179 / 205
第179話 酒を手に入れろ
しおりを挟む
フランスは広場でのひと騒動を終えて、自分の部屋に戻った。
アミアンとイギリスとダラム卿も一緒だ。
やれやれ。
なんだか、ぐっと疲れたわ。
すると、すぐにブールジュが部屋に飛び込んできた。
ブールジュが大股でフランスに近づき言う。
「フランス、あんたもう一泊していきなさいよ」
「え、そんなことできる?」
「大丈夫、大丈夫。今回の騒動があったから、式典参加者はそれぞれ護衛を増やして、分散して帰ることになったみたい。一度に出発すれば混乱が起きるから、今日発つものと、明日発つものとにわかれるのよ」
「そうなんだ」
ブールジュがてきぱきと言う。
「あんたの名前は、勝手に明日発つほうに変えといたわ」
「え」
「皇帝陛下のもね」
「えっ」
すごい。
なんて、強引な……。
ブールジュはけろっとした顔でつづけた。
「いいでしょ? あんたの教会にはもう早馬も送っておいたわ。帰りが遅れるってね」
「ええっ」
手際が良すぎる。
さらに、ブールジュがつづける。
「それに、あんたのとこの護衛騎士も、診療所に様子を見に行かせたけど、今日一日は安静にした方がいいみたいだったわ」
「えっ!」
そんなところにまで気を配ってくれていたなんて。
とんでもないというか、ありがたいというか。
ブールジュが、てきぱきと言う。
「護衛騎士の子、若いみたいだったし、心配しているかもしれないから、おしゃべりの侍女を使いにやらせたわ。多分こっちの状況なんか全部お喋りしたおしてきてくれるから、安心して」
フランスは、あまりの手際の良さと勢いに、気おされながら答えた。
「あ……あぁ、う、うん、ありがとうブールジュ。何から何まで」
「何言ってるのよ。それよりわたしたち、滅多にないお泊まりの機会よ。やるべきことがあるわ」
やるべきこと……。
本気?
フランスがうかがうようにブールジュと目を合わせると、ブールジュが、当たり前でしょ、みたいな視線を返してくる。
フランスはうなずいた。
そっか。
騒動で、だいぶ様子がおかしくなったけれど、やるべきことは、できるなら、しておかないとね。もう無理かと思っていたけれど、これはチャンスかもしれない。
ブールジュと、お泊りするほど長い時間一緒にいられるなんて、今後どれほどあるか分からない。
もう、二度とないかも……。
大司教ほどの座に着けば、聖女としての仕事以上に、ブールジュは忙しくなる。
後悔しないためにも。
やらなきゃならないことがある!
二人で、手をがっちり握りあってうなずきあう。
近くで様子を見ていたアミアンが、面白がっていそうな声で「おお、はじまりましたね」と言った。
そうよ、はじめないとね。
フランスとブールジュの力強い言葉が重なる。
「飲み会よ!」
「飲み会よ!」
ブールジュは、言うことは言ったとばかりに、手をはなし、扉にむかいながら言う。
「じゃあ、わたし、まだ片付けることあるから、行くわ。夕食が終わったころに来るからね!」
そのまま返事もきかずに、出ていってしまった。
フランスは、息を吸い込んでから、イギリスの方を見た。
「なんだか、ごめんなさい。勝手に、いろいろ……、あんな感じで……」
ダラム卿がくすくす笑いながら言った。
「いいんじゃないですか。城内の護衛も今や、ネズミ一匹自由に出入りできなさそうな雰囲気ですし。もともと、帰りの日程は余裕を持たせていましたから、問題ありません。それに、実はブールジュ聖女から事前に確認をいただいておりました」
いつのまに……。
フランスはほっとして、あらためてイギリスを見た。
イギリスもうなずいて言う。
「いちいち襲われたのを気にしていたら何もできない。好きにしろ」
*
夕食が終わったころ、予告通り、ブールジュがフランスの部屋にやってきた。
「わたしの部屋に、つまめるものを用意させたから、そっちで飲みましょ」
フランスがうなずいて立ち上がると、ブールジュがまわりに目をやって言う。
「イギリス陛下とダラム卿も、ご一緒にいかがですか? 人数分用意させたのですが」
ダラム卿がにっこりと答える。
「お誘いいただけるとは光栄です。ぜひ、ご一緒させてください。陛下も。ね?」
ダラム卿にふられて、イギリスがうなずく。
ブールジュがアミアンに、笑顔を向けて言った。
「あんたは、もちろん来るのよ」
「もちろん、行きます」
ブールジュとふたりで飲むと思っていたのに、これは大所帯ね。
楽しみ。
みんなで、ブールジュのあとについてゆく。
ブールジュがどんどん迷いなく進んでいくが、どうも様子がおかしい。入り組んだ城の中を、どんどん降りてゆく。
これ、もう地下じゃない?
「ブールジュ、あなたの部屋、地下にあるの?」
「ばかね、そんなわけないでしょ」
「じゃあ一体どこに向かっているのよ」
「酒をとりにいくのよ」
「酒を? つまみは用意させたのに、酒は自分で取りに行くのね」
変なの。
ブールジュが、フランスのほうにニヤリとした悪そうな顔を向けて言った。
「使用人たちが勝手に持ち出したら、処罰ものだからね。お父様の隠している、良い酒」
フランスは思わず。大きめの声で言った。
「えっ‼ 盗むの⁉」
ブールジュが、嬉しそうな顔をした。
悪魔みたいな顔つきで。
うそでしょ。
帝国の皇帝まで引き連れて、今から盗みを働くの⁉
アミアンとイギリスとダラム卿も一緒だ。
やれやれ。
なんだか、ぐっと疲れたわ。
すると、すぐにブールジュが部屋に飛び込んできた。
ブールジュが大股でフランスに近づき言う。
「フランス、あんたもう一泊していきなさいよ」
「え、そんなことできる?」
「大丈夫、大丈夫。今回の騒動があったから、式典参加者はそれぞれ護衛を増やして、分散して帰ることになったみたい。一度に出発すれば混乱が起きるから、今日発つものと、明日発つものとにわかれるのよ」
「そうなんだ」
ブールジュがてきぱきと言う。
「あんたの名前は、勝手に明日発つほうに変えといたわ」
「え」
「皇帝陛下のもね」
「えっ」
すごい。
なんて、強引な……。
ブールジュはけろっとした顔でつづけた。
「いいでしょ? あんたの教会にはもう早馬も送っておいたわ。帰りが遅れるってね」
「ええっ」
手際が良すぎる。
さらに、ブールジュがつづける。
「それに、あんたのとこの護衛騎士も、診療所に様子を見に行かせたけど、今日一日は安静にした方がいいみたいだったわ」
「えっ!」
そんなところにまで気を配ってくれていたなんて。
とんでもないというか、ありがたいというか。
ブールジュが、てきぱきと言う。
「護衛騎士の子、若いみたいだったし、心配しているかもしれないから、おしゃべりの侍女を使いにやらせたわ。多分こっちの状況なんか全部お喋りしたおしてきてくれるから、安心して」
フランスは、あまりの手際の良さと勢いに、気おされながら答えた。
「あ……あぁ、う、うん、ありがとうブールジュ。何から何まで」
「何言ってるのよ。それよりわたしたち、滅多にないお泊まりの機会よ。やるべきことがあるわ」
やるべきこと……。
本気?
フランスがうかがうようにブールジュと目を合わせると、ブールジュが、当たり前でしょ、みたいな視線を返してくる。
フランスはうなずいた。
そっか。
騒動で、だいぶ様子がおかしくなったけれど、やるべきことは、できるなら、しておかないとね。もう無理かと思っていたけれど、これはチャンスかもしれない。
ブールジュと、お泊りするほど長い時間一緒にいられるなんて、今後どれほどあるか分からない。
もう、二度とないかも……。
大司教ほどの座に着けば、聖女としての仕事以上に、ブールジュは忙しくなる。
後悔しないためにも。
やらなきゃならないことがある!
二人で、手をがっちり握りあってうなずきあう。
近くで様子を見ていたアミアンが、面白がっていそうな声で「おお、はじまりましたね」と言った。
そうよ、はじめないとね。
フランスとブールジュの力強い言葉が重なる。
「飲み会よ!」
「飲み会よ!」
ブールジュは、言うことは言ったとばかりに、手をはなし、扉にむかいながら言う。
「じゃあ、わたし、まだ片付けることあるから、行くわ。夕食が終わったころに来るからね!」
そのまま返事もきかずに、出ていってしまった。
フランスは、息を吸い込んでから、イギリスの方を見た。
「なんだか、ごめんなさい。勝手に、いろいろ……、あんな感じで……」
ダラム卿がくすくす笑いながら言った。
「いいんじゃないですか。城内の護衛も今や、ネズミ一匹自由に出入りできなさそうな雰囲気ですし。もともと、帰りの日程は余裕を持たせていましたから、問題ありません。それに、実はブールジュ聖女から事前に確認をいただいておりました」
いつのまに……。
フランスはほっとして、あらためてイギリスを見た。
イギリスもうなずいて言う。
「いちいち襲われたのを気にしていたら何もできない。好きにしろ」
*
夕食が終わったころ、予告通り、ブールジュがフランスの部屋にやってきた。
「わたしの部屋に、つまめるものを用意させたから、そっちで飲みましょ」
フランスがうなずいて立ち上がると、ブールジュがまわりに目をやって言う。
「イギリス陛下とダラム卿も、ご一緒にいかがですか? 人数分用意させたのですが」
ダラム卿がにっこりと答える。
「お誘いいただけるとは光栄です。ぜひ、ご一緒させてください。陛下も。ね?」
ダラム卿にふられて、イギリスがうなずく。
ブールジュがアミアンに、笑顔を向けて言った。
「あんたは、もちろん来るのよ」
「もちろん、行きます」
ブールジュとふたりで飲むと思っていたのに、これは大所帯ね。
楽しみ。
みんなで、ブールジュのあとについてゆく。
ブールジュがどんどん迷いなく進んでいくが、どうも様子がおかしい。入り組んだ城の中を、どんどん降りてゆく。
これ、もう地下じゃない?
「ブールジュ、あなたの部屋、地下にあるの?」
「ばかね、そんなわけないでしょ」
「じゃあ一体どこに向かっているのよ」
「酒をとりにいくのよ」
「酒を? つまみは用意させたのに、酒は自分で取りに行くのね」
変なの。
ブールジュが、フランスのほうにニヤリとした悪そうな顔を向けて言った。
「使用人たちが勝手に持ち出したら、処罰ものだからね。お父様の隠している、良い酒」
フランスは思わず。大きめの声で言った。
「えっ‼ 盗むの⁉」
ブールジュが、嬉しそうな顔をした。
悪魔みたいな顔つきで。
うそでしょ。
帝国の皇帝まで引き連れて、今から盗みを働くの⁉
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
引きこもり聖女は祈らない
鷹 綾
恋愛
内容紹介
聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。
人と話すことができず、部屋から出ることもできず、
彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。
「西の街道でがけ崩れが起きます」
「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」
祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。
その存在は次第に「役立たず」と見なされ、
王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。
──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。
天候不順、嵐、洪水、冷害。
新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。
誰もが気づかぬまま、
「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。
扉の向こうで静かに生きる少女と、
毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。
失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。
これは、
祈らない聖女が選んだ、
誰にも支配されない静かな結末の物語。
『引きこもり聖女は祈らない』
ざまぁは声高でなく、
救いは奇跡ではなく、
その扉の向こうに、確かにあった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる