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言ってみて良かった
しおりを挟む「どれも美味しかったです。ご馳走様でした」
どちらかというと洋風な料理が多かったように思える。味噌や醤油など発酵系のものはほぼ無く、塩コショウ、ハーブ、果実などで味付けした物が多かった。
ホントどれも美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまった。サイズが合ってない服のせいもあり、少し苦しい。
「本当、可愛いな」
「へぁ⁈」
突然の団長様の思いもしない発言にそちらを見ると、真剣な表情の団長様と目が合う。
こんな真面目なトーンで可愛いなんて言われたのは初めてで、思わず変な声が出てしまった。恥ずかしい。
「だろ?突きたくなるだろ」
クシェル様まで!って、どこを?
「あぁ撫でくりまわしたくなる」
「だ、団長様⁈」
「ん?俺のことは名前で呼んでくれないのか?」
「ふぇ⁈」
「クシェルのことは名前で呼んでいるんだろう?」
団長様は悲しげに眉を寄せ、首を傾げた。
そ、その顔は反則だと思う!
「じ、ジーク様?」
慌てて団長様の名前を呼びなおすとジーク様は嬉しそうに微笑んでくれた。
「俺もコハクと呼んでもいいだろうか?」
わたしが初めからお二人を名前で呼ばなかったせいか、律儀に名前で呼ぶ許可を求めるジーク様。
何か申し訳ない。
別に、元の世界では名前で呼ぶのに許可が必要だったわけではないんです!
わたしは友達が少なかったせいか、名前で呼んでくれる人も少なかった。だから名前で呼んでもらえるのはむしろ嬉しい!
「も、もちろんです!」
「仕方ない、特別だぞ」
わたしが了承するのと同時に何故かクシェル様もジーク様に許可を出す。それにジーク様は苦笑しつつ「感謝いたします」なんて態とらしく畏まって答える。
そんなふざけ合う二人が可笑しくて、微笑ましくてつい笑いがもれる。
「ッフ、フフ」と口元を押さえて笑い出したわたしに二人してわたしの顔を覗き込む。
「「コハク?」」
早速ジーク様も名前で呼んでくれ、二人の声がぴったりハモる。
それがまた可笑しくて、まるでわたしも二人の仲に入れてもらえたみたいに感じてーー嬉しい
「あ、いえ、お二人は本当に仲良しなんだなぁと思いまして」
わたしがそう答えると、お二人は互いに顔を見合わせて、首を傾げた。
その息ぴったりの動作がまたおかしくて、笑った。
その後再びクシェル様に手を引かれ、部屋まで送ってもらった。
部屋に入る前に、この部屋についてのお礼を伝えると、ジーク様は「気にすることはない。客人をもてなすのは当然だ」と言ってくれ、クシェル様もジーク様の言葉にうんうんと頷いていた。
この世界では客人は盛大におもてなしするものらしい。
翌朝もお二人が部屋まで迎えに来てくれて、当然のようにクシェル様に手を引かれて食堂へ向かい、当然のようにクシェル様にあーんしてもらった。
因みにシャワーの温度調節には魔力を要するらしく、魔力を持たないわたしは水しか出なかった。そのため、メイドさんが予め貯めてくれていた浴槽のお湯で体を流した。
幸いトイレは魔力を要しない仕様で、助かった。
そして食事が済むと当然のようにクシェル様に手を引かれもとの部屋に戻る、と思ったら今朝は執務室の前まで連れてこられ、そこで一旦、仕事に向かうと言うジーク様を見送った。
「い、いってらっしゃい?」
「……あ、あぁ。行ってくる」
客人の立場であるわたしが言うのは不自然かなと思いつつ軽く手を振ってみた。すると、ジーク様は最初驚きはしたものの、すぐに笑顔で手を振り返してくれた。
言ってみて良かった
その後、執務室の隣の部屋で服の採寸を行った。
どうやらこの部屋に来たのは採寸を行うためだったらしい。
採寸中クシェル様はその部屋から出て行くことはなく、採寸は服の上から行われた。
「すみません、何から何まで」
部屋を与えてくれて(しかも凄く豪華な)一緒に食事をしてくれるだけでなく、魔王自らわたしなんかの採寸に付き合ってくれた。
更には服のデザインまで仕立て屋さん達と話し合ってくれて、わたしの意見まで訊いてくれた。
全てが終わる頃には昼になっていて、今は執務室で昼食を共にとっている。
「俺がやりたくてやってることだ気にする必要はない」
「でも……なんでここまでしてくれるんですか?わたしは……」
人族で、しかも(天敵である)異世界人なのにーー
メイドさんもそうだったけど、さっき採寸してくれた二人の女性の人もわたしと目も合わせようとせず、言葉すら交わさず、淡々と作業をこなしていた。
採寸中は気づかなかったけど、クシェル様がずっと部屋に居てくれたのはそんな人たちからわたしを守るためだったんじゃないかと思う。
いや、もしかしたら今朝部屋まで迎えにきてくれたのだってーーわたしを守るため?
「さっきの奴らに何か言われたのか?」
クシェル様の声が急に低くなって、その怒りは自分に向けられたものではないと分かっていても、恐怖を感じずにはいられないほどだった。
「い、いえ」
直接何かを言われたわけではない。
でも、態度で分かる。
本当はわたしなんか世話したくないんだと、関わりたくないんだと。
どうにか首を振り、何か言われたわけではないとあの人達が悪いわけではないと否定する。
「……確かに俺も人族にはいい感情を持っていない。でも、それは奴らもこちらを嫌い攻めてくるからだ。コハクは俺たちに敵対心や嫌悪感は抱いていないだろ?」
「はい、とても親切で優しい方々だと思っています」
「うん、ありがとう」
クシェル様の目が優しく細められる。
そういえばこの世界の人間は異世界から勇者を召喚してまで、魔王を倒そうとしてくるんだった。
自分達に対して敵対心どころか、殺意(実際行動に移している)を向けてくる人達を嫌うなと言う方が無理な話だ。
「俺たちはコハクがここへ来た経緯を知っているから、コハクがいい子だと知っているから出来る限りの事はしてあげたいと思う」
「く、クシェル様」
「理解のない奴らばかりですまない」
「いえ。あ、ありがとうございます」
クシェル様はわたしをわたしとして見てくれる。
ただただ人族というだけで嫌ったりしない。
声が震えて、今にも泣き出しそうなわたしを見て、クシェル様は何も言わずそっと肩を抱てくれた。
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