を投げてよこした。

「これ、神田明神で買ってきた。旅人が久世に買うって。俺も買った」

白珠と設楽が買ってきたものはなんと絵馬である。

普通はその場で祈願して飾るが普通ではない白珠&設楽は何枚も絵馬を購入してきた。

「斗真や常磐や加藤に近衛先輩の分もある。佳代さんが神田明神の神様とマブダチだから御利益を脅してでも引き出すって」

「佳代神……神田明神の神様脅すとか御利益でなく脅迫かよ!」

そんなやり取りをしていると凛と常磐が教室に入ってきた。

絵馬を受け取ると凛はキョトンとしたが佳代神がニコリと言ったのだ。

「何でも書いてごらん!御利益あるわよ~!」

全員が書けたら佳代さんが神田明神さんに転送するらしい。

久世が苦笑いしつつ絵馬を見ていると凛は早速、何か書いている。

学業祈願かと久世が思って覗き込んで驚愕した。

凛は絵馬に「転生したら豆柴になれますように」と記入している。

「加藤って転生したら豆柴になりたいのか?」

「うん!豆柴なら十六夜さんがすぐに分かると思って!」

凛そのものでなくても十六夜の笑顔が見られる場所に生まれ変わる。

そう屈託なく笑う凛に久世はハッとしたように瞳を見開いた。

命の長さは違っても、どちらかが先に死んでも、再会できなくても、友達だった……大切だったことに変わりはない。

久世は少し微笑むと常磐辰希のもとに行ってしまった。

佳代神はこれでも神様なので久世の思惑は理解している。

「全く!ワガママな坊やね!タビ(旅人)ちゃん以上よ!」

そんな佳代神のそばで白珠と設楽は絵馬にバンドの新曲のアイデアを書き込んでいた。

絵馬を完全にメモ帳に利用している。

そして、遅れて登校してきた斗真は凛たちのクラスに寄って絵馬を受け取ると迷わずこう記した。

「グリフィンドール滅びろ!バルス!」

斗真の母ちゃんも斗真もアンチグリフィンドール派であり、スリザリン激推しである。

「グリフィンの奴らってハリー筆頭にムカつく!」

朗らかな斗真だが心はスリザリンである。

全員の絵馬を転送したら神田明神の神様がパニックになりそうだが佳代神は知らんと思っていた。

久世が何を書いたかは佳代神しか知らない。

そもそも絵馬を大量購入しようと白珠が言い出したのは最近、久世がなんとなく元気ないからだ。

「タビちゃんもクロ(設楽)ちゃんも久世君が元気になるよう願ったのにね~」

本当に化け物の王子様はワガママだこと、と佳代神はクスクス笑っていた。

ちなみに十六夜の絵馬には「転生した豆柴の凛が死んだら剥製にする」と書かれていた。

とりあえず加藤凛は人間としての寿命を全うして死んで転生したら豆柴となり更に死後は剥製にされる件というライトノベルのような来世が確定したのである。


end
















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