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1972年 夏シリーズ
序章『風鈴の記憶』
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浅い眠りから目覚めて、微睡の中見た悪夢を反芻した。
荒い息を整えようと、大きく深呼吸を試みる。
息が苦しいような気がして、すぐに気の所為ではないことが分かった。
勢いよく空気を通した鼻腔がむせ返るほど、強い土の生臭い匂い。
見開いた眼で、辺りの様子を確認する。
暗い。一寸先も見えないほどに。
その闇の濃さが夜の暗がりでないことが分かった頃には、私はだんだんと自分の置かれた状況に気づき始めていた。
何者かに、四方を囲まれている。
目の前に広がっているのは暗闇ではなく、視界を遮る何者かが作り出している影だった。
声にならない叫びが、喉を締めつける。
何が起こっているかを理解した頭が、体へ必死に信号を送っているのを感じる。
『逃げろ、逃げてしまえ』と。
だが、動かない。動けない。
獲物を品定めするような視線を方々から感じ、投げ出していた四肢が徐々に凍てついていく。
体が芯から冷えるのを感じて、吐く息ですら小刻みに揺れる。
何のことはない。全て無駄だったのだ。部屋の四方に盛った塩も、霊験あらたかな神社で購入したお守りも、その他かき集めた様々な魔除け、法具も。
所詮は、素人の付け焼刃というべきか。絶望すら通り越して、笑いが込み上げてくる。それなのに瞳の奥からは、徐々に涙が滲みだしてきた。
こうなることはわかっていたはずなのに、覚悟はできていたはずなのに。
息を殺し、気配を沈めて、目の前の闇を見つめながら、一人震えていた。
黒い水の中で溺れているような気分だ。
あの子に会いたい、最後に一目だけでも。
かし・・・か・さ・や
わた・く・・か・さ・・
閉ざされた空間の中で、声が聞こえる。
口々に呟いている。
かしらもらおか えいされや
わたをくらおか えいされや
唄っている。骨の髄まで届きそうな低い唄声。
吐き気を催した。
しばらくしてそれも止んだころ。
締め切った空間の中、夜の闇に溶けるように、風鈴の音だけが鳴り響いていた。
「ごめんなさい…」
掠れた甲高い声が、虚ろに開いた口の間から漏れた。
私の最後の言葉が、誰に聞かれるでもなく、暗闇の中に呑まれていった。
荒い息を整えようと、大きく深呼吸を試みる。
息が苦しいような気がして、すぐに気の所為ではないことが分かった。
勢いよく空気を通した鼻腔がむせ返るほど、強い土の生臭い匂い。
見開いた眼で、辺りの様子を確認する。
暗い。一寸先も見えないほどに。
その闇の濃さが夜の暗がりでないことが分かった頃には、私はだんだんと自分の置かれた状況に気づき始めていた。
何者かに、四方を囲まれている。
目の前に広がっているのは暗闇ではなく、視界を遮る何者かが作り出している影だった。
声にならない叫びが、喉を締めつける。
何が起こっているかを理解した頭が、体へ必死に信号を送っているのを感じる。
『逃げろ、逃げてしまえ』と。
だが、動かない。動けない。
獲物を品定めするような視線を方々から感じ、投げ出していた四肢が徐々に凍てついていく。
体が芯から冷えるのを感じて、吐く息ですら小刻みに揺れる。
何のことはない。全て無駄だったのだ。部屋の四方に盛った塩も、霊験あらたかな神社で購入したお守りも、その他かき集めた様々な魔除け、法具も。
所詮は、素人の付け焼刃というべきか。絶望すら通り越して、笑いが込み上げてくる。それなのに瞳の奥からは、徐々に涙が滲みだしてきた。
こうなることはわかっていたはずなのに、覚悟はできていたはずなのに。
息を殺し、気配を沈めて、目の前の闇を見つめながら、一人震えていた。
黒い水の中で溺れているような気分だ。
あの子に会いたい、最後に一目だけでも。
かし・・・か・さ・や
わた・く・・か・さ・・
閉ざされた空間の中で、声が聞こえる。
口々に呟いている。
かしらもらおか えいされや
わたをくらおか えいされや
唄っている。骨の髄まで届きそうな低い唄声。
吐き気を催した。
しばらくしてそれも止んだころ。
締め切った空間の中、夜の闇に溶けるように、風鈴の音だけが鳴り響いていた。
「ごめんなさい…」
掠れた甲高い声が、虚ろに開いた口の間から漏れた。
私の最後の言葉が、誰に聞かれるでもなく、暗闇の中に呑まれていった。
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