12☆ワールド征服旅行記

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#3 近代 カツミ編

#3.3 越境列車 (2/3)

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黒板の前で椅子の上に立つカツミ。
今日はいつもと違い、どこの”お嬢様”だよって格好をしている。そういう俺も、エリート風にビシビシっとキメている。イリアとセリスは、もともと庶民服が似合う連中だ。少しだけ着飾っている。馬子にも衣装という感じだ。俺のビシビシに比べればヘナヘナといった感じか。

カツミが棒で黒板を叩きながら、ブリーフィングを始める。何か、ストレスを抱えているのだろか。その棒が折れるのが先か、カツミの心が折れるのが先か、それが心配だ。

「ある人物 X が隣国から列車で我が国に越境してきます。X は 隣国の機密資料を提供する用意があると言ってきました。そこで我々の任務は、 X と列車内で接触し、その機密資料を受け取ることにあります。ただし、問題があります。それは誰も X の顔を知らないという点です。そこで、当方が得た情報を元に、次の、いくつかの特徴を確認しました。第一、 X が男性であること、第二、 X が”ロリコン”であること。以上」

「ちょっと、待ったー」
「なんですか? ユウキ」
「それだけの特徴で、どうやって X を探すんですか?」
「これでは不足ですか? ユウキ」
「X が男性って、乗客のほとんどが男性だったら、どう見分けるんですか?」

「X は機密資料を持ち出しています。大抵、緊張や警戒をしているはずです。そういう人は、目を見れば分かります」

「なるほど。X が”ロリコン”というのは?」
「”ロリコン”は、意味がわかりません。ユウキ、説明してください」
「俺が?」
「そうです。ユウキなら詳しく知っていると思いました」

”目を見れば分かる”というのは、本当のようだ。

「”ロリコン”とは、……幼女……少女趣味ということ、かな?」
「少女趣味ですか。変わった趣味です。分かりました」

イリアが急にソファーから立ち上がった。

「可憐な少女と言えば、私のことですよね」
誰もが反応に困ったのは、言うまでもない。

セリスも負けていない。

「オレのことじゃないか? オレ、少女だぜ」
少女は ”オレ” とか ”だぜ” とか言わない。

イリアはまだ、続けるつもりだ。

「どうしましょう? カツミ。もし、その男が私の手を取って、『僕の所に来ないか?』って言い寄って来たら、私、私……こう応えるわ。『私のお財布は、いつも空っぽよ。貴方のそれで、満たしてくれますか?』キャー」

「それでは、配置について説明します」
うちの者が迷惑を掛けて、申し訳ない。

「一等車は個室になりますから、そこに X がいる可能性は無いでしょう。よって、二等車を私とユウキが担当。三等車はイリアとセリスが担当します。それでは、必ず成功させましょう。後が無いですから」

なるほど。それでこの服装の意味が分かったぜ、カツミ。”後が無い”とは、そんなにここの経営が苦しいのか。頑張れ、カツミ。



越境列車の車窓から、こんにちは。
俺とカツミは三等車と二等車の中間にいる。遠距離用無線機を背中にしょった俺。かなり恥ずかしい。

「カツミ。これ、ここに置いといたら、いいんじゃないか?」
「紛失したら、一生働いても返せません。それでもしますか? ユウキ」
「いえいえ、滅相も御座いません、お嬢様」

※これ以降、一部暗号による会話が続きます。

「試食をお願いします」(カツミ:無線機のテストをしろ)
「ホークは右手ですか」(ユウキ:イリアをテスト中)
「ナイフは左手ですか」(ユウキ:セリスをテスト中)
「食事の準備が整いました」(ユウキ:テストOK)

「では、二等車に進みましょう(カツミ:付いてこい、ユウキ)」

俺達は二等車入り口の扉を開けた。左右に分かれた座席の真ん中をカツミを先頭に歩く。座っている人の頭しか見えないが、ほとんどが成人男性だ。俺が通ると案の定、目立ってしょうがない。笑うような、嘲るような、とにかく痛い視線を感じる。これでは失敗するのも、時間の問題だ。

カツミは時々、振り返るそぶりで周囲を観察する。そして何事もなく俺達はその車両を通り抜けた。

「カツミ! これじゃあ、絶対怪しまれるって」

考え込むカツミ。

「取り敢えず、デザートにしましょう」(カツミ:ユウキ、イリア達に確認せよ)
「プリンで宜しいですか?」(ユウキ:イリア達に確認中)


「その服、似合ってるわね」(イリア:セリス、何その服? イケてないわよ)
「ちょっと胸の所が苦しいんだよ」(セリス:ちょっと胸の所が苦しいんだよ)
「その飾り、とれ掛かってますよ」(イリア:なら、脱げば?)
「取れても、構わないぜ」(セリス:脱ごうかな)


「プリンは品切れでした」(ユウキ:異常なし)
「それは困りました」(カツミ:困りました)
「その代わり、パンがあります」(ユウキ:プランBで行こう)
「あまり、パンは好きではありません」(カツミ:まだ早い)
「これしか無いので、我慢してください」(ユウキ:それしか手は無いって)
「分かりました、パンでお願いします」(カツミ:仕方ない)

◇◇

作戦はプランBに移行。次の車両に移る。
カツミは黄色い無線機を背負い、俺が特別に借りた黄色い帽子を被っている。どこからどう見てもランドセルの小学生だ。カツミは時々、重いランドセルのせいで左右に傾き、その度に座席を覗き込む。完璧な作戦だ。とても注目度が高い。さっき感じた視線とは明らかに違う、好奇の目だ。これだ、俺が求めていたのはその視線だ。さあ X。見るがいい。お前の好物が歩いているぞ。

俺達はその車両を通り抜けた。何故かカツミの顔が赤い。それもそうだろう、あのランドセルは重いからな。

「取り敢えず、夜食にしましょう」(カツミ:ユウキ、イリア達に再度確認せよ)
「ピザで宜しいですか?」(ユウキ:イリア達に再度確認中)


「このフリフリがさ、ちょっとウザいな」(セリス:ちょっと忙しい)
「襟に埃が付いるわよ」(イリア:怪しい男が立った!)
「どこに?」(セリス:どこに?)
「気のせいだったわ」(イリア:怪しい男が座った!)
「オレって、どう? 可愛いく見えるかな?」(セリス:可愛いく見えるかな?)
「鼻水が出てるわよ」(イリア:怪しい男が寝た!)


「ピザは冷めてしまいました」(ユウキ:X 発見出来ず)
「温め直してください」(カツミ:この先は一等車なので、引き返します)
「お飲み物は、如何でしょうか」(ユウキ:今度は俺が先を歩きます)
「結構です」(カツミ:好きにして)


列車の通路を俺を先頭にして歩く。今度は乗客の顔がよく見える、見えるぞ。小さな女の子に重い物を背負わせて平気なのか? そんな痛い視線を感じる。カツミはよろける度、俺の裾を引っ張る。酷いお兄ちゃんだ。でもこれも仕事なんだ。世間のみんな、わかってくれ。そして俺達は痛みに耐え、車両を通り抜けた。

「眠くないですか?」(ユウキ:X はいましたか?)
「眠くないです」(カツミ: いません)
「では、ゲームをしましょう」(ユウキ:プランCで行きましょう)
「宿題があります」(カツミ:冗談じゃない)
「面白いですよ」(ユウキ:そんなことを言ってる場合じゃ無いでしょう)
「眠れなくなります」(カツミ:嫌!)
「ゲームに負けるのが嫌なんですか?」(ユウキ:後が無いんでしょう?)
「そこまで言うのなら、やりましょう」(カツミ:失敗したら許さない!)

◇◇
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