ケイコとマチコ、ときどきエリコ

Tro

文字の大きさ
5 / 37
#10 世界に吹く風(追跡編)

#10.1 憂える風

しおりを挟む
えー、ここは迷子救出本部になります。この本部の目的は、世界のどこかで泣いている迷子を助けだすことにあります。そして、そのために特別に設置された組織なのです。

では早速、その活動を覗いてみましょう。まずは迷子さんの紹介です。

友達を迎えに行ったまま行方不明となり、現在は世界のどこかを彷徨っていると推測される、自称「ケイコ」さんです。その「ケイコ」さんは右も左も西も東も分からないアホの子です。もし見かけた方がいらっしゃいましたら迷子救出本部までご連絡ください。友達のマチコさんが心配していますよ、では。



「ヨシコぉ、今、あの子のはどこにいるのよぉ」

迷子救出本部であるケイコの家で、捜索方針を練るマチコと相談役のヨシコです。そこでマチコが『わざわざ』ケイコを探している訳とは。

その前に、風の子シルフィードの便利な機能を説明しておきましょう。実はケイコに限らず、風の子シルフィードは『家に帰る』と思うだけで、どこに居ようとも家に帰ることが出来るのです、便利ですね。因みに『家』というのは、殆どが寝るだけの場所となっています。

では逆に家から外に出る時は、『何時もの場所』から外に出るか、『家に帰る』と思った場所に戻ることが出来ます。どちらを選ぶかは本人次第です。

ということで、陽が暮れるのを待てば、それぞれの家に帰って来ますので、どこに居ようとも会うことは出来るのです。それが今回の件では、外出後、一度も家に戻っていない、ということになります。

そう云えばケイコは夜に移動し、風に乗りながら寝込んでいました。よって、家に帰る、という行為をしていないので、家が空っぽのままということになります。しかし、そんな事情など知る由もないマチコです。

因みに、マチコが留守にしていた三日間、夜はスヤスヤと葉っぱベッドで眠ていたケイコですが、同時にマチコも自分の部屋で寝ていたのです。もしケイコが夜な夜な起きてマチコの部屋を覗くことがあったなら、そこにマチコの姿を確認できたことでしょう。

さて、話は戻って、マチコの問いに答えるヨシコです。

「そうくると思ってたさ。なんだかんだ言って、心配なんだね~あの子のことがさ~」

ヨシコの返答に難しい顔をするマチコです。そして、
「別にぃ、そういう訳じゃないわよぉ。私はねぇ、気が短いだけよ。どうせどっかで遊んでるだけなんだからぁ、全くぅ」と目を逸らしてしまいます。そんなマチコに、

「はいはい」と答えながら、何やら大きな紙を丸めたものを持ち出し、その端を掴むように催促するヨシコです。

「なによ、これぇ」とマチコが広げていくと、小さな黒板くらいの大きさになったでしょうか。

「地図さね」と、どこかエヘン顔のヨシコです。
「地図?」
「そう、今ケイコがいる場所が分かる便利な地図だよ」
「そうは言ってもねぇ、見えないわよぉ」

地図の端を持っているため見えにくいマチコです。それに何時も暗いケイコの家では尚更です。月明かりだけでボンヤリとしか見えません。

「注文の多い子だね~。じゃあ、手を離してもいいよ」と言っているヨシコは既に手を離していました。それを見たマチコは、

「もうぉ」と手を離しましたが、大きな地図は下に落ちることなく、プカプカと浮かんでいるのでした。しかしまだ暗くて、よく見えないマチコです。地図にグッと顔を近づけましたが、何が何だか、「ヨシコぉぉぉ」です。

「贅沢だね~。ほれ」

ヨシコが手を上げて指パッチンをすると、あら不思議。今まで夜だった景色が一転、昼間のように明るくなりました。これに、

「もうぉ、最初っからそうすればいいのにぃ」とホッとしたマチコに、また指パッチンで夜に戻してしまうヨシコです。「なんでよぉぉぉ」です。

「まあまあ、そう慌てなさんなって。ほれ、見てみれ」と地図を指差すヨシコです。それにウンザリするマチコが地図を見ると——あら不思議。地図の模様が輝き出し、ある一転が赤く点滅していました。そこがケイコの現在位置です。

「はあ? 何でこんなところに居るのよぉ」

マチコが不思議がるのも無理はありません。赤い点滅がマチコたちが居るところから、ずっと東の方にあったからです。それは則ち、逆の方向に移動していることを意味します。何故ならマチコが里帰りした都会は西の方にあるのです。

「さあ、どうしてでしょうね~。ちゃんと、西って教えたのにね~」

そうボヤくヨシコに、「だからよぉ。あの子に西だ東って言っても分かるわけないわよぉ」と嘆くマチコです。

「まあまあ、そこまでアホじゃないでしょう。ほれ、見てみなよ~」とヨシコが地図を指差すと、移動した軌跡が表示されました。「ほれ、最初はちゃんと西に向かってるじゃん」と、漁港から真っ直ぐ線が延びているのを指でなぞっていきます。そして、どんどん指を動かしていくと、急に反転、ドーンと東に向かって真っしぐらです。思はず「あれれ」と声が漏れてしまいました。そして「とにかく、今はここにいるのよー」と指で線を追ってくのを止めてしまったヨシコです。

「そうよねぇ。途中はどうあれ、今から行って追いつくかしら」と悩むマチコに、
「待ってれば、そのうち一周して戻ってくるよ。それに……」と何かを思いついたようなヨシコです。

「それに? で、なによぉ」
「ほら、ここが変なんだよえ。夜の間だけ異様に移動スピードが速いのよねー」

地図上では風で移動したのと、そうでないものとの見分けがつくようになっている、とても優れた地図のようです。

「それって、どういうこと?」

「たぶんだけど、おそらく、とっても速い風に乗ってるはずなんよ。てーことは、あれだね。早く地球を一周させようって魂胆なのかも、しれないねー」

「それって、誰の?」
「誰って、さあ、誰だろうね~」と知らない風で知っていそうなヨシコです。

「まあぁ、いいわ。とにかく、行ってくるわぁ」
「ちょい待ち」
「まだ、なんかあるのぉ?」

マチコを引き止めたヨシコは、分厚い本のような時刻表を取り出し、ページを素早く捲っていきます。そうして見つけたのは『追い風』です。その箇所を指差しながらマチコに見せています。

「これに乗って行くといいよ」
「はあ? まあ、いっかぁ」

こうして、マチコを迎えに行って迷子になったケイコを迎えに行くことになったマチコです。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

カリンカの子メルヴェ

田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。 かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。 彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」 十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。 幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。 年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。 そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。 ※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

放課後ゆめみちきっぷ

梅野小吹
児童書・童話
わたし、小日向(こひなた)ゆには、元気で明るくて髪の毛がふわふわなことが自慢の中学一年生! ある日の放課後、宿題をし忘れて居残りをしていたわたしは、廊下で変わったコウモリを見つけたんだ。気になってあとを追いかけてみたら、たどり着いた視聴覚室で、なぜか同じクラスの玖波(くば)くんが眠っていたの。 心配になって玖波くんの手を取ってみると……なんと、彼の夢の中に引きずり込まれちゃった! 夢の中で出会ったのは、空に虹をかけながら走るヒツジの列車と、人の幸せを食べてしまう悪いコウモリ・「フコウモリ」。そして、そんなフコウモリと戦う玖波くんだった。 玖波くんは悪夢を食べる妖怪・バクの血を引いているらしくて、ヒツジの車掌が運転する〝夢見列車〟に乗ることで、他人の夢の中を渡り歩きながら、人知れずみんなの幸せを守っているんだって。 そんな玖波くんのヒミツを知ってしまったわたしは、なんと、夢の中でフコウモリ退治のお手伝いをすることになってしまって――? これは、みんなを悪夢から守るわたしたちの、ヒミツの夢旅の物語!

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

処理中です...