23 / 43
山の禁忌シリーズ
山の禁忌 -中-
しおりを挟む
一時間ほど電車に揺られ、自宅付近の最寄り駅へ着く。
なんだかいつもの登山よりも長く感じたし、実際時間もかかっていた。
疲労もいつもの倍はあるかのように思えたが、二人の楽しそうな顔を見ていると、たまにはこんなのもいいなと思えた。
また行こうなどの言葉を二、三かわし、三人ともそれぞれの帰路へと着いた。
帰宅後は、すぐに軽いストレッチと洗濯物の処理をして、ゆっくりと風呂に浸かった。
翌日は休日であるため、今日明日はゆっくり休んで、明後日の学校に備えよう。
そう思って、その日はもう床に就いた。
時刻はまだ七時にも満たない時間ではあったが、疲れというのは強引なものだった。
伸ばした手足にはじわじわとした鈍く弱い痛みが蔓延っている。
消えかけの電球のように明滅していた意識が、ついにはふっと途絶えた。
次に目を覚ましたのは真夜中だった。
自然に、ではなく鳴り響くスマホのコール音だった。
寝ぼけ眼で取りだし画面を見ると、反射的に大きな舌打ちが出た。
橋本である。
時刻は3時半。
問答無用で切ってしまおうとも思ったが、とんでもないモラルの無さに眠気よりも怒りが勝り、一言言ってやろうと電話に出た。
「もしもし!橋本か?」
そう問いかけるが、応答が無い。
「いたずら電話か?にしても時間ってもんが…あ?」
ここに来てようやく気付いた。
全くの無音ってわけじゃなく、なんだかガサゴソガサゴソと、まるで草木をかき分けるような音が聞こえてくる。
「おい…橋本?」
やっぱり応答は無いまま、さっきの音がずっと聞こえてくる。
仕方が無いのでよくよく耳を凝らして聞いてみると、その音に混じって他の、なにか唸り声のような、くぐもった音が聞こえてきた。
まるで、空洞を抜ける風音のような。
思わずスマホから耳を話すと、今度はギィっと床が軋む音が、家の廊下の方から聞こえてきた。
やばい、親を起こしてしまったかもしれない。
そう思って、急いで電話を切って目を閉じた。
キィっとドアが開く音がして、人が入ってくる気配がした。
この部屋にあるクローゼットは父親と兼用しているもので、朝早くから仕事がある時は、父が夜中のうちから仕事着を取りに自分の部屋に入ってくる時がある。
夜中に起きていることが父にバレ、叱責を食らうことが何度かあったため、反射的に眠ったふりをするくせがついた。
だが、この夜はなにかが違っていた。
普段の父ならば、二、三分クローゼットをゴソゴソやって部屋から出ていくのだが、部屋の中からはクローゼットを開く音が一向にしてこない。
かといって、自分の様子を確かめに来た訳では無いようで、延々と部屋の中をウロウロと歩き回っている。
さすがに何をしているか気になって、トイレに行くふりをして起きてみることにした。
パチリと目を覚まして、わざとらしい欠伸をして、上体を起こした。
次に目を擦り、ベッドから出ようと足を半分ほど外に投げだす。
暗い部屋に目が慣れた頃、部屋の隅ほどまで視界が行き渡った頃、ようやく気づいた。
部屋に入ってきたのは、父ではなかった。
目の前にいるものを視認した時、ぴったりとその場に固定されたように、自分の体は動かなくなった。
薄暗闇の中浮かび上がったシルエットは、それよりももっと暗く、黒く、歪な形をしていた。
細く長い胴体。
そこから枝分かれしたように、四方に伸びる腕や、電球のように膨らんだ頭部。
家族でもなく、人ですらない。
そんなバケモノが、部屋中を自らの気配を充満させ、何かを探すかのように、練り歩いている。
一瞬にして恐怖が肢体を駆け巡り、喉に達して叫び声が出た。
と思ったのだが、喉からは蝶番から出るような、かすれた音が出るのみだった。
『あっ……あ……』
2mはあろう細身の体をくの字に曲げ、そこから枝葉のように別れた手足と頭部を、奇怪にくねらせながら部屋を探り回るそれは、固まったままでいる自分に気づくと、ゆっくりと頭部と思しき部分を、クレーンのようにこちらに向けた。
かなり近くから見ても、黒く、モヤがかかっているようにも見える頭が、やがてうっすらと一文字に亀裂を帯びた。
亀裂が端から端まで渡ったところで、そこを中心にガパリと開いた。
口だった。
夜の闇よりも深い黒に開いた口は、血のように赤く、舌のようなものがうねっていた。
やがて、それはゆっくりと動き出した。
『オレ…の…オレノ…』
恐怖が限界に達したのか、はたまたそれが自分に何かしたのか。
その声を聞いた後、意識がバチンと途切れた。
なんだかいつもの登山よりも長く感じたし、実際時間もかかっていた。
疲労もいつもの倍はあるかのように思えたが、二人の楽しそうな顔を見ていると、たまにはこんなのもいいなと思えた。
また行こうなどの言葉を二、三かわし、三人ともそれぞれの帰路へと着いた。
帰宅後は、すぐに軽いストレッチと洗濯物の処理をして、ゆっくりと風呂に浸かった。
翌日は休日であるため、今日明日はゆっくり休んで、明後日の学校に備えよう。
そう思って、その日はもう床に就いた。
時刻はまだ七時にも満たない時間ではあったが、疲れというのは強引なものだった。
伸ばした手足にはじわじわとした鈍く弱い痛みが蔓延っている。
消えかけの電球のように明滅していた意識が、ついにはふっと途絶えた。
次に目を覚ましたのは真夜中だった。
自然に、ではなく鳴り響くスマホのコール音だった。
寝ぼけ眼で取りだし画面を見ると、反射的に大きな舌打ちが出た。
橋本である。
時刻は3時半。
問答無用で切ってしまおうとも思ったが、とんでもないモラルの無さに眠気よりも怒りが勝り、一言言ってやろうと電話に出た。
「もしもし!橋本か?」
そう問いかけるが、応答が無い。
「いたずら電話か?にしても時間ってもんが…あ?」
ここに来てようやく気付いた。
全くの無音ってわけじゃなく、なんだかガサゴソガサゴソと、まるで草木をかき分けるような音が聞こえてくる。
「おい…橋本?」
やっぱり応答は無いまま、さっきの音がずっと聞こえてくる。
仕方が無いのでよくよく耳を凝らして聞いてみると、その音に混じって他の、なにか唸り声のような、くぐもった音が聞こえてきた。
まるで、空洞を抜ける風音のような。
思わずスマホから耳を話すと、今度はギィっと床が軋む音が、家の廊下の方から聞こえてきた。
やばい、親を起こしてしまったかもしれない。
そう思って、急いで電話を切って目を閉じた。
キィっとドアが開く音がして、人が入ってくる気配がした。
この部屋にあるクローゼットは父親と兼用しているもので、朝早くから仕事がある時は、父が夜中のうちから仕事着を取りに自分の部屋に入ってくる時がある。
夜中に起きていることが父にバレ、叱責を食らうことが何度かあったため、反射的に眠ったふりをするくせがついた。
だが、この夜はなにかが違っていた。
普段の父ならば、二、三分クローゼットをゴソゴソやって部屋から出ていくのだが、部屋の中からはクローゼットを開く音が一向にしてこない。
かといって、自分の様子を確かめに来た訳では無いようで、延々と部屋の中をウロウロと歩き回っている。
さすがに何をしているか気になって、トイレに行くふりをして起きてみることにした。
パチリと目を覚まして、わざとらしい欠伸をして、上体を起こした。
次に目を擦り、ベッドから出ようと足を半分ほど外に投げだす。
暗い部屋に目が慣れた頃、部屋の隅ほどまで視界が行き渡った頃、ようやく気づいた。
部屋に入ってきたのは、父ではなかった。
目の前にいるものを視認した時、ぴったりとその場に固定されたように、自分の体は動かなくなった。
薄暗闇の中浮かび上がったシルエットは、それよりももっと暗く、黒く、歪な形をしていた。
細く長い胴体。
そこから枝分かれしたように、四方に伸びる腕や、電球のように膨らんだ頭部。
家族でもなく、人ですらない。
そんなバケモノが、部屋中を自らの気配を充満させ、何かを探すかのように、練り歩いている。
一瞬にして恐怖が肢体を駆け巡り、喉に達して叫び声が出た。
と思ったのだが、喉からは蝶番から出るような、かすれた音が出るのみだった。
『あっ……あ……』
2mはあろう細身の体をくの字に曲げ、そこから枝葉のように別れた手足と頭部を、奇怪にくねらせながら部屋を探り回るそれは、固まったままでいる自分に気づくと、ゆっくりと頭部と思しき部分を、クレーンのようにこちらに向けた。
かなり近くから見ても、黒く、モヤがかかっているようにも見える頭が、やがてうっすらと一文字に亀裂を帯びた。
亀裂が端から端まで渡ったところで、そこを中心にガパリと開いた。
口だった。
夜の闇よりも深い黒に開いた口は、血のように赤く、舌のようなものがうねっていた。
やがて、それはゆっくりと動き出した。
『オレ…の…オレノ…』
恐怖が限界に達したのか、はたまたそれが自分に何かしたのか。
その声を聞いた後、意識がバチンと途切れた。
6
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる