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#7 現代 フーコ編
#7.1 屍の山を越えて行け (1/2)
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薄暗い部屋で俺は、パソコンの画面を見ていた。その画面には次々と文字が表示されていき、俺の両手は、必死にキーボートを叩いている。
”納期に間に合わない”そんなことが脳裏に浮かんだ。自分の意思とは関係なく、俺はキーボートを叩いている。視線を動かすと、時計が見えた。時間は10時ちょっと過ぎ。午前なのか午後なのか、分からない。
「エイヤー」
俺は突然、奇声を上げた。何故だか、分からない。
「静かにしろー、474!」
誰かに怒鳴られた。それが自分に向けられたものなのかどうか、判断がつかない。
俺の視線が、画面の上と下を移動し、何かを探している。そして時々、マウスを素早く動かし、クリックを数回、リズミカルに連打する。
カチ。カチカチ。カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ。
俺は狂ったようにクリックを繰り返した。その音がおかしくて、笑いが止まらない。
「グアッハハハ、ヒヒヒー、ヒーン」
「いい加減にしろ!」
その声は、ちょうどいい、手拍子のように聞こえた。
マウスから手を離した俺は、またキーボートを叩き続ける。見事なブラインドタッチだ。おっと。ここは修正しないと。deleteキーをポン、ポンポンポン。そしてまた、キーボートを叩き続ける。
おっと、右上にタイプミスを発見。マウスを握り、勢い良く右上方向に滑らす。マウスは俺の手を離れ、隣のパソコンまで吹っ飛んで行った。
右隣の人が、器用に俺のマウスをブラインドキャッチし、俺の方に弾き返してきた。俺は無意識に、パソコンが載っているテーブルの引き出しを開け、中を弄る。その中から小さな紙切れを取り出し、目の前にかざした。
”第94開発室 プログラマー #474 ユウキ”。
どうやら名刺のようだ。会社名は……なんだ、俺も知っている超有名なIT企業じゃないか。
満足した俺は、名刺を投げ捨て、引き出しを目一杯、力を込めて閉めた。
「おい! 474! いい加減にしろ! クビにするぞ」
俺は、キーボートを叩き続けながら、体だけ声のする方に向けた。なんて器用なんだ。俺は天才か。
「お前なんか、俺の魔法で吹き飛ばしてやる」
「なんだって?」
「いでよ。エイヤー」
「……」
魔法の発動は失敗した。俺はまたパソコンに向かい、キーボートを叩き続ける。
「おい、フーコ。俺は外出してくる。7時までには戻る。
そいつが使い物にならなくなったら処分しておけ」
「分かりました。ケンジ部長」
”ケンジ” その音を聞いた瞬間、俺の手が止まった。しかし、直ぐに再始動。俺は、キーボートを叩き続ける。
頭がぼんやりとする。いつ寝たのか、いつ起きたのか、記憶がない。ただ、”納期”という十字架を背をって、俺は走り続けている。それ以外の余計なこと、空腹だとか、トイレだとか、そんなものは不要だ。言われたことを、忠実に、この命を捧げてゴールを目指す。そして、ゴールの先にはまた、休みなくスタートラインが待っている。
「君、仕事が出来なくなくなったら、直ぐに辞めてくれ。後が面倒だ」
隣の人が、ブラインドボイスで喋った。
俺は、左側を見た。ずらっと並ぶパソコン。その前に人は、いない。気にせず、キーボートを叩き続ける。
俺は、右側を見た。ずらっと並ぶパソコン。隣に人がいるだけで、他はいない。気にせず、キーボートを叩き続ける。
「こ・こ・が、ど・う・し・て・も・テ・ス・ト・を・パ・ス・し・な・い」
口が重くなって、うまく発声できない。
「こ・こ・が、ど・う・し・て・も・テ・ス・ト・を・バ・ス・し・な・い」
「こ・こ・が、ど・う・し・て・も・テ・ス・ト・を・ハ・ス・し・な・い」
「こ・こ・か、ど・う・し・て・も・テ・ス・ト・を・パ・ス・し・な・い」
同じことを何度も繰り返して言っている。でも、止められない。なんだか、体の自由が利かなくなっているようだ。
「適当に合わせておけば、いいじゃないか」
神の声が聞こえた。俺に手を抜けと仰る。
「こ・こ・か、と・う・し・て・も」
「後で下請けが、丸く収めるから、いいんだ」
神が俺を、そそのかす。
「こ・こ・か」
「そこ、マジックナンバー埋めておけ」
「マジック!」
そうだ。魔法を使おう! こんなことぐらい、魔法なら簡単解決だ。
「命じる! 俺に従え! エイヤー」
俺はそのまま、無意識の領域に到達してしまったようだ。
◇
”納期に間に合わない”そんなことが脳裏に浮かんだ。自分の意思とは関係なく、俺はキーボートを叩いている。視線を動かすと、時計が見えた。時間は10時ちょっと過ぎ。午前なのか午後なのか、分からない。
「エイヤー」
俺は突然、奇声を上げた。何故だか、分からない。
「静かにしろー、474!」
誰かに怒鳴られた。それが自分に向けられたものなのかどうか、判断がつかない。
俺の視線が、画面の上と下を移動し、何かを探している。そして時々、マウスを素早く動かし、クリックを数回、リズミカルに連打する。
カチ。カチカチ。カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ。
俺は狂ったようにクリックを繰り返した。その音がおかしくて、笑いが止まらない。
「グアッハハハ、ヒヒヒー、ヒーン」
「いい加減にしろ!」
その声は、ちょうどいい、手拍子のように聞こえた。
マウスから手を離した俺は、またキーボートを叩き続ける。見事なブラインドタッチだ。おっと。ここは修正しないと。deleteキーをポン、ポンポンポン。そしてまた、キーボートを叩き続ける。
おっと、右上にタイプミスを発見。マウスを握り、勢い良く右上方向に滑らす。マウスは俺の手を離れ、隣のパソコンまで吹っ飛んで行った。
右隣の人が、器用に俺のマウスをブラインドキャッチし、俺の方に弾き返してきた。俺は無意識に、パソコンが載っているテーブルの引き出しを開け、中を弄る。その中から小さな紙切れを取り出し、目の前にかざした。
”第94開発室 プログラマー #474 ユウキ”。
どうやら名刺のようだ。会社名は……なんだ、俺も知っている超有名なIT企業じゃないか。
満足した俺は、名刺を投げ捨て、引き出しを目一杯、力を込めて閉めた。
「おい! 474! いい加減にしろ! クビにするぞ」
俺は、キーボートを叩き続けながら、体だけ声のする方に向けた。なんて器用なんだ。俺は天才か。
「お前なんか、俺の魔法で吹き飛ばしてやる」
「なんだって?」
「いでよ。エイヤー」
「……」
魔法の発動は失敗した。俺はまたパソコンに向かい、キーボートを叩き続ける。
「おい、フーコ。俺は外出してくる。7時までには戻る。
そいつが使い物にならなくなったら処分しておけ」
「分かりました。ケンジ部長」
”ケンジ” その音を聞いた瞬間、俺の手が止まった。しかし、直ぐに再始動。俺は、キーボートを叩き続ける。
頭がぼんやりとする。いつ寝たのか、いつ起きたのか、記憶がない。ただ、”納期”という十字架を背をって、俺は走り続けている。それ以外の余計なこと、空腹だとか、トイレだとか、そんなものは不要だ。言われたことを、忠実に、この命を捧げてゴールを目指す。そして、ゴールの先にはまた、休みなくスタートラインが待っている。
「君、仕事が出来なくなくなったら、直ぐに辞めてくれ。後が面倒だ」
隣の人が、ブラインドボイスで喋った。
俺は、左側を見た。ずらっと並ぶパソコン。その前に人は、いない。気にせず、キーボートを叩き続ける。
俺は、右側を見た。ずらっと並ぶパソコン。隣に人がいるだけで、他はいない。気にせず、キーボートを叩き続ける。
「こ・こ・が、ど・う・し・て・も・テ・ス・ト・を・パ・ス・し・な・い」
口が重くなって、うまく発声できない。
「こ・こ・が、ど・う・し・て・も・テ・ス・ト・を・バ・ス・し・な・い」
「こ・こ・が、ど・う・し・て・も・テ・ス・ト・を・ハ・ス・し・な・い」
「こ・こ・か、ど・う・し・て・も・テ・ス・ト・を・パ・ス・し・な・い」
同じことを何度も繰り返して言っている。でも、止められない。なんだか、体の自由が利かなくなっているようだ。
「適当に合わせておけば、いいじゃないか」
神の声が聞こえた。俺に手を抜けと仰る。
「こ・こ・か、と・う・し・て・も」
「後で下請けが、丸く収めるから、いいんだ」
神が俺を、そそのかす。
「こ・こ・か」
「そこ、マジックナンバー埋めておけ」
「マジック!」
そうだ。魔法を使おう! こんなことぐらい、魔法なら簡単解決だ。
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俺はそのまま、無意識の領域に到達してしまったようだ。
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