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21話 シャーロット、結婚式の準備の合間に夜の散歩に誘われる
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ジョナサンに散々愛されたシャーロットが、ベッドから起き上がれるようになったのは、寝室に連れ込まれてから一週間後のことだった。
我に返って以降、部屋に閉じこもるのはよくないと、ジョナサンを諭すも、「殿下から目を離したくありません」と腰に抱きつかれる始末。
クラウスに隙を見せてしまった手前、強気に出ることができず、世話をされるがまま、ズルズルと日々を過ごす羽目に陥ったのである。
――でもこのままだと、私、壊れてしまいそうだわ。
ジョナサンの精力は凄まじく、放っておけば、一日に何度も求められた。
溢れるほどの想いを伝えてくれるのは喜ばしいことだ。
しかし物には限度というものがある。
息も絶え絶えに降参を示しても、ジョナサンは、シャーロットの限界を見極め、ギリギリを攻めた。
事後の疲労感を思い出すたび、今度は流されまいとするのだが、甘えた目で見つめられると、結局彼が求めるまま乱れてしまう。
誰かジョナサンをとめてくれないだろうかと願ったところで、寝室に近づくことを許されているのは、執事長のみだ。
彼は、運んできた食事をジョナサンに渡し終えると、室内の様子には目もくれず立ち去る。
次期領主に忠実な彼に助けは求められない。
途方に暮れていたある日、光明が差した。
「坊ちゃま、いい加減になさいませ」
その日、朝食を運んできたのはアネモネだった。
彼女は朝食を乗せたワゴンを押して入室するなり、鋭い視線をジョナサンに注いだ。
ジョナサンはシャーロットを胸に掻き抱きながら上半身を起こした。
盛大な舌打ちが頭上から聞こえる。
「執事長はどうした?」
「奥様の様子が気になりましたので、給仕の役目を代っていただきました」
「アネモネ、無事だったのね」
侍女の元気そうな姿を目にし、シャーロットはホッと胸をなで下ろす。
「奥様を危険な目に遭わせてしまい、申し訳ございませんでした」
アネモネは身体の前で手を重ね、深々とお辞儀をする。
「ご苦労。……殿下の世話は俺がさせていただくから、お前は下がって――」
ジョナサンは、出て行けといわんばかりにアネモネへ手を振った。
だが。
「そういうわけには参りません」
黒ずくめの侍女は、背筋をピシッと伸ばし、
「坊ちゃま、そろそろ奥様を解放なさいませ」
「嫌だね」
ジョナサンは大人気なく駄々をこねる。
アネモネも負けてはいない。ベッド脇へスタスタと歩み寄り、間近で紅い瞳と対峙した。
「奥様を大事にされるのは城の者一同、大賛成でございますが、物には限度というものがございます」
聞き分けのない子を叱る母親のごとき、威圧感である。
ジョナサンは少し怯んだ様子で、顎を引いた。
「お前をはじめ、我が家に仕えてくれる者は皆、優秀だ。俺が数日部屋に籠ってようが問題ないだろ」
「その通りでございます。ですが……私としましては、次期領主の務めをまっとうされてこそ、奥様もご安心なさいますと思われるのですが」
――凄いわ、アネモネ。彼が押されているわ。
侍女の口撃に感心していると、ジョナサンがチラリとこちらを見遣る。
「殿下もアネモネと同じ考えで?」
「そ……」
声が出ない。連日喘がされ、喉が限界を迎えていた。
シャーロットはこくこくと激しく縦に首を振る。
ジョナサンはしばし熟考の末、髪を掻き上げた。
灰色の毛先が、逞しい胸元で揺れ、シャーロットの頬をくすぐる。
「……式の準備も行わなければならないしな」
でもまだ殿下の柔らかさを味わっていたい、などなど。
ジョナサンはぎゅうぎゅうとシャーロットを抱きしめたまま身を悶えさせる。
悪あがきにシャーロットの額にキスを落としたのち、覚悟を決めたのか「湯浴みの準備をしてくれ」とアネモネに渋々命じた。
「承知致しました」
アネモネが部屋を出るなり、扉の外から歓声が聞こえ、シャーロットは顔から湯気が出そうなほどの羞恥心を覚えた。
結婚式の日取りは、それから二ヶ月後となった。
辺境地の男爵子息と第三王女。身分違いも甚だしい成婚に、王国中の貴族が注目している。
その証拠に、祝いの品がひっきりなしに届き、使用人たちが慌ただしげに対応した。
招待主として、シャーロットもジョナサンとともに、式にむけて準備に明け暮れる。
衣装合わせに、招待客をもてなすための各方面への手配や式当日の段取りなど、雑事は山のように立て込んでおり、目の回る忙しさだ。
今日も今日とて、シャーロットは周辺地の領主との会談を終えた。
連日初対面の相手に愛想良く振る舞うのに疲れ果て、ベッドに倒れ込む。
正装のまま寝床に横になるなど、淑女としてはあるまじき行為である。
判ってはいても、身体が休息を求め、思うように動いてくれない。
――アネモネが来る前に、起きておかないと……。
気力で身を起こした、その時。
ガタ、ガタ、ガタ……。
最初は空耳かと疑うも、一回、二回と、音は続いた。
異音に合わせてカーテンが微かに揺れている。
音の出処は窓辺のようだ。
窓の外に誰かいる?
クラウスの手のものだろうか。
――彼は王国騎士団に引き渡したのよ。この地にいるはずがないわ。
ジョナサンがシャーロットを城塞へ連れ戻したのと入れ違いに、ヴォルフガルト家に仕える精鋭騎士たちが、森の中で蹲るクラウスを確保した。
クラウスは正気を失っている有り様で「殺さないでくれ」と呟くばかりだったという。
王都で不審な動きをしていた証拠も発見され、後日、王国騎士団が彼を王都へと連行していった。
もはや野心を失っている彼に、シャーロットをどうこうする気力は残っていまい。
――そもそも侵入者なら、私に気づかれないようにするはずだもの。
シャーロットはゆっくりと窓に近付き、カーテンを引き開けた。
そこにいたのは、なんとジョナサンで、バルコニーに片膝をつき、にっこりと微笑んでいる。
シャーロットはすぐさま窓を開いた。夜風にプラチナブロンドの髪がなびく。
「……こんなところで何をしているの?」
なぜ窓から現れる必要があるのか。
襲われた者に対して、不謹慎な振る舞いではないかと、シャーロットは眉をひそめる。
「殿下を怯えさせてしまうと分かってはいても、こうするしかなかったのです」
どんな事情があって窓から訪問する必要に迫られるのか。
戸惑うシャーロットに、ジョナサンはフッと、苦笑し、
「アネモネの監視が厳しいのです」
と、遠い目をした。
「彼女、四六時中、私と一緒にいるわけではなくてよ?」
「殿下の部屋に通じる廊下に足を踏み入れようものなら、どこからともなく現れ、行く手を阻まれるのですよ」
ジョナサンを下手にシャーロットへ近づければ、結婚式当日まで部屋に閉じこもる可能性が高い。
寝室での彼の様子を目の当たりにすれば、アネモネが警戒心を露わにするのは致し方ないことだろう。
「しかし我慢できず、殿下が恋しくなり、来てしまいました」
現にこうしてジョナサンは、城塞の最上階にあるシャーロットの自室を、危険を顧みず訪ねてきている。
シャーロットは勤勉な侍女に同情するも、ジョナサンの顔を見れたことに浮足立っていた。
――駄目よ、これでは彼の思う壺だわ。
精一杯、困惑した表情を取り繕う。
「……つい先ほど会ったじゃない」
式の準備の大半には、ジョナサンが付き添っている。
客人と会うときだって、たいていは二人一緒にもてなしていた。
今日も揃って、会談を終えたところなのである。
「殿下と二人きりで過ごす時間が恋しいのです」
「……そ、そう……」
一緒に過ごせるとはいえ、当然人の目があるわけで。
社交辞令よろしく、軽く身体を寄せ合うのが精一杯な日々が続いている。
――確かに身体を重ねる頻度は減っているけれど……いまはそれどころじゃなくってよ。
貴族の結婚では、体面が大事なのだ。
立派に式を執り行い完遂する。
そうして、ヴォルフガルト家が王女を迎えるにふさわしい名家として各方面に知らしめるのだ。
義務というより、シャーロットの意地である。
式まで一週間を切り、遠方の貴族は早くも城塞に滞在していた。
節度を弁えるべき時期なのである。
ジョナサンも同様に、次期領主としての振る舞いを心掛けているのかと思いきや……この有様だ。
――人ってそう簡単に変わらないものね。
「明日も忙しいのでしょう。早くお休みなさい」
シャーロットは名残惜しくなる前に、ジョナサンを追い返そうとするも、
「殿下は俺と過ごしたくはないのですか」
ジョナサンが紅い瞳を子犬のように潤ませる。
――そんなわけがないでしょう、私だって貴方のそばにいたいわ。
式を無事に終えた暁に、ハネムーンを楽しめばいい。
今は我慢が必要な時なのだ。
シャーロットが欲望を押し殺す一方、ジョナサンが颯爽と手を差し出した。
「夜の散歩に出かけましょう」
「アネモネに叱られるわよ」
「その時は一緒に叱られてください」
「……無責任だこと」
ジョナサンが二ッと歯を見せ笑った。
少年のような笑顔にシャーロットの意志がぐらぐらと揺れる。
――少しくらいなら、いいわよね……。
誰にともなく言い訳をし、腕を組むことしばし。
「……しょうがないわね」
指先をジョナサンの手のひらに乗せた。
「では、とっておきの場所へ殿下をご招待いたしましょう」
ジョナサンはシャーロットを横抱きにするなり、バルコニーの手すりに足を乗せる。
「え、ちょっと……」
まさか、ここから飛び降りるのか。
「室内を通ればアネモネに見つかってしまいますので……しっかり掴まっていてください」
冗談ではなく、本当にアネモネを恐れているらしい。
ジョナサンは軽々と手すりを飛び越え、壁を蹴りながら地上を目指す。
「――っ」
急降下する際に、身体がふわりと浮いた。
シャーロットはジョナサンの胸に顔を埋め、声を飲み込む。
「しばしご辛抱を」
ジョナサンは目にもとまらぬ速さで、中庭を横切る。
白皙の顔を夜風が突き刺した。
けれど、頼もしい腕に抱かれているので、怖くはない。
シャーロットは安心してジョナサンの腕の中で身体を丸めるのだった。
我に返って以降、部屋に閉じこもるのはよくないと、ジョナサンを諭すも、「殿下から目を離したくありません」と腰に抱きつかれる始末。
クラウスに隙を見せてしまった手前、強気に出ることができず、世話をされるがまま、ズルズルと日々を過ごす羽目に陥ったのである。
――でもこのままだと、私、壊れてしまいそうだわ。
ジョナサンの精力は凄まじく、放っておけば、一日に何度も求められた。
溢れるほどの想いを伝えてくれるのは喜ばしいことだ。
しかし物には限度というものがある。
息も絶え絶えに降参を示しても、ジョナサンは、シャーロットの限界を見極め、ギリギリを攻めた。
事後の疲労感を思い出すたび、今度は流されまいとするのだが、甘えた目で見つめられると、結局彼が求めるまま乱れてしまう。
誰かジョナサンをとめてくれないだろうかと願ったところで、寝室に近づくことを許されているのは、執事長のみだ。
彼は、運んできた食事をジョナサンに渡し終えると、室内の様子には目もくれず立ち去る。
次期領主に忠実な彼に助けは求められない。
途方に暮れていたある日、光明が差した。
「坊ちゃま、いい加減になさいませ」
その日、朝食を運んできたのはアネモネだった。
彼女は朝食を乗せたワゴンを押して入室するなり、鋭い視線をジョナサンに注いだ。
ジョナサンはシャーロットを胸に掻き抱きながら上半身を起こした。
盛大な舌打ちが頭上から聞こえる。
「執事長はどうした?」
「奥様の様子が気になりましたので、給仕の役目を代っていただきました」
「アネモネ、無事だったのね」
侍女の元気そうな姿を目にし、シャーロットはホッと胸をなで下ろす。
「奥様を危険な目に遭わせてしまい、申し訳ございませんでした」
アネモネは身体の前で手を重ね、深々とお辞儀をする。
「ご苦労。……殿下の世話は俺がさせていただくから、お前は下がって――」
ジョナサンは、出て行けといわんばかりにアネモネへ手を振った。
だが。
「そういうわけには参りません」
黒ずくめの侍女は、背筋をピシッと伸ばし、
「坊ちゃま、そろそろ奥様を解放なさいませ」
「嫌だね」
ジョナサンは大人気なく駄々をこねる。
アネモネも負けてはいない。ベッド脇へスタスタと歩み寄り、間近で紅い瞳と対峙した。
「奥様を大事にされるのは城の者一同、大賛成でございますが、物には限度というものがございます」
聞き分けのない子を叱る母親のごとき、威圧感である。
ジョナサンは少し怯んだ様子で、顎を引いた。
「お前をはじめ、我が家に仕えてくれる者は皆、優秀だ。俺が数日部屋に籠ってようが問題ないだろ」
「その通りでございます。ですが……私としましては、次期領主の務めをまっとうされてこそ、奥様もご安心なさいますと思われるのですが」
――凄いわ、アネモネ。彼が押されているわ。
侍女の口撃に感心していると、ジョナサンがチラリとこちらを見遣る。
「殿下もアネモネと同じ考えで?」
「そ……」
声が出ない。連日喘がされ、喉が限界を迎えていた。
シャーロットはこくこくと激しく縦に首を振る。
ジョナサンはしばし熟考の末、髪を掻き上げた。
灰色の毛先が、逞しい胸元で揺れ、シャーロットの頬をくすぐる。
「……式の準備も行わなければならないしな」
でもまだ殿下の柔らかさを味わっていたい、などなど。
ジョナサンはぎゅうぎゅうとシャーロットを抱きしめたまま身を悶えさせる。
悪あがきにシャーロットの額にキスを落としたのち、覚悟を決めたのか「湯浴みの準備をしてくれ」とアネモネに渋々命じた。
「承知致しました」
アネモネが部屋を出るなり、扉の外から歓声が聞こえ、シャーロットは顔から湯気が出そうなほどの羞恥心を覚えた。
結婚式の日取りは、それから二ヶ月後となった。
辺境地の男爵子息と第三王女。身分違いも甚だしい成婚に、王国中の貴族が注目している。
その証拠に、祝いの品がひっきりなしに届き、使用人たちが慌ただしげに対応した。
招待主として、シャーロットもジョナサンとともに、式にむけて準備に明け暮れる。
衣装合わせに、招待客をもてなすための各方面への手配や式当日の段取りなど、雑事は山のように立て込んでおり、目の回る忙しさだ。
今日も今日とて、シャーロットは周辺地の領主との会談を終えた。
連日初対面の相手に愛想良く振る舞うのに疲れ果て、ベッドに倒れ込む。
正装のまま寝床に横になるなど、淑女としてはあるまじき行為である。
判ってはいても、身体が休息を求め、思うように動いてくれない。
――アネモネが来る前に、起きておかないと……。
気力で身を起こした、その時。
ガタ、ガタ、ガタ……。
最初は空耳かと疑うも、一回、二回と、音は続いた。
異音に合わせてカーテンが微かに揺れている。
音の出処は窓辺のようだ。
窓の外に誰かいる?
クラウスの手のものだろうか。
――彼は王国騎士団に引き渡したのよ。この地にいるはずがないわ。
ジョナサンがシャーロットを城塞へ連れ戻したのと入れ違いに、ヴォルフガルト家に仕える精鋭騎士たちが、森の中で蹲るクラウスを確保した。
クラウスは正気を失っている有り様で「殺さないでくれ」と呟くばかりだったという。
王都で不審な動きをしていた証拠も発見され、後日、王国騎士団が彼を王都へと連行していった。
もはや野心を失っている彼に、シャーロットをどうこうする気力は残っていまい。
――そもそも侵入者なら、私に気づかれないようにするはずだもの。
シャーロットはゆっくりと窓に近付き、カーテンを引き開けた。
そこにいたのは、なんとジョナサンで、バルコニーに片膝をつき、にっこりと微笑んでいる。
シャーロットはすぐさま窓を開いた。夜風にプラチナブロンドの髪がなびく。
「……こんなところで何をしているの?」
なぜ窓から現れる必要があるのか。
襲われた者に対して、不謹慎な振る舞いではないかと、シャーロットは眉をひそめる。
「殿下を怯えさせてしまうと分かってはいても、こうするしかなかったのです」
どんな事情があって窓から訪問する必要に迫られるのか。
戸惑うシャーロットに、ジョナサンはフッと、苦笑し、
「アネモネの監視が厳しいのです」
と、遠い目をした。
「彼女、四六時中、私と一緒にいるわけではなくてよ?」
「殿下の部屋に通じる廊下に足を踏み入れようものなら、どこからともなく現れ、行く手を阻まれるのですよ」
ジョナサンを下手にシャーロットへ近づければ、結婚式当日まで部屋に閉じこもる可能性が高い。
寝室での彼の様子を目の当たりにすれば、アネモネが警戒心を露わにするのは致し方ないことだろう。
「しかし我慢できず、殿下が恋しくなり、来てしまいました」
現にこうしてジョナサンは、城塞の最上階にあるシャーロットの自室を、危険を顧みず訪ねてきている。
シャーロットは勤勉な侍女に同情するも、ジョナサンの顔を見れたことに浮足立っていた。
――駄目よ、これでは彼の思う壺だわ。
精一杯、困惑した表情を取り繕う。
「……つい先ほど会ったじゃない」
式の準備の大半には、ジョナサンが付き添っている。
客人と会うときだって、たいていは二人一緒にもてなしていた。
今日も揃って、会談を終えたところなのである。
「殿下と二人きりで過ごす時間が恋しいのです」
「……そ、そう……」
一緒に過ごせるとはいえ、当然人の目があるわけで。
社交辞令よろしく、軽く身体を寄せ合うのが精一杯な日々が続いている。
――確かに身体を重ねる頻度は減っているけれど……いまはそれどころじゃなくってよ。
貴族の結婚では、体面が大事なのだ。
立派に式を執り行い完遂する。
そうして、ヴォルフガルト家が王女を迎えるにふさわしい名家として各方面に知らしめるのだ。
義務というより、シャーロットの意地である。
式まで一週間を切り、遠方の貴族は早くも城塞に滞在していた。
節度を弁えるべき時期なのである。
ジョナサンも同様に、次期領主としての振る舞いを心掛けているのかと思いきや……この有様だ。
――人ってそう簡単に変わらないものね。
「明日も忙しいのでしょう。早くお休みなさい」
シャーロットは名残惜しくなる前に、ジョナサンを追い返そうとするも、
「殿下は俺と過ごしたくはないのですか」
ジョナサンが紅い瞳を子犬のように潤ませる。
――そんなわけがないでしょう、私だって貴方のそばにいたいわ。
式を無事に終えた暁に、ハネムーンを楽しめばいい。
今は我慢が必要な時なのだ。
シャーロットが欲望を押し殺す一方、ジョナサンが颯爽と手を差し出した。
「夜の散歩に出かけましょう」
「アネモネに叱られるわよ」
「その時は一緒に叱られてください」
「……無責任だこと」
ジョナサンが二ッと歯を見せ笑った。
少年のような笑顔にシャーロットの意志がぐらぐらと揺れる。
――少しくらいなら、いいわよね……。
誰にともなく言い訳をし、腕を組むことしばし。
「……しょうがないわね」
指先をジョナサンの手のひらに乗せた。
「では、とっておきの場所へ殿下をご招待いたしましょう」
ジョナサンはシャーロットを横抱きにするなり、バルコニーの手すりに足を乗せる。
「え、ちょっと……」
まさか、ここから飛び降りるのか。
「室内を通ればアネモネに見つかってしまいますので……しっかり掴まっていてください」
冗談ではなく、本当にアネモネを恐れているらしい。
ジョナサンは軽々と手すりを飛び越え、壁を蹴りながら地上を目指す。
「――っ」
急降下する際に、身体がふわりと浮いた。
シャーロットはジョナサンの胸に顔を埋め、声を飲み込む。
「しばしご辛抱を」
ジョナサンは目にもとまらぬ速さで、中庭を横切る。
白皙の顔を夜風が突き刺した。
けれど、頼もしい腕に抱かれているので、怖くはない。
シャーロットは安心してジョナサンの腕の中で身体を丸めるのだった。
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