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#2 原始 セリス編
#2.5 神々の降臨 (2/3)
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「イリア。立てるか?」
「ダメ~、立てない~、腰抜けた~」
俺にはまだ、やることが残っている。イリアをおぶって、ピラミッドを目指した。
「ユウキ~、どこ行くの~」
「神殿」
「何しに~神様に謝るの~」
「この世界、星から出て行くんだよ」
「ええ~」
「ここにいたら、命が幾つあっても足りない。死ぬ、今すぐ死ぬ」
「ええ~」
イリアはそう言いながら、俺の背中で鼻水だらけの顔を拭いた。背中がべっちょり濡れるの感じる。
「なんだ。イリアはここに残りたいのか?」
「だって私、神様だよ」
まだ、神様だったのか。
「俺は行くよ」
「行くって、ここ、ユウキの星じゃないの?」
「あー、その、近くだから寄っただけだ」
イリアが急に、俺の首に回している腕を引き締めた。
「苦しい。そんなに暴れるなよ。ただでさえ重いっていうのに」
「不潔で、裏切り者のユウキめ」
ピラミッドの前に立つ。
これが旅行社とは、時代錯誤にもほどがある。歩けるようになったイリアを待たせて、入り口を探す。扉のようなのもは見つかったが、ノブも手をかける所もない。よく見ると、扉の横に小さな穴というか、隙間がある。さらによく見ると、カード挿入口と書いてある。さっそく、パスポートを入れると、中でゴウゴウと何かが回転するような音が聞こえる。
その音が止まると、逆回転するような音で、カード挿入口から紙吹雪のように小さな破片が飛び散った。
「ああ!?」
これは、もしかして、パスポートの破片? シュレッター? 驚きと絶望が交差した時、扉は開かれた。
俺はパスポートの破片をかき集めて、イリアと一緒に入った。途中の廊下で洗面所を見つけた。ここで、顔と手を洗っておこう。イリアに女性用を指差し、俺は男性用に入った。俺が顔を洗っていると、男性用にイリアが入ってきた。どうやら、勝手が分からないらしい。誰もいないから良しとするか。蛇口から出る水で顔を洗うように伝えると、イリアは大騒ぎした。まあ、無理もない。これが文明と言う奴だよ。
「いらっしゃいませ、ようこそ”ツアーレ”へ」
「これ、パスポートが粉々になってしまったんですけど」
「大丈夫すよ。ユウキ様のパスポートは、こちらに届いていますよ」
「はあ?」
「驚かれました? ここは、イベントが少ないですので、”お持てなし”として、サプライズをご用意させて頂きました。喜んで頂きまして良かったです」
絶望したんですけど。
「ここを移動したいんですけど、どこかいいところ、そうだな、もっと、文明が程々に発達しているところって、あります?」
「そうですね。では、こちらはどうでしょう。”近代 ヨーロッパ風”は如何でしょうか? 現代より、少しだけ古い感じですが」
「いいですね。じゃあ、そこで」
「かしこまりました、”異世界 近代ヨーロッパ風”ですね。では、ご出発の予定は何時になさいますか?」
「今すぐにでも行けますか?」
「はい、大丈夫です。ただー」
「はあ?」
「今すぐですと、ユウキ様のお名前に傷が付いてしまいますが? 宜しいですか」
「傷が付くって、どういうことですか?」
「現時点でユウキ様には、称号として”神になった男”が付与されています」
「おお、いいじゃないですか」
「ですが、今すぐ出立されますと、この称号は無効になり、最後の状態を表した称号に書き換えられてしまいます。多分ですが、急にいなくなったユウキ様をモリモリ族、ハラッパ族両方が、神に見捨てられたことを恨み、”不潔で、裏切り者のユウキめ”と罵ることでしょう。
そうなりますと、称号はとても酷いものとなり、ユウキ様は他の旅行者からも嘲りの対象になってしまうかも? しれません。それでも、宜しいですか?」
さらりと、キツいことを言ってくれる。
「そうならないためには、どうすればいいんでしょうか?」
「簡単なことですよ。飛ぶ鳥跡を濁さず。ユウキ様が自然に旅立ちを迎えれば良いだけです」
「うーん。わかんないですよ。どうすれば」
「それを考えるもの、異世界旅行の醍醐味ですから、はい」
イリアが部屋のウオータースタンドで顔を洗っている。足で踏むと水が出るのが楽しくて夢中になっているようだ。
「はあ、何とか考えてみます」
「出発は何時でも出来ますので、ご安心ください。では、良い旅を」
◇
ピラミッドの設備を堪能したイリアは上機嫌だ。そんなイリアを連れて草原を歩く。といっても、優雅な散歩にはならない。ボーとしてると、こっちが狩られてしまう。振り返ると夕日に染まるピラミッド。なんとなく、血の色を思い浮かべた。
よく考えれば、名前に傷が付いたところで、何の問題もない。何か、上手く乗せられたような気がする。さて、どうしたものか考えても、そうそう、いい考えは浮かばない。あのピラミッドの頂上で叫びたい気分だ。さぞかし気分が良いだろうに。そうか、叫べばいいだな。いいことを思いついた。
さて、イリアはどうするんだろう。あの言い方だと、ここに残りたいみたいだったな。せっかく女神様まで出世したんだ。それも悪くはないだろう。
「イリア。最後の大仕事だ」
「な~にかな。貢ぎ物によっては考えてもいいわよ」
「そんなこと言っていいのか?」
「だって、女神様よ。ただってわけにはいかないわ。こっちも商売だから」
いつから商売してんだ?
「なら、離すぞ、イリアの魂」
「ヒク!」
「さっき言ったろう、イリアの魂を掴んでるって。まだ、ここにあるんだ」
「卑怯者! 返しなさいよ」
「返して欲しいなら、条件がある」
「さっさと言いなさいよ」
「簡単なことだよ。お釣りが出るくらいだ。明日の夜明け前、全員をここに集めるだけでいい」
「それだけ?」
「それだけ」
「ふ~ん。本当にそれだけ?」
「金、取るぞ」
◇
「ダメ~、立てない~、腰抜けた~」
俺にはまだ、やることが残っている。イリアをおぶって、ピラミッドを目指した。
「ユウキ~、どこ行くの~」
「神殿」
「何しに~神様に謝るの~」
「この世界、星から出て行くんだよ」
「ええ~」
「ここにいたら、命が幾つあっても足りない。死ぬ、今すぐ死ぬ」
「ええ~」
イリアはそう言いながら、俺の背中で鼻水だらけの顔を拭いた。背中がべっちょり濡れるの感じる。
「なんだ。イリアはここに残りたいのか?」
「だって私、神様だよ」
まだ、神様だったのか。
「俺は行くよ」
「行くって、ここ、ユウキの星じゃないの?」
「あー、その、近くだから寄っただけだ」
イリアが急に、俺の首に回している腕を引き締めた。
「苦しい。そんなに暴れるなよ。ただでさえ重いっていうのに」
「不潔で、裏切り者のユウキめ」
ピラミッドの前に立つ。
これが旅行社とは、時代錯誤にもほどがある。歩けるようになったイリアを待たせて、入り口を探す。扉のようなのもは見つかったが、ノブも手をかける所もない。よく見ると、扉の横に小さな穴というか、隙間がある。さらによく見ると、カード挿入口と書いてある。さっそく、パスポートを入れると、中でゴウゴウと何かが回転するような音が聞こえる。
その音が止まると、逆回転するような音で、カード挿入口から紙吹雪のように小さな破片が飛び散った。
「ああ!?」
これは、もしかして、パスポートの破片? シュレッター? 驚きと絶望が交差した時、扉は開かれた。
俺はパスポートの破片をかき集めて、イリアと一緒に入った。途中の廊下で洗面所を見つけた。ここで、顔と手を洗っておこう。イリアに女性用を指差し、俺は男性用に入った。俺が顔を洗っていると、男性用にイリアが入ってきた。どうやら、勝手が分からないらしい。誰もいないから良しとするか。蛇口から出る水で顔を洗うように伝えると、イリアは大騒ぎした。まあ、無理もない。これが文明と言う奴だよ。
「いらっしゃいませ、ようこそ”ツアーレ”へ」
「これ、パスポートが粉々になってしまったんですけど」
「大丈夫すよ。ユウキ様のパスポートは、こちらに届いていますよ」
「はあ?」
「驚かれました? ここは、イベントが少ないですので、”お持てなし”として、サプライズをご用意させて頂きました。喜んで頂きまして良かったです」
絶望したんですけど。
「ここを移動したいんですけど、どこかいいところ、そうだな、もっと、文明が程々に発達しているところって、あります?」
「そうですね。では、こちらはどうでしょう。”近代 ヨーロッパ風”は如何でしょうか? 現代より、少しだけ古い感じですが」
「いいですね。じゃあ、そこで」
「かしこまりました、”異世界 近代ヨーロッパ風”ですね。では、ご出発の予定は何時になさいますか?」
「今すぐにでも行けますか?」
「はい、大丈夫です。ただー」
「はあ?」
「今すぐですと、ユウキ様のお名前に傷が付いてしまいますが? 宜しいですか」
「傷が付くって、どういうことですか?」
「現時点でユウキ様には、称号として”神になった男”が付与されています」
「おお、いいじゃないですか」
「ですが、今すぐ出立されますと、この称号は無効になり、最後の状態を表した称号に書き換えられてしまいます。多分ですが、急にいなくなったユウキ様をモリモリ族、ハラッパ族両方が、神に見捨てられたことを恨み、”不潔で、裏切り者のユウキめ”と罵ることでしょう。
そうなりますと、称号はとても酷いものとなり、ユウキ様は他の旅行者からも嘲りの対象になってしまうかも? しれません。それでも、宜しいですか?」
さらりと、キツいことを言ってくれる。
「そうならないためには、どうすればいいんでしょうか?」
「簡単なことですよ。飛ぶ鳥跡を濁さず。ユウキ様が自然に旅立ちを迎えれば良いだけです」
「うーん。わかんないですよ。どうすれば」
「それを考えるもの、異世界旅行の醍醐味ですから、はい」
イリアが部屋のウオータースタンドで顔を洗っている。足で踏むと水が出るのが楽しくて夢中になっているようだ。
「はあ、何とか考えてみます」
「出発は何時でも出来ますので、ご安心ください。では、良い旅を」
◇
ピラミッドの設備を堪能したイリアは上機嫌だ。そんなイリアを連れて草原を歩く。といっても、優雅な散歩にはならない。ボーとしてると、こっちが狩られてしまう。振り返ると夕日に染まるピラミッド。なんとなく、血の色を思い浮かべた。
よく考えれば、名前に傷が付いたところで、何の問題もない。何か、上手く乗せられたような気がする。さて、どうしたものか考えても、そうそう、いい考えは浮かばない。あのピラミッドの頂上で叫びたい気分だ。さぞかし気分が良いだろうに。そうか、叫べばいいだな。いいことを思いついた。
さて、イリアはどうするんだろう。あの言い方だと、ここに残りたいみたいだったな。せっかく女神様まで出世したんだ。それも悪くはないだろう。
「イリア。最後の大仕事だ」
「な~にかな。貢ぎ物によっては考えてもいいわよ」
「そんなこと言っていいのか?」
「だって、女神様よ。ただってわけにはいかないわ。こっちも商売だから」
いつから商売してんだ?
「なら、離すぞ、イリアの魂」
「ヒク!」
「さっき言ったろう、イリアの魂を掴んでるって。まだ、ここにあるんだ」
「卑怯者! 返しなさいよ」
「返して欲しいなら、条件がある」
「さっさと言いなさいよ」
「簡単なことだよ。お釣りが出るくらいだ。明日の夜明け前、全員をここに集めるだけでいい」
「それだけ?」
「それだけ」
「ふ~ん。本当にそれだけ?」
「金、取るぞ」
◇
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