12☆ワールド征服旅行記

Tro

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#5 古代 セイコ編

#5.2 エルフの里 (1/2)

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たった数歩歩いただけで、目の前の景色が変わった。池から生えた、いくつもの大木。その上に構築された家々。まさしく、里と呼ぶにふさわしい場所だ。逆に言えば、家の配置に合わせるかのように、木が生えているとも言える。自然豊かな、それでいて人工的な、見事な調和を感じる。

しかし、この里に一点だけ、不釣り合いなものがある。それは、入ってすぐにある、コンビニだ。それも、周りに合わせて、それとなく存在しているのではない。ごく普通に目にする、コンビニだ。その存在たるや、違和感の領域を超えている。そこで、電気料金の支払いまで出来そうだ。

「(ユウキ。”コンビニ ツアーレ 24時間営業”と書いてあります)」

なんという、神出鬼没。恐るべし、ツアーレ旅行社。後で行ってみよう。

迷路のような通路を通って、ある家にたどり着いた。途中で逸れたら、おしまいだ。

「里長様、いますかー。いますよね。入りまーす」

部屋の中には、里長様と呼ばれるおばさん一人。部屋の奥で座っていた。

「里長様! すごい人を連れてきました」
「なんです!? セイコ。騒々しい」
「ポチ丸様の主人の飼い主の元の偉いの憧れのセリスお姉様です」
「本当ですか?! ポチ丸様の! その、人の子である、その男ですか?」
「はあ? 違いますよ。こいつじゃなくて、こちらのお姉様です」
「初めまして。ユウキです」
「かっ、勝手に喋るな! おかしくなるだろう!」
「イリアです」
「へへ」
「セイコ。お客人を、いつまで立たせておくのです?」
「これは、失礼しました」

セイコは自分用と、もう一脚だけ用意した。

「帰ろうかな」

俺がそう呟くと、慌てて、俺達の分まで用意した。全く、学習機能が無いのか?

「ひとつ、足りないようですよ」
里長様が、並べられた椅子を見て、ポツリとこぼした。

「そんなはずは」

意味が分からないセイコは首を傾げながらも、それでも余計に一脚用意する。どうやら、逆らえない下っ端のようだ。

俺達は用意された椅子に座り、余った椅子にイオナが座った。この里長様。ただ者でないことは承知した。


セイコは立ったまま、里長様を俺達に紹介し始める。

「こちらが、里長様です。本来は、お前達人間どもには、会おうことさえ許されていないんだぞ。今回、特別に許されているのだ。十分、立場をわきまえてもらいたい。こう見えても800年以上、この世界を見てきた方だ」

”えっへん”というセイコの心の声が聞こえてきそうだ。それに、いつ、許可を取ったんだ? なんだか、勝手に押しかけたような気がしてならない。

この場の全員が椅子に座り、体制は整った。どっからでもかかってこい。すぐに逃げてやる。

睨み合いが続くかという静寂を破って、里長様が立ち上がった。

「どれどれ、人の子よ。顔を良く見せてくれませんか?」

里長様は、俺に顔を近づけて、ジロジロと見る。恥ずかしくてたまらない。年上は、好みではありません。

「里長様、そいつじゃなくて、こっちですよ」
「冗談ですよ」

冗談大好きな、エルフのようだ。

「さっきも言ったけど、このセリスお姉様が、ポチ丸様の……」
「分かっています。セリスさん、ポチ丸様とご兄弟だとか」
「まあ、そんなもんだ。おばちゃん」

今度は、飼い主から兄弟になってしまった。まるで、伝言ゲームのようになってきたぞ。

「瓜二つですね、ポチ丸様と。さすがは ご兄弟です」
そこまで言うか!

「私達の里は、古くからドランゴと共に生き、共に知識を得てきた間柄です。ドランゴは、私達とは比べものにもならない位の長寿。その長い年月で得てきた知恵を私達は授かり、受け継いできました。
そんなドランゴに、少しでも役に立てればと、私達この里の者は、ドラゴンを人の害から守る役目をしています。セイコも、その内の一人なんですよ。彼女は今時珍しく、ドラゴンと話すことが出来るのです。昔は皆、出来たのですが、今は誰も。時の流れというものは早急ですね」

セイコは、目を丸くして里長様の話に聞き入っていた。

「おお、里長様が、こんなに話したのは久しぶりだよ。よっぽど、お姉様が来てくれてことが嬉しんだね」

優しい笑みでセリスを見つめる里長様。その反対の目でイリアを凝視する。

「そこの娘さん!」
「へえ!」
「あなたの顔に、災いの相が出ていますよ」
「ええ!」
「あなた、かなりの借金をしていますね」
「ええ! 私は、私は……ただ、ちょっと」

なんという洞察力。ただ者ではないな。

◇◇

「里長様ー」
ドカドカと通路を歩く音がしたと思ったら、おっさんが叫びながら乱入。この部屋は無礼講のようだ。

「なんですか! 騒々しい」
「セイコが男を連れ込んだというのは本当か!」
「叔父さん!」

どこの世界でも、身内は騒がしいものだ。

「こいつか! セイコの男は!」
俺は、蛇に睨まれたカエルのようになってしまったケロ。

「叔父さん! 違うよ!」
「もう、やったのか!」
「馬鹿野郎!!!」

セイコのグーパンチが、叔父さんの左頬にクリーンヒット。一発K.Oだ。かくかくしかじかで、大人しくなった。


覚醒した叔父さんは、こともあろうか、イオナの座っている椅子に割り込んだ。被害にあったイオナは、幽霊のように消えてしまった。ゲキ怒である。更に、周りを見る振りをして、隣のイリアをロックオン。そして、イリアの右手を取ると、いきなり撫で始める。

「やあ、君。突然だけど、僕の所に、嫁に来ないか?」
「へえ?」

みんなが見ている。全員が見ている。神様も見ている。俺も見ている。

「叔父さん!」
セイコの血糖値は高い。いや、その血が頭から噴き出しそうだ。

イリアの左ビンタがクリーンヒット。叔父さんの両頬は、猿のようになった。いったい、このエロオヤジは、何しに来たんだ?


「ああ、セイコ。近々この森に、ドラゴンハンターが集まるようだ」
今までのことは無かったかのように、エロオヤジから叔父さんに変わった。

「叔父さん、それ本当なの? いつなの?」
「ここ2、3日中だろうな」
「なら、暫くは森には近づかない方がいいね」
「そうだな。その方がいい」

「あの~、ドラゴンハンターって?」
俺は、分からないことは質問するタイプだ。イオナは俺のタイプだ。

叔父さんは黙って腕組みをする。どうやら、それが俺への返答らしい。

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