ソッチドッチ ~魔王と聖女の入れかわり! 入れかわれば、本当の姿が見えてくる?~

櫻恭史郎

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第148話 たまには魔王らしく

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 フランスは観覧席で水を飲んでいた。

 やれやれ、とんでもなく楽しかったわ。
 こんなにとんでもない舞踏会は、はじめてよ。

 しばらくすると音楽がやんだ。

 あら、なにかしら。

 ベルが鳴らされて、領主と奥方が観覧席の中央に立つ。
 会場中の人間が、そちらに注目しているようだった。

 領主が手をあげて注目をさらに集め、大きな声で言った。

「このような良き日に、良き客人をむかえ、すばらしい夜をすごせたことに、まずお礼申し上げる」

 会場から拍手がおくられる。

「今宵は、教国において、はじめて、帝国の皇帝陛下をおむかえしての舞踏会となった」

 さらに大きな拍手。

 領主が、はじめて、の部分をやたらと強調していた。

 自慢でしょうね。

 帝国の皇帝が、どんな催し物にも滅多に姿をあらわさないのは教国でもよく知られている。それが国の主催ではなく、領主のひらく舞踏会に姿をあらわしたのだから、鼻が高いだろう。

 領主がイギリスに近づいて、うやうやしく礼をし、言った。

「イギリス皇帝陛下、もし、よろしければ、ひとつお言葉をいただければと思うのですが」

「いいだろう」

 イギリスは、相変わらず尊大な態度でそう言った。
 そしてフランスに手を差し出す。

 いよいよね。

 イギリスの手をとって、観覧席の中央にイギリスと並んで立つ。

 会場中の目が、こちらを向いているのが見えた。

 あら、いい気分ね。
 だまっている貴族たちに見上げられるのは。

 フランスは、悪女らしく、イギリスの様子をまねて尊大に見えるよう注意して立った。かなり、楽しみながら。

 イギリスがよく通る声で言う。

「まずは、礼を言おう。教国のもてなしは、実に素晴らしく、時間を忘れておどるほどだった」

 会場から、くすくすとひかえめにだが笑う声が聞こえる。
 みんな、あの、とんでもない踊りを思い出しているんだろう。

 イギリスは、無表情につづけた。

「わたしが、こういった場にも、式典にも、なかなか姿をあらわさないのは、きみたちもよく知るところだろう。表に出てこない理由は、簡単だ。そうする必要がないからだ」

 会場から、ひそひそと小さなざわめきが聞こえる。

 なにを言うつもりかしら。

「だれも、わたしを殺すことも、打ち倒すこともできない。この三百年、だれも、傷ひとつつけることはできなかった。きみたちが、わたしの力をどういう風に想像しているかは知らないが、わたしがのぞめば、この身一つで国を手に入れることもできる」

 会場中が、しんとした。
 イギリスの声だけが、はっきりと響く。

「きみたちの中にも目にしたものがいるだろう。わたしの竜の姿を。そうしようと思えば、この城を一瞬で塵のようにすることもできる。わたしは——、だれにもおもねる必要がない」

 大勢の人間がいるのに、異様な静けさだった。

「今日、招待に応じた理由はひとつだ。きみたち、教国の人間に言っておきたいことがあった」

 どうやって言うつもりかしら。
 このとんでもない空気の中で。

「きみたちもよく知っているように、わたしは、聖女フランスのもとで主の愛について学んでいる。そのせいか、最近、聖女の回りでうるさくするものもいるようだ」

 イギリスが会場中をゆっくりと見回すようにした。
 そして、舞踏会の最初にも言ったことを、あらためて、ゆっくりと言った。

 笑顔だったが、なぜかぞっとするようなおそろしい顔で。

「わたしは、自分の気に入っているものを、軽く扱われるのは嫌いだ」

 イギリスが、あらためて尊大な雰囲気で、笑顔を消し言い放った。

「帝国の皇帝であるわたしが、ここに宣言する。これ以降、聖女フランスに対する不当な扱いや傷つけるような行為は、すべて帝国の皇帝に同じ行為をしたとみなす。帝国の竜に八つ裂きにされたいものだけが、聖女に石をなげてみせよ」

 イギリスがフランスに笑顔を向けて言った。

「先生、もしこの場に、失礼を働いたものがいるのなら、どうぞ教えてください。今、この場で、あなたのために、その者をかみ砕いてご覧に入れます」

 フランスも。イギリスに笑顔を向けて言った。

「あら、そう言えば、何人か、教会にわざわざおいでくださった方の顔を、さきほど見ました」

「どこですか、先生。指し示してくだされば、わたしが捕まえてまいります」

 会場から、いそいそと逃げるようにする男の姿が、ちらっと見えた。
 フランスのことを触ろうとした男たちだ。

 生きた心地がしないでしょうね。

 フランスはくすっと笑って言った。

「彼らにも、主の愛を。今までのことは、水に流しましょう。素敵な舞踏会をひらいてくださった領主様に免じて」

 そう言って、ちらりと領主に視線をやると、領主が大げさに、はははと笑ってから、大きな声で言った。

「聖女フランス様の言う通りです。主の愛を。イギリス皇帝陛下、お言葉をありがとうございました。音楽を!」

 音楽隊が、領主の急かすような手振りに急いで音楽をかなでる。
 陽気な音楽を。

 フランスは、にっこりとイギリスを見上げて言った。

「帰りましょうか」

「先生の、のぞむままに」

 まだ言うのね。
 もう誰も聞いていないのに。

 まだまだ舞踏会は続くようだったが、フランスたちは領主と奥方に挨拶をすませ、会場をあとにした。

 馬車に乗り込んで。ふかふかの座席に沈み込む。

 エスコートされたまま、フランスの隣にはイギリスが座り。向かいにはダラム卿とアミアンが座った。

 アミアンがにっこりして言う。

「陛下、こわくて、かっこよかったです!」

 イギリスが気分の良さそうな顔をした。

「それに、悪女ではなく、ちゃんと聖女でした!」

 アミアンの言葉に、フランスもにっこりして言った。

「そうね! 陛下のおかげで、なんだか悪女な扱いじゃなかったわ」

 ダラム卿も、笑顔で言う。

「町での騒動も、このうわさが広まればおさまるでしょう。何と言っても、町の人間は陛下の竜の姿を直接見ているわけですし」

 イギリスがフランスをじっと見て言った。

「ともだち」

「あ」

 陛下って言ったから?
 毎回、指摘してくれるのかしら。

 フランスは笑って言った。

「イギリスのおかげね」

「どういたしまして、フランス」

 アミアンとダラム卿が驚いた後、ふたりで顔を見合わせるみたいにした。


 フランスはおかしくなって笑った。




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