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第202話 おわかれ
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フランスは、落ち着かない気持ちで、執務室の窓を見つめた。すっかりお茶を飲んでいる間に、日も暮れ始めた。
執務室で、イギリスとふたり、長椅子に並んで座っているだけで、たいした話もしなかった。イギリスは、お茶もたいして飲まずに、ずっとフランスにくっついている。
もう最後なんだから、色々話せばいいのに、と思うけれど、こんな時に限って、なにも話すことが見つからないような気がした。
それに、さっきアキテーヌで、なんだか、湿っぽい感じになったし……。
ちょっと恥ずかしいような感じもする。
とりあえず、教会のみんなの様子は明日確認すればいいし。
残る問題は……。
フランスは、がっちり腕をまわしてくっついているイギリスの腕をたたいて言った。
「ねえ、ずっとその恰好で、腰がおかしくなっちゃわない?」
「ならない」
「……」
「……」
フランスは腰に回されている、イギリスの手の甲の、男らしい形をなぞりながら言った。
「ねえ」
「なんだ」
「アミアン、帰ってこないわね」
「あぁ……、そういえばそうだな」
イギリスが、まるで今気づいた、みたいに言った。
二人で顔を見合わせる。
あっちのふたりも、こんな感じになっていたりして。
え。
そうなのかな……。
だとしたら、どうなっちゃうのかしら。
アミアン、帝国に連れ去られちゃっていたら、どうしよう。
不安になってきた。
いや、そんなことないわよね。
多分……。
フランスは、気分を変えて言った。
「イギリス、あなたが帰る前に、一緒に散歩しましょ」
イギリスが、しょんぼりしたままうなずく。
皮肉もなにも言えなくなっちゃったのね。
とりあえず、元気づけようと、笑顔でつやつやの髪をなでなでしておく。
ふたりで、執務室を出て、なんとなく教会の裏の天幕に向かう。
あら、もうないと思っていたのに、天幕はそのままね。
「これ、そのままにしたの?」
「天幕はこのまま置いてゆく。何かに使えるだろう?」
「わ、ありがとう。いいわね。何に使おうかしら。立派な天幕だもの、色々と使えそうね」
「それと、騎士団も一部おいてゆく」
「へえ」
フランスはちょっとの間、考えてから勢いよくイギリスに顔を向けて言った。
「えっ! 騎士団を⁉」
「ああ、これはシャルトルにも、言ってある」
「い……いつのまに」
「あの西方での尋問の前に、そういう話をしていた」
そうだったんだ……。
よく聖下がゆるしたわね。
あ、でも、教会の護衛の資金を帝国が出すってことだから、教国としては困らないか。大した人数でもないだろうし。
フランスは、ひとつ心配になって言った。
「でも、帝国に家族がいる人たちも多いんじゃない?」
「今回残すのは、自らそれを望んだ者たちだ。まあ、若い連中は色々あるらしい……」
「あ……」
若い騎士たち、女性陣からキャーキャー言われていたものね。
え、くっついた人たちもいるのかしら。
なんだか……、どこもかしこもね……。
フランスは思わず笑った。
「なぜ、笑う」
「みんな、似たようなものね、と思って」
イギリスも小さく笑った。
ひとが誰かに惹かれるのは、とっても、自然なことのように思える。それに、だれか一人に、特別思いを傾けて、側にいたいと願うことは、素敵なことのようにも思えた。純粋で複雑な想いがそこにはある。
聖女にとっては、罪でしょうか、主よ。
これは、あなたの愛とは、異なるものでしょうか。
ふたりで、天幕を通り過ぎて、古い石垣の上に座って、教会を眺める。
フランスは、できるだけ明るい声で言った。
「イギリス、色々とありがとう。気をつけて、帰ってね」
イギリスが拗ねたみたいな顔で言う。
「きみは、ちっとも寂しそうじゃない」
「あら、寂しいわ。でも、おわかれは笑顔がいいもの。これで最後ってわけじゃないでしょ。それに、これからも入れかわって、あなたは午前中ここで過ごすんだし」
イギリスが、しばらくフランスをじっと見つめてから言った。
「あのネックレス、今もつけているのか?」
「つけているわ」
「見せてくれ」
フランスが服の中から鎖をひっぱってネックレスを取り出すと、イギリスが何かを握りしめて差し出した。
「何?」
フランスが首をかしげて聞くと、イギリスが手をひらく。
彼のてのひらには、フランスが首につけているのと同じネックレスがあった。
フランスがイギリスの顔を見つめると、イギリスがすこし居心地悪そうにして言った。
「つけてくれないか?」
フランスはそっと受け取って、イギリスの首に腕をまわしてつけてあげた。
「おそろいね。あの時、もうひとつ買っていたの?」
イギリスがうなずいて言う。
「こうすれば、どちらの姿でも、身につけていられるだろ」
フランスは、笑顔で言った。
「そうね。あなたにも、とっても似合うわ」
イギリスの瞳が、まっすぐにフランスのことを見つめていた。
「遠くにいても、心はきみのもとに」
イギリスはそう言ってから、フランスをぎゅっと抱きしめて、ともだちのキスをしたあと、ひとりで立ち上がり、フランスから離れた。
彼の姿が、人から赤い竜の姿に変わる。
赤い竜は、大きく美しい瞳を、一度フランスに投げかけてから、飛び去った。
暮れてゆく空に、赤い竜の姿が見えなくなるまで、フランスは見送った。
執務室で、イギリスとふたり、長椅子に並んで座っているだけで、たいした話もしなかった。イギリスは、お茶もたいして飲まずに、ずっとフランスにくっついている。
もう最後なんだから、色々話せばいいのに、と思うけれど、こんな時に限って、なにも話すことが見つからないような気がした。
それに、さっきアキテーヌで、なんだか、湿っぽい感じになったし……。
ちょっと恥ずかしいような感じもする。
とりあえず、教会のみんなの様子は明日確認すればいいし。
残る問題は……。
フランスは、がっちり腕をまわしてくっついているイギリスの腕をたたいて言った。
「ねえ、ずっとその恰好で、腰がおかしくなっちゃわない?」
「ならない」
「……」
「……」
フランスは腰に回されている、イギリスの手の甲の、男らしい形をなぞりながら言った。
「ねえ」
「なんだ」
「アミアン、帰ってこないわね」
「あぁ……、そういえばそうだな」
イギリスが、まるで今気づいた、みたいに言った。
二人で顔を見合わせる。
あっちのふたりも、こんな感じになっていたりして。
え。
そうなのかな……。
だとしたら、どうなっちゃうのかしら。
アミアン、帝国に連れ去られちゃっていたら、どうしよう。
不安になってきた。
いや、そんなことないわよね。
多分……。
フランスは、気分を変えて言った。
「イギリス、あなたが帰る前に、一緒に散歩しましょ」
イギリスが、しょんぼりしたままうなずく。
皮肉もなにも言えなくなっちゃったのね。
とりあえず、元気づけようと、笑顔でつやつやの髪をなでなでしておく。
ふたりで、執務室を出て、なんとなく教会の裏の天幕に向かう。
あら、もうないと思っていたのに、天幕はそのままね。
「これ、そのままにしたの?」
「天幕はこのまま置いてゆく。何かに使えるだろう?」
「わ、ありがとう。いいわね。何に使おうかしら。立派な天幕だもの、色々と使えそうね」
「それと、騎士団も一部おいてゆく」
「へえ」
フランスはちょっとの間、考えてから勢いよくイギリスに顔を向けて言った。
「えっ! 騎士団を⁉」
「ああ、これはシャルトルにも、言ってある」
「い……いつのまに」
「あの西方での尋問の前に、そういう話をしていた」
そうだったんだ……。
よく聖下がゆるしたわね。
あ、でも、教会の護衛の資金を帝国が出すってことだから、教国としては困らないか。大した人数でもないだろうし。
フランスは、ひとつ心配になって言った。
「でも、帝国に家族がいる人たちも多いんじゃない?」
「今回残すのは、自らそれを望んだ者たちだ。まあ、若い連中は色々あるらしい……」
「あ……」
若い騎士たち、女性陣からキャーキャー言われていたものね。
え、くっついた人たちもいるのかしら。
なんだか……、どこもかしこもね……。
フランスは思わず笑った。
「なぜ、笑う」
「みんな、似たようなものね、と思って」
イギリスも小さく笑った。
ひとが誰かに惹かれるのは、とっても、自然なことのように思える。それに、だれか一人に、特別思いを傾けて、側にいたいと願うことは、素敵なことのようにも思えた。純粋で複雑な想いがそこにはある。
聖女にとっては、罪でしょうか、主よ。
これは、あなたの愛とは、異なるものでしょうか。
ふたりで、天幕を通り過ぎて、古い石垣の上に座って、教会を眺める。
フランスは、できるだけ明るい声で言った。
「イギリス、色々とありがとう。気をつけて、帰ってね」
イギリスが拗ねたみたいな顔で言う。
「きみは、ちっとも寂しそうじゃない」
「あら、寂しいわ。でも、おわかれは笑顔がいいもの。これで最後ってわけじゃないでしょ。それに、これからも入れかわって、あなたは午前中ここで過ごすんだし」
イギリスが、しばらくフランスをじっと見つめてから言った。
「あのネックレス、今もつけているのか?」
「つけているわ」
「見せてくれ」
フランスが服の中から鎖をひっぱってネックレスを取り出すと、イギリスが何かを握りしめて差し出した。
「何?」
フランスが首をかしげて聞くと、イギリスが手をひらく。
彼のてのひらには、フランスが首につけているのと同じネックレスがあった。
フランスがイギリスの顔を見つめると、イギリスがすこし居心地悪そうにして言った。
「つけてくれないか?」
フランスはそっと受け取って、イギリスの首に腕をまわしてつけてあげた。
「おそろいね。あの時、もうひとつ買っていたの?」
イギリスがうなずいて言う。
「こうすれば、どちらの姿でも、身につけていられるだろ」
フランスは、笑顔で言った。
「そうね。あなたにも、とっても似合うわ」
イギリスの瞳が、まっすぐにフランスのことを見つめていた。
「遠くにいても、心はきみのもとに」
イギリスはそう言ってから、フランスをぎゅっと抱きしめて、ともだちのキスをしたあと、ひとりで立ち上がり、フランスから離れた。
彼の姿が、人から赤い竜の姿に変わる。
赤い竜は、大きく美しい瞳を、一度フランスに投げかけてから、飛び去った。
暮れてゆく空に、赤い竜の姿が見えなくなるまで、フランスは見送った。
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