『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん

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第34話 影の騎士ノワールと美しすぎる従者アラタイト

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聖協国リーディルド―――降臨の間。


そこは思わず咽かえる、鉄のような血の匂いが充満していた

既に原形をとどめていない、おそらく人であろうモノ
その上に覆いかぶさるように咀嚼する異形。

まるで獣のようなそれは、突然現れた気配に臨戦態勢を取り飛びのいた。

「…ダレダ…?!」
「うわー。マジでドン引きなんだけど?…コホン」

怪しげな仮面をつけた黒っぽいスーツのような物を着た少年?
まだ背の低い少年の横には美しいであろう女性が、やはり怪しげな仮面をつけ佇んでいた。

「…俺様の警戒網を突破するだと?!…キサマ…ただ者ではないな?」

見た目獣のように擬態していた男は徐々に人間のような姿へと変貌していく。
そしてあふれ出す魔力。

ギラギラと目を光らせ睨み付けた。

(…ライト様?…マジで…やるんですか?)
(うん?そりゃあ…『お約束』?)
(…はあ)

そんな男に視線を投げ、女性はいきなりポーズを取り出す。

「う、美しすぎる従者、アラタイト。…愚かな獣は許さない!!」

そして同じように派手なポーズをとる少年?

「フハハハハハハ。我こそは影の騎士ノワール。貴様を冥府へと導くものなり!」

まるで効果音とエフェクトが発生するかのような決めポーズ。
仮面越しで見えないが、ライトは恍惚の表情を浮かべていた。

(くうー。ヤバイ。かっこよすぎる。マジで滾る!!)
(…うう、恥ずかしすぎです…)

「く、くそっ、怪しい奴らめ…どこの誰か知らぬが…返り討ちにしてくれるわ!!」

突然現れたふざけた闖入者。
しかしジグルダの危機感知はかつてないほどの警鐘を鳴らす。

身がすくむほどの恐怖。
しかし彼はそれを振り払うがごとく、魔力を噴き上げさせつかみかかった。

流石はレベル100オーバー。
まさに電光石火。

一瞬で怪しい少年らしき者との間合いをつぶす。

「とった!!…なあ?!ひぎぐいいい??!!!!」

「もう。まだ自己紹介終わってないじゃん。ていうか名乗るのが普通じゃないのかな?!…まったく。空気も読めないとか…」

やれやれといった感じでため息を吐く怪しい少年。
その目の前でジグルダは不自然に硬直、呼吸すらままならない。

「うん?なんだよ。全然弱いじゃん。レジストすらできないの?…ねえティ…コホン。…アラタイトもそう思うよね?」

ライトの纏っている魔力。
正直見るだけでも恐怖に包まれるほど濃密なものだった。

「えっと…か、過剰では?」
(…ライト様…怒ってらっしゃる?)

「うん?……まあいっか。ねえジグルダって言ったっけ?…うげ、マジで何なのコイツ…人型じゃない?…ねえ、お前さ、どこの生物?…記憶、封印されている?!…これでいいかな」

突然ジグルダの脳裏に浮かぶ幾つもの記憶。
かつて住んでいた星。

それはまさにこの星ではない、異形の住む星だった。


「うぐっ?な、なんだ?…こ、この風景…ああっ、ああああああっっっ!!?」


※※※※※


遠い星。
ここではないどこかの惑星。

彼等は全く違う文明、そして生態を持つまさに『宇宙人』だった。

ゴツゴツした肌。
体を覆う突起のある肉体。

ほとんどの物は4足歩行、しっぽまである。

そして。

彼等の星はまさに滅亡の危機に瀕していた。

侵略者である超絶者『異星の神々』により――
彼らは隷属を迫られていた。


そして非道な改造。

沸き上がる悪意と嗜虐的な心。
彼らは違う星へと転移させられた。


※※※※※


「…ふう」

まったく。
何なのコイツらを送り込んだ奴!!

性格悪過ぎでしょ?

僕は取り敢えず魔力で無力化したジグルダだったものを見下ろしていた。


※※※※※


結果として。
聖協国リーディルドは会談ののち1時間以内で平定されることになった。

まあ、その例の『隻眼のジグルダ』?
ぶっちゃけ弱すぎて…

しかもまだそいつ、自分のことすら思い出せていないんだよね。
一応異星の神の部下?

僕どころかティアにすら全くかなわない状況だった。

取り敢えずコテンパンにのして今目の前で気を失っているところだ。


もちろんありとあらゆる呪縛でとらえているよ?
二次被害とか、シャレにならないからね。

当然だけど聖協国リーディルドの国中の解呪済み。
コイツまだ目覚めて間もなかったみたいで。

城を中心に数か所しかまだ傀儡の魔術展開していなかったんだよね。


聖王?
あのおじさんも囚われて薬漬けにされていたから、解呪して回復してあげました。

『おお、まさに神の使い様…』

とか感動していたけど。
うん。


※※※※※


時間は少しさかのぼる。
会談が終了した直後。

僕は父上とロキラス殿下に相談を持ち掛けていた。

「父上、ロキラス殿下。実は僕、目立ちたくはないんですよね。あっさりやっつけるんで、父上とロキラス殿下の手柄にしませんか?」

「はあ?」
「っ!?な、なにを…お、おい、ライト。…いくら何でも…それは…」

一応会談は終了したので国王陛下は今この場にはいない。
もちろん宰相やムッハバラード第3王子もね。

なのでちょっと『ぶっちゃけて』います。

幾つかのスキルで僕はすでにそのジグルダとか言う男の実力を見抜いていた。
まあ小者?

確かにレベル自体は100を超えている。
隠匿や傀儡の魔術、使えるみたいだけど…

実際の戦闘能力なら父上やロキラス殿下の方が上だ。

「とりあえずは僕が倒します。少し頭に来ているし。…でも色々聞くこともあるでしょう?大体から僕みたいな子供が倒したとか…その方が色々面倒くさいと思いますし?」

僕は年相応の笑顔を張り付ける。

「だからここは実績のあるロキラス殿下と、たまたま居合わせたマイハルド王国最強の辺境伯である父上、その二人が協力してかの国の暗部を払う…良いシナリオじゃないですか!」

うんうん。
我ながら名案だ。

少なからず父上は、国内の貴族と言うか偉そうにしている彼らからは疎まれている。
目に見える実績と言うか国を救うような功績。

ちょうど良い案件だ。

僕は満足げにティアに視線を向ける。
にっこり微笑むティア。

はう♡

「だ、だがな?ライト、お前大切なことを見落としているぞ?」
「うん?」

何故か顔を引きつらせ。
零すようにロキラス殿下が口を開く。

「その例の王宮だが…距離にして400キロは離れている。…そもそもどうやって私たちが行けるんだ?…転移の使えるお前じゃないんだぞ?」

さらに追い打ちをかけるように父上までもが僕に言い放つ。

「コホン。そうだぞライト。それに軍はどうする?いくらなんでも私と殿下の二人きりでとか…その方があり得んだろうが!!」

あー。
確かに。

でもなあ…

うん?

良い事思いついた!

「…でしたら…実は今日、ムッハバラード王子と一緒に来たことにすればどうでしょう?そして人知れず忍び込んでいた」

まさに名案!
僕はほくそ笑む。

「それを警戒中の父上とロキラス殿下が発見し成敗、良いじゃないですか?…そうすれば問題ないですよ」

被害はないものの、間違いなく聖協国リーディルドは攻めてきた。
しかもその詳しい内容、未だ王宮から漏れてはいない。

戦闘自体は一瞬で終わったけど…

あの後実は違う場所で戦闘があったことにすればいい。
そんなのはいくらでも調整が出来る。

「確かにそうかもしれないが…い、いや、ダメだダメだ。大体相手国側にはどう言い訳をするつもりだ?今から行って捕らえるのだろう?目撃者とか…」

「そ、それに…戦闘の記録自体は既に記録の魔道具で収めてある。確かに王宮からはその内容は洩れまい…しかし、だからと言って…」

うーん。

どうしてそういう後ろ向きな意見ばかり…
…もしかして遠慮している?

もしくは…うん。

取り敢えず先にかたづけるか。
何よりムカついてるし?

そうすればきっと覚悟も決まるでしょ。

僕は前から考えていたことを実行に移すことにした。

「えっと。じゃあ取り敢えず片付けてきますね?ティア」
「はい。ライト様」

「…はいっ!」
「っ!?ふわっ?!な、何ですかこれ?!」

僕の目の前にいるティア。

スッゴク色っぽい、いわゆる『女幹部』のようないで立ちになっていた。

皮の質感が魅惑的な制服チックなトップスにタイトなスカート。
彼女の可愛らしい胸を強調するそのデザイン。

まじサイコー!!

「うんうん。やっぱりティア、めっちゃ似合う♪…可愛い」
「はうっ…う、嬉しいですけど…こ、これはいったい…」

「ふふふ、次は僕だね…『変身っ!』」

そして爆誕する、怪しい仮面をかぶった黒っぽい装束に包まれた少年。

「影の騎士ノワール!ただいま参上!!――どう?カッコいいでしょ?!」

実は僕。
身バレしないように色々と考えていたんだよね。

何気に前の世界の時も変装していたし?

何より今回のこの衣装、実は自信作なんだよね。


何故か固まる執務室。
そして何か見てはいけない様なものを見る目で視線を向ける父上とロキラス殿下。

「なあっ?へ、変装?…た、確かにそれならお前とはバレはしないだろうが…うおっ?め、女神様…な、何と大胆な…ゴクリ」

そして顔を赤らめるロキラス殿下と父上。

まあ、確かにティアの衣装は色っぽい。
身体のライン強調してあるしね。

何より元々めっちゃ可愛いティア。
似合わないはずがない。

「ふふん。これなら僕とティアとは誰も分からないでしょ?いいですよね父上」

よし。

これで幾つかの懸念は消えるはず。
何よりもこんなこと早く終わらせたいんだよね。

「それでは行ってまいりますね。ティア、手を」
「は、はい。ライト様」

そして消えるライトと女神ティアリーナ。
魔力の残滓がキラキラと輝いていた。


※※※※※


茫然と見送ったロキラス殿下。
フルに頭を働かせ始めた。

確かにライトの言う事も一理ある。
それに友であるノイドは貴族連中に疎まれている。

いくつか腑に落ちないというか…
完全におんぶにだっこと言うか…
ライトの実績、全てを奪う訳で…

矜持と言うか立場的には大いに問題がある。

――だが。

逆にチャンスであることも間違いがないわけで…


思わず百面相をしてしまうロキラスの肩にノイドは手を置いた。

「なあ。もうあきらめろ。ライトが今行ってしまった。すでに後戻りは出来まい。…覚悟を決めよう。俺も、お前も」

「…ノイド…」

「すでに俺達で測れるレベルを超えているんだ。それにライトもああ言ってくれた。まあ国王への報告はお前に任せるがな?」

諦めの中に、ライトに向ける信頼。
その光にロキラスは頷く。

「…ふう。仕方あるまい。…ノイド」
「うん?」

「今夜付き合え…朝まで飲むぞ」
「…お手柔らかに…な?」


※※※※※


正協国リーディルド。
ライトと女神ティアリーナにより救われた最初の国となった瞬間だった。

同時に――

影の騎士ノワールと美しすぎる従者アラタイト。

その伝説の幕開けでもあった。
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