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#14 2500年後の涙
#6 第一幕
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スポットライトを浴びた男性が舞台の袖から登場。その男性はビシッとスーツを極め込んだ、如何にも胡散臭そうな面構えである。但し、『ビシッ』というのは飽くまで会場に屯する『おっさんたち』との比喩である。だから実際はスーツを着ている、ということだけで一線を画す存在に成り得たのだ。——そう、この場にいる『おっさんたち(陽一も含む)』ときたら、それはもう、——である。
「諸君、静かに、……静かに、……、……静かにしろぉぉぉぉぉ」
胡散臭い男はマイクなどの拡声器を使わず、地声で声を張り上げたが、ここは学校ではない。なので、いい歳をした『おっさん』たちが、生意気で粋がっている若造ごときの声に耳を澄ます訳がない。この時点で既に、壇上の男性は胡散臭そうな、から生意気で『いけ好かない』クズ野郎にまで評価を落としてしまっていた、言わば最初から学級崩壊状態に陥っていたということだろう。まさしくここは不良たちの溜まり場・集会場と言っても過言ではあるまい。
ということで、すっかり意気消沈してしまったクズ野郎は、助けを求めるように助っ人を呼んだらしい。そうして呼ばれたのが、例の背の高い男である。男は、ゆっくりと、しかも背筋を真っ直ぐにして、全く動じることなく壇上に現れ、そこから会場全体を眼だけを動かして見渡した。それはまるで会場の『おっさん』たちを、蛇がカエルを睨みつけるかのような仕草であった。そして、口元を微かに緩めると——
この会場で唯一、知っている顔を見た陽一は、きっと大声で怒鳴るのだろうと思ったようだ。それは男の人相からして至極当然のように思われたが——
「諸君! 同志諸君!」と男は、静かに、それも力強くドスの効いた声を響かせたのだ。そんな男の声に、今まで幼稚園児のように騒いでいた『おっさんズ』は無駄な口を閉じ、壇上の男に注目。それは、——男の声に反応した、というよりも、その言葉、『同志』という言葉に無理やりグイッと心を持って行かれたようである。それは陽一とて同じこと、この世界に召喚されて以来、屈辱と苦痛、そして何よりも『自分だけが』という孤独感にずっと苛まれてきたからだろう。それら『ごった煮』のような心のモヤモヤに一筋の光(『希望と期待』に言い換えてもいいだろう)に向かって一心に手を伸ばしたい気持ちに駆られた『おっさんズ』である、たぶん。
「諸君! 私の声を聞いてくれ。私たちは、……いや、俺たちは決して奴隷なんかでは無ぁぁぁい。俺たちは自由だぁぁ、俺たちは、俺たちは、人間なんだぁぁぁ」
おっさんたちが見守る中、男の声だけが会場全体に染み入るように響き渡る。それは、今まで忘れていた、何か価値のあるものを蘇らせるには十分だったようだ。男の声、だけではなく、その表情までも食い入るように視線を注ぐ『おっさんズ』。その中には当然、陽一も含まれていたが、「さあ、次の言葉は何なんだ? 俺たちに何を伝えたいんだ」と、もどかしさと期待に胸を膨らませる『おっさんズ』である。それはきっと、幼き頃の、あのワクワクとドキドキに似ているのだろう。
壇上に立つ男は皆の期待通り、少し下を向きながら、一時、動きを止めると、時折、何かを必死で堪えるかのように肩をピクピクとさせ始めた。それは、注意深く、かつ冷静に見ていれば、これが芝居かかった演出だと見抜けるものだが、会場の雰囲気が、『おっさんズ』の欲望がそうはさせなかった。もちろん、その中の一人である陽一も固唾を飲んで『次』を待ち焦がれている。『自由と解放』、そして、人として認められることへの渇望が、あの男の『言葉』に期待せずにはいられない、そんな、一種異様な状況が生まれようとしているのだ、たぶん。
肩ピクの男がそれを止めた時、今度は右手をゆっくりと、よく見れば勿体振るように挙げた。その拳は握られていたが、頭は下げたままである。この男の動きに、「おぅぉ」とか「おぅおぅ」など、呻くような声が漏れ始める。一体、それは何を意味しているのかぁぁぁ、って『おっさんズ』は様々な思いを巡らせたことだろう、きっと。
「俺は、とうとう、ついに、あの会社の秘密を、真実を、悪事を、本当のことを探り当て、そして見つけ、……そして、この手に収めることに成功した。真実はここにある! 俺の、この、手の中に、あぁぁぁるぅぅぅんだぁぁぁ!」
男はそう言い切ると、反応を確かめるかのように顔を上げ、目を見開いた。それは、どこか愛くるしい——いやいや、「俺は言った。どうだ、どうなんだ?」という目付きを悟られないように、ゆっくりと視線を動かした。どうやらそれは、ちょっとだけ自信が無い現れと見たが、間違っているだろうか。
男の言う『あの会社』とは、そう、陽一を過去から召喚し、奴隷のように仕立てた張本人、その企業のことである。ということは、——そう、ここに居る他の『おっさんズ』も出処は同じようなものであろう。そして、その企業にとって、何がしらの『不都合な真実』を掴んだ、と、男は言っているのである。
ということは、——残念ながら今の陽一には男の言っていることがサッパリ・ケロリンと分からない。それが自分にとって、とても重要なことだとしてもだ。しかし、その熱気? 熱意? のようなものは、しっかりと脳髄の奥底まで届いていたようである。その証しにプルプルと全身が震え、たるんだ頬には塩っぱい『何か』が無自覚のまま流れ落ちていたのであった、ウルウル。
◇◇
「諸君、静かに、……静かに、……、……静かにしろぉぉぉぉぉ」
胡散臭い男はマイクなどの拡声器を使わず、地声で声を張り上げたが、ここは学校ではない。なので、いい歳をした『おっさん』たちが、生意気で粋がっている若造ごときの声に耳を澄ます訳がない。この時点で既に、壇上の男性は胡散臭そうな、から生意気で『いけ好かない』クズ野郎にまで評価を落としてしまっていた、言わば最初から学級崩壊状態に陥っていたということだろう。まさしくここは不良たちの溜まり場・集会場と言っても過言ではあるまい。
ということで、すっかり意気消沈してしまったクズ野郎は、助けを求めるように助っ人を呼んだらしい。そうして呼ばれたのが、例の背の高い男である。男は、ゆっくりと、しかも背筋を真っ直ぐにして、全く動じることなく壇上に現れ、そこから会場全体を眼だけを動かして見渡した。それはまるで会場の『おっさん』たちを、蛇がカエルを睨みつけるかのような仕草であった。そして、口元を微かに緩めると——
この会場で唯一、知っている顔を見た陽一は、きっと大声で怒鳴るのだろうと思ったようだ。それは男の人相からして至極当然のように思われたが——
「諸君! 同志諸君!」と男は、静かに、それも力強くドスの効いた声を響かせたのだ。そんな男の声に、今まで幼稚園児のように騒いでいた『おっさんズ』は無駄な口を閉じ、壇上の男に注目。それは、——男の声に反応した、というよりも、その言葉、『同志』という言葉に無理やりグイッと心を持って行かれたようである。それは陽一とて同じこと、この世界に召喚されて以来、屈辱と苦痛、そして何よりも『自分だけが』という孤独感にずっと苛まれてきたからだろう。それら『ごった煮』のような心のモヤモヤに一筋の光(『希望と期待』に言い換えてもいいだろう)に向かって一心に手を伸ばしたい気持ちに駆られた『おっさんズ』である、たぶん。
「諸君! 私の声を聞いてくれ。私たちは、……いや、俺たちは決して奴隷なんかでは無ぁぁぁい。俺たちは自由だぁぁ、俺たちは、俺たちは、人間なんだぁぁぁ」
おっさんたちが見守る中、男の声だけが会場全体に染み入るように響き渡る。それは、今まで忘れていた、何か価値のあるものを蘇らせるには十分だったようだ。男の声、だけではなく、その表情までも食い入るように視線を注ぐ『おっさんズ』。その中には当然、陽一も含まれていたが、「さあ、次の言葉は何なんだ? 俺たちに何を伝えたいんだ」と、もどかしさと期待に胸を膨らませる『おっさんズ』である。それはきっと、幼き頃の、あのワクワクとドキドキに似ているのだろう。
壇上に立つ男は皆の期待通り、少し下を向きながら、一時、動きを止めると、時折、何かを必死で堪えるかのように肩をピクピクとさせ始めた。それは、注意深く、かつ冷静に見ていれば、これが芝居かかった演出だと見抜けるものだが、会場の雰囲気が、『おっさんズ』の欲望がそうはさせなかった。もちろん、その中の一人である陽一も固唾を飲んで『次』を待ち焦がれている。『自由と解放』、そして、人として認められることへの渇望が、あの男の『言葉』に期待せずにはいられない、そんな、一種異様な状況が生まれようとしているのだ、たぶん。
肩ピクの男がそれを止めた時、今度は右手をゆっくりと、よく見れば勿体振るように挙げた。その拳は握られていたが、頭は下げたままである。この男の動きに、「おぅぉ」とか「おぅおぅ」など、呻くような声が漏れ始める。一体、それは何を意味しているのかぁぁぁ、って『おっさんズ』は様々な思いを巡らせたことだろう、きっと。
「俺は、とうとう、ついに、あの会社の秘密を、真実を、悪事を、本当のことを探り当て、そして見つけ、……そして、この手に収めることに成功した。真実はここにある! 俺の、この、手の中に、あぁぁぁるぅぅぅんだぁぁぁ!」
男はそう言い切ると、反応を確かめるかのように顔を上げ、目を見開いた。それは、どこか愛くるしい——いやいや、「俺は言った。どうだ、どうなんだ?」という目付きを悟られないように、ゆっくりと視線を動かした。どうやらそれは、ちょっとだけ自信が無い現れと見たが、間違っているだろうか。
男の言う『あの会社』とは、そう、陽一を過去から召喚し、奴隷のように仕立てた張本人、その企業のことである。ということは、——そう、ここに居る他の『おっさんズ』も出処は同じようなものであろう。そして、その企業にとって、何がしらの『不都合な真実』を掴んだ、と、男は言っているのである。
ということは、——残念ながら今の陽一には男の言っていることがサッパリ・ケロリンと分からない。それが自分にとって、とても重要なことだとしてもだ。しかし、その熱気? 熱意? のようなものは、しっかりと脳髄の奥底まで届いていたようである。その証しにプルプルと全身が震え、たるんだ頬には塩っぱい『何か』が無自覚のまま流れ落ちていたのであった、ウルウル。
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