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#3 近代 カツミ編
#3.4 A Sea of Diva (2/3)
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豪華客船のデッキから、こんばんは。
波良し、風良し、俺良しの三拍子が揃ってしまった。スーツでビシビシっとキメた俺。我が社の業績は、絶好調かな。そんな俺に釣り合う女性は、滅多にいるもんじゃなない。
「レディー・イリア。お手をどうぞ」
ロングドレスに、何かの巣をイメージしたヘアー。貴方は誰? 状態のイリアをエスコートして、一等食堂を目指す。
許された者だけが進める道がある。成功、栄誉、名声、地位。その全てを手にし、選ばられた存在。さあ、胸を張り、上を向いて歩こう。もう、小銭を拾うのに下を向く必要は無い。それが嘘だと分かっていても、誰もが俺に媚びを売ってくる。見晴らしのいい高台から見下ろす世界は、美しく、脆く、儚い。レディー・イリア。
俺と一緒に、その階段を上がろう。二度と、そこから降りることのないように。
「ホギャ」
慣れない服装。慣れないヒール、そして、隠しきれない貧乏性。イリアは、何度も転びそうになる。俺は、そっと、エレガントに、優雅に、優しくイリアを支える。
「何処触ってんのよ」
さあ、俺と一緒に、その階段を上がろう。コケたら、二度と這い上がれなくなる。
ボディーチェックを受けた後、一等食堂の扉を…勝手に開いたので入る。今の俺は丸腰だ。でも、武器が何も無いって訳じゃ無い。俺には、名前の由来にもなった”勇気”がある。これ一つあれば、男は、どんな状況でも立ち向かっていける。そうさ。これが、俺の唯一無二の武器だ。さあ、かかってこい。コテンパンのペコンペコンにしてやる。
広い室内の奥の奥に、大きなテーブルにぽつんと座る男。俺と同じ道を歩んだ者だろう。どこか、他の奴とオーラが違う。間違いない。その男が今回の、守るべき人物だ。これが女の人だったら、俺の士気も、もっと上がったことだろう。いや、桁違いと言ってもいい。それ程俺は、がっかりしている。
オラオラオーラの男に近づき、確認の言葉を交わす……
オラオラオーラの男は、俺を無視し、イリアに話しかける。
「”チーム ツアーレ”の方ですね」
「はい、そうです」
「お待ちしてました。どうぞこちらに座ってください」
そのおっさんは、自分の隣りの椅子を引き、”ここに座れや” と腐った笑顔をイリアに向ける。
「有り難う御座います」
イリアが座ると、おっさんは、俺に ”そっちの端にでも座ってろ” と小汚い指を向けた。
「君が来るのを楽しみにしていたよ。待っていた甲斐があると言うものだ」
おい、”君が” じゃなくて ”君達が” と言い直せ! おっさん。
「いいえ。お招きくださり、私も大変嬉しく思っていますわ」
そう言い終わった時、イリアの膝の上にある、セリス愛用のハンドバッグが小刻みに揺れた。それを、何の迷いもなく、俺に投げてよこした。レディー失格だ。
俺は、そのバッグから、そっとイヤホンを取り出し、耳に装着。
「この通信は聞き流してください。想定外発生。三等食堂が21時に閉鎖されました。よって私達は三等客室に移動します」
おっさんが、いやらしい目を俺に向けた。
「あー、君は旅行者だろう?」
何故それを! 誰だ! おっさん、何だ! おっさん。
「良く分かりましたね」
「そりゃーそうだ。だって、間抜けにも”チーム ツアーレ”だろう。その名前で。恥ずかしくないのか? お金が無いって、自分で宣伝しているようなものだ」
「そういうあんたは?」
「俺は ”チーム ケンジ” のリーダーさ」
「どういうことだ? 俺達のターゲットをどうした?」
「それが知りたいか?お前達のターゲットは、ここにはいないさ。この俺は、替え玉ってわけだ。どうだ、面白いだろう?」
キター、ネタバレキター。
なら、こいつを警護する意味、無いんじゃないかい? 俺は立ち上がり、イリアも立たせようとした。
「おいおい。仕事を途中で放り投げるつもりかい?」
「あんたを警護しても、意味ないだろう?」
「おやおや、何か勘違いしてるようだな。まあ、座れ」
俺は座った。素直な奴なんだ、俺って。
「いいか、俺が替え玉って知ってるのは俺とお前だげだ。向こう、殺人犯にとっちゃ~、そんなことは知ったことじゃない。あくまで、俺がターゲットなんだ。その俺を、命をかけて守るのがお前の仕事ってわけ。わかるか?」
「そんなことして、あんた、殺されるかもしれないんだぞ」
「平気さ。俺にはこの ”復活券” があるからな。それに、身代わりになるのって、おもしいじゃないか。当然その分、報酬はいいけどな。まあ、俺にとっては報酬なんて、どうでもいいんだ。”チーム ツアーレ” がどんな奴なのか、見たくなっただけだ」
「なんだ、その ”復活券” ってのは?」
「ああ? 知らない? ふ~ん。そうだろうな。”復活券”ってのはな、この世界で死んでも、すぐに生き返れるやつだ。知らなくて当然か。これ一枚で50万するかならな。お前を見て、紹介する気の失せたんだろうよ。アハハハハーアハ。せいぜい、頑張れや」
「どいつもこいつも、ケンジって名前の奴は、ろくな奴がいない」
「ああ? お前、違う世界の俺と会ってたのか?」
「え? あんたとは別人だったぞ」
「あの~、私、少しお腹が…」
イリアが小さく手を上げて割り込んだ。どうした? お腹が痛いのか?
「おお、すまない、レディー。ちょっと待っててくれないか?」
ケンジは右手を上げ、パチンと指を鳴らして、ボーイを呼んだ。
「こちらのレディーに、何か食事を用意してくれ」
ちょっと待てー。その食事代、誰が払うんだ。当然ケンジだよな! 俺は頼んでないぞ。それに、イリアも”腹が~”って言っただけだぞ! イリア! なんだ、その満面の笑顔は!
またまた通信が入る。
「この通信は聞き流してください。想定外発生。三等客室でダンス大会が始まりました。セリスがノリノリで踊っています。注目を集めています」
◇◇
波良し、風良し、俺良しの三拍子が揃ってしまった。スーツでビシビシっとキメた俺。我が社の業績は、絶好調かな。そんな俺に釣り合う女性は、滅多にいるもんじゃなない。
「レディー・イリア。お手をどうぞ」
ロングドレスに、何かの巣をイメージしたヘアー。貴方は誰? 状態のイリアをエスコートして、一等食堂を目指す。
許された者だけが進める道がある。成功、栄誉、名声、地位。その全てを手にし、選ばられた存在。さあ、胸を張り、上を向いて歩こう。もう、小銭を拾うのに下を向く必要は無い。それが嘘だと分かっていても、誰もが俺に媚びを売ってくる。見晴らしのいい高台から見下ろす世界は、美しく、脆く、儚い。レディー・イリア。
俺と一緒に、その階段を上がろう。二度と、そこから降りることのないように。
「ホギャ」
慣れない服装。慣れないヒール、そして、隠しきれない貧乏性。イリアは、何度も転びそうになる。俺は、そっと、エレガントに、優雅に、優しくイリアを支える。
「何処触ってんのよ」
さあ、俺と一緒に、その階段を上がろう。コケたら、二度と這い上がれなくなる。
ボディーチェックを受けた後、一等食堂の扉を…勝手に開いたので入る。今の俺は丸腰だ。でも、武器が何も無いって訳じゃ無い。俺には、名前の由来にもなった”勇気”がある。これ一つあれば、男は、どんな状況でも立ち向かっていける。そうさ。これが、俺の唯一無二の武器だ。さあ、かかってこい。コテンパンのペコンペコンにしてやる。
広い室内の奥の奥に、大きなテーブルにぽつんと座る男。俺と同じ道を歩んだ者だろう。どこか、他の奴とオーラが違う。間違いない。その男が今回の、守るべき人物だ。これが女の人だったら、俺の士気も、もっと上がったことだろう。いや、桁違いと言ってもいい。それ程俺は、がっかりしている。
オラオラオーラの男に近づき、確認の言葉を交わす……
オラオラオーラの男は、俺を無視し、イリアに話しかける。
「”チーム ツアーレ”の方ですね」
「はい、そうです」
「お待ちしてました。どうぞこちらに座ってください」
そのおっさんは、自分の隣りの椅子を引き、”ここに座れや” と腐った笑顔をイリアに向ける。
「有り難う御座います」
イリアが座ると、おっさんは、俺に ”そっちの端にでも座ってろ” と小汚い指を向けた。
「君が来るのを楽しみにしていたよ。待っていた甲斐があると言うものだ」
おい、”君が” じゃなくて ”君達が” と言い直せ! おっさん。
「いいえ。お招きくださり、私も大変嬉しく思っていますわ」
そう言い終わった時、イリアの膝の上にある、セリス愛用のハンドバッグが小刻みに揺れた。それを、何の迷いもなく、俺に投げてよこした。レディー失格だ。
俺は、そのバッグから、そっとイヤホンを取り出し、耳に装着。
「この通信は聞き流してください。想定外発生。三等食堂が21時に閉鎖されました。よって私達は三等客室に移動します」
おっさんが、いやらしい目を俺に向けた。
「あー、君は旅行者だろう?」
何故それを! 誰だ! おっさん、何だ! おっさん。
「良く分かりましたね」
「そりゃーそうだ。だって、間抜けにも”チーム ツアーレ”だろう。その名前で。恥ずかしくないのか? お金が無いって、自分で宣伝しているようなものだ」
「そういうあんたは?」
「俺は ”チーム ケンジ” のリーダーさ」
「どういうことだ? 俺達のターゲットをどうした?」
「それが知りたいか?お前達のターゲットは、ここにはいないさ。この俺は、替え玉ってわけだ。どうだ、面白いだろう?」
キター、ネタバレキター。
なら、こいつを警護する意味、無いんじゃないかい? 俺は立ち上がり、イリアも立たせようとした。
「おいおい。仕事を途中で放り投げるつもりかい?」
「あんたを警護しても、意味ないだろう?」
「おやおや、何か勘違いしてるようだな。まあ、座れ」
俺は座った。素直な奴なんだ、俺って。
「いいか、俺が替え玉って知ってるのは俺とお前だげだ。向こう、殺人犯にとっちゃ~、そんなことは知ったことじゃない。あくまで、俺がターゲットなんだ。その俺を、命をかけて守るのがお前の仕事ってわけ。わかるか?」
「そんなことして、あんた、殺されるかもしれないんだぞ」
「平気さ。俺にはこの ”復活券” があるからな。それに、身代わりになるのって、おもしいじゃないか。当然その分、報酬はいいけどな。まあ、俺にとっては報酬なんて、どうでもいいんだ。”チーム ツアーレ” がどんな奴なのか、見たくなっただけだ」
「なんだ、その ”復活券” ってのは?」
「ああ? 知らない? ふ~ん。そうだろうな。”復活券”ってのはな、この世界で死んでも、すぐに生き返れるやつだ。知らなくて当然か。これ一枚で50万するかならな。お前を見て、紹介する気の失せたんだろうよ。アハハハハーアハ。せいぜい、頑張れや」
「どいつもこいつも、ケンジって名前の奴は、ろくな奴がいない」
「ああ? お前、違う世界の俺と会ってたのか?」
「え? あんたとは別人だったぞ」
「あの~、私、少しお腹が…」
イリアが小さく手を上げて割り込んだ。どうした? お腹が痛いのか?
「おお、すまない、レディー。ちょっと待っててくれないか?」
ケンジは右手を上げ、パチンと指を鳴らして、ボーイを呼んだ。
「こちらのレディーに、何か食事を用意してくれ」
ちょっと待てー。その食事代、誰が払うんだ。当然ケンジだよな! 俺は頼んでないぞ。それに、イリアも”腹が~”って言っただけだぞ! イリア! なんだ、その満面の笑顔は!
またまた通信が入る。
「この通信は聞き流してください。想定外発生。三等客室でダンス大会が始まりました。セリスがノリノリで踊っています。注目を集めています」
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