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#7 現代 フーコ編
#7.1 屍の山を越えて行け (2/2)
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「おい! 君。起きたまえ」
「ウッセー、まだ寝る!」
「部長が、ケンジ部長が戻ってくるぞ」
「”ケンジ”? んん?」
俺は、薄暗い部屋の中、目を覚ました。霞んだ目を擦って周囲を見渡すと、俺を起こしてくれたであろう人と、ウギィ! 死体の山が転がっている。
「さあ、私の手を取りなさい」
綺麗なお姉さんが俺に、手を差し出してくれた。その手は、生暖かったような気がする。
「今、何時ですか?」
「朝の6時、ちょっと過ぎだ」
「まだ、早いじゃないですか」
「君は72時間以上、連続して働いていたんだ。まだ寝足りないだろうが、そろそろ部長が戻ってくる時間だ」
「俺はここで、何を?」
「そうか。無理もない。よく有る事だから心配するな。ところでだ。時間が無いので手短に言うが、君、戦う意思はあるか?」
「戦う? 何と?」
「敵だ。巨悪な敵を打ち倒す。そのためには、共に戦う仲間が必要だ」
「どんな敵なんですか?」
「一言で言えば、ケンジ部長だ」
「ケンジ? それは人類の敵ですか」
「勿論だ。我々の敵は人類の敵だ。さあ、どうする?」
「何故、俺なんですか?」
「君は魔法が使えるのだろう。他の者達と少し違う、勇者の素質があると見込んだ」
「俺に務まりますか?」
「見ろ! あの屍の山を。彼らはまだ、一応息はしているが、精神と身体を病み、後は処分されるのを待つだけだ。君も、ああ成りたいかね?」
「いいえ! 成りたくないであります」
「では、話は一旦、ここまでとしよう。続きは昼休み、従業員食堂の前で待つ」
「はい! 分かりました。えーと」
「私は天才のフーコ。君の同僚で先輩だ」
「俺は、ユウ……」
「それは聞かないことにする」
「え?」
「君に、もしもの事があっても、名前を呼ばなくて済むからな。名を知れば、君を思い出してしまうじゃないか」
「分かりました」
「それと君。タイムカードを押して来なさい」
「え?」
「君はまだ、出社していないのだよ。このままだと欠勤になる」
◇
薄暗い部屋で俺は、キーボートを叩き続ける。そこに、俺の意思や思考は無い。得体の知れない十字架を背負い、命の炎を燃やし続けた。
至福の時間が到来。さあ、餌の時間だ。
「おい! 474。10分で戻ってこい」
そのうち、風の魔法で吹き飛ばしてやる。
気がつけば、隣のお姉さんがいない。俺は部屋を出て、従業員食堂を探す。だだっ広い廊下を進み、エレベーターを見つけた。
エレベーターを待つこと数分。どうせ、みんな食堂に行くだろうから、付いていけば辿り着けるだろう。俺の予想通り、52階中の51階で、ドバッと人が降り始めた。その流れに乗って、俺も降りる。
食堂は。降りてすぐの場所にあった。その入り口で、お姉さんが一人で立っている。中々、ボッチ姿が板についているようだ。可哀想なので、手を振って合図をしてみた。これで一人じゃないことを証明できるだろう。しかし、機嫌を損ねたのか、入り口から中に入ってしまった。
急いで入り口付近を捜したが、見当たらない。キョロキョロしていると、後ろから声を掛けられた。
「君。振り向かずに聞くんだ。お互い、知らない振りをするんだ。
そして、偶然、出会ったようにしたまえ」
俺は、とんでもない世界に足を踏み入れてしまったのかも知れない。
俺は、そのまま前進し、券売機の前で立ち止まった。
お金を持っていない。衝撃の事実が、俺を襲った。
俺の後ろに並ぶ、”早くしろ! この野郎”視線が痛い。どうしたら良いんだ、この野郎と、指だけボタンの前に移動させる。その前に、お金を入れないといけないんだが。震える指が、カード挿入口を指した。これは! 小さな文字で”パスポート利用可”と書いてある。
俺は、カツ丼を注文することが出来た。既に、仕事部屋を出てから10分は、とうに過ぎている。トレイにカツ丼を乗せ、お姉さんのいるテーブルを探す。
奥手の窓際、4席のテーブルに一人で座っているのを発見。早く行かないと、見知らぬ誰かが座ってしまうかもしれない。ただでさえ昼時で混んでいるのに、更に、あのお姉さんだ。競争相手は沢山いることだろう。
テーブルに近づくと、周りは混雑しているのに、ここだけ、謎の空白地帯が発生しているようだ。皆、お姉さんのいるテーブルを避けているような気がする。
「すいません。相席、いいですか?」
俺は、白々しく話しかける。
「どうぞ、空いてますから」
◇◇
俺はカツ丼を食べながら、お姉さんが話し始めるの待った。
「手短に言おう。ここでも時間は限られているからね」
「誰か来たら、まずいですからね」
「それはないから、安心したまえ」
「そうなんですか?」
「天才の私は、タイムマシーンを作ってしまった」
カツ丼が旨い。
「そして、驚愕の事実を見てしまった」
このカツ丼、なかなかいける。
「それはこの会社が、あと15年後に倒産するというものだった」
物足りない。お替りがしたいぐらいだ。
「魔法が使える君なら、信じられるだろう」
「もちろんです」
「なら、話が早い。この先のことは、君が最初に聞いた存在になる」
「光栄です」
「10年後、ケンジ部長が社長になる。あのイカれた野郎は、その本性を発揮し、たった5年で会社を潰す。当然、私達への影響は甚大だ」
「見てきたんですか?」
「いや、違うが、そうとも言える」
「なるほど、それは大変だ」
「君もそう思うだろう」
「そう思います」
お姉さんは、箸を持っている俺の手を、きつく握りしめてきた。
ドキドキが止まらない。
「君! 信じていないだろう」
ドキドキが走り回る。
「仕方ない。君にだけは見せておかねば、ならないようだ」
ドキドキが誘惑される。
「午後6時。退出のタイムカードを押したら、その足で13階に来たまえ」
そう言い残して、お姉さんは立ち去ってしまった。この手は、もう洗わない。
◇
「ウッセー、まだ寝る!」
「部長が、ケンジ部長が戻ってくるぞ」
「”ケンジ”? んん?」
俺は、薄暗い部屋の中、目を覚ました。霞んだ目を擦って周囲を見渡すと、俺を起こしてくれたであろう人と、ウギィ! 死体の山が転がっている。
「さあ、私の手を取りなさい」
綺麗なお姉さんが俺に、手を差し出してくれた。その手は、生暖かったような気がする。
「今、何時ですか?」
「朝の6時、ちょっと過ぎだ」
「まだ、早いじゃないですか」
「君は72時間以上、連続して働いていたんだ。まだ寝足りないだろうが、そろそろ部長が戻ってくる時間だ」
「俺はここで、何を?」
「そうか。無理もない。よく有る事だから心配するな。ところでだ。時間が無いので手短に言うが、君、戦う意思はあるか?」
「戦う? 何と?」
「敵だ。巨悪な敵を打ち倒す。そのためには、共に戦う仲間が必要だ」
「どんな敵なんですか?」
「一言で言えば、ケンジ部長だ」
「ケンジ? それは人類の敵ですか」
「勿論だ。我々の敵は人類の敵だ。さあ、どうする?」
「何故、俺なんですか?」
「君は魔法が使えるのだろう。他の者達と少し違う、勇者の素質があると見込んだ」
「俺に務まりますか?」
「見ろ! あの屍の山を。彼らはまだ、一応息はしているが、精神と身体を病み、後は処分されるのを待つだけだ。君も、ああ成りたいかね?」
「いいえ! 成りたくないであります」
「では、話は一旦、ここまでとしよう。続きは昼休み、従業員食堂の前で待つ」
「はい! 分かりました。えーと」
「私は天才のフーコ。君の同僚で先輩だ」
「俺は、ユウ……」
「それは聞かないことにする」
「え?」
「君に、もしもの事があっても、名前を呼ばなくて済むからな。名を知れば、君を思い出してしまうじゃないか」
「分かりました」
「それと君。タイムカードを押して来なさい」
「え?」
「君はまだ、出社していないのだよ。このままだと欠勤になる」
◇
薄暗い部屋で俺は、キーボートを叩き続ける。そこに、俺の意思や思考は無い。得体の知れない十字架を背負い、命の炎を燃やし続けた。
至福の時間が到来。さあ、餌の時間だ。
「おい! 474。10分で戻ってこい」
そのうち、風の魔法で吹き飛ばしてやる。
気がつけば、隣のお姉さんがいない。俺は部屋を出て、従業員食堂を探す。だだっ広い廊下を進み、エレベーターを見つけた。
エレベーターを待つこと数分。どうせ、みんな食堂に行くだろうから、付いていけば辿り着けるだろう。俺の予想通り、52階中の51階で、ドバッと人が降り始めた。その流れに乗って、俺も降りる。
食堂は。降りてすぐの場所にあった。その入り口で、お姉さんが一人で立っている。中々、ボッチ姿が板についているようだ。可哀想なので、手を振って合図をしてみた。これで一人じゃないことを証明できるだろう。しかし、機嫌を損ねたのか、入り口から中に入ってしまった。
急いで入り口付近を捜したが、見当たらない。キョロキョロしていると、後ろから声を掛けられた。
「君。振り向かずに聞くんだ。お互い、知らない振りをするんだ。
そして、偶然、出会ったようにしたまえ」
俺は、とんでもない世界に足を踏み入れてしまったのかも知れない。
俺は、そのまま前進し、券売機の前で立ち止まった。
お金を持っていない。衝撃の事実が、俺を襲った。
俺の後ろに並ぶ、”早くしろ! この野郎”視線が痛い。どうしたら良いんだ、この野郎と、指だけボタンの前に移動させる。その前に、お金を入れないといけないんだが。震える指が、カード挿入口を指した。これは! 小さな文字で”パスポート利用可”と書いてある。
俺は、カツ丼を注文することが出来た。既に、仕事部屋を出てから10分は、とうに過ぎている。トレイにカツ丼を乗せ、お姉さんのいるテーブルを探す。
奥手の窓際、4席のテーブルに一人で座っているのを発見。早く行かないと、見知らぬ誰かが座ってしまうかもしれない。ただでさえ昼時で混んでいるのに、更に、あのお姉さんだ。競争相手は沢山いることだろう。
テーブルに近づくと、周りは混雑しているのに、ここだけ、謎の空白地帯が発生しているようだ。皆、お姉さんのいるテーブルを避けているような気がする。
「すいません。相席、いいですか?」
俺は、白々しく話しかける。
「どうぞ、空いてますから」
◇◇
俺はカツ丼を食べながら、お姉さんが話し始めるの待った。
「手短に言おう。ここでも時間は限られているからね」
「誰か来たら、まずいですからね」
「それはないから、安心したまえ」
「そうなんですか?」
「天才の私は、タイムマシーンを作ってしまった」
カツ丼が旨い。
「そして、驚愕の事実を見てしまった」
このカツ丼、なかなかいける。
「それはこの会社が、あと15年後に倒産するというものだった」
物足りない。お替りがしたいぐらいだ。
「魔法が使える君なら、信じられるだろう」
「もちろんです」
「なら、話が早い。この先のことは、君が最初に聞いた存在になる」
「光栄です」
「10年後、ケンジ部長が社長になる。あのイカれた野郎は、その本性を発揮し、たった5年で会社を潰す。当然、私達への影響は甚大だ」
「見てきたんですか?」
「いや、違うが、そうとも言える」
「なるほど、それは大変だ」
「君もそう思うだろう」
「そう思います」
お姉さんは、箸を持っている俺の手を、きつく握りしめてきた。
ドキドキが止まらない。
「君! 信じていないだろう」
ドキドキが走り回る。
「仕方ない。君にだけは見せておかねば、ならないようだ」
ドキドキが誘惑される。
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◇
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