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#7 現代 フーコ編
#7.2 現状を変えたければ未来を変えろ (1/2)
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薄暗い部屋で俺は、罵詈雑言を浴びながら、キーボートを叩き続ける。そこに、俺の心や思念は無い。得体の知れない十字架を背負い、魂の炎を燃やし続けた。
終了のゴングが鳴り響く。さあ、リングを降りる時間だ。
「おい! 474。1分で戻ってこい」
気がつけば、隣のお姉さんがいない。俺は部屋を出て、1階を目指す。そこでタイムカードを押して13階へ。
エレベーターを降りて、長い廊下を進む。時々。天井の監視カメラが俺を睨みつける。”あっかんべー”をして先を進む、進む、進む。何て長い廊下なんだ。部屋を出てから、とうに1分は過ぎている。
お姉さんは、廊下の突き当たりから2番目のドアの前に立っている。今度は、向こうから手を振ってきた。ドキドキが蘇る。
お姉さんは、ドアの鍵を開け、中に入る。それに続く俺。部屋の中は、轟音が凄まじいサーバールームのようだ。立ち並ぶサーバーラックの横をスルスルと、奥へ、更に奥へと進む。お姉さんは、こんなところに俺を連れ込んで、何をするつもりだ?
一番奥の一角に、小さな小部屋があった。その中に入ると、一面、畳である。すごいギャップを感じる。
「ここが、私のプライベート研究所だ。寛いでくれ」
「社内に、こんな場所があるなんて」
「もちろん、この場所を知っているのは、私と君だけだ」
「フー……プライベートって、偉かったんですね」
「今、私の名前を言いかけたね?」
「いえ、あの……名前の前に”天才”って付けるんですか?」
「君。アインシュタインを知っているかね?」
「知ってい……」
「知らないだろう! 知らないよね! 誰それだよね!」
「いや……知って……」
「そう、アインシュタインって人は誰も知らない。けど……天才のアインシュタインと言えば、誰でも、ああ、あの人のことか~って。思うよね! 知ってるよね!」
「はあ」
「だからよ! 天才の私に、”天才”って付けないと、誰それ? になってしまうのよ。正しく私を表現していないの! だから正確に”キリっと”、付ける必要があるのよ!……だ」
「分かりました。俺も、”お姉さん”と呼ぶことにします」
「好きにしたまえ。この研究所は、会社には内緒だ」
「なるほど」
「これだけ大きな会社だ。小さな事など、存在しないに等しい」
「途中、監視カメラがありましたが」
「大丈夫だ。あれは機能していない。というか、この会社の7割の監視カメラは機能不全だ。残りの3割の内、記録を取っているのは1割にも満たない。まして、常時監視しているカメラは、そのまた1割にも無い。有って無いようなものだ」
「詳しいんですね」
「天才の私に隠し事なんて、無理な相談だ。さて本題に入ろう。これが、天才の私が作ってしまった、タイムマシーンだ!」
低いテーブルの上にある、世紀の大発明。タイムマシーン。上から見ても、横から見ても、ただのパソコン! にしか見えないが。
「君にも、分かるだろう」
「すごいじゃないですか」
「君。信じてないね。仕方ない。実演しよう」
そう言ってお姉さんは、座布団の上に正座になり、パソコンの前に構えた。
「あの~。コンセントが入っていませんが、いいんですか?」
「ん? あれは勢いで付けてしまったんだ。ただの飾りだ。気にしないでくれ」
お姉さんは、さっと長い髪をかきあげると、パソコンのスイッチをポチる。コンセントの抜けたパソコンが普通に起動し、画面にいくつもの監視映像が並んだ。
「君。見たまえ」
お姉さんの指先を見ると、10年後の日付が見える。
「これが、今から10年後、同時刻の映像だ。信じるしかないだろう?」
空っぽの部屋が見える。俺の心も空っぽになる。
「社長室の監視映像だ。誰もいないから、つまらないか。なら、録画した物を見せよう」
切り替えた映像には、確かに、ケンジっぽいのが映っている。
「こいつが、あのイカれた野郎だ。イカれているだろう?」
イカれた野郎が延々と廊下を歩く映像だ。
「驚きました」
「君。信じてないね。仕方ない。15年後の事実を見せよう。本当は、現在時刻を見せてあげたいのだが、年代を変えると、このビルが停電してしまうのだ。録画したもので済まないが、これで我慢してくれたまえ」
映し出された映像に、どこかのWebサイトが表示された。そこには、大きく”倒産”の文字が輝いている。
「重要な箇所を強調しておいた。これで君にも理解できたはずだ。おまけに、この数日後、このビルも崩壊している。笑えるだろう?」
得意満面なお姉さん。仕事をやりきった顔だ。
「なあ~イオナ。どう思う?」
しまった! つい口にしてしまった。
「イオナ? それは君の”コレ”かね?」
「いえいえいえ……そうです」
「そうか。それで彼女はどこに?」
「いや、その、いつもは、その辺にいるはずが」
「分かった。しかし、君。色恋沙汰は、今は控えてくれないか」
「すみません」
「いや、君を責めているわけではないのだ。私達の目的が達成れた暁には、君が彼女と、あんなことや、こんなことをしても、誰も文句を言うまい。しかし今は、貴重な時間を、他のことに費やす暇はないのだ。了承して頂きたい」
「分かりました」
「すまない。君に、無理を言ってしまったようだ。堪えてくれ。しかし、もし、耐えきれなくなったら、私の名を叫ぶがいい。私はいつでも君を、受け入れよう」
「お姉さん!」
「さあ、戻りたまえ」
「あ、俺、就業時間が終わったので帰ります」
「帰る? どこに?」
「そういえば、どこだろう」
「分かった。そこまでとは。君の家、帰る場所は、君のデスクだ。死なない程度に、生き延びるのだ」
俺は、お姉さんと別れ、マイホームに戻った。
「おい! 474。遅れた分は給与からさっ引くからな」
俺の後ろに積まれていた屍の顔ぶれが、変わっていた。
◇
終了のゴングが鳴り響く。さあ、リングを降りる時間だ。
「おい! 474。1分で戻ってこい」
気がつけば、隣のお姉さんがいない。俺は部屋を出て、1階を目指す。そこでタイムカードを押して13階へ。
エレベーターを降りて、長い廊下を進む。時々。天井の監視カメラが俺を睨みつける。”あっかんべー”をして先を進む、進む、進む。何て長い廊下なんだ。部屋を出てから、とうに1分は過ぎている。
お姉さんは、廊下の突き当たりから2番目のドアの前に立っている。今度は、向こうから手を振ってきた。ドキドキが蘇る。
お姉さんは、ドアの鍵を開け、中に入る。それに続く俺。部屋の中は、轟音が凄まじいサーバールームのようだ。立ち並ぶサーバーラックの横をスルスルと、奥へ、更に奥へと進む。お姉さんは、こんなところに俺を連れ込んで、何をするつもりだ?
一番奥の一角に、小さな小部屋があった。その中に入ると、一面、畳である。すごいギャップを感じる。
「ここが、私のプライベート研究所だ。寛いでくれ」
「社内に、こんな場所があるなんて」
「もちろん、この場所を知っているのは、私と君だけだ」
「フー……プライベートって、偉かったんですね」
「今、私の名前を言いかけたね?」
「いえ、あの……名前の前に”天才”って付けるんですか?」
「君。アインシュタインを知っているかね?」
「知ってい……」
「知らないだろう! 知らないよね! 誰それだよね!」
「いや……知って……」
「そう、アインシュタインって人は誰も知らない。けど……天才のアインシュタインと言えば、誰でも、ああ、あの人のことか~って。思うよね! 知ってるよね!」
「はあ」
「だからよ! 天才の私に、”天才”って付けないと、誰それ? になってしまうのよ。正しく私を表現していないの! だから正確に”キリっと”、付ける必要があるのよ!……だ」
「分かりました。俺も、”お姉さん”と呼ぶことにします」
「好きにしたまえ。この研究所は、会社には内緒だ」
「なるほど」
「これだけ大きな会社だ。小さな事など、存在しないに等しい」
「途中、監視カメラがありましたが」
「大丈夫だ。あれは機能していない。というか、この会社の7割の監視カメラは機能不全だ。残りの3割の内、記録を取っているのは1割にも満たない。まして、常時監視しているカメラは、そのまた1割にも無い。有って無いようなものだ」
「詳しいんですね」
「天才の私に隠し事なんて、無理な相談だ。さて本題に入ろう。これが、天才の私が作ってしまった、タイムマシーンだ!」
低いテーブルの上にある、世紀の大発明。タイムマシーン。上から見ても、横から見ても、ただのパソコン! にしか見えないが。
「君にも、分かるだろう」
「すごいじゃないですか」
「君。信じてないね。仕方ない。実演しよう」
そう言ってお姉さんは、座布団の上に正座になり、パソコンの前に構えた。
「あの~。コンセントが入っていませんが、いいんですか?」
「ん? あれは勢いで付けてしまったんだ。ただの飾りだ。気にしないでくれ」
お姉さんは、さっと長い髪をかきあげると、パソコンのスイッチをポチる。コンセントの抜けたパソコンが普通に起動し、画面にいくつもの監視映像が並んだ。
「君。見たまえ」
お姉さんの指先を見ると、10年後の日付が見える。
「これが、今から10年後、同時刻の映像だ。信じるしかないだろう?」
空っぽの部屋が見える。俺の心も空っぽになる。
「社長室の監視映像だ。誰もいないから、つまらないか。なら、録画した物を見せよう」
切り替えた映像には、確かに、ケンジっぽいのが映っている。
「こいつが、あのイカれた野郎だ。イカれているだろう?」
イカれた野郎が延々と廊下を歩く映像だ。
「驚きました」
「君。信じてないね。仕方ない。15年後の事実を見せよう。本当は、現在時刻を見せてあげたいのだが、年代を変えると、このビルが停電してしまうのだ。録画したもので済まないが、これで我慢してくれたまえ」
映し出された映像に、どこかのWebサイトが表示された。そこには、大きく”倒産”の文字が輝いている。
「重要な箇所を強調しておいた。これで君にも理解できたはずだ。おまけに、この数日後、このビルも崩壊している。笑えるだろう?」
得意満面なお姉さん。仕事をやりきった顔だ。
「なあ~イオナ。どう思う?」
しまった! つい口にしてしまった。
「イオナ? それは君の”コレ”かね?」
「いえいえいえ……そうです」
「そうか。それで彼女はどこに?」
「いや、その、いつもは、その辺にいるはずが」
「分かった。しかし、君。色恋沙汰は、今は控えてくれないか」
「すみません」
「いや、君を責めているわけではないのだ。私達の目的が達成れた暁には、君が彼女と、あんなことや、こんなことをしても、誰も文句を言うまい。しかし今は、貴重な時間を、他のことに費やす暇はないのだ。了承して頂きたい」
「分かりました」
「すまない。君に、無理を言ってしまったようだ。堪えてくれ。しかし、もし、耐えきれなくなったら、私の名を叫ぶがいい。私はいつでも君を、受け入れよう」
「お姉さん!」
「さあ、戻りたまえ」
「あ、俺、就業時間が終わったので帰ります」
「帰る? どこに?」
「そういえば、どこだろう」
「分かった。そこまでとは。君の家、帰る場所は、君のデスクだ。死なない程度に、生き延びるのだ」
俺は、お姉さんと別れ、マイホームに戻った。
「おい! 474。遅れた分は給与からさっ引くからな」
俺の後ろに積まれていた屍の顔ぶれが、変わっていた。
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