帰還

Tro

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#10 ケットシーの涙

第6.1話 限界の先に

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『検査項目 #5、「最終決戦。巨大怪獣をやっつけろ」を開始します』

キター、ラスボス、キター。ということで映像がビルの立ち並ぶ都会に変わった。暴れ狂う怪獣がノッシノッシと歩き回り、逃げ遅れた人たちが私の活躍を、今か今かと待ち侘びているのだ。そう、これこそヒーローの出番、活躍の時なのだ。

『巨大怪獣をやっつけてください。やっちまえ』

「あのー、大きすぎるんですけど。火、吐いてますよ」

『攻撃方法を選択してください。さっさと選べ』
  観  戦・・・・・・・・・・・・・・1000万
  投  石・・・・・・・・・・・・・・・10万
  剣で戦う・・・・・・・・・・・・ ・100万
  超能力で倒す・・・・・・・・・・・5000万
  最終兵器で倒す・・・・・・・・・ 10000万
  異次元に飛ばす・・・・・・・・・100000万
  ヒーローを呼んで倒してもらう・ 1000000万
  異星人を呼んで倒してもらう・・10000000万
  己の信じた拳で倒す・・・・・・・・・無料

何事にも限度と節度が必要でしょう。いくら私でも……私だから良いようなものを、これが一般人だったらお話にならないでしょう。人と怪獣よ? でっかいのよ! 大きのよ! 桁違いなのよ! ……って、普通の人なら言うでしょう。まあまあ、ここは落ち着いて考えれば相手にも必ず弱点はあるはずなのよ。そうでなければゲームバランスが、というよりゲーム自体が成立しないでしょう。だから初回は怪獣の実力を見極めるために……。

「はあ、とりあえず『投石』で。選択、実行」

『攻撃方法「投石」が選択されました。さっさと倒せ』

「エイヤー!」

私は、力一杯、石を投げた。ちょっと誤算だったが届くわけがない。怪獣までの距離、おおよそ数百メートルといったところか。もちろん私が実際に投げているわけではない。私のイメージを数値に置き換え、それを元に演算しているのだろうが、はあ、なんと幼稚な数式であろうか。これでは届くもなにも、このシステムは、それ以前の問題を抱えているようだ。

『残りの所持金 30万です。そわそわ』

ん? これは、もしかして時間無制限ということか? 巨大怪獣は我が物顔でビルを破壊し、火を吐く。……私もやってみたい。さぞかし気分が良いことだろう。……ん? これはただの映像。近寄っても問題はないはず。私は怪獣に突進した。

「『投石』を選択、実行」

『攻撃方法「投石」が選択されました。さっさと倒せ』

私は怪獣に向かって力一杯、石を投げた。今度は届いた。——何も起こらない。効果なし、やっぱり。私は逃げる。——だが怪獣の尻尾がこっちに向かってくる。あ! と思ったら、ガツーンとやられた。全身を襲う痛み、恐怖、そして屈辱が私の未来、幸運、夕食をさらって行った。

「痛い! 痛いよぉぉぉ! なにこれっ!」

本気ですか? どうなっているんですか? 無理です、ギブです、止めます。——これに、なんの意味があるというのか、解せぬ。ただ暴れている怪獣が、ただ火を吹きながら、ただ街を破壊している、ただそれだけではないか。一体、これが私になんの影響があるというのか。戦わずして勝つ、時には必要な戦法であろう。

「あのー、降参です。私には無理です」

『残りの所持金 20万です。おろおろ』

「無視ですか? じゃあ、強制退場しますね」

逃げるが勝ち、とは真理をくすぐる手法ではなかろうか。無理を押し通せば角が立つ、というもの。なら、平たく伸ばしてコネてしまうのが豊作の基本じゃわい。——私は多機能全天VRフルフェイスヘルメット型音響改善版14号改をとった。——とった? とれない!

「乙女に、何してくれるんですか! うんもー」

成る程、意地でも私の戦いぶりが見たいと所望するのじゃな。良かろう、とくと見届けるが良い。もう、やけだ。「『投石』を2個選択、実行」

『攻撃方法「投石」が選択されました。さっさと倒せ』

私は、石を放り投げた。無理なものは無理。念仏を唱えよ。

『残りの所持金、ありません。ガーン』

私は逃げた、走った。それも、力一杯叫びながら。

「おりゃああああああああああああああああああああああああああああああ」

「待て! 良子」

これまた、どこからともなく……むむっ、いつの間に我が足元に忍び込んだのじゃ。奇怪な猫が私を見上げているが、それは私を崇め奉ってのことか? だが我は今、忙しいのじゃ。良いか、忙しいとはの、心を亡くすと書いて、心ここに在らず、という意味じゃ。先ほど駅前のロッカーに我が心を預けてきた故、急ぎならばそちらをアタられよ。

「その声は、まさか、……誰?」
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