帰還

Tro

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#17 魔法少女の涙

第11話 いでよ! 我らの……

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「我等と運命を共にする地球よ。恥ずかしがらず、いでよ! そしてその姿を我らの前に晒すのじゃぁぁぁ」

 早速、オバあちゃんことオババ様の透き通る? ような声が周囲に木霊して参ります。そのオババ様を中心にオジさんたちも輪になって狂ったように踊っています。その輪の中には例の三人も含まれていました。それは、とにかく大勢で踊り明かす必要があるからなのですが、何よりも心を、魔力を集中させることで大願成就たいがんじょうじゅを成し遂げようと恥も外聞も、どこかに捨ててきてしまった集団が出来上がった瞬間でもありました。

 ところが、です。本来はここで「裏地球」の出来上がり具合を報告したいところですが、全くもってそのような状況には至っていない、というのが正直なところでしょうか。

 ……えっ? 約3億万キロメートルも離れた「裏地球」がどうなったかなんて、どうして分かるの? という問いですか? 宜しいでしょう、いいですか、3億万キロメートルというと途方もなく遠くて、ちょっと遠足がてらという気分には成れないでしょうが、それをたったの「2天文単位」ではどうでしょうか。たったの「2」ですよ、1+1です、一歩二歩の「2」です。となれば隣を覗くようなものではないでしょうか。これでこの疑問は明瞭に解決されたことにしましょう。

 本来であれば今頃、太陽の向こう側に「裏地球」が誕生しているはずでした。が、まだ観測されていません。ではオババ様たち御一行の努力は無駄に終わったのでしょうか。いいえ、まだ戦いは始まったばかりです——というお決まりのセリフを言いたかったオババ様たちです。もう、精も根も尽きかけ人生の終了がチラチラして参りました。

 何かが足りない。もしかしたら魔力の源を全て使い切ってもこの大技にはちょっと足りないかも、それとも誰かが手を抜いているのか、皆の心が明後日の方向に向かっているのか、——いいえ、オババ様の脳裏にはハッキリとその原因が分かっているのです。ただ、それを口にしてしまえば敗北が決定してしまうかも、という欲に取り憑かれている自分を知らんぷりしたいお年頃、そんなオババ様に、

「ばあちゃんの腕を持ってしても無理なのか~」

 とは息子でありケイコの父親が、肩でハアハアと息をしているオババ様の背中に投げかけます。それはしっかりとオババ様の耳に入り、

「(誰がばあちゃんじゃ。お前には言われたくないぞ。あの子がそう呼ぶのなら……)ふんっ」

 と皆に背中を向けたままこの場を後にするオババ様です。そう、オババ様が抱く確信的な核心の元を訪れるため足早に歩く姿は、憔悴したオババ様に見えたことでしょう。しかし真実はこうです、決定的に足りない何かとは魔力を行使する力、それも強力無比、圧倒的な魔力を行使する力が一族全員を足して掛けても足りないのです。ですが、たった一人、この場に居ない者を除いての話です。



 夜も更け、世間一般が静まり返った時分、どんちゃん騒ぎのように踊り狂った魔法一族の中で唯一、世間と同様に浅い眠りに入りかけていたのは……そう、ケイコです。例の、魔法少女のコスプレで家業であるガソリンスタンのバイトに精を出していた、あのケイコです。自室でスヤスヤと眠りに就いた? 就かない? そんな頃合いに部屋のドアをトントンと叩く人の影、ええ、オババ様であります。

 わざわざ就寝中のケイコを訪ねたオババ様の動機とは、それは足りない何かの鍵を握る——いいえ、鍵そのものであるケイコを頼ってきた、というのが真相なのです。それがどういうことかと申しますと、——瞼を閉じてそっと思い出してください、まだ幼かった頃のケイコが見せた尋常ではない魔法力。それ故、魔法の源が地中から噴出したのを口実に「魔法は使えなくなった」と言い聞かせ、その魔法力を封印してきたのです。ですがその反動として魔法を使って見たいという欲求が例のコスプレに現れてしまっています。そんな底知れない能力を秘めているケイコです。

「ケイコや、眠れないのかい」

 とはオババ様からオバあちゃんに変身し、寝ていても起こしてやろうと声をかけたところです。それほど切羽詰まっているのか、それとも沽券こけんを優先させてのことか。そんな藁をも掴みたい情念が通じたのか、半分だけ起きていたケイコです。

「なあに、オバあちゃん」

「おやおや、眠れないら、……ほら、バあちゃんが話をしてあげるさね。それも、飛切り眠くなるやつさね」

「う~ん」

 半分寝ているケイコの返事を待つことなく話し始めたオバあちゃんです。

「むかしむかし、あるところに星があってのう、みんなその星を眺めていたのさね。ところがどうじゃ、誰かが空に浮かぶ星を見て言ったさね「可哀想」とな。でじゃ、何が「可哀想」って言うて、星が一つだけじゃ寂しかろうとな。どうさね」

「う~ん」

「ケイコも思うじゃろ、一人は寂しい、寂しいとな。……そこでじゃ、それならお友達がいれば寂しくなかろうって……みんな思うさね、なっ、なっ、ケイコもそう思うじゃろ、なっ、……」

「う~ん、思うよ~」

 そうケイコが返事をした瞬間、オバあちゃんからオババ様の顔に戻った……様な、ニンマリとしたオバあちゃんです。——ええ、これでオバあちゃんは満足したのでしょう、ケイコにお休みの視線を送ると、素早くスタスタッと部屋を後にしたのでした。

「皆の衆、願いは成就された。見よ、空の彼方を。……我らの双子星「裏地球」のお出ましじゃ」

 両手を上げて何かを掴むのか、それとも支えているのか、そんな仕草で……要はバンザイの姿勢で勝ち誇るオババ様です。それに一同、「おうぉぉぉ」と歓声なのか疑問なのか、とにかく様々な思いが混在した声をあげ、序でに夜空を見上げました——が、そこに何かが見える訳もなく、代わりに心の中、若しくは妄想として「裏地球」を感じ取っていました。

 ——ええ、そうなんです、そうなんですよ。オババ様の策略でケイコに言わせた、たった一言で「裏地球」が出現してしまったのです、恐るべしケイコの魔力です。些細なことから全宇宙までもその運命はケイコの手に握られていると言っても過言ではありません。それ故、そうだからこそ、ケイコの心に「魔法は使えなくなった」と嘘のくさびを打ち込み、全宇宙の平和と安全をオババ様たち魔法一族が担ってきたのです。それをほんの少し、チラッと突っつく程度で、いとも容易く具現化してしまう、——これはもう、魔法少女などというレベルではないでしょう。

 話は戻って、さて、「裏地球」が出現したようですが、はて? それからどうするのでしょうか、またはそれがどうしたのでしょうか。太陽を挟んで反対側にプカプカと「裏地球」なるものが「ある」らしいですが、……ええ、それだけでは何も起こらず何も変化はありません。そう、別の言い方をすれば「絵に描いた餅」のような存在です。

 そこで、「裏地球」が双子星と呼ばれる由縁ゆえんを探って行くと、……ほれほれ、出てまいりました。それは一方に起きたことはもう一方にも起きる、それも時間を置かず即座にパパッと、です。と言うことは「裏地球」で「あんな事やこんな事」をすればこちら「表地球」でも変化が生じる。つまり、過去が改変されるという優れものなのです。

 では早速、過去を変えて参りましょう。まず、「裏地球」に人を派遣いたします。そこはちょうど半年前の地球、即ち過去の世界ですので、そこで変えたい事を変えたいようにすれば良い、だけで御座います。但し、注意すべき点が一点だけ御座いまして、……それは常識的な事なのですが、派遣した人物と同一人物が当然「裏地球」にも居る・・と言うことです。そんな両名がばったり、どこかで出会うようなことがあれば……、ええ、何が起こるかは分かったものではありません。よって出来るだけ近寄らないことが取扱説明書で推奨されています。

 ということで、もちろん派遣されるのは例の若者三人衆、自身の蒔いた種は自ら刈ってこい、という至極単純な理由からです。では行ってらっしゃい、ご武運を。——あっ、そうそう、「裏地球」に行く方法ですが、そこは魔法でチョイチョイ、という段取りになっていますので、何の問題もありません。

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