12☆ワールド征服旅行記

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#3 近代 カツミ編

#3.3 越境列車 (1/3)

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今朝は早くに目が覚めた。いつも、ベッドで寝ても目覚めは床の上だ。二人に聞いても知らぬ存ぜぬの一点張り。そんな二人は、まだ寝ている。その格好ときたら、まあ、詳細は想像に任せよう。

早起きついでに4階の事務所に行ってみる。カツミがいれば、ちょっとソファーで横になるつもり。事務所のドアは…開いていた。これは朝から運がいい。中に入るとカツミは…いたいた。何故か本棚にぶら下がっている。ああ、そうか。懸垂をしているだな、と理解した。思えば働き出してから、ろくに運動らしいことはしていない。やはり、一流のエージェントにもなると日々の鍛錬は欠かさないんだな。

「おはよう御座います、ユウキ」
「おはよう~」
「ちょうど良かったです。いい時に来ました」
「何か、用でもあるんですか?」

「はい。1階のお店に行って無線機を借りてきて欲しいのです。話は通して有りますから行けば分かると思います。お願い出来ますか?」

「いいですよ、そのくらい」
「では、お手数を掛けますがお願いします」
「じゃあ、行ってきます」

二度寝のチャンスを失ってしまった。でもすぐに戻ってくれば大丈夫だろう。まだ時間は、あるはず。決意が固まったので部屋を出ようとするとカツミが俺を呼び止めた。

「ユウキ」「はあ」
「ユウキ」「何か?」
「ユウキ」「なに!」
「ユウキ。何か気が付きませんか?」
「いや、別に、何も」
「そうですか、そうですか!」

「俺、行きますよ。ちゃんと借りてきますから。子供じゃないだから、それぐらい出来ますよ」

「子供じゃない? そうですね。ユウキ。申し訳ないのですが私の足元に倒れている椅子を起こしてくれると助かるのですが。頼めますか?」

「そういう意味で言ったんじゃないから」



灯台もと暗し。この建物の1階。普段何気なく端の入り口から入るだけだったが、改めて見ると今まで気が付かなかったのが不思議なくらいだ。1階の店とは、異世界旅行社”ツアーレ”だった。

「いらっしゃいませ、ようこそ”ツアーレ”へ。旅行者の方ですか?」
「そうですけど、今日は別件で」
「パスポートを拝見しても宜しいですか?」
「はい」

「確認できました。ユウキ様、当店のご利用、有り難う御座います。ご用向きは何でしょうか? 私はこの地区担当の”イオナ”と申します」

「いや、今日は”オフィース・カツミ”の用で来たんですけど、ここで良かったですか? 通信機がどうとか」

「はい。”オフィース・カツミ”様の件ですね。承知しております」
「ああ、良かった。違うかと思いましたよ」

「当社では、旅行者様の快適なご旅行を多方面からご支援できるよう、各地で有用なサービスをご提供させて頂いております」

「それは凄いですね。ついでなんで、ちょっと聞きたい事があるんですけど」
「はい、何なりとどうぞ」
「俺達、ここに来た時、”チーム ツアーレ”って呼ばれたんですけど、この名前って誰が付けたんですか?」

「それは、私どもが政府の機関に申請する際、便宜上付けさせて頂きました」
「政府機関ですか! そんなことも。はあ」

「チーム名は今からでも変更可能ですよ。皆様、よくご自分の名前をチーム名にされていますね。例えば”チーム ユウキ”などは如何でしょうか。素敵ですね」
受付のお姉さんは和やかに手を合わせた。

「ああ、いいですね。じゃあ、変えてもらっていいですか?」
「はい。こちら、名称変更に3万程費用が掛かりますが宜しいですか?」
「ええ! それは、ちょっと、無理かな」
受付のお姉さんは平常運転に戻ってしまった。

「お名前の変更は何時でも出来ますから、またご相談ください」
「はい。それじゃあ、旅行の件はこの辺で、お借りする物を、いいですか?」
「では、少々お待ちください」

少し待つと、受付のお姉さんは無線機とは思えない物を持ってきた。

「お待たせしました。こちら、今回ご依頼の無線機3点となります」
「これが無線機なんですか?」

「はい。内訳は、
ハンドバッグ型の無線機が1点、
ショルダーバッグ型の無線機が1点、
遠距離用無線機が1点
以上の3点となります」

「遠距離用ってやつ、大きいですね、それに色が派手というか」

「これでも、この時代では小さい方なんですよ。色は民間仕様となっているようです。バッグ型は通信距離が短いので、まあ、このくらいの大きさですね」

俺は遠距離用の無線機を持ち上げてみた。重い。10~15Kgぐらいありそうだ。お姉さんは軽々持ってきたのに。重いだけあって背負うようだが、なんとなくランドセルに似ている。トドメは、色が黄色だということだ。こんなのを背負ったら目立ってしょうがない。俺は、ある光景を想像してしまった。

「この色に合う帽子も借りられませんか?」
「はい。今、ご用意致します」

俺は、無線機を背負い、両手に女性用のバックを抱えた。この姿、知らない人には見られたくない。

「帽子は、こちらで宜しいですか?」
「おお、いい感じです」
「喜んで頂いて嬉しいです。では、良い旅を」

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