羊の王は悪魔を装い子羊を溺愛する

yu-kie

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8<王の新しい姿>③長文

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 サリアは、初めての慰問で孤児院に来た際、子どもたちにもてなされたため、お返しがしたいと考え、リアシア邸の料理長に教わり焼きドーナツを沢山作り持ってきた。

   ※

 ジルコの一件に始まりサリアは出かける先々で攫われかけていた。そのためサリアを心配するラーズの監視が厳重に。

 以前、孤児院へ王の婚約者として慰問に行き、騒動があったりもしたが、この時子供達にもてなしてもらった事がサリアには貴重な体験だったため、お礼がしがしたいと思っても、国王の許可が必要だった。

 ラーズに会うのも簡単には行かず、ようやく会って相談をしてみれば、孤児院にはジルコがいるから心配だと、ラーズの予定の空いた日に一緒に行く条件で許可が出た。

 国王が多忙なため、サリアは、たまにしか一緒に出かけることがない。だからこの日を楽しみにしていた。

 恋しいラーズとの間にある、遠く感じる距離に…サリアは焦りを感じていた。

(今は…周りに薦められてできた形だけの婚約者。ラーズ様は真面目だから忠実に婚約者に優しくしてくださってるだけ。なんとか、この距離を縮めたい。ラーズ様の同行が条件で、孤児院に行く許可をもらったのだから、この機会にラーズ様をもっと知って、私のことも知ってもらいましょう。)

 約束の日、リアシア邸にラーズは馬車で迎えに来た。サリアは篭を抱きしめ、ラーズに導かれて馬車に乗り込み、デートは始まったかと思われた。

 馬車が孤児院に到着すると、併設された教会近くで何やら険悪なムードのジルコと、数名のマントの人がめについた。

「あんな場所で痴話喧嘩か?いや…彼らから魔力を感じる。こんな場所で騒ぎを起こすかもしれない。」
「ラーズ様、大丈夫かしら?」
「サリア、危ないから後からおいで、彼らと話をしてくるよ。」
「一緒に…」
「駄目だよ、危ない。侍従に荷物は持たせて。」

 ラーズは急ぐように馬車を降り先を急いだ。この場所で闘いを始めれば子供たちや教会を出てきた人達を巻き込んでしまう。そんな思いからだった。

    ※

 馬車に残されたサリアは、篭はラーズが持ってくれると僅かに期待をしていた。サリアの予定では一緒に仲良く~そんな事を考えていたのだが、気がつけばあっと言う間にラーズははるか先にいた。慌てるように馬車を降りたサリアは侍従を待たずに重たい篭を抱えて小走りに進んだ。

「追いかけなきゃ!」

 サリアは篭は自分で持ってゆこうと決めた。ある意味、むきになっていたのかもしれない。

「ラーズ様!急に居なくならないでください。」

 ラーズに追いついたサリアは息を切らしながら訴えるとラーズはサリアに優しく語りかけた。

「サリア、彼らは私に用があるようだ…悪いが先に教会に。いいね?」
「…はい。」

 サリアは渋々コクリと首を小さく縦に振り、侍従が荷物を持とうとするのを断ると、目の前のジルコと冒険者達に笑みを向けドレスの裾を摘み上品にお辞儀をして、先を急ぐように教会へと向かった。

 教会に入り、振り返ると、ラーズがいたはずの場所には誰もいなくなっていて、サリアは以前孤児院でラーズが結界を張ったときの事を思い出した。

(ラーズ様、分身と融合して闘ってるのかしら。黒いおっきなもふもふになってるの?ラーズ様の雄姿~!!闘ってる姿はダークな感じで素敵なの!見れないなんて!)

 サリアは唄の練習が途切れたところで子供達にドーナツの入った篭をそのままプレゼントした。

「先日は素敵な歓迎会をありがとうございました。私からささやかなお礼です。」
「「リアシア様!このあと孤児院に来てください!」」

 サリアは、笑顔を向けると謝罪した。

「国王陛下様と来たのですが急用ができて…今日はこれで失礼します。練習頑張って。また唄を聴かせてくださいね。」
「「はーい!」」

 サリアは、子供達と別れて教会をでると、ラーズ達が消えた場所に立ち、心を落ち着かせ、手を合わせて祈り始め…サリアの周辺の時空が歪み、侍従の前からサリアは消えた。

 サリアは結界の中に侵入を成功させると、思ったとうり、黒い羊と融合したラーズがいた。

 サリアは興奮し子羊になり、幻獣使いや勇者を蹴散らす黒い羊のラーズの姿にドキドキ。するとサリアに気づいたラーズは足を止めた。

「サリア。来たのか?」
「大丈夫です。邪魔せず隅っこで見守るだけですから。ところで…ラーズ様、そこにいらっしゃる方々の中によく知る方がいるように思えるのですが?」

 サリアはちょうど勇者一行とラーズの間に佇んでおり、サリアは勇者一行を何度か振り返っては、羊の角を生やした壮年を見て、ラーズに訪ねた。

「サリア覚えているのか?」
「やっぱりそうなのですね?ラーズ様に会いにゆく時に私を攫った方ですよね?私を魔獣の餌にしようとして魔獣の森に捨てられた時に、ラーズ様とお父様が助けに来てくださった。」

 サリアの思い出すように出る言葉に、勇者達は中断した戦いを続行する気にはなれなくなった。

「ナギ・ランキュリ殿、これはどうゆうことですか?」
「「「ランキュリ!」」」

 ランキュリは傷だらけの勇者たちに囲まれ口をパクパクさせ地面に膝を付いて叫んだ。

「くそ~!」

 結界は解かれ、ラーズも分身から開放され黒い羊は置物のように隣に佇み、やがて消えた。

 サリアも興奮がさめて人間の姿に戻り、ラーズは離さないようにサリアを抱きしめ髪を撫でた。

 いくら黒く立派な角を持つ冷徹に見える王でも、婚約者を前にして幸せそうに微笑むその様子に誰も悪魔の王様だとは思えなかった。

 そして、悲劇のヒロインと思われていた婚約者の国王を慕い笑顔を向ける様子を前に、勇者達は互いの顔をみて合図を送ると、同時に地面に膝をつき、深々と頭を下げた。

「この度の数々のご無礼!お詫び申し上げます!噂に踊らされた愚かな我々をどうか罰してください!」

 勇者を筆頭に彼らは次々に謝罪の言葉を述べた。

「そうだな…君たちは騙されただけだ。ナギ・ランキュリは重罪だが、聞いても良いか?」
「はい。」
「ランキュリとはどこで会ったのか教えてほしい。」
「実は…」

 勇者は今に至るまでを細かく話すと、ラーズは一つ思いついたように勇者達に提案をした。

「今からランキュリの裁きを下す。ランキュリ、目を瞑れ。」
「くっ。」
「早くしろ!」

 ラーズの前には侍従により地面に体を押し付けられたランキュリが悔しそうに目を瞑った。

 ゴキッ!

 サリアはジルコに背後から両目を手で覆われて見えない状態になり、鈍い音が響き渡り、サリアが視界を開放されると、そこには角をなくしたランキュリの姿があり、ラーズは「勇者、」そう呼びかけ切断した2本の角を勇者に投げると、勇者は顔を上げ飛んできた角をキャッチした。

「魔王は角を折られ退治された。魔王の呪いから国王は開放された。という設定だ。」
「ラーズ様設定好きですね。」

 サリアはラーズの側で笑みを向け、勇者はその設定を了承した。

「なるほど。でも、ランキュリの仲間はまだ国に…」
「大丈夫だ。奴らなら誰の角かわかるはず。この先同じことをしないように…抑止力になるだろう。」
「わかりました。」
「ランキュリはこちらで預かる。あちらにはランキュリは旅の途中で命を落とした事に」
「わかりました。姫様の言うように設定がお好きなようですね。」

 こうして勇者達は旅立つた。そして彼らはこの国を帰る途中に寄った宿で酔った勢いで言葉をこぼした。

「この国の王は設定を楽しんでいる優しい王ではないか。」と。

   ※

 この時期から、悪魔の王の噂話は少しずつ薄れ婚約者を溺愛する優しい王様と言われ始める。
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