パンドーラーの箱

Tro

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第1話 希望の虜

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 ほんとかよ! な、オンボロ The アパートの2階の一室で、


 俺はパンドラの箱を開けた。


 噂通り、あらゆる災いが出てきやがった。でも俺の目的はそんなことじゃない。箱の底に眠る希望。これさえ残れば問題ない。しかし箱の底には何も無かった。ああ、希望まで出て行きやがったようだ。話が違う。

『希望』が居なかったお陰で俺は会社をクビになり、銀行口座は空になった。おまけに住んでいるアパートで火事だ。だが、俺の負けん気で俺の部屋だけは免れた。


 トントン、ドスン。

 誰かが玄関のドアをノックしてやがる。もしかしたら希望が帰って来てくれたのかもしれない。

『おりゃー、金払えやー』


 どうやら借金取りのようだ。必殺、居留守の術。息を止め、意識も止める。俺はここに、いない。

『私よ~、ここを開けて~」


 彼女の声だ。だがどこか、おっさん臭い。それでも疑うことを知らない俺は術を解き、城門を開ける。


『いるじゃねーかー、この野郎。さっさと払いやがれ』

 借金取りの見事な技に騙されたようだ。しかし、熱い交渉の末、明日まで引き延ばすことに成功した。そして撃退後、壊れかけた玄関のドアを直す。そこで俺を死守した城門に、言葉を綴った張り紙を発見。

 嘘つき、恥知らず、人殺し。


 どれもが俺の胸を突く。だが、まだ人は殺してはいない。これは何かの間違いだ。誤認もはなはだしい。それは、……まだだ。
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