羊の王は悪魔を装い子羊を溺愛する

yu-kie

文字の大きさ
9 / 11

9<子羊の嫁入り>①

しおりを挟む

 今日サリアはラーズに誘われて国立美術館に向かう馬車の中にいた。

 サリアはラーズと向かい合う馬車に揺られながら数日前のことを思い出していた。

   ※

 サリアは許可を得て、ある日城に来るとラーズの執務室を訪ねた。

「それでは、よろしくお願いいたします。」

 執務室の扉が開き、部屋から出てきたのは、サリアより少し年上のブラウンの長い髪の魔導師の服を着た女性だった。

(だっ誰?)

 同族に思えるその女性はブラウンの巻髪を靡かせ部屋から現れると、扉前に佇むサリアに優雅にお辞儀をした。

「国王陛下の婚約者様ですね?私は魔導師長のイリザ・ベルクと申します。さあ、陛下がお待ちです。どうぞこちらへ。」

 イリザは見た目とは違い、サリアに接する態度は紳士的で、女なのに『カッコイイ』オーラが滲みでていた。

 彼女は扉を開けたまま、サリアの手を取り室内へと誘導する中、サリアは同性なのに手に触れた瞬間、おもわず意識して顔を紅くした。

 執務室内でその様子を目にしたラーズは不機嫌にイリザを睨むと、イリザはニヤリと小さく微笑んだ。

「女の私にまで敵意をむけるなんて。姫は陛下に溺愛されていますね。」
「そうなのかしら?」
「ええ、愛を囁かれているのではないですか?はぁ~素敵です。」
「愛をですか?」
「コホンッ!イリザは早く持ち場へ戻るよう。」

 イリザは頭を下げると扉を閉めて去っていった。執務室に残されたラーズとサリア。サリアは首を傾げ考えていた。

(私、溺愛されてなんか…守られている感はあるけれど…ラーズ様は私が婚約者だから守っているだけ…愛を囁くやんて…)

 サリアは扉の前で立ち止まり頭を抱えて混乱していた。

「ラーズ様。私…イリザさんの言葉は…どう判断すればよいのですか?婚約者だから…溺愛されてる設定なんですか?」

 (今まで設定が多くてワクワクしていたけれど…知らないところで私は愛を囁かれている設定になっていたのかしら、いつもは設定の前に相談があったのに…)

 ラーズは以前母から聞いた言葉を思い出した。

 〈母は父とは恋愛結婚。父からはプロポーズを受けたと…母は照れて詳しくは話さなかった。〉

 イリザの言う愛の囁きは、『愛しいイリア』それしか思い出せなかった。可愛がりはしているが彼女の本心を聞くのが怖くて…愛しあっているのか確認したことはなかった。

 自分の一目惚れすら告白していない。そのことを今更ながらに思い出していた。

「サリア、そんなことまで設定にはしない。私は初めて会った時から、君に一目惚れしていたんだよ?」
「嘘っ。」
「正直に話して欲しい。君の気持ちが知りたい。」

 サリアはずんずんと大股でラーズの真ん前に接近し、頬を膨らませてラーズを見上げた。

「私は最初からお慕いしています!ラーズ様ともっと接近したくて会いに来たり、お会いできる日を相談していましたよね?」

 サリアは困り顔のラーズから目を逸らしうつむくと、深い深呼吸をして、勢いよく見上げて叫んだ。

「ラーズ様の全てが大好きなんです!」

 次の瞬間サリアはポンッと効果音と同時に子羊になり、それでもなお、威嚇するように身構えていた。

「サリア。愛してます。これからは君との時間をもっと作る。今まで寂しいおもいをさせてすまなかった。」
「そんな。私はラーズ様が王様だからお忙しいのは理解しています。寂しかったけど…王様のお仕事を優先してください!でないとお父様に叱られます。」
「サリアは可愛いね。大丈夫だよ、仕事に手は抜かない。約束する。」

 ラーズはしゃがみ込むと足元の子羊のサリアを抱きしめ、その鼻先にキスをした。

 サリアのドキドキはなかなかやまず、しばらくラーズの腕の中で甘えるように胸に頭を擦り寄せた。

(嬉しい!ラーズ様と両思いなんて!ドキドキが止まらない。まだ子羊な私だけど…ラーズ様を独占できるならずっとこのまま抱きしめていて欲しい。)

 執務室でサリアを抱きしめるラーズは、知らぬ間に側近や宰相が現れたことに気が付かず、驚くと、宰相は嬉しそうに微笑見ながら発言した。

「何度もノックしましたよ。声もかけました。」
「あ、ああ。」

 ラーズはサリアを名残惜しそうに床に降ろした。

「サリア。王都に最近できた国立美術館に行こう。彼らとの話が終わったら仕事の予定がわかるから、椅子に座って待っていてくれるかな?」
「はい。」

 サリアはようやく気持ちが落ち着き、人間の姿にもどり椅子におとなしく座った。

   ※

 サリアは数日前に両思いだとわかり最初のデートとなるこの日、ようやく二人の関係は深まっていったのだった。

 そして、婚姻を結ぶまでの期間はスピードアップしてゆくことになる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

追放先で気づいた。この世界の精霊使いは全員、聞き方を間違えている~最安もふもふ白狐と始めた、問いかけの冒険~

Lihito
ファンタジー
精霊と暮らす世界で、ノエルはギルドを追い出された。処理ミスは誰より少ない。でも「やりづらい」の一言で、理由には足りた。 手元に残ったのは、最安で契約した手のひらサイズの白い子狐だけ。言葉はたどたどしいし、力もない。誰が見ても「使えない」と笑う精霊だ。 たどり着いた町では疫病が広がっていた。高額な精霊が三度探して見つからない薬草。ノエルは最弱の白狐と半日で見つけ出す。 力で勝ったんじゃない。聞く範囲を絞り、段階を分け、小さな鼻に合った問いを重ねただけ。 ——なぜこの世界では、誰も精霊への「聞き方」を知らないのか。 その違和感が、ノエルの旅を動かしていく。

処理中です...