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9<子羊の嫁入り>①
しおりを挟む今日サリアはラーズに誘われて国立美術館に向かう馬車の中にいた。
サリアはラーズと向かい合う馬車に揺られながら数日前のことを思い出していた。
※
サリアは許可を得て、ある日城に来るとラーズの執務室を訪ねた。
「それでは、よろしくお願いいたします。」
執務室の扉が開き、部屋から出てきたのは、サリアより少し年上のブラウンの長い髪の魔導師の服を着た女性だった。
(だっ誰?)
同族に思えるその女性はブラウンの巻髪を靡かせ部屋から現れると、扉前に佇むサリアに優雅にお辞儀をした。
「国王陛下の婚約者様ですね?私は魔導師長のイリザ・ベルクと申します。さあ、陛下がお待ちです。どうぞこちらへ。」
イリザは見た目とは違い、サリアに接する態度は紳士的で、女なのに『カッコイイ』オーラが滲みでていた。
彼女は扉を開けたまま、サリアの手を取り室内へと誘導する中、サリアは同性なのに手に触れた瞬間、おもわず意識して顔を紅くした。
執務室内でその様子を目にしたラーズは不機嫌にイリザを睨むと、イリザはニヤリと小さく微笑んだ。
「女の私にまで敵意をむけるなんて。姫は陛下に溺愛されていますね。」
「そうなのかしら?」
「ええ、愛を囁かれているのではないですか?はぁ~素敵です。」
「愛をですか?」
「コホンッ!イリザは早く持ち場へ戻るよう。」
イリザは頭を下げると扉を閉めて去っていった。執務室に残されたラーズとサリア。サリアは首を傾げ考えていた。
(私、溺愛されてなんか…守られている感はあるけれど…ラーズ様は私が婚約者だから守っているだけ…愛を囁くやんて…)
サリアは扉の前で立ち止まり頭を抱えて混乱していた。
「ラーズ様。私…イリザさんの言葉は…どう判断すればよいのですか?婚約者だから…溺愛されてる設定なんですか?」
(今まで設定が多くてワクワクしていたけれど…知らないところで私は愛を囁かれている設定になっていたのかしら、いつもは設定の前に相談があったのに…)
ラーズは以前母から聞いた言葉を思い出した。
〈母は父とは恋愛結婚。父からはプロポーズを受けたと…母は照れて詳しくは話さなかった。〉
イリザの言う愛の囁きは、『愛しいイリア』それしか思い出せなかった。可愛がりはしているが彼女の本心を聞くのが怖くて…愛しあっているのか確認したことはなかった。
自分の一目惚れすら告白していない。そのことを今更ながらに思い出していた。
「サリア、そんなことまで設定にはしない。私は初めて会った時から、君に一目惚れしていたんだよ?」
「嘘っ。」
「正直に話して欲しい。君の気持ちが知りたい。」
サリアはずんずんと大股でラーズの真ん前に接近し、頬を膨らませてラーズを見上げた。
「私は最初からお慕いしています!ラーズ様ともっと接近したくて会いに来たり、お会いできる日を相談していましたよね?」
サリアは困り顔のラーズから目を逸らしうつむくと、深い深呼吸をして、勢いよく見上げて叫んだ。
「ラーズ様の全てが大好きなんです!」
次の瞬間サリアはポンッと効果音と同時に子羊になり、それでもなお、威嚇するように身構えていた。
「サリア。愛してます。これからは君との時間をもっと作る。今まで寂しいおもいをさせてすまなかった。」
「そんな。私はラーズ様が王様だからお忙しいのは理解しています。寂しかったけど…王様のお仕事を優先してください!でないとお父様に叱られます。」
「サリアは可愛いね。大丈夫だよ、仕事に手は抜かない。約束する。」
ラーズはしゃがみ込むと足元の子羊のサリアを抱きしめ、その鼻先にキスをした。
サリアのドキドキはなかなかやまず、しばらくラーズの腕の中で甘えるように胸に頭を擦り寄せた。
(嬉しい!ラーズ様と両思いなんて!ドキドキが止まらない。まだ子羊な私だけど…ラーズ様を独占できるならずっとこのまま抱きしめていて欲しい。)
執務室でサリアを抱きしめるラーズは、知らぬ間に側近や宰相が現れたことに気が付かず、驚くと、宰相は嬉しそうに微笑見ながら発言した。
「何度もノックしましたよ。声もかけました。」
「あ、ああ。」
ラーズはサリアを名残惜しそうに床に降ろした。
「サリア。王都に最近できた国立美術館に行こう。彼らとの話が終わったら仕事の予定がわかるから、椅子に座って待っていてくれるかな?」
「はい。」
サリアはようやく気持ちが落ち着き、人間の姿にもどり椅子におとなしく座った。
※
サリアは数日前に両思いだとわかり最初のデートとなるこの日、ようやく二人の関係は深まっていったのだった。
そして、婚姻を結ぶまでの期間はスピードアップしてゆくことになる。
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