ソッチドッチ ~魔王と聖女の入れかわり! 入れかわれば、本当の姿が見えてくる?~

櫻恭史郎

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第7話 聖女の、意外な願い

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 フランスは、にぎりしめた金貨に願いをこめた。

 目をつむって、一心に願いをこめていると、となりでアミアンが笑いながら言った。

「毎日、美味しいもの、食べられますように、にしては長いですね」

 フランスは目を閉じたまま答える。

「それも、入れたわ」
「そんな、いくつも叶えてくれます?」
「たくさん言っておけば、どれかひとつくらい本当に叶えてくれるかもしれないでしょ」
「え~、どうせ、そんなに信じてらっしゃらないくせに~」

 フランスは思わず笑った。

「やめなさいよ、アミアン。泉の何かに聞かれちゃまずいわ。叶えてくれなくなるかもしれないでしょ」
「そういうお遊び好きですよね、お嬢様は」
「うるさい」

 ふたりでクスクス笑う。

 フランスは、しっかりと願いをこめてから、目をひらいた。

「よし、めちゃくちゃに、願いをこめたわ。聖女のがちがちの願いよ」

 アミアンが、やれやれ、といった声で言う。

「主《しゅ》もどん引きですよ」

 フランスは、思いきり天に向かって金貨をなげた。

 金貨は陽の光の中をくるくると、回転して、光を反射しながら飛ぶ。上がりきると、弧をえがいて、泉にむかって下降する。

 泉に落ちる直前、不思議なことが起きた。

 あたりに金属音がひびく。

 フランスの投げた金貨は泉に落ちるまえに、はじけて、思わぬ場所に着水した。

 金貨だわ。

 別の所から、飛んできた金貨が、フランスの金貨にあたって、邪魔したようだった。

 上の方から飛んで来たわね。

 金貨が飛んできたもとの場所を見上げる。二階の手すりの向こうに男がいた。もう、その顔をそむけて、立ち去ろうとしているところだったが、誰なのか分かった。


 魔王イギリスだわ。



     *



 フランスは、イギリスの瞳を見つめて聞いた。

「泉に、何を願われたのですか?」

 イギリスは、冷たい顔で答える。

「馬鹿な。泉への願いが原因で、こうなったとでも言うのか」

 妖精がいる国の皇帝のくせに、こういうのは信じないのね。

「わたくしと陛下には、それ以外に接点がございません。幾度か、式典で、お姿をお見かけするようなことはありましたが、ご挨拶の機会もございませんでした」

 イギリスはすこし考えるようにして言った。

「聖女は、何を願ったんだ」

 フランスは正直に答えた。

「わたくしは、自由を願いました」

 他にも、美味しいもの食べたいとか、あともうすこし背が伸びてほしいとか、色々俗っぽいことをお願いしたが、一番つよく願ったのは『自由になりたい』だった。

 イギリスが意外だなという顔をして言った。

「ずいぶん、自由にふるまっていると、聞いているが、金も権力もまだ足りないという意味か」
「ご想像におまかせいたします」

 もちろん、金と権力も、あるにこしたことはないわね。
 それが自由につながるかどうかは、考えものだけれど。

「陛下は、何を願われたのですか?」
「ふん、こんなものが原因など、ばかげている」

 あ、自分の願いは言わないつもりね。
 きっと、とんでもないあくどいことを願ったんだわ。

 しばらく待ったが、どうやら本当にイギリスは自分の願いを明かすつもりはないようだ。

 言わないなら、これ以上話すこともないわね。

 フランスは礼儀正しく言った。

「それでは、そろそろ失礼いたします」
「どこに行くつもりだ」

 どこもなにもない。
 急がないと昼餐会に間に合わなくなる。

 今は式典用に教会から支給されている祭服を着ているが、昼餐会にふさわしい姿とはいえない。

「昼餐会までに、支度がございますので」

 イギリスは不満そうな顔をしたが、フランスは見えないふりをして、うやうやしく礼をし、素早く部屋を出た。

 さっと扉をしめる。

 フランスは、扉がしまると同時に、祭服のすそを持ち上げて、全力で走った。

 外にいた使用人が驚いた顔でこちらを見たようだったが、一瞬で通り過ぎる。

 急げ、急げ。
 アミアンがやきもきして待っているでしょうね。

 昼餐会ではドレスを着用しなければならない。

 全力疾走の勢いのまま、自分に割り当てられた部屋に飛び込むと、アミアンが準備万端で待ち構えていた。

「お嬢様、遅すぎます! もう時間がありませんよ!」
「言ってる場合じゃないわ、急ぐわよ!」

 フランスが勢いよく服を脱ぐと、アミアンがコルセットをセットする。
 アミアンがフランスの背後に回って、素早く手を動かしながら言う。

「もう、ご機嫌は治ったんです?」
「え?」
「もう、今日の朝は、お嬢様ったらひっどい仏頂面だったじゃないですか。あんな顔ずっとしてたら、おブスになっちゃいます。わたし、調印式の間に、お嬢様が暴れるんじゃないかと気が気じゃなかったんですから」

 あ、イギリス陛下のことね。
 あの仏頂面のまま、ここで過ごしていたわけね。

「昼餐会まで時間があるからと思って軽食を用意したのに、手も付けないんですから。びっくりですよ」

 そこまで言って、アミアンは手を止め、急に心配そうな声で言った。

「あっ! もしかして、やっぱり、体調がよろしくないとか⁉ 大変‼」

 フランスは笑って言った。

「大丈夫よ。朝は……ちょっとお腹が痛くて、余裕がなかっただけ。今は平気」
「本当です?」
「うん、ほんと」

 フランスがそう言って笑顔を向けると、やっとアミアンは安心したようだった。彼女の手がまた、フランスの背で素早く動く。

 それにしても、軽食に手をつけなかったのね。

 どうりで、すごくお腹がすいていると思った。
 もう、ぺこぺこよ……。

 この状態でコルセットをしめたら、いつもより細くはなりそうだけれど。

 アミアンが手をとめて言った。

「よし、いきます!」
「おもいっきり、お願い」
「おまかせを」

 フランスはベッドの柱にしがみついて、思いっきり息をすいこみ、腹をうすくした。

 アミアンが、フランスの尻に足をかけて、コルセットを思いっきりしめる。


 うぅぅ、苦しいぃぃ。
 なんでこんなバカみたいなもの、つけなきゃならないわけ!


 ドレス着用時の、毎度おなじみのうめき声が、部屋にひびいた。




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 おまけ 他意はない豆知識
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【妖精がいる国?】
イギリスにはキリスト教の布教がされる以前の、自然崇拝の多神教信仰が文化として根付いています。そのひとつが身近にいるとされる妖精の存在。
英文学最古の叙事詩『ベーオウルフ』にも妖精が登場します。
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